日本臨床外科医学会雑誌
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45 巻, 6 号
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  • 多変量解析による考察
    佐々木 忠
    1984 年 45 巻 6 号 p. 665-674
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    高齢者の開胸および肺切除術後における肺循環動態を検討するにあたり, Swan-GanzCatheterを用いて循環諸量を経時的に測定し, 65歳以上の高齢者群(A群)と55歳以下の非高齢者群(B群)を比較検討し,多変量解析のうちの主成分分析法にてデータ解析を行い次の結果を得た.
    1) A群, B群ともにPAMP, PAWPは術後1時間から3時間目に高い値になり,その後は次第に下降し,ほぼ24時間目には術前値にもどる. CIは術前・術後では変化が少ない. A群はB群よりも高値をとる.
    2) 多変量解析の一手法の主成分分析から,術前の第一主成分はPAMP, PAR, TPRで第二主成分はWR, PAR, CIであり,術後ではそれぞれPAMP, TPR, WRとPAWP, CI, PARとなり,しかるに第一主成分は肺機能成分軸,第二主成分は心機能成分軸と考える.
    3) 因子負荷量の関連性から見るとPAWPとCIは独立しており, PAMP, WR, PAR, TPRはお互いに似ている関係にあり,これらがバランスよく保って術後の肺循環が行われている.
    4) A群とB群に分け,術後の変動を見る為個人得点(サンプルスコア)を取り集中楕円を作製した. A群B群ともに右方へ移動した後24時間後には術前値にほぼ回復した. A群はB群より回復時間が遅く,心機能成分軸の変動が大きかった.
    5) 集中楕円外にあった症例は術後合併症があるか,手術侵襲の大きいものであった.
  • 石橋 修
    1984 年 45 巻 6 号 p. 675-688
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳幼児の重症肺高血圧症を伴った心室中隔欠損症例に心筋保護液を使用し欠損孔を閉鎖してきたので,心筋保護液が心筋等に及ぼす影響にについて観察し,その使用安全性について検討し報告する.手術症例は7カ月~3歳,体重6.1kg~12kg,平均9.3±2.0 (±SD)kgの13例である.手術は大動脈遮断後Young液,心筋保護液にて冠灌流し,心表面局所冷却を併用し,無血野,心停止下に根治術を施行した.心筋保護液および局所冷却液は可能な限り体外に吸引排除した.術前および術後4週までのヘマトクリット値,電解質,心筋逸脱酵素, BUNをそれぞれ経時的に測定し心筋保護液非使用群として参考までに心房中隔二次孔欠損症の14例の結果と比較検討した.術直後のヘマトクリット値は両群共に低値を示すが,心筋保護液使用群はさらに低値を示すことから術中に排除できなかった心筋保護液および冷却液の人工心肺回路内混入が考慮された.血小板,電解質の変動は両群共に大差がなく,心筋保護液使用の影響は認められなかった.術後早期のGOT, LDH, CPKは共に高値を示すが,体外循環時間が98±18分と長いこと,肥大心の切開による因子等が影響していると思われた.心筋障害に特異的かつ鋭敏に反応するCPK-MBも若干高値を示したが, 48時間以内に正常に復し,遷延例もないことから右室切開の因子を考慮に入れた場合,許容の範囲内にあると判断された. GPT, BUNの変動は正常範囲内にあった.大動脈遮断解除後の心蘇生状態は, 10例が自然に洞調律に復したが3例に刺激伝導障害が現われた.うち2例は一過性で後に完全に回復した. 1例のみ回復不完全で洞調律と房室ブロックが混在している.術後平均14カ月(範囲1~38カ月)の経過観察より全例生存しており経過良好である.高濃度カリウムを含むYoung液,心節保護液,心表面局所冷却併用法は,乳幼児症例の開心術にも安全に使用可能であり,多少の人工心肺回路内混入には問題が認められず,有用な開心術補助手段であることが示唆された.
