日本臨床救急医学会雑誌
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18 巻, 1 号
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原著
  • 蛯名 正智, 井上 彰, 林 卓郎, 渥美 生弘, 有吉 孝一, 佐藤 愼一
    2015 年18 巻1 号 p. 1-4
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    はじめに:CT画像検査は救急外来(以下,ER)での重要な診断ツールである。当院では救急科と放射線科が合同で画像読影カンファレンスを行っており,診断精度の向上に努めている。目的:ERにおけるCT画像診断において,ER担当医と放射線科医の診断不一致症例の傾向を明らかにする。方法:2008年11月〜2010年4月の当院の救急画像カンファレンス記録から,部位別のCT施行数,診断不一致症例を調査した。結果:診断不一致症例は腹部が18例と最も多かった。腹部18例の内訳は急性腹症が9例,腫瘍が9例であり,頭部の診断不一致症例12例中10例は軽症頭部外傷であった。考察と結論:急性腹症,腫瘍性病変,軽症頭部外傷がER担当医のCT画像診断におけるピットフォールと言え,放射線科医との連携で早期発見が可能となりうる。
  • 安田 康晴, 二宮 伸治, 諌山 憲司, 竹井 豊
    2015 年18 巻1 号 p. 5-14
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    救急車搬送中の傷病者の容態悪化を防ぐため安静に搬送する必要があり,高規格救急車には加速度等により生ずる揺れを吸収するために防振架台が設置されている。本研究は救急車の振動と防振架台の効果と対策について検討した。実験1:3種類の救急車で障害物を走行し,床上と防振架台上の振動を測定した。独立懸架方式サスペンションの救急車が最も振動が小さく(p<0.001),全救急車で床面上より防振架台上が大きく(p<0.05),共振により振動が増幅していた。実験2:救急車と防振架台の共振周波数について検討した。車体は5〜20Hzで振動が減衰しているが,防振架台上は3〜5Hzで減衰し,10Hz以上では車体に対して著しく振動が増加した。防振架台を固定すると当該振動のゲインが低くなった。防振架台は3〜5Hzの低周波域で効果的に振動を吸収するが,衝撃荷重では著しい共振を起こす。振動を抑制する対策として,防振架台を固定する,障害物の走行時は減速することがあげられる。
  • ―東京都のウツタイン搬送データの分析―
    三橋 正典, 田邉 晴山, 増野 智彦, 若菜 繁, 白井 忠, 岡田 知己, 横田 裕行
    2015 年18 巻1 号 p. 15-21
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    目的:救急隊は院外心肺停止傷病者を救急現場から救急車まで搬送する際に,主にメーンストレッチャー,サブストレッチャー,布担架を用いるが,サブストレッチャー,布担架での搬送は,その特性から胸骨圧迫を適切に実施することが難しい。「サブストレッチャー,布担架で搬送した場合(布・サブ群)の院外心肺停止の転帰は,メーンストレッチャーのみで搬送した場合(メーン群)に比べ悪い」という仮説について検証した。方法:平成21(2009)年7月からの半年間に,東京都において発生し医療機関に搬送された院外心肺停止症例(5,751例)を布・サブ群とメーン群に分類し,心肺停止一カ月後の脳機能良好生存率を比較した。比較はカイ2乗検定とロジスティック回帰分析で行った。結果:全分析対象では,メーン群と布・サブ群に一カ月後脳機能良好生存率に有意な差はなかった。一カ月後生存率は,メーン群が,布・サブ群より有意に良く(p<0.05),ROSC(return of spontaneous circulation before hospital arrival,心拍再開)は,2群に有意な差はなかった。心原性心肺停止では,一カ月脳機能良好生存率においてメーン群と布・サブ群に有意な差はなかった。ROSCと一カ月後生存においては,メーン群は,布・サブ群より有意に良かった(p<0.05)。結論:サブストレッチャー・布担架で搬送した場合の一カ月脳機能良好生存率は,メーンストレッチャーのみで搬送した場合と比べ有意な差は認めなかった。心原性心肺停止に限るとメーンストレッチャーのみで搬送した場合の一カ月後生存率およびROSCは,サブストレッチャー・布担架で搬送した場合と比べ転帰が良いことが確認できた。
  • 髙井 美智子, 上條 吉人, 井出 文子
    2015 年18 巻1 号 p. 22-29
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    救急医療の現場には,自殺企図や故意の自傷により受傷した患者が頻繁に搬送され,その多くが急性薬物中毒によるものであり,特に向精神薬の過量服薬が大部分を占めている。本研究では,北里大学病院救命救急センターに搬送された急性薬物中毒患者81名(男性:18名,女性:63名)を対象に質問紙調査を実施し,向精神薬の過量服薬の実態および関連する心理社会的要因について検討を行った。80名(98.8%)が何らかの精神障害に罹患していた。自殺念慮の有無における過量服薬した向精神薬の量に違いが認められなかったが,数時間以上前から過量服薬を考えていた患者は,衝動的に過量服薬した患者に比べて,摂取する量が有意に多かった。患者の心理社会的背景として,無職で家族・恋人・友人といった身近な人間とのトラブルを契機に衝動的に過量服薬する傾向が認められた。今後,精神障害の治療に加え心理社会的介入の必要性が示唆された。
