日本臨床救急医学会雑誌
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10 巻, 5 号
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原著
  • 秋吉 貴雄, 川嶋 隆久, 石井 昇, 陵城 成浩, 吉田 剛, 高橋 晃, 中尾 博之
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 5 号 p. 473-479
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    救急救命士が院外心肺機能停止患者(CPAOA)に対して実施したラリンゲルチューブ®️(LT)下と病院搬入後に行われた気管挿管(TI)下の血液ガス分析結果を比較検討し,両換気法の有効性について評価した。平成15年6月から平成16年10月の間に神戸大学病院に搬入された内因性CPAOA 152症例のうち,LT下およびTI下に血液ガス分析がなされた30症例を対象とした。CPA発症から覚知までの時間は10.6±9.5分,CPA発症から病院搬入までの時間は41.5±14.5分であった。 LT下ではPaO2 73.2±97.6mmHg,PaCO2 73.9±33.4mmHg,TI下ではPaO2 203.0±156.8mmHg,PaCO2 43.8±27.0mmHgであった。なおLT下でのPaO2が50mmHg以下の症例が56.7%あった。今回の検討ではLT下での換気方法を再検討する必要があるとともに,LT下でのPaO2上昇,PaCO2低下には限界も考えられ,TIによる早期換気がCPAOA患者の予後に影響を与える可能性がある。

調査・報告
  • 一埼玉県西部第1 MC協議会の検証票に基づく検討一
    松本 純一, 大河原 治平, 阪本 敏久, 越阪部 幸男, 岡田 芳明
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 480-484
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    CPAに対する救急救命士の活動を効率よく行うために,指示要請と収容要請する医療機関をいかに選定すべきかを検討した。データはメディカルコントロール協議会のCPA検証票に基づき,指示要請と現場の所要時間を調べた。指示要請・収容要請ともに救命センター(以下,ERと略す)であったのをA群,指示要請をER,収容要請を二次医療機関としたのをB群,指示要請・収容要請ともに二次医療機関としたのをC群として比較検討した。結果は総数468例で,A群では指示要請の所要時間は平均48秒,現場所要時間は平均12.1分であった。B群,C群はそれぞれ40秒/13.9分,135秒/16.5分でB群とC群の間に有意差を認めた。指示要請はERが速く,現場所要時間は指示要請・収容要請を1箇所ですませるC群より,2箇所以上に電話をかけるB群のほうが短かった。まずERに指示要請し,ついでいずれかに収容要請するのが効率よいと思われた。

  • ―2部制勤務と救急出場件数に対する健康管理―
    渡辺 勝也, 橋本 健治, 武本 和之, 細田 武伸
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 485-493
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    救急車の出場件数は年々増加傾向にあり,救急救命士の精神的,肉体的疲労も増加していると考えられる。救急救命士の健康に関する調査は少なく,その実態も十分に把握できていない。鳥取県西部広域行政管理組合消防局の救急救命士37人の健康状態について間診,血圧測定,フリッカーテストを行い,さらにストレス,疲労,生活習慣について質問票による調査を行った。その結果を一般的労働者に対する大規模調査の結果と比較したところ,ストレスは大きいが上司などの支援を得て職務満足感は高く,短期疲労では眠気感の訴えが多く,蓄積疲労では一般的疲労,身体不調,抑鬱の傾向があった。本調査は鳥取大学医学部の協力を得て行った。今後も救急救命士自らが自己の健康に関心をもち,外部機関の協力を得て健康に関する調査を行い,その結果により健康管理や健康指導,勤務状況の改善を行うことが質の高い救急行政サービスを行ううえで重要である。

  • 森本 文雄, 渋谷 正徳, 吉岡 伴樹, 鈴木 義彦, 藤芳 直彦, 島崎 淳也
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 494-498
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    当院における大規模で現実的な災害トリアージ訓練を実施するにあたり,①費用,②人的資源,③現実的な訓練とするための工夫(模擬患者の演技,特殊メイク,シナリオ),④災害医療と訓練に関する知識の共有方法,⑤訓練の評価,が問題点としてあがった。日常診療への影響を避け,平日夕方に訓練を実施し,看護学生に模擬患者を依頼した。模擬患者には,救急救命士が特殊メイクを施し,演技の指導も行った。病院近くで100人以上が負傷し,徒歩でも患者が来院するという現実的なシナリオを用意した。病院職員,看護学生ともに事前の打ち合わせを行い,災害医療およ び訓練に関する知識を共有した。病院職員70名と看護学生40名に訓練前後で,アンケートと正誤問題に回答してもらった。訓練により,災害時の医療を理解している人数は増加し,有意義な訓練で,続けた方がよいという回答が大半であった。正誤問題の得点も上昇し,災害医療普及効果を確認できた。