  • 平良 朝秀
    1984 年 45 巻 6 号 p. 689-705
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    著者は胃癌患者(125例)の未治療時の免疫能の動態を知る目的で各種非特異的免疫学的パラメータを測定し,良性疾患患者(38例)の免疫能と比較して次の結果を得た. 1) 胃癌患者と良性疾患患者の平均値と異常値出現率を比較すると胃癌患者の免疫能は明らかに低下しており,特に細胞性免疫能の低下が目立った. 2) 細胞性免疫パラメータ間の相関々係をみると末梢血リンパ球数とPPD皮内反応に正の相関,末梢血PHA幼若化反応とIgG・Fc receptor陽性T細胞に負の相関々係が認められた. 3) Stage別にみるとStage I, II, IIIの間で統計学的に有意差を認めるパラメータはほとんどないが, Stage IVとその他のStageとの間で有意差を認めるパラメータは,主として末梢血リンパ球数, IgG・Fc receptor陽性T細胞,末梢血PHA幼若化反応であった. 4) その他の胃癌背景因子別にみても,癌がより進展した病期に変動するパラメータは,主として上記の3者のパラメータであった. 5) さらに胃癌背景因子と各種パラメータの関係をScore化してみても, Scoreの高い,すなわち信頼度の高いパラメータは上記の3者のパラメータであった.
    以上より,胃癌患者の未治療時の免疫能の検索には,特にIgG・Fc receptor陽性T細胞,末梢血PHA幼若化反応,末梢血リンパ球数の測定が重要であると考えている.しかしながら生体の個々の内部環境および生体の個々の免疫学的反応態度の違いなどを考慮すると,より多くのパラメータを測定し,総合的に担癌患者の免疫能を判定することが必要であると考える.
  • 芳賀 駿介, 梶原 哲郎, 芳賀 陽子, 松本 紀夫, 飯田 富雄, 今村 洋, 清水 忠夫, 川田 裕一, 矢川 裕一, 榊原 宣
    1984 年 45 巻 6 号 p. 706-710
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    対象は昭和47年4月~58年3月までに東京女子医科大学第二病院外科で施行した乳癌治癒手術症例181例のうち浸潤癌通常型155例である.これを各組織型に分けると乳頭腺管癌38例(24.5%),髄様腺管癌77例(49.7%),そして硬癌40例(25.8%)でその比は1:2:1であった.これらを,生存率,リンパ節転移などの面から比較検討した.また再発例にも若干の検討を行った.
    組織型と年齢とには一定の傾向はなく,ただ髄様腺管癌にやや病期の進んだものが多かった.
    組織型と累積生存率では乳頭腺管癌の予後が他2者と比し良好であった.
    次に予後を反映すると思われるリンパ節転移率をみた.それによると乳頭腺管癌のn0は71%と高く,つづいて硬癌62.5%, 髄様腺管癌48.1%であった.また,乳頭腺管癌は他2者と比較してn1β以上のものが少ないのが特徴的であった.
    さらに, t-number別にリンパ節転移率をみた.当然なことながら, t-numberが進むと各組織型ともリンパ節転移が進むが, t1, t2において,乳頭腺管癌のリンパ節転移率が低いのがきわだっていた.特にt1では乳頭腺管癌のn0は92.9%を占め,たとえリンパ節転移があってもn1αまでであり, t2でもn1βまでであった.
    再発率(5年経過例)からも乳頭腺管癌の予後が良好であることがわかった.また, n0再発率でも乳頭腺管癌0%,髄様腺管癌13.3%,そして硬癌15.4%である.髄様腺管癌,硬癌はたとえn0であっても再発の危険が大であり,これらの脈管侵襲は75%と高い陽性率を示した.
    このように浸潤癌通常型であっても各組織型別には大きな差異があり,乳頭腺管癌と他2者は明確な区別が必要と思われた.
  • 井口 公雄, 田中 承男, 山田 貢一, 土屋 邦之, 小林 雅夫, 山岸 久一, 稲葉 征四郎, 岡 隆宏
    1984 年 45 巻 6 号 p. 711-715
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌の治療成績が向上した昨今,術後長期を経て再発をきたす(晩期再発)症例も多く報告されるようになってきた.著者らは, 11年前〔MCA〕 Borrmann V型ssγ, n1, P0, H0, stage II胃癌のため,胃全摘術R2の根治切除をうけた51歳男性で,腹壁に弾性硬の腫瘤が出現し,精査の結果,胃癌の腹壁再発で他に再発巣を認めない,極めて稀な晩期再発例を経験した.腫瘤は剣状突起直上の前回手術創瘢痕内に見られ, sizeは35×41mmで境界不鮮明,弾性硬であった. CTでは,筋肉と同一densityで,浸潤性発育を呈していた. biopsyの結果adenocarcinomaと診断され,諸検査では,肝・腹膜・リンパ節・局所再発の所見はなく,胃癌の腹壁再発と考えられた. CEA, ferritin, IAP等の腫瘍マーカーの変動はみられず, Vit. B12の低下を伴う巨赤芽球性貧血のみ認められた.腹壁腫瘤切除およびSecond look operationを施行したところ,他の再発あるいは,新たな原発巣は認めなかった.原発巣と転移巣の組織所見は非常に酷似しており, Signet-ring cellを有するpoorly differentiated adenocarcinomaであった.
