日本臨床外科医学会雑誌
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50 巻, 3 号
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  • 井上 正
    1989 年 50 巻 3 号 p. 447-453
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    外科医は常に手術を中心として創造に向って歩まねばならない.このためには深い思索と優れた着想が必要である.そうしてそれを実証し,評価し,また未来に向って探究する.その中に常に外科医の夢-surgeon's dreamが欲しいものである.
    心臓大血管外科の歴史は正にこの流れそのものである.1945年Taussigが着想し,Blalockが実証したFallot四徴に対する短絡手術,1948年Baileyによる僧帽弁交連切開術から1954年Gibbonによる人工心肺による開心術の成功を経て,1960年Starrの人工弁手術,1969年Favaloroの冠動脈バイパス手術から,最近の人工心臓をブリッジとした心臓移植の今に到る迄,この思想は脈々と流れ続けている.
    この間にあって,我が国で創案・創始された数々の手術,例えば新井,川島,佐治,今野・相馬,竹内,村岡などの手術に対して深い敬意を表わすとともに,これを育み,育て,さらにこれに続く手術が開発されることを念願して止まない.消えることなく夢を持ち続けたいものである.
  • 小林 薫, 森 透, 八代 亨, 鈴木 章, 真鍋 嘉尚, 尾崎 修武, 伊藤 國彦, 三村 孝, 玉井 誠一, 東 与光
    1989 年 50 巻 3 号 p. 454-463
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    甲状腺悪性リンパ腫58症例について,予後とその予後因子を検討した.症例は1975年より1987年までの13年間に,伊藤病院で経験した甲状腺のnon-Hodgkinリンパ腫58症例で,年齢は36歳より81歳(平均64.2±9.2歳),男性12例,女性46例であった.治療としては基本的に60Coの放射線治療を行っている.症例全体の累積生存率は61.2%(5年,10年とも)であった.病期で分類すると,stage Iの症例の累積生存率は85.7%(5年,10年とも),stage IIのそれは80.0%(4年),stage IVのそれは16.9%(5年,7年とも)であった.組織型をLSG分類により分類すると,濾胞性リンパ腫の症例の累積生存率は100%(5年,10年とも),びまん性リンパ腫のそれは50.3%(5年,10年とも)であった.組織型を国際分類により分類すると,low grade症例の累積生存率は100%(5年,10年とも),intermediate grade症例のそれは53.8%(5年,10年とも),high grade症例のそれは35.3%(5年,10年とも)であった.年齢別で分類すると,59歳以下の症例の累積生存率は84.8%(5年,10年とも),60歳以上のそれは55.5%(5年,10年とも)であった.男女別の累積生存率には有意差を認めなかった.甲状腺悪性リンパ腫の予後は,腫瘍を形成する組織型に強く依存する傾向がみられた.
  • 浦口 憲一郎, 山名 一有, 大庭 聡, 名嘉真 透, 明石 英俊, 平田 義博, 木下 寿彦, 清永 勉, 原口 周一, 小須賀 健一, ...
    1989 年 50 巻 3 号 p. 464-469
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    当教室においては昭和56年1月以後6年間に胸部13例,腹部18例の計31例の破裂性大動脈瘤を経験した.手術死亡率はそれぞれ15.4%, 27.8%であった.
    手術成績は術前および術中輸血量との関係がみられ,成績向上のためには発症より手術までの血圧の維持および迅速な手術が必要であるが,胸部症例,胸腹部症例では特に部位診断,主要分枝の状態の把握が重要と思われ,状態の許す限りCT, DSA等の検査を行った.解離性を除く,非破裂性大動脈瘤の手術成績はほぼ満足出来るものであり,動脈瘤の診断がえられ,全身状態が許せば早期に手術することが重要と思われる.
  • 腹部大動脈瘤症例を中心として
    河内 康博, 竹中 博昭, 藤岡 顕太郎, 秋本 文一, 中村 丘, 西山 利弘, 江里 健輔
    1989 年 50 巻 3 号 p. 470-473
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    阻血に最も敏感に反応する代謝産物はCPKやミオグロビンとされている.腎動脈下腹部大動脈瘤手術10例を対象とし,一時的大動脈遮断により起こる代謝性変化を血液生化学的に検討した.測定は血清GOT, LDH, CPK,クレアチニン,乳酸,ピルビン酸,アルドラーゼおよびミオグロビンについて行われた.