  • 武本 あかね, 座間味 義人, 江角 悟, 西宮 祐輔, 田坂 健, 小沼 利光, 江川 孝, 北村 佳久, 氏家 良人, 千堂 年昭
    2015 年18 巻1 号 p. 30-37
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    目的:救急病棟における薬剤師業務を改善させるために,医療スタッフを対象としたアンケート調査によって薬剤師業務の満足度を評価した。また,その満足度から改善が必要な業務の抽出を試みた。方法:岡山大学病院高度救命救急センターの医師・看護師に対して薬剤師業務に関するアンケート調査を行った。評価した各業務の満足度を顧客満足度分析し,改善項目を抽出した。結果:アンケートの結果から,医師・看護師は治療薬物モニタリング関連業務や配合変化の確認に対して高い満足度を示していることがわかった。今後薬剤師に改善してほしい業務として,顧客満足度分析により医師からは化学療法に関する項目,看護師からは副作用発現状況のチェックに関する項目が抽出された。結論:満足度が高い業務に関しては現状維持を図り,改善が必要な薬剤師業務に対しては方策を立案することで,救急病棟における薬剤師業務を改善できると考える。
  • 鈴木 圭, 中瀬 一則, 菅原 由美子, 藤岡 正紀, 今井 寛, 片山 直之
    2015 年18 巻1 号 p. 38-44
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    背景:エキノキャンディン系の抗真菌薬であるミカファンギン(micafungin: MCFG)は安全性と有効性から幅広く使用されてきているが,時に致死的なブレイクスルー感染症を経験するなど,近年の新規抗真菌薬の発売も加わり深在性真菌症治療はより複雑化している。目的・方法:MCFG耐性非カンジダ属真菌によるブレイクスルー感染症の発生動向と特徴を明らかにするために,2002(平成14)年から2012(平成24)年まで当科および関連施設で経験した同感染症について臨床的検討を行った。結果:20症例あり,内訳はトリコスポロン感染症が18 例(90%),クリプトコックス感染症,接合菌感染症がそれぞれ1例(各5%)であった。19例(95%)は基礎疾患に造血器疾患を有し,16症例(80%)が死亡していた。結論:報告の多いトリコスポロン感染症を中心にMCFG耐性真菌症の疫学情報はそろいつつあるが,散発的に稀な真菌血症が出現することや,患者背景の多様化に伴い造血器疾患患者以外にもMCFG耐性真菌症の発症頻度が上昇する可能性にも留意が必要である。
調査・報告
  • 松本 尚哉, 市原 利彦, 中島 義仁, 櫻井 靖英
    2015 年18 巻1 号 p. 45-48
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    当院は,公立の二次救急病院であるが,四肢切断・熱傷を除き,ほぼすべての急性疾患の救急治療に24時間365日対応している。平成23(2011)年1月,急性期医療部門拡張のため,新病棟「西棟」の建設が着工されたのを機に,「救急の事務部門としていかにチーム医療に貢献するか」をテーマに現状と課題の検討を開始し,手始めに,救急外来の医師,看護師,放射線技師に向けて,事務系スタッフとの役割分担に関するアンケートを実施した。支援の要望として上げられた15項目のうち,10項目はいわゆる事務的作業であり,事務員の活用が有効と考えられたが,最も要望が多い項目を含む5項目は,放射線撮影の支援,CPA対応への支援,処置の補助など,診療の支援に関するものであった。これに対応するには特別な教育を施す必要があるため,その指導・管理者として救急救命士を配属するに至った。平成26(2014)年1月の新病棟本稼働に向け,さらなる改善に取り組んでいる現状を報告する。
  • 大谷 圭, 亀岡 佳彦, 大瀧 佑平, 行木 太郎, 奥野 憲司, 土肥 謙二, 武田 聡, 平沼 浩一, 卯津羅 雅彦, 小川 武希
    2015 年18 巻1 号 p. 49-55
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    われわれは治療の標準化を目的に出血性消化性潰瘍の救急患者用クリニカルパスを作成し2008(平成20)年3月から導入した。クリニカルパス導入前後における変化について,2006(平成18)年から2012(平成24)年までに出血性消化性潰瘍と診断した患者48名(導入前群n=24,導入後群n=24)を後方視的に検討した。導入後群では輸血の施行率(58.3% v.s. 20.8% p>0.05)および輸血量(4.5±4.7IU v.s. 1.7±3.7IU p>0.05)が有意に減少していた。また自己都合で退院した患者8名を除いた40名(導入前群n=20,導入後群n=20)の平均在院日数が導入後群では有意に短縮していた(15.3±3.9日 v.s. 11.9±3.4日 p>0.05)。その一方で,重症例では除外対象あるいはバリアンスとなるケースも多く,今後は重症例などにも対応しうるアルゴリズムパスの作成が必要と考えられた。