    晩期再発例は,草間らによると再発形式に特徴があり,残胃,肺,リンパ節の順であり,腹壁再発は,いまだ報告をみない,再発経路としては,リンパ行性等,種々の説があるが,不明である.しかし本例の再発経路は,手術時のimplantationの可能性が高いと考えられる.腫瘍増殖については,腫瘍側のみならず宿主側の因子も重要と考えられ,本例のごとく, 11年を経て腫瘤として触知されるに至ったことは, implantされた癌細胞が,しばらくarrestの状態にあり,何らかの機序で増殖優位となったのであろうと推察される.原発巣における間質反応は高く予後良好と考えられる症例であるが,再発時のPPD皮膚反応, PHAリンパ球幼若化能からみた宿主の細胞性免疫能の低下を示唆する所見は得られなかった.
  • 越智 邦明, 石井 慶太, 安藤 昌之, 佐藤 康, 柴田 光一, 真田 勝弘, 寺嶋 肇, 岡本 浩平, 登内 真, 青木 望
    1984 年 45 巻 6 号 p. 716-721
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃カルチノイドは,昭和58年までに161例を数える.
    今回,我々は,同一病巣内の腺癌とカルチノイドの合併例を経験したので報告する.
    症例は58歳,女.主訴:食欲不振,心窩部痛.近医にて胃癌と診断され,当院へ紹介入院す.入院当時,貧血が著明であり, MDL, 内視鏡にて,胃幽門前庭部全周性のBorrmann III型の癌と診断.生検では, pooly differentiated adenocarcinomaであった.
    開腹時,腹水は認めず.肝は両葉に散在性の示指頭大の転移を認めた.胃は前庭部に鶏卵大の腫瘤を認め,漿膜面への浸潤が著明であった. P0 H3 N3 S2 の診断にて,胃切R1を施行.絶対非治癒切除であった.
    切除標本の病理組織学的検討では, m主体の管状腺癌と,これに連続する形でsm主体のカルチノイドが,複難に交錯して病巣を形成している.カルチノイドは曽我の言う混合型に属し,銀反応はGrimelius法, Masson-Fontana法共に陽性であった.転移リンパ節は,全てカルチノイドで占められていた.
    術後1ヵ月, 6ヵ月での尿中5-HIAAは各々14,345mg/day (1.6~6.4)と上昇していた.
    患者は,悪液質のため,術後7ヵ月で死亡した.
    本例は,カルチノイドが高度にリンパ管侵襲,静脈侵襲し,ひいては,リンパ節,肝へも転移し,極めて悪性度が高く,組織学的にも,内分泌細胞癌と,とらえるべきものである.臨床的にも,癌に準じた徹底的な郭清がなされる必要があり,症例によっては,肝切の適応もあると思われる.内分泌細胞癌の組織発生には,腺癌が大きく関与している可能性があるが,本例では,腫瘍が大きく,正確に論ずるのは,困難であった.
  • 岡崎 亮, 戸塚 守夫, 足立 英明, 角 敏博, 早坂 滉, 成松 英明
    1984 年 45 巻 6 号 p. 722-727
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃迷入膵は剖検例の約1~2%に見られ,決して稀な疾患とはいえないが, 3cmを越えるものは少ないとされる.我々は最近,胃体部小弯側に存在し,平皿状の隆起を示した最大径5cmの胃迷入膵の1例を経験したので文献的考察を加えて報告した.
    症例は51歳男子で胃X線検査,内視鏡検査にて胃体部小弯側に約5cmの粘膜下腫瘍を認めたが,肺窩は認められず,胃生検でも粘膜下組織の所見は得られなかった.術中迅速凍結標本にて胃迷入膵と診断されたが,その発生部位,肉眼形態,最大径から胃迷入膵の診断上の問題点を検討した.
  • 橋本 雅夫, 杉本 恵洋, 榎本 光伸, 一宮 源太, 嶋田 浩介, 柿原 美千秋, 佐々木 政一, 竹井 信夫, 川嶋 寛昭, 青木 洋三 ...
    1984 年 45 巻 6 号 p. 728-732
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Dubin-Johnson症候群に胆嚢結石症を合併した症例を経験した.
