日本臨床外科医学会雑誌
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48 巻, 8 号
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  • 内藤 誠二
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1019-1028
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1955年3月から1974年12月の間に外科的治療を行った原発乳癌228例を対象として,術後20年にわたる累積生存率からみた病期決定因子の予後への影響について再検討した.
    T因子別生存率では,各n因子別に比較すると各群間に有意差は認められなかった. n因子別生存率は,術後10年以内において各群間に有意差を認めたが,術後10年以上にわたり有意差がみられたのはn0・n1α群間だけであった.さらに,各T因子別に比較した場合にも同様の傾向がみられた.組織型による生存率をn因子別に検討すると乳頭腺管癌,充実腺管癌,硬癌の間に有意差は認められなかった.この結果より術後10年以上の長期予後に関してはn因子が最もよく反映していると考えられ,特にn0群は良好な予後が期待できた.しかし, n(+)群では転移リンパ節個数が少なくとも有意に長期予後が悪くなる傾向があり, 20生率をもって予後の検討をする必要があると考えられた.
  • 芳賀 駿介, 梶原 哲郎, 芳賀 陽子, 清水 忠夫, 飯田 富雄, 今村 洋, 細川 俊彦, 蒔田 益次郎, 渡辺 修, 窪田 公一, 榊 ...
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1029-1034
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳癌患者における血清CEAおよび組織CEAを再発との関連を中心にみた.術前血清CEAの陽性率は14.9%で,再発率を血清CEA値別にみると,陽性例が陰性例に比し有意に高かった.原発巣の組織CEAの陽性率は29.8%で,再発率を組織CEA量別にみると,陽性例が陰性例に比し高かった.また,両者が陽性のものの再発率は55.6%と高率であった.術後血清CEAの経時的変化をみると,陽性例は術後1カ月目には83.3%が陰性化した.再発時に血清CEAが陽性化したものは再発例の62.5%であった.原発巣と転移リンパ節および再発巣の組織CEAの関係では,陽・陰性が一致したものは92.3%であった.この結果を反映して術前血清CEAが陽性のものは再発時も高率に陽性となることがわかった.また,再発時の血清CEAの陽性時期は,臨床上再発巣確認前であったものは43.8%で, CEAの測定は再発予知に有用であると思われる.
  • 畑 隆登, 津島 義正, 種本 和雄, 荒田 敦, 小長 英二, 井出 愛邦
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1035-1040
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1981年より1986年までの6年間に国立岩国病院にて施行された真性大動脈瘤の手術は40例であり,緊急手術は,破裂12例,切迫破裂6例であった.大動脈瘤発生部位は,胸腹部2例,腹部16例であり,大動脈瘤の原因は,動脈硬化性14例,炎症性4例であった.これら症例の術前検査,手術および手術成績について検討した.
    破裂性大動脈瘤では,緊急CTが必要にして充分な検査であり,入院より手術までの平均時間は2時間であった.さらに時間短縮をはかるためには,地域医療を含めた啓蒙活動が重要であると考えられた.手術は根治性より救命に重点をおいて術式を選択し,基礎疾患を含めた全身管理が術後必要とされるが特に腎血流量の確保が重要であった.大動脈瘤手術死亡は,破裂25%, 切迫破裂17%に対し,同時期に施行した非破裂待期手術は5%以下であり,早期待期手術(特に炎症性大動脈瘤において)の重要性が考えられた.
  • 黒須 康彦, 荒井 徹, 中西 浩, 石井 郁夫, 水野 敏彦, 深町 信介, 佐藤 公望, 岡村 治明, 加部 吉男, 馬越 文男, 森田 ...