    血清乳酸,ピルビン酸およびL/P比は遮断中および遮断解除後で遮断前値より有意に高値であった.血清アルドラーゼ値は遮断中漸増し,遮断解除後有意に高値であった.これに対し,血清クレアチニン,ミオグロビン,CPK, LDH, GOT値は遮断に関係なくほとんど変化しなかった.
    このことより,血行遮断ではL/P比が最も早期かつ敏感に下肢阻血状態に反応した.
  • 呼吸器感染症を中心に
    大和田 進, 宮本 幸男, 竹下 正昭, 内田 治, 泉雄 勝, 池谷 俊郎
    1989 年 50 巻 3 号 p. 474-481
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    呼吸器感染症を中心に食道癌術後の呼吸不全について検討した.対象は一期的開胸開腹切除再建された食道癌50例で,これらを術後第7病日以内の呼吸器感染の有無で非感染群,感染生存群,感染死亡群に分けて肺酸素化能,肺循環静水圧,生体反応について検討した.感染群では肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2,呼吸係数(RI)の正常値への復帰が遷延した.感染死亡群ではA-aDO2, RIが術後第2病日以降上昇し高値のまま推移した.感染群のシャント率(Qs/Qt)は高い値を示し,回復も遅延する傾向であった.感染死亡群の肺細小血管圧と血漿膠質浸透圧の差(Pmv-COP)も48時間以降負の値が小さくなり,肺静水圧系の上昇がみられた.感染死亡群では術後第1病日より白血球増加がなくそのまま低下した.以上より食道癌術後呼吸不全は術後第3,4病日までは機械的呼吸不全状態にあり,呼吸器感染はさらに反応性に呼吸不全を増悪遷延化させていた.
  • 安積 靖友, 裏川 公章, 長畑 洋司, 武田 浩一郎, 佐埜 勇, 伊藤 あつ子, 橋本 可成, 守友 仁志, 市原 隆夫, 中本 光春, ...
    1989 年 50 巻 3 号 p. 482-488
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    最近10年間に神戸大学第1外科に入院した消化性潰瘍を対象として1978~1982年を前期,1983~1987年を後期の2期に分けて,潰瘍手術の推移について検討した.前期に比べ後期では入院数,手術数とも半減した.疾患別では十二指腸潰瘍が,適応別では難治の減少が著しく,緊急手術率は前期37.3%から後期28.6%となった.難治による手術数は後期69.2%減となったが,切除標本をみると巨大潰瘍,線状潰瘍,U1 IVの占める割合はむしろ増加した.狭窄は前期7例から後期3例へと減少した.出血性潰瘍は保存的治療率,待期手術率が増加し,緊急手術率が前期65.2%から後期33.3%へと減少したが,緊急手術死亡率は前期26.7%から後期40.0%と上昇した.穿孔性潰瘍は前期7例から後期1例,死亡は前期3例,後期1例の計4例であった.潰瘍歴のない高齢者,穿孔から手術までに12時間以上経過した例での死亡率が高かった.
  • 孝冨士 喜久生, 橋本 謙, 梅津 徹, 田中 裕穂, 梅谷 博史, 藤政 浩志, 平木 幹久, 岩井 壽生, 武田 仁良, 掛川 暉夫
    1989 年 50 巻 3 号 p. 489-492
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    集検により発見された早期胃癌症例の特徴を知る目的で,過去22年間に切除した初発の単発早期胃癌541例を集検群(n=86),非集検群(n=455)に分けて検討した.
    (1)両群ともM領域,小弯側に多くみられ,肉眼型では陥凹型,組織型では分化型が多かった.(2)集検群の方が前壁の頻度が低く,後壁の頻度が高かった.(3)腫瘍長径は,両群とも1.1~2.0cmの長さのものが多くを占めた.集検群では,微小胃癌症例はみられなかったが,逆に5cm以上の症例は少数であった.(4)集検群は,sm癌よりもm癌の頻度が高く,脈管侵襲率,リンパ節転移率が低かった.