    患者は64歳男性で,右季肋部痛と眼球結膜,皮膚の黄染を主訴として来院し,テレパークによる胆嚢造影,超音波検査, BSP排泄試験におけるBSP再上昇現象等より, Dubin-Johnson症候群に合併した胆石症と診断され,手術を施行した.肝は黒褐色を呈し, Dubin-Johnson症候群における肝の肉眼的特徴を備えていた.胆嚢摘出術を行ない,同時に肝の試験切片を採取し,閉腹した.摘出した胆嚢内にはコレステリン結石1個とビリルビン結石2個が認められ,また肝の病理組織像では,肝細胞内に褐色のlipochrome様色素顆粒が多数みられた.
    Dubin-Johnson症候群に胆石症を合併した症例は,本邦においては文献上15例と少なかったが,これは本症候群に胆石を合併することが少ないからではなく,むしろ発見されることが少ないからで,胆嚢造影を施行しても通常の方法では陰性を呈することが多いことが,その原因のひとつに考えられた.また本症候群に合併した胆石症を結石の組成からみると,本邦報告例ではコレステロール系結石が多かった.この理由には胆汁へのビリルビン排泄障害をはじめ,いくつかの要因が考えられたが推定の域を出なかった.今後症例を重ねて検討する必要があろう.
  • 特に腹部エコー検査の有用性について
    野間 史仁, 田中 章一, 安武 俊輔, 藤井 康宏, 吉村 康
    1984 年 45 巻 6 号 p. 733-737
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝膿瘍は比較的まれな疾患であり,特異的な症状および典型的な理学的所見もなく,検査所見にも決め手がなかったため早期診断が困難で,死亡率のきわめて高い疾患であった.
    しかし,最近,腹部エコー, CT等の画像診断法の進歩により,早期診断,早期治療が可能となった.
    我々も最近,腹部エコーで多発性膿瘍と診断し,術中エコーを用い深部に存在する膿瘍も見落すことなく,全膿瘍のドレナージを行ない,更に術後,膿瘍腔の修復過程を腹部エコーを用いて観察したので報告する.
    症例は56歳,男性で,約8年前より糖尿病により治療を受けていたが,昭和57年7月より39°Cの悪感を伴なった発熱をきたし, 8月初旬に右側胸部痛が出現し,膿胸と診断され当科を受診した.腹部エコーを行なうと肝右葉下部後面を中心に多数の肝膿瘍を認めた.
    開腹術を行なうと,右葉横隔膜面に鶏卵大の膿瘍を認めた.更に術中エコーを行うと右葉の右側面,肝門部にも同様の膿瘍を認めたので,この部を切開,排膿し,ドレナージを行なった.
    術翌日より,体温は36°Cに低下し,術後24日目以後は,白血球数は10,000以下になり,肝機能も正常となった.
    術後膿瘍腔の修復過程,再発の有無を腹部エコー検査で検討したが, 83日目のエコーでは,ほぼ膿瘍腔は修復されていた.
    肝膿瘍に対する検査として,腹部エコーは非侵襲的で短時間に行なえるため,早期診断に有用であり,また外科的治療を行なう際にも深部に存在する膿瘍を見落すことなく完全にドレナージすることができ有用であった.
    術後の経過観察の際も,腹部エコーを用い治癒過程,再発の有無を追跡することが必要である.
  • 金 義哲, 曹 桂植, 山本 時忠, 中作 修
    1984 年 45 巻 6 号 p. 738-744
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    消化管穿孔は今日でも必ずしも予後良好とは言えない.われわれは当施設で経験した消化管穿孔32例について予後因子を検討したが,特に重要な予後因子は, (イ)年齢, (ロ)穿孔より手術までの時間, (ハ)術前合併症, (ニ)術後合併症であった.すなわち,高齢者では予後不良のものが多かった.穿孔より手術までの時間が遷延するほど予後不良であった.穿孔後早期手術例でも急性肝炎合併例は予後不良で,術前合併症は予後に重大な影響を与えた.さらに術前合併症数の増加に伴い死亡率は上昇した.術後合併症として縫合不全4例,腹腔内遺残膿瘍1例を認めたが,いづれも多臓器不全に至り死亡し,その予後は極めて不良であった.多臓器不全の主因として腹腔内感染巣の存続に由る敗血症が考えられた.多臓器不全では肺不全と腎不全を高率に,しかも早期に認め,特に肺不全でのその傾向が著しかった.なおDIC併発は多臓器不全5例中4例に認めたが,いづれも晩期に発現した.