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1041-1049
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    昭和60年迄の10年間における自験噴門部癌39例の食道浸潤,手術成績を検討した.食道浸潤は48.7%に認められ,浸潤距離は癌型の肉眼分類,壁深達度,癌先進部肉眼型により影響をうける傾向を示した.癌先進部肉眼型が限局型ではOWが1cmを越える症例には, ow (+)例はなかった.これに対して浸潤型ではow (+)例はOW 2cm未満では42.8%, OW 2~3cm未満では40.0%に認められた.しかし, OWが3cm以上では認められなかった.手術術式は開胸術38.4%,噴門側胃切除術15.3%,胃全摘術84.6%,周囲他臓器合併切除術76.9%であり,治癒切除率は61.5%であった.手術直死例はなく,術後合併症発生率は41.0%であった. 5年以上経過例の5年生存率は23.0%,対象全体の累積5年生存率は9.8%であった.累積5年生存率に影響を与える因子としてはstageが最も著明であった.腹部所見がow以外はcurativeな場合は積極的に開胸してow (+)を排除することが重要と思われた.
  • 愛甲 孝, 才原 哲史, 夏越 祥次, 高尾 尊身, 野村 秀洋, 島津 久明
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1050-1056
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近12年間に当教室にて経験した胃癌における他臓器合併切除施行例213例を対象として,リンパ節郭清における膵脾合併切除の意義,癒着・浸潤に対する膵脾合併切除の問題点,および非治癒手術における合併切除の適応と限界について検討した.脾門(No.10)または脾動脈幹(No.11)のリンパ節転移率は, S2 27%, S3 37%, であった.しかし, No.10, No.11のn (-)症例における同リンパ節を再切再検した結果, 7.9%に微小転移が認められた.膵脾合併切除の臨床効果については,膵脾合併切除を施行しNo.10, 11に転移のあった群では5年生率33.3%であった.リンパ節転移の無い症例において膵脾合併切除の有り無しで比較すると, 5年生存率は各々44.8%, 43.3%でありPSが明らかな障害因子とはなっていなかった.しかし,合併症死の頻度は膵脾合併切除施行群が9.1%と非施行群1.9%に比べ高かった. stage IV症例における背景因子の組み合わせの中ではP0~1, H1, N3~4, S2~3, 症例では合併切除の延命効果が明らかに認められた.
  • 芦田 卓也, 田中 龍彦, 荻野 和功, 加藤 道男, 山本 正博, 奥村 修一, 大柳 治正, 斉藤 洋一
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1057-1065
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    上部消化管悪性腫瘍において,術前に腹部超音波検査を行い,転移リンパ節の超音波像,その診断能および部位別診断能,そしてfalse negative症例の検討を行った.超音波検査における転移リンパ節の正診率は,胃癌61%,食道癌75%, total 64%であった.転移リンパ節は平均20mm大で,辺縁明瞭,類円型の内部エコー均一な低エコーレベル像を呈し,部位別では小弯線領域および腹腔動脈,腹部大動脈周囲のリンパ節の検出率が高かった. false negative例の大半は径15mm以下,大弯線領域の症例であり,また組織型では低分化癌で転移様式が散在型のものが多かった.
  • 宮地 正彦, 蜂須賀 喜多男, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 深田 伸二, 石橋 宏之, 加藤 純爾, 神田 裕, 松下 昌裕, 小田 高司, ...
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1066-1078
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去11年間に急性虫垂炎と診断し,手術を施行した妊婦症例は38例で,これら妊娠群と同期間に虫垂炎と診断され手術を受けた同年代の女性1,180例を対象群として比較検討した.妊娠群での虫垂炎の手術時肉眼的診断による病型別頻度はカタル性44.6%,蜂窩織炎性31.6%,壊疽性0%,穿孔・膿瘍形成5.3%,虫垂正常5.3%, 虫垂以外に異常を認めたもの13.2%であり,対照群のそれと差はなかった.自発痛,圧痛部位は妊娠後期でも右下腹部に存在する症例が多く,開腹時の虫垂の位置と圧痛部位はよく一致していた.嘔吐, 37.5°C以上の発熱,腹膜刺激症状出現率は妊娠群と対照群とでは差はなく,一万以上の白血球増多例は妊娠群の方が多かった.術前後に黄体ホルモン, β2刺激剤を投与したが,カタル性虫垂炎1例,卵管炎1例が術後流産した.また3例に人工中絶術が施行された.妊娠経過を追跡できた23例全例が満期産であり,出産児には奇型,発育障害等の異常は認められなかった.