  • 奥山 学, 中永 士師明, 五十嵐 季子, 多治見 公髙
    2015 年18 巻1 号 p. 56-59
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    目的:急性薬物中毒や原因不明の意識障害に対し,治療法の選択や治療方針の妥当性を確認する目的で簡易薬物スクリーニングキットが使用されることが多い。中でもTriage®DOA(以下,トライエージ)の使用頻度が高いが,時間で尿や試薬を注入する3ステップ方式で15分弱の時間が必要であり,保険請求ができないことが問題である。最近,キットを尿に浸けるだけで操作が簡便で廉価なMEDICAL STAT®(以下,メディカルスタット)が発売されたのでトライエージと併用し比較検討した。対象と方法:急性薬物中毒または原因不明の意識障害患者21名を対象とし,トライエージとメディカルスタットの2製品の検査結果を比較した。結果:検出結果が一致したものは19例であった(陽性12例,陰性7例)。検出薬物に違いがあった症例が2例あり,2例ともメディカルスタットのみで陽性であった。結論:メディカルスタットはトライエージとほぼ同じ薬物スクリーニング結果を示した。
症例報告
  • 鎗野 真吾, 田口 志麻, 西本 幸夫, 中川 智晴
    2015 年18 巻1 号 p. 60-62
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    アナフィラキシー患者の一部は,アドレナリン自己注射製剤(エピペン®)(以下,エピペン)を所持している。しかし,エピペンの使用状況は明らかでない。今回,救急隊員と母親の連携でエピペンを使用した小児症例を経験した。症例:13歳男性。外出先で菓子摂食後,呼吸困難と紅斑が出現し,帰宅後に母親が救急要請した。救急隊到着前に母親がエピペンを注射しようとしたが,患児は注射に対する恐怖があり,母親では実施できなかった。救急隊到着時,患児は意識清明で自力歩行可能であったが,呼吸困難を訴え,喘鳴と全身紅斑を認めた。救急車内収容後,救急隊員が母親とともに患児に説明し,同意を得て母親がエピペンを注射し,救急搬送した。病院到着前に症状は軽快した。本症例は,患児がエピペン注射を拒んだものの,救急隊員と母親との連携により注射を実施でき,奏功した例である。
  • 兼古 稔
    2015 年18 巻1 号 p. 63-67
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    回帰熱は回帰熱群ボレリアによる感染症で,シラミなどによって媒介される。世界各地での発症報告があるが,本邦では国内感染報告はなかった。今回われわれはライム病と診断した患者血清から回帰熱ボレリアDNAを検出し,回帰熱と診断したので報告する。患者は30代男性。マダニ咬症を認め自己摘除。12日後に高熱と刺口部周囲の発赤を認め,当科を受診した。遊走性紅斑を認め,抗ボレリア抗体が陽性であったことからライム病と診断し,感染症法に基づく届出を行った。後日,国立感染症研究所によるライム病患者血清の遡及調査で,本症例の血清からBorrelia miyamotoi(以下,B. miyamotoi)のDNAが検出された。B. miyamotoiは1995年に発見されたボレリアで,2010年ロシアでのヒトへの感染報告後,世界各地で感染報告が相次ぎ,“古くて新しい感染症”として最近注目を集めている。マダニ咬症後の発熱患者では本症を念頭に治療を行う必要がある。
  • 毛利 智好, 松浪 周平, 寺澤 貴美子, 瀧本 浩樹, 鵜飼 勲, 二宮 典久, 鴻野 公伸, 杉野 達也
    2015 年18 巻1 号 p. 68-71
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/02/28
    ジャーナル フリー
    20歳代,男性。建築現場で資材とトラックの荷台の間に胸部を挟まれ受傷した。意識障害があったため,出動要請基準に則り当院ラピッドレスポンスカー出動となった。救急隊現着時には意識レベルJCSⅠ-2で呼吸・循環は安定していたが,その15分後にドッキングポイントで合流した際の超音波検査にて著明な心囊液貯留を認めた。急変時にはすぐに心囊穿刺ができる状態で当院に救急搬送したが,病院到着後に血圧低下を認めたため緊急心囊開窓術を施行した。これにより循環状態が安定したため心臓血管外科のある近隣総合病院手術室に転送した。そのまま一期的緊急修復術が施行され,後遺障害なく独歩軽快退院となった。現場での全身状態からは二次救急病院を選定されかねなかった鈍的外傷性心破裂患者に対して,ラピッドレスポンスカー出動により現場から手術室まで救急医がいつでも処置できる状況下でのトラウマバイパスにより救命し得た症例であったと考えられた。
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