    以上,集検は,スクリーニングを目的としていることもあって微小胃癌の発見に十分な効果を期待できない反面,愁訴のない時点で発見することにより,腫瘍長径5cm以下の脈管侵襲,リンパ節転移を伴わない早期胃癌症例を多数集積できる利点がみられ,今後一層の普及が望まれる.
  • 小川 健治, 小川 智子, 矢川 裕一, 勝部 隆男, 稲葉 俊三, 石川 信也, 大谷 洋一, 菊池 友允, 芳賀 駿介, 梶原 哲郎
    1989 年 50 巻 3 号 p. 493-499
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    早期胃癌のうち,粘膜内癌(m癌)を対象に,溶連菌製剤OK-432を術後の補助免疫療法として経口(11症例)および皮内(14症例)投与し,次のような結論をえた.
    1) OK-432の経口投与は,皮内投与に遜色なくPPD, Su-PS, Su-PRなどの皮膚反応を増強させる.
    2) OK-432の経口投与は,皮内投与以上に末梢血のリンパ球数およびOKT-3陽性細胞数を増加させる.
    3) OK-432の経口投与は,皮内投与以上に末梢血リンパ球のPHA幼若化反応を増強させる.
    4) OK-432の経口投与に副作用はみられなかった.
    以上より,OK-432の経口投与は全身の細胞性免疫能を容易かつ安全に賦活させ,皮内投与に劣らぬ治療効果を期待できる投与法であると考えられる.
  • 中崎 隆行, 橋本 芳徳, 伊福 真澄, 窪田 芙佐雄, 南 寛行, 高田 俊夫, 川渕 孝明, 澤井 照光
    1989 年 50 巻 3 号 p. 500-505
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    1972年4月から1987年12月まで当院で経験した胃悪性リンパ腫18例につき,臨床病理学的に検討した.同期間の胃悪性腫瘍手術総数は1,192例で,悪性リンパ腫は18例(1.5%)であった.平均年齢は59.7歳で男女比は1:1であった.術前診断は困難で術前に胃悪性リンパ腫の診断を得たのは38.9%にすぎなかった.
    肉眼型では決潰型,表層型が多く,組織型は全例diffuse lymphomaであり,large cell typeが最も多くみられた.
    stage I, n(-)症例の予後は比較的良好であるが,sm症例でもリンパ節転移率が高く,より積極的な手術,化学療法が必要とおもわれる.
  • 岩瀬 和裕, 宮田 正彦, 中尾 量保, 伊豆蔵 正明, 坂本 嗣郎, 中村 正廣, 中場 寛行, 小川 法次, 弓場 健義, 北川 透, ...
    1989 年 50 巻 3 号 p. 506-510
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    慢性期の膵嚢胞手術症例14例について,手術成績ならびに手術前後の耐糖能の変化を検討した.外瘻術を施行した3例のうち,2例は術後も疼痛が残存したのに対し,膵切除術により嚢胞を完全に摘除した11例は疼痛の完全な消失をみた.膵尾側切除症例8例は,全例術後にインスリン投与を必要としなかった.このうち,術前後に経口糖負荷試験を施行し得た5例は,術後に耐糖能低下は認められなかった.膵嚢胞に対しては,嚢胞の積極的切除が望ましいと考えられた.
  • 大林 弘幸, 江上 哲弘, 宮内 好正, 川口 英敏
    1989 年 50 巻 3 号 p. 511-515
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    アミロイド甲状腺腫の1例を経験した.症例は55歳の男性.甲状腺はびまん性に腫大し,弾性硬,表面不平で,所属リンパ節の腫大はなかった.甲状腺機能はTSH, T4は正常でT3は正常下限であった.CTでは甲状腺は両葉とも腫大し,表面不平,内部はheterogenousに描出され,201Tlシンチグラムでは,全体的にとり込みが認められた.甲状腺全摘除術を行い,組織診断はアミロイド甲状腺腫であった.術後に施行した胃,直腸,肝の生検でアミロイドの沈着を認め,既往の腎結核による続発性アミロイドーシスに伴う甲状腺腫と考えられた.アミロイドーシスで甲状腺はアミロイドの沈着しやすい臓器であるが,アミロイド甲状腺腫の報告例は比較的少なく,その画像診断に関する報告例はほとんど見られないので報告した.
