日本臨床救急医学会雑誌
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10 巻, 6 号
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原著
  • 高原 喬, 城谷 寿樹, 和田 孝次郎, 松下 芳太郎, 有本 裕彦, 大川 英徳
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 6 号 p. 553-559
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    2002年4月から2005年3月までに,三宿病院脳外科において加療した全身の強直間代性痙攣発作を主訴に救急車で搬送された16歳以上の324件(266例)について,原因,発症時間,発症場所,合併損傷,抗痙攣剤の服用の有無などを検討した。痙攣の原因は,症候性が91例(34%),心因性が17例(6%),特発性てんかん・痙攣の既往のある例が109例(41%),痙攣の既往なしが49例(18%)であった。発症時間は18~24時の間に多かった。発症場所は, 自宅が113件(36%),職場が62件(19%)であった。頭蓋内病変が判明した例は,13例(5%)であった。痙攣発作時の転倒などによる頭部外傷で頭蓋内損傷を認めた例は6例(2%)であった。特発性てんかん・痙攣の既往があり,かつ抗痙攣剤服用中の74例のうち44例(59%)が怠薬していた。強直間代性痙攣発作の多くは,来院時には症状が消失しているが,脳腫瘍などの重大な疾患の初発症状であることもまれでないため,原因精査が必要と思われた。

  • 今道 英秋, 鈴川 正之
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 6 号 p. 560-568
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    目的:へき地・離島における救急医療の実態を分析し,課題について検討する。方法:平成17年3月に全国のへき地・離島の診療所の所長および勤務医師を対象に記名式の横断調査を行った。722名の所長(回答率79.2%),812名の勤務医師(同78.8%)から回答が得られ,歯科を除いた671診療所と医師670名について解析した。結果:休日・時間外の体制は,輪番制はわずかで3割には診療体制がなかった。虚血性心疾患,軽微な四肢外傷などは比較的よく対応されていたが,病院到着時心肺停止,骨折外傷などの対応は十分ではなかった。必要な診療能力をまとめた「へき地・離島医療マニュアル」については医師の4分の3が必要であると回答し, 3分の2が医療範囲が明確になると考えていた。結論:へき地・離島医療の向上には,医師に十分な教育を行うとともに,診療機器や休日や時間外の診療体制などの充実を行う必要があると思われた。

  • 山野上 敬夫, 松永 真雄, 金子 高太郎, 世良 昭彦, 須山 豪通, 池田 一生, 尾形 昌克, 山下 聰, 石原 晋, 谷川 攻一
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 6 号 p. 569-579
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    外傷症例の現場での重症度と転帰の関係を明らかにする目的で地域規模調査を行った。2005年7月~10月の4ヶ月間の広島圏域MC協議会(人口134万人)に属する救急隊が搬送した全外傷症例(4,786例)を対象とし,現場における重症度と受傷後14日後までの転帰を調査した。ロードアンドゴー(以下「L&G」)症例は604例(12.6%)であった。L&Gが初期観察にて(+)が 231例(4.8%),全身観察にて(+)が103例(2.2%),受傷機転のみで(+)が270例(5.6%)であった。死亡例42例のうち38例は初期観察にて(+)の症例であった。受傷機転のみで(+)の症例で14目後に入院治療が継続されていた症例は21%であり,L&G以外の軽症例の17%との間に有意差を認めなかった。状況評価のみを根拠とするL&G症例は,全体像としてとらえるかぎりは,初期評価や全身観察にL&Gに該当する所見を認めた症例との間に重症度の差異を認めることが示唆された。

  • —基礎疾患による肺血管外水分量と血管透過性の違いについて—
    森澤 健一郎, 平 泰彦, 高橋 浩雄, 大内 崇裕, 藤縄 宜也, 大橋 仁志, 鹿志村 猛, 野田 聖一, 桝井 良裕, 明石 勝也
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 6 号 p. 580-584
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    急性肺損傷/急性呼吸窮迫症候群(ALI/ARDS)は肺血管透過性亢進に基づく肺水腫が本態である。しかし,診断基準に該当する病態は多く客観的な評価が困難となっている。肺経由動脈熱希釈法を用いたPiCCOは,肺血管外水分量(EVLW),肺血管透過性指数(PI)を測定し,肺水腫を定量的に評価できる。われわれはALI/ARDSを基礎疾患別に誤嚥性肺炎,市中肺炎,肺外感染症の3群に分類し,PiCCOによる評価を行った。EVLWIは3群間に有意差を認め,その中央値,25%値,75%値は誤嚥性肺炎群(20ml/kg,16ml/kg,24ml/kg)が最も高く,次いで肺外感染症群(15ml/kg,10ml/kg,19ml/kg),市中肺炎群(9ml/kg,8ml/kg,10ml/kg)の順に高値を示した。PIの中央値,25%値,75%値は,肺外感染症群(0.49,0.4,0.56)と誤嚥性肺炎群(0.47,0.41,0.76)では有意差を認めなかったが,両者に比べて市中肺炎群(0.33,0.26,0.47)は有意に低値を示した。ALI/ARDSは基礎疾患により病態が異なると推察され,PiCCOはALI/ARDSの病態を評価する手段として有用である。