  • 自験例25例を中心に
    奥野 匡宥, 池原 照幸, 長山 正義, 加藤 保之, 由井 三郎, 梅山 馨
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1079-1084
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近15年間与大阪市立大学医学部第1外科で経験した肛門癌25例を対象として,臨床病理学的所見ならびに治療成績を検討した.
    1. 肛門癌25例は,同期間に扱われた大腸癌の3.8% (25/659),直腸肛門癌の6.3% (25/400)に相当し,男性14例,女性11例,平均年齢57±3歳であった.
    2. 肛門部痛,肛門出血を主訴とする例が多く, 1年以上の病悩期間を有する例が40%を占めた.また痔瘻の合併が3例にみられた.
    3. 治療として腹会陰式直腸切断術が22例に施行され,切除率88.0%,治癒切除率64.0%であった.
    4. 組織型では腺癌14例,粘液癌7例,扁平上皮癌3例,腺扁平上皮癌1例であり,組織学的リンパ節転移は31.8%に陽性であった.
    5. 累積5年生存率は全例では41.6%,切除例では49.2%,治癒切除例では64.9%であり,ほぼ同期間に当科で経験した直腸癌の予後とくらべ不良であった.
  • 竹末 芳生, 横山 隆, 山田 洋, 児玉 節, 藤本 三喜夫
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1085-1089
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近3年間に6例の敗血症性ショックを併発した重症腹膜炎症例に対し腸瘻造設による二期的手術を施行したので報告した.その根拠として第一に,腹腔内endotoxin投与実験にて腸管の組織血流値を水素クリアランス法で測定したところ,血圧が維持された状態であっても, 1時間で114.0±21.4ml/min/kgから71.7±22.2ml/min/kgと減少し,対照群と有意差を認めた(p<0.05).この結果よりendotoxin血症時には縫合不全の可能性が高いと考えた.第二に敗血症性ショック時においては,血清fibronectin値や補体C3cは低値を示す症例が多く,さらに手術侵襲が加わる事により減少を認め,このような状態で縫合不全が発生したら生体はすでに対処する力を有しておらず,致命的になると考えた.ここで,敗血症性ショック症例では,腹腔内感染巣の完全なドレナージを計る余り,手術侵襲を過大とし,術後患者の状態を悪化させる場合もあり,この点が今後の課題と考えられた.
  • 伊藤 勝朗, 岡田 稔, 福田 幹久, 辻本 実, 田中 孝一, 応儀 成二, 原 宏, 森 透
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1090-1093
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    上腕動脈の腫瘍塞栓による急性閉塞により発症し,これが左房粘液腫診断の契機となった1例を経験した.
    症例は54歳の女性で,既往歴に脳血管障害による右外眼筋麻痺がある.入浴後,突然に左上肢の脱力,冷感,しびれなどの急性阻血症状で発病した.翌日の入院で血管造影,右心カテーテル検査,心エコー検査を行ったところ左上腕動脈の閉塞と左房粘液腫の存在が確認された.左上肢の急性阻血を解除するは勿論のこと,両病変間の関係を見極めるために先ずFogartyカテーテルを用いて局麻下に塞栓除去を行ったが,塞子は血栓とは異なった実質性の腫瘍組織で左房粘液腫由来であることが確認された. 6週後に体外循環下与左房粘液腫の摘出手術を行った.
    四肢急性動脈閉塞のうち,塞栓症の大部分は心臓由来の血栓であるが,稀とはいえ,心臓あるいは肺血管由来の腫瘍塞栓も含まれるので,術前のスクリーニング検査として少なくとも,心臓の超音波エコー検査は実施すべきである.
  • 大薮 久則, 松田 昌三, 春名 宏樹, 築部 卓郎, 服部 哲也, 沢田 勝寛, 栗栖 茂, 柴田 正樹, 絵野 幸二, 広瀬 隆則, 松 ...