  • 片岡 正文, 小長 英二, 岩藤 浩典, 佐々木 明, 竹内 仁司, 村山 正毅
    1989 年 50 巻 3 号 p. 516-519
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    乳腺サルコイド病変は,Scottにより初めて報告されて以来21例の報告があるのみで,非常に稀な疾患とされている.症例は18歳の女性で,徐々に増大する圧痛のある乳腺腫瘤を主訴に来院した.生検標本の組織学的検索で,乳腺サルコイドーシスと診断し乳腺摘出術を施行した.切除標本の組織学的検索においても生検標本と同様の所見であったが,好中球の浸潤をめぐり異論もあった.しかし最終的には乳腺サルコイドーシスと診断された.本邦においても現在までに2例の報告があるのみで稀な疾患であるので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 建部 祥, 三科 武, 松田 由紀夫, 大泉 弘幸, 石原 良, 斉藤 博, 鈴木 伸男
    1989 年 50 巻 3 号 p. 520-524
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    穿刺吸引細胞診にて術前に乳腺扁平上皮癌と診断された1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
    症例は64歳の女性,穿刺吸引細胞診にて左乳腺扁平上皮癌と診断され,左定型的乳房切断術が施行された.組織学的には角化を伴う扁平上皮癌で腺腔形成は認められなかったが,PAS染色,Alcian-Blue染色陽性で,粘液と考えられる微細な物質を認めた.また電顕では一部にintracytoplasmic luminaを認めた.これらは乳腺扁平上皮癌の発生,由来を考慮するうえで興味深い所見であり,本症例は腺癌の扁平上皮化生によって発生したpure squamous cell carcinomaに近似の症例であることが示唆された.
    SCC抗原値は術前2.3ng/mlと若干の上昇を示したが,術後は経過とともに低下した.乳腺扁平上皮癌においてもSCC抗原値が,経過観察のマーカーとして有用であると考えられた.
  • 草深 竹志, 宗田 滋夫, 竹中 博昭, 伊藤 章, 森 匡, 横井 浩
    1989 年 50 巻 3 号 p. 525-530
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    過去10年間の乳癌手術症例196例のうち,2例の男子乳癌を経験した.年齢は52歳および51歳であり,乳頭部腫瘤を主訴として来院した.いずれも超音波検査にて悪性所見を認め針生検にて乳癌と診断した.術後診断はt1n0M0 stage Iであり,1例には非定型的乳房切断術,他方には定型的乳房切断術を施行した.術後7年10ヵ月,9ヵ月を経過したが再発徴候は認めていない.
    男子乳癌は従来予後不良の癌と言われてきたが,近年診断,治療の進歩から種々の知見が報告されている.最近の報告症例の進行度と治療法を含め文献的考察を行った.男子乳癌に関しても女子と同程度の比較的良好な予後も報告されており,早期のもので明らかである.また,Stage I N0症例では非定型的乳房切断術も考慮され得ると考えられた.
  • 小林 弘信, 草島 義徳, 森 和弘, 中村 隆, 嶋 裕一, 小西 一朗, 広野 禎介, 中村 裕行, 水上 陽真, 高柳 尹立, 八木 ...
    1989 年 50 巻 3 号 p. 531-536
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    最近注目されている人獣共通感染症(Zoonoses)の1つである肺イヌ糸状虫症を経験した.
    患者は70歳女性で,高血圧症の経過観察中に胸部レ線写真上,左上肺野に銭型陰影(coin lesion)を指摘されたものである.肺癌の疑いにて肺部分切除術を施行し,切除標本の病理組織学的所見及び血清免疫学的検索(寒天ゲル内沈降反応,酵素抗体法,混合受身凝集法)にて本疾患と診断した.本症は,極めて稀な疾患であるが,肺野末梢に銭型陰影を呈することから,肺癌その他の呼吸器疾患との鑑別が問題となる.そこで,本邦報告42例を集計し,その臨床所見の特徴及び治療方針を中心に考察を加えた.