  • 石島 彌生, 塩見 直子, 澤田 喜代子, 阪本 敏久, 岡田 芳明
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 499-503
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    救命救急センターの入院患者から看護師が被害を受けることもある。その実態を調査し,今後よい労働環境を確立するための基礎とすることを本研究の目的とした。

    方法:当病棟勤務の看護師15名に選択肢式と記述式の質問調査を実施した。結果:総恐怖体験数は51件で,1人当たり平均3.3件の体験があった。40件(78.4%)が精神疾患を有する患者からであった。恐怖を感じた行動内容は,暴力・暴言,無断離院といったものが主体で,四肢・体幹の抑制帯の使用時が半数以上で,個室,夜勤帯に頻度が高かった。点滴用のポールなどが凶器と化した件数も8件あった。身体面に生じる症状は6.7~13.3%と比較的少数であった。心理面の症状は60.0~ 93.0%ときわめて多く存在した。対処法としては,看護体制の整備・看護師のメンタルケアのためのカウンセリングシステムの確立・カンファレンスなどでの情報交換の場を活用することが挙げられた。

  • 管 桂―, 服部 尚士, 細野 敦之, 半澤 浩一, 大槻 理恵, 栗原 正人, 藤井 眞行, 田勢 長一郎
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 504-508
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    当院において行った救急救命士による気管挿管実習の経過とその後の状況について報告する。2004年10月より2006年5月までに22名が実習を行い,20名が挿管実習を終了した。30例の挿管成功が終了するまでに経験した総症例数は634人,平均31.7人,平均期間は26.3日であった。いったん同意を得た後に断った症例が11人あった。2名の救急救命士が途中で実習を中止した。実習中止理由としては年齢,老眼,挿管操作が困難にみえたことなどであり,MC協議会の医師2名が実習を観察し中止させた。気管挿管実習における合併症は2件で,咽頭粘膜の損傷1例,歯牙の損傷1例であった。当該MC協議会の地域で2006年4月まで,救急現場において67例の気管挿管が実施された。挿管による合併症はなかったが,心拍の再開がみられた症例もなかった。今後本邦でも挿管に関する全国レベルでの検証が望まれる。

  • 小濱 啓次
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 509-516
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    わが国の病院前救護体制について,救急・救助の現況(消防庁)にある救急自動車による収容所要時間,搬送人員の状況を中心に検討した。北海道,岩手,高知などの医療過疎の道県においては,傷病者が医療機関に収容されまでに30分以上を要する件数が大きな比率を占めるのは当然であったが,救急救命士制度導入後,東京,大阪,愛知など救急医療体制が充実していると思われる都府県においても,30分以上を要する件数の比率が増加しており,傷病者の救命,予後から考えると,なぜ医療機関に収容されるまでに時間を要するのかを,収容所要時間別搬送件数の状況,現場における救急救命処置時間,転送率,管外搬送がなぜ都市部でも増加しているのかなどを早急に科学的に検証し,救急救命士の現場滞在時間,対応疾患,また,対応救急医の労働条件等を検討し,対策を講じることが傷病者の救命のために緊急に必要と思われた。

症例・事例報告
  • 箱田 滋, 萩原 里香, 石床 学, 新谷 裕, 木内 俊―郎
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 517-522
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    好酸球性胃腸炎は末梢血好酸球増多に消化管への好酸球浸潤を伴い,全消化管に病変を認める比較的まれな疾患である。今回,われわれは末梢血好酸球数の漸増で好酸球性腸炎を疑い,消化管内視鏡検査による生検にて確定診断した1例を経験した。症例は61歳,女性。腹痛・下痢で発症し,当初は感染性胃腸炎の疑いで絶食および抗生剤投与で治療を開始したが,入院第1病日から末梢血好酸球数1482/μlと高値を示し,第12病日には8021/μlまで漸増した。上部・下部内視鏡検査による生検で好酸球性胃腸炎と診断し,第12病日からステロイド投与を開始した。第14病日には好酸球数221/μlまで減少し,第20病日に退院となった。好酸球増多を伴う腹痛の症例においては好酸球性胃腸炎を疑い,上部・下部消化管検査を施行し,早期にステロイドを投与することが有効であると思われた。

  • 浅井 康文, 橋本 功二, 井上 弘行, 岡本 博之, 上村 修二, 奈良 理, 栗本 義彦, 森 和久, 藤井 徳幸, 長谷 守
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 523-528
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    北海道初のPublic Access Defibrillation(以下PADと略す)奏功例を経験した。

