日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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9 巻, 3 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 山本 俊郎, 鈴木 範行, 鈴木 淳一, 藤田 誠―郎, 杉山 貢
    原稿種別: 原著
    2006 年 9 巻 3 号 p. 243-251
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2024/02/23
    ジャーナル フリー

    横浜市立大学高度救命救急センターにおいて13年間(1990.1.1~2002.12.31)に治療した自殺既遂355症例について,後向きに検討した。既遂症例数は年々増加していたが,未遂症例の増加により,その割合は低下していた。自殺手段では,墜落203症例57.2%,縊頚85症例23.9%と墜落が過半数を占め,全国総計結果と異なった。精神科疾患の既往は104症例29.3%に認められ,気分障害(F3),統合失調症,統合失調症型および妄想障害(F2)がそれぞれ50例48.1%,40例38.5%を占めていた。治療歴は196例55.2%に聴取でき,通院中,入院中と中断はそれぞれ88例,10例,12例であった。企図歴は144例40.6%に聴取でき,32例22.2%に既往を認めた。最終企図時期が明確な26例では,今回の企図まで3ケ月以内12例をはじめ1年以内の企図は18例69.2%と高率であった。精神科疾患別にみると,中高齢者の多いF3は縊頚の70%を占めていた。社会的環境や精神科疾患により,自殺企図の手段に特徴が見られることより,状況に即した自殺予防対策が必要と思われた。

症例報告
  • 新谷 裕, 箱田 滋, 木内 俊一郎
    原稿種別: 症例報告
    2006 年 9 巻 3 号 p. 252-255
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2024/02/23
    ジャーナル フリー

    49歳,男性。血液透析患者である。2ケ月前から左側腹部痛を自覚していた。紹介来院し当施設にて腹部CT撮影を施行した。腹腔内出血および脾被膜下血腫と脾内に多数の不整形低吸収域を認め,脾破裂と診断され緊急入院となった。なお,外傷の既往はない。vital signは安定していることから,保存的療法を開始したが,第2病日に再出血し,脾摘出術を施行した。術後経過は問題なく,第11病日に軽快退院した。病理所見から脾ペリオーシスと診断した。脾ペリオーシスの発生機序は不明であるが,蛋白同化ステロイドやエリスロポエチンなどの薬剤との関連が指摘されている。血液透析患者に脾ペリオーシスが合併した症例の報告は3例あり,うち1例は脾破裂を起こしていた。本症例もエリスロポエチンが投与されており関連が示唆される。また血液透析患者に自然脾破裂の合併例も報告があり,稀ではあるが左側腹部痛を訴えれば考慮すべき疾患である。

  • 新谷 裕, 箱田 滋, 木内 俊一郎
    原稿種別: 症例報告
    2006 年 9 巻 3 号 p. 256-259
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2024/02/23
    ジャーナル フリー

    24歳,女性。抗うつ薬など計145錠を服薬し,6時間後に発見され当施設へ入院した。第5病日に歩行中に突然,呼吸苦を訴え,胸部造影CT検査により肺動脈血栓塞栓症と診断した。MR venography検査では静脈血栓を認めなかった。血液検査で抗カルジオリピン抗体は陽性で,プロテインS活性は45%に低下していた。抗凝固療法を行い,第27病日に軽快退院した。6週以降の抗カルジオリピン抗体も陽性であり,抗リン脂質抗体症候群と診断した。本症例はフェノチアジン系薬剤の服薬,抗リン脂質抗体症候群,プロテインS欠乏症など肺動脈血栓塞栓症を発症するリスク症例ではあるが,急性薬物中毒では発見されるまで長時間同一姿勢でいる場合があり,脱水と血流うっ滞により深部静脈血栓症のリスクとなる。そこで,当施設では急性中毒患者は肺動脈血栓塞栓症のリスク患者として弾性ストッキングを着用することにした。

調査・報告
  • 竹内 昭憲, 野口 宏
    原稿種別: 調査・報告
    2006 年 9 巻 3 号 p. 260-269
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2024/02/23
    ジャーナル フリー

    (財)救急振興財団からの派遣で,米国の4都市のパラメディックの気管挿管に関する教育を視察する機会を得たので報告する。パラメディック養成の標準的カリキュラムは国が示しており,各教育機関でこれを改変して使用している。実習中の気管挿管実施数は,ビッツバーグ,マイアミで10例以下,ベリンガム,シアトルで20例以上であった。就業後,マイアミ以外では義務とされている気管挿管回数を下回ると不足分を手術室で実施できる。就業後の気管挿管成功率は,シアトル,ベリンガムでは95%以上であるのに対しマイアミでは66%で,これはパラメデイック学校在学中も就業後も,人体での気管挿管施行例数が少ないことが影響しているのではないかと思われた。実習時に発生した事故に対する補償は,基本的には指導者の保険でまかなわれている。本邦でも一人の救急救命士が実際に現場で気管挿管できる症例数は限られていると予想され,技術維持ができるようなシステムを構築する必要がある。

  • 武内 有城, 左合 正周, 草深 裕光, 井口 光孝, 浅岡 裕子
    原稿種別: 調査・報告
    2006 年 9 巻 3 号 p. 270-277
    発行日: 2006/06/30
    公開日: 2024/02/23
    ジャーナル フリー

    当院では,救急体制の拡大とともに,救急外来スタッフヘの患者・家族からの暴力行為やそれに準じるトラブルが増加し,警察の介入も要するような事例も増加した。そこで,救急外来スタッフの安全確保を目的として,スタッフに対しアンケート調査を行ったところ,患者または家族から身に危険を感じるような行為を受けた経験を39.3%に認め,保安体制の不十分から救急外来で働きたくないとの回答が13.2%に認められた。そこで,救急受診患者への救急システムヘの理解と協力,マナー向上の呼びかけを行うとともに,防犯ベルやビデオの設置,トラブル発生時や事件関連患者への対応マニュアルを整備し,職員の安全確保の改善に取り組んだ。今回のわれわれの検討では,これらの対応策によって保安体制の改善は得られたものの,スタッフの満足度の向上には結びついておらず,マンパワーなどの救急体制そのものの問題は引き続き重要な検討課題である。

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