日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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11 巻, 6 号
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臨床経験
  • 山本 俊郎, 藤村 奈緒, 藤田 誠―郎
    原稿種別: 臨床経験
    2008 年 11 巻 6 号 p. 467-470
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    当センターで2005年,2006年に治療した自殺未遂症例130症例(男性22例,女性108例)の自殺企図前後の精神医学的診断を比較して,精神科治療の現状を推察した。企図前の診断は通院中の前医の診断を,企図後は当院精神科医の診断とし,ICD-10を用いて表記した。治療歴のない28例を除いた102例の前医診断では,F2,F3,F4の診断が83例(81.3%)を占め, とくにF3が46例(45.1%)と多かつたが,F6は10例(9.8%)と少なかった。当院において併診のなかった30例を除いた100例の精神科医の診断では,F2,F3,F4は56例(%)とその割合は低下し,F6が22例(%)と高率であった。当院の精神科医の診断をもとにして前医の診断をみると,F2,F3では前医/精神科医は12/14(85.7%),17/20(85.0%)と一致したが,F4,F5,F6では6/12(46.2%),2/9(22.2%),7/21(33.3%) と一致率は低かった。一方,前医の診断をもとにして精神科医の診断をみると,F2,F6では精神科医/前医は12/16(75.0%),7/9(77.8%)と一致したが,F3は17/38(44.7%)と一致率は低かった。前医の診断には比較的新しい診断の人格障害F6は少なく,うつ病と診断されたなかに人格障害がかなり含まれていると思われた。診断が高率に異なったことより,前医への照会を励行し情報を交換することで精神状態を再評価していただき,退院後の再企図防止を図る必要があると思われた。

  • 森本 文雄, 吉岡 伴樹, 渋谷 正徳, 鈴木 義彦, 末吉 孝―郎, 船越 拓, 大沢 真知子, 橘高 拡悦, 宮前 好美
    原稿種別: 臨床経験
    2008 年 11 巻 6 号 p. 471-474
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    はじめに:当院では,研修医に対し救急患者に腹部超音波検査を積極的に施行するよう指導していたが,大部分の研修医は走査手技に自信がなく,教育する必要性が生じていた。救急医と検査技師が連携し,研修医に対する少人数による実習主体の腹部超音波検査セミナーを開催した。対象および方法:腹部超音波検査室において,検査技師がデモンストレーション後,研修医同士お互いが模擬患者となって,腹部超音波検査を施行しあい画像を描出した。アンケートでセミナーを評価した。結果:約1時間のセミナーを平日夕方に4回実施した。研修医17名中,11名が受講し,10名からアンケートを得た。全員が有意義なセミナーと回答し,腹部超音波検査の走査手順の理解も良好で,救急患者に1人で腹部超音波検査ができるという研修医が増加した。まとめ:お互いが模擬患者となる腹部超音波検査セミナーは,有用で試みる価値のある教育方法と考えられた。

症例報告
  • 富野 敦稔, 岸本 真房, 鈴木 聡史, 山本 透, 小切 匡史, 北澤 康秀
    原稿種別: 症例報告
    2008 年 11 巻 6 号 p. 475-479
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,男性。仕事中フォークリフトで腹部を挟まれて受傷し,当院に救急搬送された。腹部CT検査で腸間膜損傷を認めたがバイタルサインは安定していたため,保存的治療とした。経過良好で受傷16日目に軽快退院となったが,退院6日目に腹痛が出現したため再入院となり,腹部CT検査により癒着性イレウスと診断した。絶食にて症状はすぐに改善するも,食事を開始すると再びイレウス症状が出現することが続いた。腹部CT検査で小腸の狭窄部位を確認し経過を追ったが狭窄部位の改善はなく,イレウス症状も続くため,受傷72日目に腹腔鏡補助下に小腸切除術を行った。術後経過は良好で,術後9日目に軽快退院となった。遅発性小腸狭窄は不可逆性であり手術の必要があるため,早期に診断し治療する必要がある。