  • 鴻巣 寛, 山岸 久一, 野中 雅彦, 園山 輝久, 栗岡 英明, 井口 公雄, 山谷 和則, 稲葉 征四郎, 弘中 武, 田中 承男, 岡 ...
    1984 年 45 巻 6 号 p. 745-750
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    クローン病の合併症として穿孔は極めてまれであり,本邦では14例の報告をみるにすぎない.最近,穿孔性腹膜炎のため緊急手術を施行した回腸・結腸型クローン病の確診例を経験したので報告する.症例は24歳,男性で下痢を主訴として来院.サラゾピリン,プレドニソロンの保存的治療にも改善がみられなかったため,手術が予定されたが,術前のプレドニソロン漸減中,突然,腹膜炎症状が出現し,緊急手術となった.穿孔は回腸末端より90cm口側に認められ,回盲部に著明な狭窄を伴っていた.また,潰瘍病変はトライツ靱帯より1m肛門側から上行結腸まで広範囲に存在した.手術は空腸を約70cm残す小腸広範囲切除及び右半結腸切除を施行したが,術後,栄養障害の他,肝膿瘍や肺炎などの重篤な合併症が併発し,長期の集中的管理を必要としたものの,無事退院せしめることができた.
    穿孔の原因として種々の因子が考えられるが,自験例では肛門側の狭窄病変及びステロイド投与の影響が強く疑われた.穿孔例に対する手術方針としては,単閉鎖やバイパスより腸切除が予後良好とされているが,小腸広範囲切除の場合は,栄養管理,感染症対策を含めた綿密な術後管理が必要である.
  • 島貫 公義, 宮田 道夫, 青柳 豊, 笠原 小五郎, 柏井 昭良, 金澤 暁太郎, 荒井 博義, 田中 昌宏
    1984 年 45 巻 6 号 p. 751-756
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は51歳男性で, 42歳時に十二指腸潰瘍にて,胃切除術(結腸後B-II法)を受け,術後7年目に下痢が出現, 8年目より便臭のある呼気出現後に下痢が著明となり,体重減少,下肢の浮腫が認められ,一般検査にて,低蛋白血症,低Ca血症,脂肪吸収障害を認めた.胃腸透視,注腸造影にて胃横行結腸間の内瘻を認め,内視鏡にて胃空腸吻合部に横行結腸に開孔する瘻孔を確認し胃空腸結腸瘻と診断し,術前経静脈栄養を施行し,一期的に減酸効果の不充分な胃に追加切除を加え瘻孔切除を施行し, B-IIで再建した.本邦の45例について統計的検討を行なうに,女性は1例で, B-II法(結腸後)の初回手術に発症が多く,原疾患として,十二指腸潰瘍例が胃潰瘍例に比して若年層で,術後早期に発症する傾向がみられた.
  • 宇都宮 高賢, 並川 和男, 岡部 正人, 由布 雅夫, 高城 克義, 川村 亮機, 有田 哲正, 浜田 勢治, 吉田 一成, 松村 克己
    1984 年 45 巻 6 号 p. 757-761
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肺形成不全(Schneider III型)は稀な疾患であり,本症例は,本邦16例目,報告例中の最高齢者である.癌を合併した最初の報告と思われる. 46歳,女性.幼児期より呼吸困難があったが一子をもうける. S55年より本院内科にて入院精査の結果,左肺形成不全, Schneider III型の診断を得る.外来follow up中, S58年2月に腹痛,腹部膨満にて再入院し,注腸透視によりS状結腸癌を疑い,外科転科.入院時イレウス症状はないが,呼吸困難,低酸素血症(PaO2 40.6, PaCO2 58.1 torr)のためIPPBを行う.しかしPaO2は日毎に低下し,手術前日には27.4 torrとなった.全麻下に, Hartmanの手術(R1)行なう.術後経過は良好で, PaO2の上昇を認め,酸素投与の必要はなく,日常生活に復帰せしめ得た.
  • 八反田 洋一, 朔 元則, 秀島 輝, 鎌田 重之, 家守 光雄, 牛島 賢一, 古森 公浩, 三木 宏
    1984 年 45 巻 6 号 p. 762-766
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃軸捻転症及び成人のBochdalek Herniaは稀な疾患である,今回,我々はBochdalek Herniaによって胃軸捻転症を来たした1例を経験したので報告する.
