日本臨床救急医学会雑誌
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11 巻, 4 号
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総説
  • 菊地 尚久
    原稿種別: 総説
    2008 年 11 巻 4 号 p. 361-368
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    救急医療は近年充実しているが,重症救急患者においては救急医療が完了した時点でも運動・精神機能障害が残存している症例が増加している。救命救急医療の場面から積極的にかかわっているリハビリテーション科専門医の立場から,救急医療と介護福祉医療の連携とその問題について検討したので報告する。急性期におけるリハビリテーションは早期離床,日常生活動作能力の向上に有効であり,二次的廃用予防にも有効であると考えられた。退院先についてはとくに重症例ではリハビリテーション施設の充実した病院への転院が多い傾向がみられ,退院時における運動・精神機能評価が重要であると考えられた。福祉介護施設との連携に関する問題点については,医療者側に福祉施設利用に関する知識が乏しいこと,ケアマネージャーや介護担当者に運動・精神機能に関する知識が不十分なために,医学的知識に基づいた個別対応が不足していることが挙げられた。

原著
  • 早原 賢治, 大谷 仁士, 中山 伸一
    原稿種別: 原著
    2008 年 11 巻 4 号 p. 369-376
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    目的:救急車, ドクターカーの車内温度変化および積載した薬剤の安定性への影響を検証する。対象と方法:保管薬剤は,プレフィルドシリンジのアドレナリン,アトロピン,リドカインとした。温度測定は,温度データロガーにより20分ごとに測定と記録を行った。薬剤の保管期間は,1ヶ月,3ヶ月,6ヶ月の3期間とし,夏期と冬期に分けてそれぞれ行った。同薬剤の安定性試験は,性状,pH,有効成分量について行った。結果:救急車内の最高温度は38.5℃,最低温度は0℃。ドクターカー内の同温度は40℃,11℃であった。結論:すべての薬剤および保管期間において,救急車およびドクターカー車内は室温を逸脱し,とくに夏期において,その逸脱は顕著であり,保管条件について留意する必要があるが,積載された薬剤の性状,pH,有効成分量はすべて規格内であった。

  • ―現状と課題―
    加藤 正哉, 鈴川 正之
    原稿種別: 原著
    2008 年 11 巻 4 号 p. 377-384
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    2001年の「救急業務高度化推進委員会報告書」に基づいて実施されている救急救命士の生涯研修のための病院実習の実態を,全国の消防本部に所属する救急救命士を対象としたアンケートにより調査した。1,622通の郵送アンケートに対して92.2%の有効回答が得られた。規定の実習時間に達していたのは56.2%で,決められた実習が履行できなかった理由の54%は,消防署内で人のやりくりがつかないためであった。実習の主たる指導者が救急医の割合は46%で,全体の20.4%は病院の看護師に主に指導を受けていた。実習の30.5%は,あらかじめカリキュラムを定めずに行われており,年間を通したカリキュラムがあったのは21.5%であった。実習内容では,救急患者初療の見学や蘇生介助がそれぞれ94%,88%と高率に経験されているのに対して,実技を伴う初療補助や処置補助は69%,47%と経験率が低かった。

調査・報告
  • 山本 俊郎, 鈴木 範行, 伊巻 尚平, 葛目 正央, 木下 弘壽, 道下 一朗, 中澤 暁雄, 関根 和彦, 麻生 秀章, 菊池 清博
    原稿種別: 調査・報告
    2008 年 11 巻 4 号 p. 385-391
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    2005年,2006年に横浜市内で発生したCPA症例の救急要請場所を1)介護老人施設(以下,施設),2)一般住宅,3)その他に分けてその動向を検討した。また,CPAの事後検証を行った症例の死亡原因を推定し,その特徴を検討した。2005年,2006年に搬送されたCPA症例数は2,977例,3,008例であった。搬送症例数は,2006年には2005年の100.1% となったが,施設からの割合は298例(10.0%)から344例(11.4%)に微増し,一般住宅の割合は2,228例(74.8%)から2,171例(72.2%)に微減した。施設では不搬送例の割合はそれぞれ8/306(2.6%),19/363(5.2%)と一般住宅やその他に比べて有意に少なかった(p<0.01)。横浜市内の特別養護老人ホームの定員数は介護保険法が施行された2000年の4,242人から2006年の8,356人へと1.97倍に増加していた。2000年に定員数の上位を占めた区は2006年にも上位を占め,施設からのCPA症例の搬送割合が高かった。一方,2000年に下位を占めていた区は2006年には施設からのCPA搬送の少ない区に変わっていた。施設から搬送されるCPAの多い地域は横浜市の辺縁部に位置し,少ない地域は商工業の中心地区が占めていた。施設から搬送されたCPAの死亡原因では内因性の割合が高く,肺炎と気道閉塞の呼吸器系が9例(47.3%)と高率であった。今後ますます施設の分布は偏在し,特定の地域の医療機関にその負担がかかることや,状態が安定しても医療依存度が高まり転院までに時間を要することなど,急性期治療が中心の医療機関の運営に支障をきたすことが予想されることから,高齢者終末期の介護・医療のあり方を再検討する必要があると思われる。