  • 小山 隆司, 松森 正之, 服部 哲也, 渡部 宜久, 良原 久雄, 中村 和夫, 前田 盛, 杉山 武敏
    1989 年 50 巻 3 号 p. 537-542
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    食道裂孔ヘルニアで見られる食道病変は,随伴する逆流性食道炎による変化が主体を成していて,下部食道に潰瘍や狭窄などを生じ,癌との鑑別が問題となる症例がある.さらに食道上皮は炎症によっても高度の異型を伴うことがあり,このような場合には一層診断は困難になる.最近このような症例を3例経験したので報告する.治療は1例に胸部食道切除術を行ったが,切除標本には高度異型上皮を認めたのみで癌細胞は証明されなかった.この経験から残る2例では診断を慎重に行い悪性であることを否定した後に,保存的に治療し良好な結果を得た.したがって本症においては診断に当たって慎重な態度が必要であるが,治療方針としては,慢性炎症の存在は癌発生の危険因子であることから,同部からの癌化という問題を常に念頭におき外科的内科的に危険因子の除去を計り,さらに長期にわたる経過観察が必要であると考える.
  • 吉田 純司, 小西 敏郎, 平石 守, 平田 泰, 三山 健司, 真船 健一, 出月 康夫, 星原 芳雄, 山本 敬
    1989 年 50 巻 3 号 p. 543-548
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は40歳男性.1ヵ月来の食思不振,心窩部痛,体重減少を主訴として来院.胃X線検査で幽門部を中心とした潰瘍性病変,及び壁の不整と硬化像が見られ,胃内視鏡検査で体下部から幽門に及ぶ不整形の潰瘍と粘膜の顆粒状変化を認め,Borrmann 4型胃癌を疑った.しかし生検組織には悪性所見が認められず,血清梅毒反応が強陽性であり2ヵ月ほど前に梅毒感染の機会があったことも判明したため,胃梅毒を疑い診断的治療の目的でAMPCによる駆梅療法を行ったところ2週間程で食欲が回復し,X線検査,内視鏡検査所見も1ヵ月後には著明な改善を示した.内視鏡による生検組織からTreponema pallidumを証明することはできなかったが,診断的治療が奏効したことから胃梅毒と診断した.
    併せて本邦における過去10年間の胃梅毒症例報告の検討を行った.
  • 星野 光典, 廣本 雅之, 高橋 正人, 日下部 輝夫
    1989 年 50 巻 3 号 p. 549-554
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    最近,double pylorusの1例を経験したので文献的考察と併せて報告する.
    症例は39歳女性で,1986年6月頃より食後に心窩部痛,背部痛が出現し,次第に増悪したため,8月5日当院来院.胃内視鏡検査にて,double pylorusを疑い,保存的治療開始し経過観察するも症状改善せず,かえって増悪したため,1987年1月精査,手術目的にて入院した.入院後,上部消化管内視鏡検査にてERCP用カニューレを瘻孔より挿入,色素を注入したところ正常幽門よりの逆流を確認,double pylorusと診断し,1月16日,広範囲胃切除術,Billroth I法にて再建した.
  • 足立 俊之, 中尾 照逸, 西山 眞一, 佐伯 裕司, 松岡 研
    1989 年 50 巻 3 号 p. 555-560
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    残胃吻合部近傍に発生するポリープ状隆起はGastritis cystica polyposa (GCP)又は,Stomal polypoid hypertrophic gastritis (SPHG)と呼ばれる特異的な病変である.今回,Stomal polypoid hypertrophic gastritis (SPHG)の近傍に発生した残胃I型早期癌の1例を経験したので報告する.症例は52歳女性,12年前に胃潰瘍にて胃部分切除術並びに胃空腸吻合術(Billroth II法)を受けた.昭和54年7月当院人間ドックにて残胃吻合部に隆起性病変を指摘されfollow upしていた所,昭和62年6月の生検でgroup IVと診断されたため内視鏡的polypectomyを施行されpapillary adenocarcinomaと診断され残胃亜全摘術(P0H0N0S0 stage I)を施行した.摘出標本では残胃吻合部は全周にイモムシ状の隆起を示し3つのpolypがこの隆起の上に形成されていた.組織学的検索にて1つのpolypより腺窩上皮の過形成,偽幽門腺の嚢胞化,粘膜筋板の挙上よりなるSPHGの所見が認められ,他の1つのpolypよりpapillary adenocarcinomaが認められるも粘膜内に滞まっていた.
