肝膿瘍は比較的まれな疾患であり,特異的な症状および典型的な理学的所見もなく,検査所見にも決め手がなかったため早期診断が困難で,死亡率のきわめて高い疾患であった.
しかし,最近,腹部エコー, CT等の画像診断法の進歩により,早期診断,早期治療が可能となった.
我々も最近,腹部エコーで多発性膿瘍と診断し,術中エコーを用い深部に存在する膿瘍も見落すことなく,全膿瘍のドレナージを行ない,更に術後,膿瘍腔の修復過程を腹部エコーを用いて観察したので報告する.
症例は56歳,男性で,約8年前より糖尿病により治療を受けていたが,昭和57年7月より39°Cの悪感を伴なった発熱をきたし, 8月初旬に右側胸部痛が出現し,膿胸と診断され当科を受診した.腹部エコーを行なうと肝右葉下部後面を中心に多数の肝膿瘍を認めた.
開腹術を行なうと,右葉横隔膜面に鶏卵大の膿瘍を認めた.更に術中エコーを行うと右葉の右側面,肝門部にも同様の膿瘍を認めたので,この部を切開,排膿し,ドレナージを行なった.
術翌日より,体温は36°Cに低下し,術後24日目以後は,白血球数は10,000以下になり,肝機能も正常となった.
術後膿瘍腔の修復過程,再発の有無を腹部エコー検査で検討したが, 83日目のエコーでは,ほぼ膿瘍腔は修復されていた.
肝膿瘍に対する検査として,腹部エコーは非侵襲的で短時間に行なえるため,早期診断に有用であり,また外科的治療を行なう際にも深部に存在する膿瘍を見落すことなく完全にドレナージすることができ有用であった.
術後の経過観察の際も,腹部エコーを用い治癒過程,再発の有無を追跡することが必要である.
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