臨床経験
  • 服部 憲幸, 織田 成人, 貞広 智仁, 仲村 将高, 安部 隆三, 中田 孝明, 瀬戸口 大典, 平澤 博之
    原稿種別: 臨床経験
    2008 年 11 巻 4 号 p. 392-398
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    当科において高圧酸素療法(HBO)を施行した急性一酸化炭素(CO)中毒症例の転帰を調査した。対象:2001年1月~2006年4月の5年間に当科でHBOを施行した急性CO中毒症例13例。方法:診療録をもとに,患者背景,受傷機転,来院経路,来院時および治療後のCO-Hb値や意識状態,画像検査,併存症や合併症の有無を調査し,さらに電話による聞き取り調査により退院後の転帰を調査した。結果:平均年齢45.5± 15.7歳,男:女=9:4,当院来院時の平均CO-Hb値13.6%,意識障害合併率61.5%であった。第1回HBOによりCO‐Hb値は全例正常化し,意識障害が存在した8例中7例は第3回HBO終了時までに意識清明となった。13例中1例に重度機能障害が生じ,12例は後遺症なく退院または転院していた。転帰調査では7名から回答が得られ,自殺再企図による死亡および一時的な後遺症自覚者が各1名ずつ認められた。残りの5名は後遺症を認めなかった。結論:HBOは有効であるという印象を受けたが,客観的な評価方法の導入や他施設との連携強化など,退院後の評価体制を強化し再評価する必要がある。

  • 武内 有城, 井口 光孝, 園 真廉, 水野 泰志, 加藤 諭美, 羽切 正代, 横山 友恵, 西岡 弘晶, 草深 裕光
    原稿種別: 臨床経験
    2008 年 11 巻 4 号 p. 399-406
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    当院は1997年より救急医療における研修医の達成度を評価し,単独の診療を許可するシステムを「救急診療権」と称して実施してきた。2003年より,翌年の卒後臨床研修の必修化に対応するカリキュラムに変更し,診療経験に加えて実技認定,OSCE(Objective Structured Clinical Examination)やシミュレーションを用いた評価を行っている。今回,当院の救急診療権認定システムについて検討するため,研修医41名および指導医21名,救急外来担当看護師13名にアンケート調査を行った。研修医へは2004年と2006年の2回行い,満足度は78.3%,68.8%で,指導法と評価方法の改善,サポート体制の充実が必要との意見であった。指導医の90.5%は卒後研修に有用との意見であったが,看護師からは診療への不安,指導体制の不備が指摘された。研修医が救急医療の現場でモチベーションを高め,プライマリーケア能力を修得するためには,適切な指導体制だけでなく,研修医個々の診療能力に応じた単独診療の許可とバックアップ体制の充実が重要である。

症例報告
  • 兼古 稔, 谷 佳修, 池田 正樹
    原稿種別: 症例報告
    2008 年 11 巻 4 号 p. 407-409
    発行日: 2008/08/31
    公開日: 2023/12/02
    ジャーナル フリー

    ドクターヘリと現場出動した地元医師の連携により救助活動を行った事例を経験したので報告する。症例は56歳男性。農地をトラクターロータリーで耕作中,右下肢を巻き込まれ救急要請された。救急隊現着時,意識レベルJCS I-1,血圧120/58,脈拍63/分,呼吸数24/分。右下肢が二重三重にロータリーに巻き付いており,救急隊員による救助が困難と判断され, ドクターヘリおよび当院に救助要請した。二次救助隊車両に筆者および看護師が同乗し,現場へ向かった。診察時,右下肢は大腿中央付近で骨折しており,軟部組織はロータリーにきつく巻き付いて挫減していたが活動性出血はなかった。救肢は不可能と判断し,局所麻酔下にfield amputationを行った。切断完了とほぼ同時に現場上空にドクターヘリが到着し患者を受け渡した。用具のキット化,現場位置確認の方法など問題点はあるが,これらの連携により救命率の向上が示唆された。

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