  • 平塚 卓, 中迫 利明, 新井 稔明, 林 俊之, 平山 芳文, 槽谷 忍, 御子柴 幸男, 藤野 信之, 鈴木 義之
    1989 年 50 巻 3 号 p. 561-567
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    十二指腸平滑筋肉腫は比較的まれな疾患である.最近,術前に診断しえた1例を経験したので報告する.症例は55歳男性,心窩部痛を主訴に来院.胃内視鏡検査で十二指腸下行部に潰瘍を認め,生検にて平滑筋肉腫と診断された.膵頭十二指腸切除術を施行.5.4×5.5×5.6cmの混合型発育を示す腫瘍で,膵被膜への一部浸潤を認めた.
    自験例を含む本邦報告例204例を文献上集計し,検討した.術式は膵頭十二指腸切除術と十二指腸部分切除術が主で,予後不良である.本疾患は診断技術の進歩に伴い,最近約5年間で100例と急増しており,今後更に早期診断と積極的な治療(膵頭十二指腸切除術)が,予後の向上に必要であると考える.
  • 三浦 敏夫, 草野 裕幸, 中尾 治彦, 川口 昭男, 清水 輝久, 福田 豊, 中越 享, 平野 達雄, 下山 孝俊, 足立 晃, 太田 ...
    1989 年 50 巻 3 号 p. 568-576
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    重症ダンピング症候群5例に対して症状改善を目的として再手術を行った.症例は男性2例,女性3例で,胃切除時年齢は25~50歳,原疾患は胃潰瘍4例と胃癌1例である.初回術式は幽門側胃切除4例,幽門側亜全摘1例で,胃潰瘍の4例はPolya型吻合,胃癌の1例はBillroth I型吻合で再建されていた.ダンピング症状は1例を除き胃切除術後3週~1ヵ月で発症し,就労障害と栄養障害による体重減少をみた.病悩期間は3~27年で,術前のX線造影,胃シンチグラムではいずれも胃内容の著明な排出促進がみられた.再手術は残胃十二指腸間に5~9cmの空腸を逆蠕動性に間置し,残胃に対して迷走神経切離術を付加した.1例は再手術を要したが,いずれも症状の改善を認め,画像診断でも胃内容排出時間の短縮をみた.
  • シートベルト外傷の6例
    佐藤 裕, 佐藤 清治, 広橋 喜美, 伊山 明宏, 原岡 誠司, 溝口 哲郎, 片野 光男, 樋高 克彦, 原田 貞美, 藤原 博, 山本 ...
    1989 年 50 巻 3 号 p. 577-584
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    1985年5月から1987年12月までの3年7ヵ月の間に,6名のシートベルトに起因する鈍的腸管・腸間膜損傷を経験したので報告する.
    症例は男性5名,女性1名の計6名で,平均年齢は51.7歳であった.このうち,盲腸破裂と多発小腸穿孔をきたし,すでにshock状態におちいっていたために,回盲部切除を余儀なくされた女性を術後敗血症で失なった以外は全例軽快退院した.また大腸に損傷のあった5例中,遊離穿孔に至っていたのは2例のみで,あとの3例は腸間膜損傷をともなった腸管壁の漿膜筋層断裂にとどまっており,腸管切除をせずに吸収糸にて縫縮,修復するのみで良好な結果を得た.
    診断面においては,腹部CT検査が腹腔内遊離ガスと液体貯留をあわせて同定でき,しかもその性状にも言及できる利点があり非常に有用であった.
    交通事故の増加とシートベルト着用の義務化にともない,今後シートベルトによる鈍的な腸管・腸間膜損傷が増加するものと考えられる.シートベルトを着用した交通外傷患者の診療に際しては,常にこのことを念頭おくべきことを強調したい.
  • 近藤 公一, 布村 正夫, 更科 広実, 斉藤 典男, 新井 竜夫, 谷山 新次, 横山 正之, 井原 真都, 井上 育夫, 中山 肇, 古 ...
    1989 年 50 巻 3 号 p. 585-590
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    術前照射併用療法と,肛門括約筋温存術式にて,治癒切除できた1症例を経験したので報告する.