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1094-1097
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    きわめて稀な疾患とされている成人bronchial atresiaの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
    症例は49歳男性,左上肺野異常陰影を主訴として来院,典型的なmucoid impaction,左肺尖部気腫性病変,気管支鏡による正常粘膜に覆われたままの気管支閉鎖所見,及び気管支造影によるB1+2a+b根部よりの完全途絶所見よりbronchial atresiaと診断された.呼吸器感染を繰り返すため左上葉切除が施行され,切除標本でも本症が確認された.本症報告例は欧米で50例,本邦で10数例を見るに過ぎない.自験例はShenoyが1982年までに集計した50例の中の最高齢者よりも更に6歳高齢である.
  • 高橋 直樹, 芳賀 駿介, 勝部 隆男, 中田 一也, 梶原 哲郎, 榊原 宣
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1098-1102
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃神経鞘腫と脾過誤腫を併存した極めてまれな症例を経験した.
    症例は60歳,男性.胃粘膜下腫瘍の診断で入院中,超音波, CT,血管造影検査で脾に胃の腫瘤とはつながりのない腫瘤をみとめた.諸検査により,胃腫瘤は平滑筋由来の粘膜下腫瘍,脾腫瘤は脾原発腫瘍の診断のもとに,胃全摘および膵脾合併切除術を施行した.胃腫瘤は体部大弯, 6×6×5cm大,組織学的には腫瘍細胞は紡錘型で束状になって錯綜し,核の観兵状配列がみられ, S100蛋白, NSE陽性で核に異常性はなく,胃神経鞘腫と診断した.脾腫瘤は5×5×5cm大,組織学的には細網細胞に被われた類洞様構造と洞内に多数の赤血球,白血球をみとめ,髄索様線維成分も豊富で,過誤腫と診断した.
    本邦では,胃神経鞘腫は非癌性胃腫瘍の3.3%,脾過誤腫はさらにまれで,また,両者の併存例の報告はないことより,本症例に若干の文献的考察を加え報告したい.
  • 稲吉 厚, 岡本 実, 林田 信夫, 師井 良知, 八木 泰志, 池田 恒紀, 石原 信彦
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1103-1106
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症の1例を経験し,術前の超音波検査において,本症の成因と考えられる上腸間膜動脈と腹部大動脈のなす角度の狭小化が観察できたので報告する.
    症例は, 24歳の女性で, anorexia nervosaによる著明な体重減少があり,その頃から食後の腹部膨満感および嘔吐が出現するようになったため当センターに来院した.胃十二指腸造影で十二指腸の拡張と第3部での造影剤の途絶を認め,十二指腸造影と上腸間膜動脈造影の同時施行により,上腸間膜動脈による十二指腸第3部の圧迫が示唆された.腹部超音波検査を施行したところ,上腸間膜動脈と腹部大動脈のなす角度の著明な狭小化を認めた.手術は十二指腸転移術を施行したが,術後経過は良好で退院となった.
    超音波断層法は,上腸間膜動脈および腹部大動脈を明瞭に描出することが可能であると同時に,血管撮影のような侵襲もない事から,今後は本症のスクリーニングに有力な検査法になり得ると考えられた.
  • 朝長 毅, 西沢 直, 鈴木 一郎, 白松 一安, 寺嶋 雅史, 菱川 悦男, 高沢 博
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1107-1110
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    ズビニ鉤虫による成人腸重積症の1例を経験した.症例は35歳女性.半年前より時々下腹部痛あり.昭和61年5月28日,腹部全体の激痛,悪心,嘔吐あり,左側腹部に移動性腫瘤触知し,腹部単純撮影で特異なニボー像を認めたため,小腸腸重積症の疑いで緊急手術施行した.トライツ靱帯より約50cmの空腸が9cmにわたり重積を起こしており,整復困難なため切除.さらに約20cm肛門側に1cm大の腫瘤を触れ,これも切除した.腫瘤粘膜面にズビニ鉤虫が咬みついており,その部を中心に出血と肉芽変化がみられた.重積部は壊死に陥り虫体は検出されなかったが,鉤虫による肉芽変化が原因と推測された.