  • 鈴木 聡史, 北澤 康秀, 岸本 真房, 富野 敦稔, 山本 透, 田中 夏貴, 河本 泉, 今村 正之
    原稿種別: 症例報告
    2008 年 11 巻 6 号 p. 480-485
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    症例は72歳の女性。再燃・寛解を繰り返す水様性下痢にて総合診療科外来を受診し,経過観察をされていた。下痢と全身倦怠感を主訴に夜間救急外来を受診し腎機能低下を認め入院となった。消化管内視鏡検査では異常を認めず,大量の下痢が持続したため消化管ホルモンの検索を行ったところ,血清VIPが1,980pg/mlと高値を示した。画像検査,選択的動脈刺激薬注入テストにより膵VIP産生腫瘍と確定診断し,膵体尾部切除術を施行したところ,水様性下痢は停止した。救急外来や総合診療科外来において下痢は頻繁に遭遇する病態であるが,本症例のように非常にまれな疾患が原因となることがあり,診療を行ううえで教訓的な症例であると考え報告する。

  • 伊藤 重彦, 井上 征雄, 斎藤 将隆, 山吉 隆友, 木戸川 秀生
    原稿種別: 症例報告
    2008 年 11 巻 6 号 p. 486-493
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    下行性壊死性縦隔炎(Descending necrotizing mediastinitis:以下DNMと略す)は咽頭炎,扁桃周囲炎,歯骨炎などを契機に発症した深頸部感染症が縦隔へ波及進展したもので,適切な感染巣ドレナージが行われない場合の予後は不良である。1990~2006年の期間に当院で治療したDNM 5例の治療経過およびドレナージ時期,方法について検討した。DNM診断には頸部および胸部CTを用いた。気管分岐部を超えたDNM 3例中2例は,頸部ドレナージと開胸下の縦隔ドレナージ後に,それぞれ46日,10日の人工呼吸管理を行った。残る1例は頸部膿瘍が発症早期に回腔内穿破したため,頸部ドレナージのみで治療できた。5例の平均入院期間は55日で死亡例はなかった。頸部,上縦隔に限局したDNMでは頸部ドレナージ,気管分岐部を超えるDNMでは頸部ドレナージと開胸下縦隔ドレナージの両方を行うべきである。

  • 矢吹 輝, 武山 直志, 高木 省治, 三木 靖雄, 野口 裕記, 青木 瑠里, 原田 誠, 井上 保介, 中川 隆, 野口 宏
    原稿種別: 症例報告
    2008 年 11 巻 6 号 p. 494-498
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    破傷風治療経過中に高熱,筋逸脱酵素上昇の再燃を認めた症例を経験した。75歳男性,高所落下による左撓骨開放粉砕骨折に対し当院整形外科にてデブリードメント,創外固定術を施行後に開口障害,強直性痙攣などの症状が出現。破傷風の診断にてICU入室し,抗菌薬,鎮静薬,筋弛緩薬,マグネシウムなどの投与により高熱,筋逸脱酵素の値などは改善傾向を示したが,入室12日目ごろより再度,高熱と筋逸脱酵素上昇の再燃を認めた。再燃の原因として鎮静薬などの関与,二次感染の併発,破傷風症状の再燃,さらには血中マグネシウム濃度変動による筋攣縮再燃などが疑われたが,原因確定には至らなかった。症状改善にはダントロレンナトリウムの投与が有効であったことから,なんらかの理由で過剰な筋攣縮が起こったものと推定された。本症例では,破傷風の筋攣縮に対しマグネシウム投与を行うことで,鎮静薬ならびに筋弛緩薬の投与量の減量にその有効性を示すことができた。