    症例:56歳,男性。2006年春,札幌市でテニス大会に出場し,スマッシュを打った直後に意識消失して倒れた。心肺停止状態と判断した同僚2人が,心臓マッサージと人工呼吸を継続し,競技場職員が競技場に設置してあった自動体外式除細動器(automated external defibrillator,以下AEDと略す)を使用した。救急隊到着時,心拍は再開していた。当院高度救命救急センター搬入時のGlasgow coma scale(以下GCSと略す)は8点であつた。2日間の脳低温療法を施行し,その後復温して,第6病日に抜管した。第7病日には意識清明となった。本報告例は基礎疾患の非閉塞性肥大型心筋症により,運動中に心室細動(以下VF)が出現し心肺停止となったと考えられた。最終的には経皮的冠動脈形成術を行い,植え込み型除細動器を植え込んだ。

    本報告例は適切な一次救命処置とPADにより心拍が再開し,かつ脳低温療法の救命の連鎖が迅速に連動し,後遺症もなく完全社会復帰した。

  • 有村 敏明, 年永 隆一, 中島 正男, 川井田 修, 中川 宏行
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 529-533
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    今回,われわれは75,000人による野外コンサートでの救急救護を経験したので報告する。平成16年8月21日,午後9時から翌朝7時まで長渕剛オールナイトコンサートが桜島にて開催された。鹿児島市医師会は会員の医療機関を中心に救護班を結成,救護活動を行った。会場は乾燥しており,真夏時のため天気次第では熱中症,脱水症が危惧された。われわれは医師28名,看護師58名を中心に総勢196名のメンバーで救急救護に対応した。救護所は一次救護所を会場内に4ヶ所,取付け道路に2ヶ所,さらに二次救護所を町立体育館に設置した。一次救護所は切傷,擦過傷などの軽症なものを中心に処置を行った。二次救護所は熱中症,脱水症など点滴処置の必要なものを収容した。さらに病院での処置が必要な傷病者は,市消防局の救急車で5医療機関へ速やかに搬送した。傷病者は第一救護所で903人,第二救護所で121人の計1,024人であった。救急車で搬送した患者は14名であった。疾患別では創傷・擦過傷が最も多く278名,以下頭痛138名,嘔吐・下痢症が105名,熱中症,脱水症は58名であった。また救急車搬送の内訳は熱中症4名,痙攣4名,脱水症4名,狭心症1名であった。

  • 一身近な家庭用品のpit fall一
    伊藤 朝子, 武田 聡, 片山 晃, 平沼 浩一, 卯津羅 雅彦, 大槻 穣治, 小川 武希
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 534-538
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    症例は51歳,男性。室内でフッ素樹脂含有防水スプレー噴霧後に喫煙した。その直後より強い咳嗽・鼻閉・呼吸困難等の症状が出現したため救急外来受診し,同日救急入院となった。検査データ上は炎症所見の上昇を,画像上は間質影と思われるすりガラス様陰影を認めた。酸素投与・安静にて自・他覚所見ともに改善し,第7病日に退院となった。本症例は, フッ素樹脂含有防水スプレーとその後の喫煙により,急性肺障害をきたした一例と考えられる。シリコン樹脂含有防水スプレーを同様の条件下で使用した際には生じなかった肺障害が初めて生じたことより,フッ素樹脂と,喫煙によって生じたその熱分解産物が,今回の急性肺障害の原因であった可能性が考えられた。身近な家庭用品として使用されている防水スプレーだが,成分内容・使用環境には十分な注意が必要である。

  • 中島 龍馬, 中田 康城, 亀岡 聖史, 林 伸洋, 中山 祐介, 渡邊 建司, 八木 啓一, 法正 恵子, 川上 万里, 村脇 義和
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 5 号 p. 539-545
    発行日: 2007/10/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    症例は中等度の知的障害をもつ29歳男性。急激に進行する意識障害を主訴として当院に救急搬送された。血液検査では肝障害を伴わない著明な高アンモニア血症を,頭部CTスキャン像ではびまん性の脳浮腫を認め,脳波は高度に低振幅・徐波化していた。来院後,分枝鎖特殊アミノ酸製剤とglycerolを用いた対症療法を行いつつ全身管理に努めた。入院12時間後,アミノ酸代謝異常症である成人発症Ⅱ型シトルリン血症の疑診を得た。そのため診断的治療としてL-Arginine製剤の投与を開始,glycerolをD-mannitolに切り替えた。その結果,意識障害は短期間で改善,第27病日には病前と同じADLで独歩退院した。成人発症Ⅱ型シトルリン血症は,10~20万人に1人発症するといわれる比較的まれな常染色体劣性遺伝のアミノ酸代謝異常症であり,成人になって急性発症するという特徴がある。1999年小林らによって原因遺伝子が同定されたが,統計上では変異ホモ接合体は2万人に1人以上と算出されている。この乖離の原因として,みかけ上健康な生活を送っている潜在的な患者も多くいることが予想され,意識障害患者を診療するうえで,貴重な一症例と考えたため若干の考察を加えて報告する。

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