    寄生虫による成人腸重積症の報告は極めて少なく,特にズビニ鉤虫によるものは見当らない.
  • 丸山 博英, 西部 俊三, 衣田 誠克, 岡 義雄, 中野 博史, 田根 叡, 弥生 恵司, 岡村 純, 早原 信行, 桜井 幹己
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1111-1116
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    膀胱症状で発症し,診断が困難であった回腸Crohn病の1例を経験したので報告する.症例は39歳の男性で排尿時不快感を主訴として来院した.膀胱鏡検査,骨盤腔エコー検査,注腸撮影,血管撮影,および骨盤CTで,膀胱腫瘍を疑い開腹をおこなった.回腸終末部と膀胱底部が一塊となり,小腸,膀胱の癌が考えられ,迅速組織診でも悪性を否定できなかったので回腸部分切除術兼単純膀胱摘除術をおこなった.切除標本では,回腸終末部が全周性に肥厚し,膀胱との癒着部に裂溝状潰瘍 (cleft like ulcer) がみとめられた.組織学的には悪性所見はなく,小腸全層にわたりリンパ球の集族巣がみられた.膀胱粘膜は,浮腫状で腺化生がみとめられcystitis glandularisの組織像であった.以上,臨床所見と病理組織所見よりみて,主病変がmalignant tumorではなくて回腸Crohn病であり,これが隣接する膀胱にまで及んで, cystitis glandularisを来し,あたかも膀胱腫瘍のような所見を呈したと考えられた.
  • 井上 晴洋, 杉原 国扶, 竹村 克二, 野坂 俊壽, 山際 明暢, 村瀬 尚哉, 波多野 誠, 毛受 松寿, 桜沢 健一, 山崎 繁, 遠 ...
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1117-1120
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1歳未満の乳児が急性虫垂炎を発症することは稀である.われわれは生後52日目に発症した急性虫垂炎穿孔による腹膜炎を呈した症例を経験したので報告する.
    症例は女児で哺乳力低下と発熱を主訴に来院した.主として腹部圧痛と超音波検査所見により,腹腔内膿瘍と診断し,開腹術を施行した.回盲部に膿瘍をみとめ,その底に断裂穿孔した虫垂根部をみとめたため,その断端を処理した.起炎菌はE. ColiとBacteroidesで,組織学的検査では高度の炎症所見をみとめた.
    術後は一時的に皮下膿瘍を形成したが順調に経過退院した.著者の調べえた範囲では1歳未満の虫垂炎の報告は本邦では本例を含めて11例であり全例が穿孔例であった.
  • 高田 泰次, 藤田 士朗, 都志見 久令男
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1121-1125
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近4年間で, 5例の消化管平滑筋腫瘍の手術症例を経験したので報告する.症例は, 69歳女性の胃平滑筋肉腫1例, 81歳男性の胃平滑筋腫1例, 62歳女性と30歳男性の小腸平滑筋腫2例, 18歳女性の下行結腸平滑筋腫1例であった.
    全例,管外型発育を示し,腫瘍の中心壊死は胃平滑筋肉腫を含めて3例に,粘膜面の潰瘍形成及び腫瘍との間の瘻孔形成は3例に見られた.
    胃平滑筋肉腫の1例は,胃亜全摘術後に, Adriamycinを中心とする化学療法を行ったが,術後7カ月目に心不全のため死亡した.他の平滑筋腫の4例は,術後現在にいたるまで健在であるが,平滑筋腫と病理組織学的に診断された症例が術後数年後に再発死亡したという報告もあり,注意深い経過観察が必要である.
  • 武藤 功, 音羽 剛
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1126-1130
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    魚骨片を誤飲する機会は多いと考えられるが,この魚骨片が体外与排泄されず,消化管を穿通したという症例の報告は比較的少ない.