    症例は23歳,女性.肛門縁より4cmの半周性,II型の直腸癌.42.6Gyの術前照射を行い,貫通術式施行.手術所見はA1N2(+)P0H0でAW 1.5cm.病理組織学的所見は中分化型腺癌,a1, ly2, v2, n0, aw(-), ew(-)であった.
    照射効果は,注腸X線上で26%,直腸内超音波検査による体積計算で33%の縮小率を示し,組織学的には腫瘍の1/2程度の癌胞巣の変性,壊死像を認めた.
    また,照射前10.22ng/mlと高値だったCEA値は,照射後半減し,術後は正常値に復しており,術後21ヵ月間上昇を認めていない.
  • 西森 武雄, 坂崎 庄平, 坂口 茂, 朴 利敦, 田中 肇
    1989 年 50 巻 3 号 p. 591-597
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    最近,われわれは膵腺扁平上皮癌の1手術例を経験したので,本邦報告例を集計し若干の文献的考察を加えて報告する.症例は63歳,男性.黄疸のため入院した.膵頭部癌の疑いで膵頭十二指腸切除術を施行した.術後の組織学的検査にて膵腺扁平上皮癌と診断された.膵腺扁平上皮癌はまれな疾患であり,本邦報告例は1973年から1987年の15年間に自験例を含め27例に過ぎない.年齢は39歳~75歳(平均58.7歳),男女比は2.4:1で,血管造影にて27.3%に腫瘍濃染像が認められている.本症の予後は悪く,早期発見が重要であると思われる.
  • 李 典利, 酒井 克治, 臼井 典彦, 裴 光男, 山崎 修, 木村 英二, 李 光春, 平尾 智, 小林 庸次
    1989 年 50 巻 3 号 p. 598-604
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    比較的稀な疾患といわれる脾動脈瘤破裂例を術前に血管造影法で診断し,手術的に救命し得たので報告すると共に,本邦における脾動脈瘤破裂報告例を集計した.
    症例は60歳,女性.突然の心窩部痛,嘔気を主訴に来院した.腹部所見上,左上腹部に小児手拳大の表面平滑,弾性硬の腫瘤を触知した.入院翌日の一般検血で強度の貧血を認めたため,CTおよび腹部血管造影を行ったところ,脾動脈根部に6.0×4.5cmの脾動脈瘤を認め,緊急手術を行った.手術は,脾臓摘出術後,動脈瘤が腹腔動脈根部に接していたので,腹部大動脈を遮断し,動脈瘤を切開してその内腔側よりarteriorraphyを行った.経過は良好で,術後第24病日に軽快退院した.
    われわれの集計し得た限りにおいて,本邦における脾動脈瘤破裂例は本症例が31例目であった.血管造影等の診断手技の向上と共に今後更に増加する疾患であると考えられる.
  • 河内 秀幸, 清水 正啓, 前田 知行, 鈴木 博雄, 山田 貢一, 鄭 正勝, 山田 明, 澤 美彦, 下野 道広, 大川原 康夫
    1989 年 50 巻 3 号 p. 605-610
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    成人の副腎の交感神経系腫瘍は比較的まれである.神経芽細胞腫の15歳以上の成人例は本邦でも約100例の報告があるのみで,副腎の神経節神経腫の本邦報告例も約20例にすぎない.今回,36歳の男性で左副腎の花冠形成型の神経芽細胞腫と,44歳の男性で右副腎の神経節神経腫の2例を経験したので報告した.
  • 佐々木 文章, 秦 温信, 佐藤 直樹, 亀田 博, 佐治 裕, 内野 純一, 森田 穣
    1989 年 50 巻 3 号 p. 611-615
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    褐色細胞腫は,多くは高血圧があることで発見される.また本症の経過中にきわめて多彩な症状がみとめられることもある.悪心,嘔吐,腹痛,便秘などの腹部症状が知られているが,さらに重篤な腸閉塞,腸管壊死,消化管出血などの合併症を伴うこともある.当科で経験した72歳女性の褐色細胞腫の治療中に発生した麻痺性腸閉塞症の1治験例について報告する.血中と尿中のカテコールアミン濃度が高く,またCTで右副腎より発生するhypodensity massがみられ褐色細胞腫が疑われた.褐色細胞腫より産生される過剰のカテコールアミンが腸管の血管の収縮を来し,その結果腸管の出血性壊死が発生すると考えられている.また同様の合併症を伴った本邦例6例を集計し考察を加えた.本合併症を伴う褐色細胞腫は全てが悪性例であり,広範な転移を伴っていた.