  • ―救急隊を対象とした客観的臨床技能評価テスト(OSCE)の導入―
    若杉 雅浩, 小倉 憲一, 奥寺 敬, 本道 洋昭
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 6 号 p. 585-591
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    目的:気管挿管認定救急救命士(以下,認定救命士)による気管挿管の実施開始を許可するにあたり,富山医療圏メディカルコントロール協議会では,認定救命士の所属する救急隊を対象とした客観的臨床技能評価テスト(OSCE)の合格を前提条件としている。今回,その現場活動への改善効果について報告する。方法:新規に育成された認定救命士の所属する救急隊を対象として,われわれが作成した評価法によりOSCEを実施した。OSCE実施後の現場活動改善効果の指標としては,導入前後の傷病者接触から初回心電図解析までの経過時間の変化,および気管挿管例と他の器具による気道確保実施例における現場滞在時間を比較することで評価した。結果:平成18年度末までに育成された39名の認定救命士とその所属する全19救急隊が,約1か月の事前訓練の後にOSCEを受験した。うち6チームが初回不合格となったが,2回目のOSCEまでにすべての救急隊が合格した。現場活動評価については平成16年から18年の間に実施された気管挿管症例は116例であり,その成功率は93.8%であった。傷病者接触から心電図解析までの時間は,OSCE導入前の3分から導入後は1分28秒と短縮された。現場滞在時間は気管挿管例と他の器具による気道確保例でそれぞれ11分12秒と12分24秒と有意差を認めなかった。結論:救急隊活動をOSCEにて評価することは,気管挿管の安全性の確保のみならず救急現場活動の質の向上に貢献する有効な方法である。

調査・報告
  • 米満 弘―郎, 定光 大海, 島原 由美子, 若井 聡智, 前野 良人, 大西 光雄, 白 鴻成, 西野 正人, 河野 宏明, 木下 順弘
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 6 号 p. 592-597
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    目的:当救命センターにおける入院時3点MRSAスクリーニング検査を調査,検討した。方法:2004年1月から2005年10月までに当救命センターに入院した1,448例に,鼻腔,咽頭,喀痰の入院時MRSAスクリーニング検査を施行し,MRSAの検出率,MRSA陽性例の背景因子,経過を調査した。結果:入院時MRSA陽性例は43例(2.97%)であった。MRSA陽性群/陰性群:平均年齢72±18.3歳/54±22歳,内因性疾患76.7%/47.4%,転院搬送入院率34.9%/15.9%だった。採取部位別陽性率は鼻腔53.3%,咽頭48.8%,喀痰65.1%だった。MRSA保菌例の20%がMRSA感染症を発症した。考察:高齢,他施設からの転院,内因性疾患は入院時MRSA陽性のリスク因子であると考えられた。スクリーニングとして3点培養は必要であり,保菌例の発症予防の重要性が示唆された。

症例報告
  • 温井 めぐみ, 吉田 健史, 林下 浩士, 吉本 昭, 松浦 康司, 宮市 功典, 韓 正訓, 鍛冶 有登, 裵 英洙, 井上 健
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 6 号 p. 598-602
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,重度の溶血を認め急激な経過で死亡したClostridium perfringens(以下C. perfringensと略す)感染症の1剖検症例を経験した。症例は72歳,男性。前立腺癌の既往あり。発熱および腰痛を主訴に近医受診。腹部CT上多発性ガス産生肝膿瘍を認め,当センター搬送となった。来院時,バイタルサインに異常を認めなかった。しかし血液検査時に重度の溶血を認め,その後も溶血は進行した。多発性ガス産生肝膿瘍および敗血症に伴う重度の溶血と診断し,抗菌剤投与,輸血および持続血液透析を施行したが溶血は持続し,当センター搬送から約6時間で死亡した。剖検では肝内に直径5mm程度の組織の脱落が散在しており,後日血液培養からC. perfringensが検出された。敗血症において重度の溶血を伴う症例では,C. perfringens感染症を疑い,早期の抗菌剤投与をはじめ積極的な全身管理を行うことが必要であると考えられた。

  • ―高知空港胴体着陸時の対応を振り返って一
    熊田 恵介, 小倉 真治, 福田 充宏
    原稿種別: 事例報告
    2007 年 10 巻 6 号 p. 603-608
    発行日: 2007/12/31
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    平成19年3月13日の高知空港胴体着陸事例では,空港災害時における緊急医療体制についてさまざまな問題があった。情報発信,連絡体制,現場での指揮命令系統,地域の防災計画との連携,受け入れ医療機関側の体制などが問題点としてあげられた。その原因として危機管理という認識が空港側には十分でなかったこと,空港での緊急医療計画ならびに地域の防災計画は医療面に関していまだ不十分であったこと,医療機関側も統一した対応ができず,災害に対する認識に差があったことなどが課題としてあげられた。今後は,空港,医療機関,消防,行政,警察など関連機関間で危機管理の認識を統一し,現況に見合った空港緊急計画の見直し,実質的な訓練の実施と訓練後はより改善していく姿勢,通常の救急医療体制のさらなる充実が必要である。今回の教訓を生かし,空港におけるよりよい緊急医療体制の構築とその充実が望まれる。

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