    最近,誤飲された魚骨が,消化管を穿通し膿瘍あるいは腫瘤を形成し,手術した5症例を経験した. 1例は食道を穿通し縦隔洞膿瘍を形成し, 1例は直腸壁を穿通し肛門周囲膿瘍を形成,他の3例は結腸を穿通し肉芽腫を形成していた.結腸穿通の1例で放線菌症を認めた.結腸穿通により形成された肉芽腫の場合,悪性腫瘍との鑑別が困難な事があるがCT所見で,肉芽腫の場合,腫瘤陰影の中にひときわ明瞭なhigh densityの直線部分がある事が重要な所見に思われた.全例,切開ドレナージないし腫瘤摘出により完治し再発は認めていない.尚,個々の症例についての症状,診断,治療について若干の文献的検討を加え報告する.
  • 西野 幹夫, 安田 志郎, 吉岡 貞嘉, 村上 信伍, 平子 雅也
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1131-1136
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    結腸に原発する平滑筋腫は稀な疾患である.最近,横行結腸平滑筋腫の1例を経験したので報告する.症例は, 42歳男性で,主訴は右季肋部腫瘤.超音波, CT,血管造影から,後腹膜良性腫瘍と診断し,手術を施行した.手術の結果,腫瘤は,横行結腸より発生したものであり,病理診断は平滑筋腫であった.
    自験例を含む本邦報告39例を集計し,若干の考察を加えた.
  • 松本 好市, 寺島 秀樹, 松本 収生, 増田 亨, 北川 達士, 森山 茂, 山本 純二, 入山 圭二
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1137-1142
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎に合併した直腸癌の1例を経験したので報告する.症例は40歳,男性, 10年前より排便時出血, 7年前より1日7~8行の粘血下痢便を訴え,左側型潰瘍性大腸炎として種々の内科的治療を受けていた.当科へ入院時,患者は粘液便と裏急後重を訴え,左下腹部に硬い腫瘤を触知した.注腸透視,内視鏡検査では,直腸上部からS字結腸にかけ狭窄とCobblestone様所見を認め,生検でも悪性所見は得られなかったが血管造影にて肝転移を伴う直腸癌が強く疑われ,開腹術が施行されたが多発性肝転移を認めたため非切除となり術後8カ月で死亡した.剖検で得られた組織診断では,著名な脈管侵襲を伴う中分化型のボールマンIV型直腸癌であった.
    潰瘍性大腸炎に合併する大腸癌の本邦報告例は未だ少ないが,今後増加することが考えられ,本症からの発癌のメカニズムを解明する上でも1症例1例の詳細な解析が重要と考え自験例を報告し若干の文献的考察を加えた.
  • 大谷 吉明, 小笹 貴夫, 中野 末広, 山口 晋, 丸山 雄二, 渡辺 弘
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1143-1147
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    急性気腫性胆嚢炎の2例を経験したので,本邦報告例23例を加え若干の文献的考察を行なった.
    症例1は47歳,男性.高血圧症の既往あり.心窩部痛と発熱のため入院した.症例2は67歳,女性.糖尿病治療中,発熱および心窩部痛にて入院した.いずれも腹部単純X線検査にて胆嚢部に異常ガス像がみられた.腹部超音波検査およびCT検査にて胆嚢壁内に多数のガス像が認められ,急性気腫性胆嚢炎と診断された.緊急に胆嚢摘出術が施行された.両者に胆石が合併し,症例1の胆汁よりE. coli, klebsiella pneumoniaeが検出された.病理組織学的には壊疽性胆嚢炎の所見であり,術後経過は良好であった.
    本症は,その主体が壊疽性胆嚢炎であることを認識し,的確かつ注意深い治療が行なわれなければならないと思われる.