  • 筋野 智久, 矢内原 久, 金子 文彦, 熊谷 直樹, 渡辺 憲明, 常松 令, 芹沢 宏, 磯部 義憲, 西巻 博, 滝川 政和, 佐々木 ...
    原稿種別: 症例報告
    2008 年 11 巻 6 号 p. 499-502
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    55歳の男性。突然の腹痛と冷汗を自覚し受診した。来院時,血圧60/46mmHg,心拍数118/分とショック状態を呈し,Hb 9.0g/dlと貧血を認めたため,出血源精査のため腹部CTを施行した。脾臓上極に造影剤の漏出と腹腔内液体貯留を認めた。脾破裂の診断のもとに緊急血管造影を施行した。血管造影では脾動脈の上極枝から造影剤の血管外漏出を認めたため,経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization,以下TAE)を施行した。TAE後に血管外漏出は消失した。術後循環動態は安定し,7日後の腹部造影CTでは仮性動脈瘤は消失し,陳旧性の血腫は残存したが腹腔内液体貯留は減少した。17日後のCTでは脾臓上極に仮性嚢胞が認められたが,感染兆候もなく全身状態良好で退院となった。外傷やその他の脾臓に影響を及ぼす疾患のない正常脾に起こる特発性脾破裂はきわめてまれである。特発性脾破裂に対しては外傷性のそれとは違い,手術,TAE,保存療法の選択に明確な基準はなく,また特発性脾破裂に対しTAEを施行し良好な転帰を得た報告も少ない。

  • 安部 智之, 中塚 昭男, 鮎川 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2008 年 11 巻 6 号 p. 503-506
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    症例は30歳男性。単独交通外傷によリハンドルで前胸部を強打し,救命センター搬送となった。来院時はショック状態で,多発肋骨骨折と両側肺挫傷と両側血胸を認めた。 完全右脚ブロック,CK-MBの上昇があった。入院後,発作性心房頻拍(以下PATと略す)が頻発し,循環動態が不安定となった。右心不全を併発し,肝・腎機能障害も認めた。呼吸状態が悪化したため,人工呼吸器管理とした。輸液負荷,強心薬,抗不整脈薬投与で改善を認めた。持続するPATに対しては,EPSを施行し原因部位を同定した。その後,PATは外来経過観察中に自然消失した。

  • 本田 真広, 林田 稔, 林 雅太郎, 松山 祐子, 中安 清
    原稿種別: 症例報告
    2008 年 11 巻 6 号 p. 507-511
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,男性。普通車同士の正面衝突により受傷。左腎損傷,右気胸,右下腿骨骨折の診断で,受傷後190分後に当院救命救急センターに紹介搬送された。来院時Hb 3.8と低値でnon-responderであったため,IABO(Intra-aortic balloon occlusion)を使用し血圧を維持した。deadly triadの状態であったが,体制上すぐさま緊急手術に持ち込むことが困難であったため,左腎損傷,後腹膜出血に対しTAE(Transcatheter arterial embolization)を施行した。TAE後全身CTを施行したところH3に拡大しており,膀脱内圧が30mmHgと上昇し気道内圧も30cmH2O以上のため,腹部コンパートメント症候群と診断し,開腹減圧術を施行した。深在性裂傷型腎損傷でもnon-responderとなることがまれにあり,原則として早期に緊急手術を決断する必要があるが,腎外傷手術に精通している泌尿器外科医が常時オンコール体制となっていない場合,IABOを併用しTAEを先行させることも考慮してよいと思われる。

資料
  • 谷川 攻一, 武田 卓, 岩崎 泰昌, 増田 利恵子, 貞森 拓磨, 大谷 直嗣, 石田 誠, 田村 朋子, 山野上 敬夫 , 廣橋 伸之
    原稿種別: 資料
    2008 年 11 巻 6 号 p. 512-517
    発行日: 2008/12/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    オンライン指示指定医療機関における救急隊への指示・指導体制の現況に関するアンケートを,全国47都道府県のメディカルコントロール(以下MC)協議会担当部署に送付した(回収率98%)。救急隊専用回線を設置しているのは1,001機関であり,都道府県内に1機関のみのものが3都道府県,11機関以上存在するものが33都道府県であった。救急隊からの指示要請の電話に最初に対応するのが救急部門専従医である機関の割合は全体の28.6%であった。5都道府県のオンライン指示指定医療機関においては,救急隊からの指示要請を最初に受ける者がすべて救急部門専従医であった。このうち4都道府県では,都道府県内のオンライン指示指定医療機関は3施設以下であった。今回の調査から,数的にはオンライン指示指定医療施設は充足しているが,オンラインMCの迅速性とその質には必ずしも寄与していない可能性が示唆された。

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