日本臨床救急医学会雑誌
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19 巻, 1 号
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会告
総説
  • ―特に救急車の有料化について―
    山下 寿, 古賀 仁士, 矢野 和美, 瀧 健治, 島 弘志
    2016 年 19 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    現在,わが国は世界最高の超高齢社会を迎えており,厚生労働省も高齢化により増加する医療費を補うために高齢者・現役世代に広く負担増を分かち合う方針を示した。2004〜2013年の高齢者救急搬送の現状を調査し,救急車の適正利用と有料化問題について検討した。65歳以上の高齢者搬送件数は,2004年には2,885件(全体の33.1%)で,2013年は3,754件(全体の41.7%)と増加しており,そのうち外来帰宅は2004年828件(28.7%)で2013年は1,523件(40.6%)と増加していた。不適正利用者は,2011年6.7%,2012年6.3%,2013年5.4%であった。外来帰宅=(イコール)軽症例=(イコール)不適正利用との見方もある。実際に外来帰宅件数(軽症例)は10年間で約1,200人増加していた。しかし過去3年間の結果では,不適正利用は高齢者搬送例の5〜6%に過ぎなかった。搬送手段では,救急車以外の代替手段を確保し,福祉制度を充実していくことが救急搬送における軽症例の減少に繋がるものと考えた。また増大する救急需要の抑制と医療費を補填する意味で,有料化は必要である。
原著
  • 伊藤 重彦, 田口 健蔵, 井上 征雄, 岩永 充人, 木戸川 秀生, 岡本 好司, 白石 盛雄, 安田 英信, 谷延 正夫
    2016 年 19 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    北九州市の高齢者救急,とくに介護施設からの救急搬送事案を中心に,年齢区分・事故種別・疾病分類別の傷病程度,施設内応急手当実施率について検討した。介護施設職員による通報件数は,平成20年の3,070件(高齢者搬送の12.8%)から,平成24年は1.8倍の5,444件(18.3%)に増加した。事故種別急病と一般負傷における傷病程度中等症以上の傷病者の割合は,介護施設以外からの搬送に比べ,介護施設からの搬送で有意に高かった(p<0.05)。平成22〜24年の3年間で施設職員による応急手当,AED(automated external defibrillator,自動体外式除細動器)での除細動実施率はそれぞれ80.3%,38.5%で,北九州市民全体の応急手当,AEDでの除細動実施率より高かった(p<0.05)。高齢者救急搬送の適正化には,介護施設の看取り体制の整備が必要である。また,後期高齢者の救命率向上には,すべての介護施設にAEDを設置し,施設内応急手当の充実化を図るべきである。
  • 岩井 聡, 井口 竜太, 園生 智弘, 軍神 正隆, 中島 勧, 橘田 要一, 矢作 直樹
    2016 年 19 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    救急外来では,紙に救急隊情報を記載し,ホワイトボードに貼る等の方法での情報共有が一般的である。紙運用は一般的に記載速度が早く,情報を集中して記載することができると考えられている。一方で,紙の情報は可読性の問題や,一覧性の問題等,情報共有には適しておらず,研究目的のデータ検索にも適さない。東大病院では,Filemaker ®を使った独自の救急隊情報共有システムを開発し,多職種での情報共有と研究目的でのデータ蓄積を可能にした。今回はデータベース充実率を評価するとともに,同システムに対するスタッフの満足度を評価した。データベース充実率は9割以上を保っており,前年度と有意差をもって上昇していた。また,スタッフ満足度もおおむね良好であった。継続的なシステムの改修,要望の拾い上げを行った結果,スタッフの満足度評価の上昇が得られた。
  • 山口 陽子, 田中 博之
    2016 年 19 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    目的:現場で意識レベルがJapan Coma Scale(JCS)=1と判定された症例について調査する。方法:2009年8月1日からの4年間に救急車で当院へ搬送され,現場での意識レベルが記録されていた4,626例を対象とした。現場の意識レベルがJCS=0,JCS=1,JCS≧2の3群に分け,比較した。結果:JCS=1の原因病態は失神,てんかん,過換気症候群,急性アルコール中毒,頭部外傷,脳血管障害,循環血液量減少などが多く,意識障害に近い病態分布を示した。結論:最も軽症の意識障害を示すJCS=1という病態は確かに存在し,かつJCSを用いてしか判断できない。しかし,JCS=1の頭部外傷症例はJCS=0の8倍強,脳血管障害は約3倍と頻度が高い。救急救命士らはこの事実を認識し,より慎重に意識レベルを判定するとともに,搬送先選定にも役立てるべきであると考える。JCS=1を意識障害として認識するなら,JCSという評価方法は,より軽症の意識障害を拾い上げるという観点に限れば,Glasgow Coma Scaleより優れていると考えられる。
調査・報告
  • 加藤 昇, 金銅 稔夫, 森田 正則, 中田 康城, 横田 順一朗