  • 鳥井 彰人, 末永 裕之, 寺嶋 康夫, 日比野 治生, 奥田 哲也, 小寺 泰弘, 長谷川 満, 松尾 尚史, 服部 正憲, 余語 弘
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1148-1153
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    交通事故によって発生した膵完全断裂にARDS (adult respiratory distress syndrome)を合併した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
    症例は40歳の男性で,泥酔状態で乗用車運転中の正面衝突事故にて受傷した. CT等の諸検査によって膵損傷が疑われたが,全身状態が比較的落着いていたため保存的治療を開始した.受傷後3日目より低酸素血症及び呼吸困難が出現し,更に胸部単純レントゲン写真の所見等によりARDSと診断した.レスピレーターによる呼吸管理を行ったが効果無く,状況の改善をはかるべくその原因と思われる膵損傷に対して手術を施行したところ, ARDSは次第に改善し,軽快退院した. ARDSの治療には原因の除去が最も重要であるものと思われた.
  • 大瀧 和彦, 根本 明久, 宮川 貞昭, 青山 清次, 四方 淳一
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1154-1157
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例はタール便を主訴として来院した57歳の女性で,緊急内視鏡検査にて出血性十二指腸潰瘍を認め入院となった.入院後まもなく潰瘍からの出血は認められなくなった.腹部単純X線写真で左季肋部に球状石灰化像を認めたため,腹部CT, 腹腔動脈造影等の検査を施行し脾嚢胞と診断した.待期的に脾摘出術と選択的近位迷走神経切離術を行った.切除標本の病理組織学的検索で,嚢胞壁の一部に陳旧化した海綿状血管腫様の構築を認めたため,嚢胞の発生に血管腫が関与した可能性が強く示唆された.
  • 椎木 滋雄, 桑田 康典, 柏原 瑩爾, 上田 祐造, 黒瀬 匡雄, 宮木 功次
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1158-1162
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性で,右上腹部腫瘤を主訴に来院した.排泄性腎孟造影,腹部CTおよび動脈造影より後腹膜腫瘍と診断し開腹術を施行した.腫瘍は右腎と軽度に癒着していたが,比較的容易に剥離,摘出できた.
    摘出標本は24×17, 5×16cm, 3,530gで病理組織学的にはmyxoid typeの脂肪肉腫であった.
    術後経過は良好で3年5ヵ月経過した現在,再発の兆候を認めない.
    自験例および本邦における後腹膜脂肪肉腫の報告91例を集計し若干の文献的考察を加え報告する.
  • 射場 敏明, 福永 正氣, 木所 昭夫
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1163-1167
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    開腹手術創内に異所性骨形成をみた3症例を報告するとともに,その成因,臨床像,診断,治療法について検討した.
    症例は, 56歳男性, 64歳女性, 62歳男性でいずれも上腹部正中創内に,異所性骨形成を認め,このうち自覚症状のあるもの1例について切除術を行なった.
    手術創内における異所性骨は,ほとんどが上腹部正中創内に発生するが,一般的に無症状なため見逃がされているものも多い.注意深く観察を行なえば,発見は容易であり従来考えられているほど稀なものではないと思われる.
  • 長野 秀樹, 木元 正利, 保田 健太郎, 山本 康久, 今井 博之, 林 秀宣, 牟礼 勉, 岩本 末治, 笠井 裕, 清水 裕英, 瀬尾 ...
    1987 年 48 巻 8 号 p. 1168-1171
    発行日: 1987/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    直接外力に起因しない腹直筋血腫は,稀な疾患で,その診断も甚だ困難である.著者らは本症の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
    患者は63歳女性で,右下腹部痛を主訴として来院した.理学所見では,下腹部で恥骨結節に接し,正中線よりやや右側を中心とした部与圧痛を伴う腫瘤を触知,超音波検査で腹壁内に腫瘤を認め,腹壁膿瘍を疑い手術を行った.腹直筋内に血腫を認め,右側の腹直筋は外側1/3を残して断裂していた.腹直筋血腫と診断して血腫除去術を行った.
    本症は中高年齢層の女性に多く,咳蹴や労作などの誘因に続いて発症するとされるが,原因の不明なものも多く正診率は低い.最近超音波検査が有用とされるが,急性腹症との鑑別が困難な場合も比較的多く本症を念頭に置いた診療が必要と思われた.
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