  • 澤井 照光, 伊福 真澄, 窪田 芙佐雄, 橋本 芳徳, 南 寛行, 高田 俊夫, 川渕 孝明, 中崎 隆行, 杉山 英一郎, 池田 高良
    1989 年 50 巻 3 号 p. 616-620
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    後腹膜腫瘍の中でも稀なparagangliomaの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は64歳男性で,陳旧性心筋梗塞の経過観察中下肢異常感覚,腹部膨満感を主訴に精査を受け,後腹膜腫瘍と診断された.開腹手術を行ったところ,腫瘤は被膜に被われ,5.5×5.5×4.5cm,重さ74gで,病理組織学的にはparagangliomaの像を呈していた.
  • 津留 昭雄, 城谷 徹郎, 西田 博之, 木下 寿彦, 久田 宏, 才津 秀樹, 横溝 清司, 矢野 真, 中山 和道, 大石 喜六
    1989 年 50 巻 3 号 p. 621-626
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2010/03/08
    ジャーナル フリー
    Castleman病は比較的稀な疾患であり,その中でも腹部領域に於ける発生は非常に稀である.最近本症の1例を経験したので報告する.
    症例は56歳男性で,腹部エコーで腫瘤像を指摘され来院する.手術にて膵頭部,頭背側の腫瘤を摘出し,病理組織検査でCastleman病と診断された.
    1958年稲田の報告以来,著者等は現在までに112例を集計し得たので,文献的考察を加え報告する.
  • 林 載鳳, 金広 啓一, 末田 泰二郎, 浜中 喜晴, 石原 浩
    1989 年 50 巻 3 号 p. 627-630
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    血管鉗子に起因する血行障害の報告は極めて少ない.著者らは血行再建術に際し使用したブルドック鉗子が原因と考えられる動脈狭窄の1例を経験したので報告する.
    症例は70歳の女性で,右下肢痛を訴えて来院.諸検査にて閉塞性動脈硬化症による浅大腿動脈完全閉塞と診断し,大腿膝窩動脈バイパス術を施行した.術後の造影にてグラフト吻合直下,即ちブルドック鉗子をかけたと思われる部に狭窄を認めた.血管内視鏡による基礎的観察所見と考え合わせ,血管鉗子に起因する狭窄と診断した.その治療に当り,人工血管切開部からバルーンを挿入してアンギオプラスティーを行い良好な結果が得られた.血管鉗子といえどもその使用に当っては細心の注意が必要と考えられた.また人工血管からの血管内視鏡及びバルーンアンギオプラスティーは,吻合部狭窄に対しても応用可能な診断及び治療手技であると考えられる.
  • その診断と術中処置について
    岩崎 武, 葛西 猛, 肥後 孝, 広沢 邦浩, 小林 国男
    1989 年 50 巻 3 号 p. 631-638
    発行日: 1989/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    刺杭創は刺創の要素に加えて鈍的外傷の要素をも持つ,穿通性挫創とも言うべき特異な開放性損傷である.従ってその治療においてはその特異性を配慮した処置が要求される.そこで過去7年間に当救命救急センターで経験した9例の臨床経過をもとに,その診断および治療上の要点,特に術中処置につき検討した.その結果,自験例においては術前,大量出血によりショック状態に陥っている症例はなく,全例循環動態が安定していたことが特徴として挙げられ,また刺入物体の貫通経路の診断において造影CTの有用性が期待された.治療では術中処置の原則として,1) 損傷部位,臓器の有無,大血管との関連性の有無を確認すること,2) 大血管をコントロールした上で直視下に異物を抜去すること,3) 損傷部位,臓器に対し適切な術式を選択すること,4) 貫通路を可及的に開放し十分なデプリードマンと止血,ドレナージを行うことにより良好な予後が得られるものと考えられた.
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