    症例は21歳男子,上腹部痛,左肩放散痛にて発症した.当院内科に入院し胃透視,注腸, CT scanにて食道裂孔ヘルニアによる胃軸捻転症と診断された.保存的療法にても症状軽快せぬため手術を施行した.手術所見では,左横隔膜外側後方に8.5×4.Ocmの無嚢性欠損を認め,これより胃,空腸,横行結腸が左胸腔内へ嵌入しておりBochdalek Herniaによる胃軸捻転症(短軸性)と診断された.
    胃軸捻転症の病因の中でBochdalek Herniaによるものは極めて稀である.文献的に調ぺ得た成人のBochdalek Herniaは50例で,そのうち胃軸捻転症を合併したものは3例あり, 3例とも本例とは異なり長軸性であった.治療法については,本例の如く横隔膜ヘルニアに原因があるものでは,嵌頓の危険率が高く,さらに軸捻転による血流障害も加わりうるので開腹手術を積極的に行なうぺきと考えられている.実際,報告例のうち4例は腸管壊死または穿孔を起こし, 7例は腸管の嵌頓を起こしている.
    我々の症例は幸いに嵌頓も起こさず,脱出腹腔内臓器の癒着もなく,経腹的アプローチで容易に還納整復することが出来,術後経過も順調であった.
  • 家守 光雄, 朔 元則, 牛島 賢一, 古山 正人, 鎌田 重之, 池尻 泰二
    1984 年 45 巻 6 号 p. 767-771
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近閉鎖孔ヘルニアの2症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
    症例1: 81歳,女性.イレウス症状を主訴として来院.体格小でるい瘻著明.分娩歴無し.腹部膨満および左鼡径部自発痛あり.腹部単純X線写真で著明な小腸ガス像, niveau形成を認めたためイレウスとして開腹手術施行,左閉鎖孔に小腸が嵌頓閉塞して生じた閉鎖孔ヘルニアと判明,腸切除,腸吻合を行ない,ヘルニア門は単純結節縫合で閉鎖した.術後閉鎖管内膿瘍の発生をみたが,術後約2ヵ月で全治退院した.
    症例2: 80歳,女性.便秘と腹部膨満感を主訴に入院.体格小で瘻身.分娩歴3回.まず内科的治療を試みたが症状の改善得られず,腹部単純X線写真で小腸ガス像の増強,注腸造影で下部小腸の完全閉塞を認めたためイレウスとして開腹,閉鎖孔ヘルニアの確診を得た.腹腔内での嵌頓腸管の用手的還納は困難だったため,大腿部皮膚切開を追加してヘルニア先進部へ達し,腹腔内,外の両側からの操作で嵌頓ヘルニアの整復を行なった.ついでヘルニア嚢を切除し,ヘルニア門は結節縫合で閉鎖した.術後経過は順調で,術後約1カ月で全治退院した.
    閉鎖孔ヘルニアは高齢者に多く,術前診断が困難で,早期に腸管壊死に陥りやすく,しかも救急手術例が多いため,予後は必ずしも良好ではない.本邦報告例における死亡率は22%に達し,早期診断と適切な手術および術後管理が望まれるところである.
  • 宇野 武治, 河原崎 秀雄, 閨谷 洋, 山口 貴司, 宮原 透, 原田 幸雄, 吉村 敬三
    1984 年 45 巻 6 号 p. 772-775
    発行日: 1984/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腰ヘルニアは,下腰部三角部と上腰部三角部の解剖学的抵抗減弱部に発生するまれなヘルニアである.発生原因によって後天的自然発生,外傷性,先天性と3つに分類することができる.最近われわれは外傷性誘因による37歳男性の右Petit's Hemiaの1例を経験した. 5年前に右側腰部を打撲し,右下腰部三角部に上行結腸をヘルニア内容とする45×20mmのヘルニア門を認めた.大臀筋筋膜のflapをもって被覆するDowd法により根治し得た.腰ヘルニアは欧米では約270例,本邦では7例の報告例をみるにすぎない.その2/3は男性に発生し,発病年齢は0歳から80歳までの全年齢層に認められる.下腰部三角部と上腰部三角部とのヘルニア発生頻度に有意差はなく,発生原因の半数が後天的自然発生例で,荷重,咳嗽,腹圧等が誘因をなしている.臨床症状は,主として腫瘤の触知であり,嵌頓をおこした場合,イレウス症状が認められる.治療は,手術を原則とし,ヘルニア門の大きさによって種々の術式が施行されている.
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