    2016 年 19 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    はじめに:超高齢社会が進むなか,老人福祉施設からの救急要請は近年増加の一途をたどっている。救急隊員が高齢者施設からの搬送依頼の対応に戸惑う事例も散見されるため,その実態を把握し,問題点を抽出した。対象と方法:平成16年から平成24年までに堺市消防局が搬送した65歳以上の傷病者を,老人福祉施設とそれ以外(以下,高齢者)に分けて,搬送件数,傷病程度,疾患別分類,CPA件数,バイスタンダーCPR実施率について比較検討した。結果:老人福祉施設では,搬送件数,CPA件数とも高齢者と比較して増加傾向を示していた。傷病程度は,中等症以上が高齢者で50.5%であったのに対し,老人福祉施設では70.7%と重症度が高かった。バイスタンダーCPR実施率は,老人福祉施設72.8%,高齢者46.7%と老人福祉施設で高かった。考察:今後増加する老人福祉施設からの搬送に対応するためには,施設職員の協力が不可欠であり,救急隊員との連携強化を図るために提案が必要であると考えられた。
  • クナウプ 絵美里, 賀来 典之, 野坂 宜之, 塚原 紘平, 榎本 有希, 六車 崇
    2016 年 19 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    背景:病院前救護での小児への救命処置は,地域メディカルコントロール協議会(以下,MCと略す)ごとに業務プロトコールが定められている。目的・方法:小児への静脈路確保と薬剤投与の基準の調査のため,全国767消防本部の救急責任者にメールでウェブアンケートを実施した。結果:アンケート回収率は87.5%。適応年齢は,静脈路確保で「規定なし」56%,薬剤投与で「8歳以上」82%が最多であった。小児を処置の対象と回答したものの,1割の消防本部では小児には不適切な太い留置針のみが配備されていた。複数の消防本部が所属するMCのうち,静脈路確保は60%,薬剤投与は24%で年齢基準が統一されていなかった。救命救急センターが少ない地域では,8割以上が小児を薬剤投与の適応としていた。小児CPR教育への充足度は低いが需要は高かった。結論:事後検証を行う体制の整備,地域に合った年齢基準の策定と徹底,基準にあった装備と教育が必要である。
  • 牧原 真治
    2016 年 19 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    近年の健康ブームに触発され,マラソンに取り組む人が増加している。レースに伴う心肺停止症例も多く報告されるようになってきた。マラソン大会は,42kmに及ぶ長い距離を効率的に監視・救護する必要があり,救護所の設置場所,移動AED隊の編成,連絡体制の整備,救急車両の通路確保など事前の準備が肝要である。青島太平洋マラソンは,2015年12月の大会で29回目となる。フルマラソンには,およそ1万人が参加する。レース中の心肺停止は,2013年に1例あったが,素早い救命処置が施され,社会復帰できた。これも細やかな事前準備の成果だと考えられるが,まだまだ改善する余地もあった。
  • 菊池 憲和, 今井 徹, 中馬 真幸, 鏑木 盛雄, 吉田 善一
    2016 年 19 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    目的:救急認定薬剤師の現状と今後の課題を把握するために,救急認定薬剤師の業務実態と展望を調査した。方法:2014年4月1日時点で日本臨床救急医学会により認定を受けた救急認定薬剤師に択一選択および自由記述の調査用紙を郵送した。結果:調査用紙の回収率は75%,所属施設の病床数は平均649床,救急・集中治療業務への従事率は77%であった。現在の業務内容として,処方提案,注射薬の監査,麻薬等の管理,投与速度の算出,治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring; TDM),持参薬の確認については80%以上が行っており,救急認定薬剤師が精通している領域は,救急医療が最も多かった。今後実施したいと考えている業務は初療が60%,今後の展望として,業務のガイドライン作成が73%と最も多かった。考察:救急認定薬剤師が大小さまざまな施設で救急・集中治療に従事しており,今後は初療に関与してゆくことが課題であり,早急に業務ガイドラインの作成を行う必要があると考える。
  • ―消防本部へのアンケートによる調査―
    藤江 敬子, 五所 正彦, 橋本 幸一
    2016 年 19 巻 1 号 p. 52-59
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2016/02/29
    ジャーナル フリー
    目的:ウツタイン統計データにおけるエラー発生の原因を検討するため,消防本部へのアンケート調査を実施した。方法:茨城県内25消防本部に質問票を送付し,ウツタイン統計データ入力のシステムやデータチェック体制,救急隊員への教育状況などを調査した。また,同データの消防本部別エラー件数を求め,各質問への回答結果により層別化したエラー発生率を比較した。結果:全消防本部より回答を得た。データ入力のシステムは消防庁オンラインシステム,同オフラインシステム,独自システムの3種に分かれ,独自システムは救急に特化しない市販パッケージがほとんどであった。データ入力者は出動隊員が80%を占めたが,データの確認や修正への対応,入力の参考資料の使用状況,隊員への教育状況等に消防本部間で差がみられた。エラー発生率は入力システム,データ管理者によるチェックの有無,資料活用の有無との関連が認められた。結論:エラー発生に関わる要因が示唆され,それらの改善が必要と考えられる。
委員会報告
編集後記
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