日本臨床外科医学会雑誌
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46 巻, 12 号
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  • 中山 恒明
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1553-1556
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
  • 進行度と血清値との関係
    志賀 俊行, 川内 章裕, 神谷 憲太郎
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1557-1568
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    良性乳腺疾患14例および乳癌64例を対象として,新しい腫瘍マーカーであるTissue Polypeptide Antigen(以下TPA)の血清値と, CEA値,血清補体値を同時に測定し,以下の結論を得た. 1) 原発症例における陽性率はTPA 40%, CEA 36.4%であり,良性疾患群に比較して明らかに高値を示していた. 2) 血清TPA, CEA, C4値は病期の進行に伴いその陽性率又は,平均値の上昇傾向を認めたが,この傾向はTPAが最も顕著であった(p<0.01~0.05). 3) 血清TPA値は腫瘤径(縦径×横径〓)と有意な相関をみた(P<0.01). 4) リンパ節転移が広汎となると(N2, n2以上)血清TPA値ははじめて高値を示す傾向にあった(p<0.01). 5) 乳癌の組織型と血清TPA値との間に相関はみられなかった. 6) 血清TPA, CEA値の組合わせにより一層の陽性率の上昇が認められた.以上のことから,乳癌患者において血清TPA値は臨床的意義の高い腫瘍マーカーであることが明らかであった.
  • 斉藤 貴生, 膳所 憲二, 桑原 亮彦, 掛谷 和俊, 平尾 悦郎, 多田 出, 若杉 健三, 小林 迪夫
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1569-1575
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道癌患者にみられる栄善障害の要因を明らかにするため,食道癌41症例を対象として栄養評価を施行し,栄養低下と関連のある因子について検討した.栄養評価は標準体重比,三頭筋皮下脂肪,上腕筋囲,クレアチニン・身長指数,血清アルブミン,血清トランスフェリンの6指標により,入院時,術前合併療法(放射線治療および化学療法)後,術後4週, 8週に実施した.対照とした胆石症10例に対しては,術前,術後2週に栄養評価を行なった.
    胆石症患者の入院時における栄養状態は,各指標の平均値でみた場合,いずれも正常値内にあり良好であったが,食道癌患者では,どの指標の平均値とも胆石症のそれより低く,特に体重と筋蛋白貯蔵量は正常値以下であり,入院時に明らかな栄養低下が認められた.そこで,入院時における食道癌患者の栄養状態と年齢,摂食障害,癌の進行度,細胞性免疫能の各因子との関連を,各指標の平均値ならびに低下例の頻度で比較したところ,摂食障害,癌の進行度の2因子が栄養低下と関連していた.摂食障害のある群では,体重と筋蛋白貯蔵量の正常値以下への低下が,また,癌の最も進行した非切除群では臓器蛋白量の低下が認められた.
    胆石症に対する手術は,患者の栄養状態を軽度低下させたが正常値内での変動にすぎなかった.これに対し,食道癌に対する術前合併療法と手術の施行あるいは手術のみの施行は,体重,筋蛋白貯蔵量,臓器蛋白量を著明に低下させ,明らかな栄養低下をもたらした.以上より,食道癌患者の栄養低下の要因として,手術,放射線治療,化学療法による治療侵襲,摂食障害(飢餓),担癌(癌の進行)の3因子があげられ,特に前二者の比重が大きいことが示された.
  • 仮性嚢胞と嚢胞腺癌の病態と治療を中心に
    下山 孝俊, 原田 達郎, 吉田 彰, 福田 豊, 佐藤 行夫, 川口 昭男, 添田 修, 母里 正敏, 石井 俊世, 三浦 敏夫, 富田 ...
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1576-1582
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    教室において1970年以降に経験した膵嚢胞13例について仮性嚢胞と嚢胞腺癌の病態と外科的治療を中心に検討し,文献的考察を加えた.疾患は仮性嚢胞11例,嚢胞腺癌及び肝蛭による寄生虫性嚢胞が各1例である.仮性嚢胞は72.7%が膵炎に併発し,発生部位は頭部5例,体尾部6例で, 10例が単房性であった.嚢胞腺癌は小児頭大の単房性嚢胞が尾部より発生したものである.臨床症状は嚢胞腺癌が腹部腫瘤触知が主訴で症状に乏しいのに対し,仮性嚢胞は膵炎,外傷等の既往を反映して消化器不定愁訴が92%を占めており,診断上重要視すぺきである.術前診断は尿・血中アミラーゼ上昇等と画像検査による正診率が76.9%であるが,膵頭部仮性嚢胞の1例と嚢胞腺癌例は良・悪性の鑑別ができず,膵嚢胞の質的診断の困難性を示唆した.
    治療は緊急手術2例,待期手術10例で,急性膵炎を合併した仮性嚢胞例は保存的治療中に腹腔内破裂をきたし,手術時期決定の重要性が示唆された.仮性嚢胞の外科的治療は外瘻術3例,内瘻術6例(嚢胞空腸吻合5, 嚢胞胃吻合1), 膵頭十二指腸切除術1例である.嚢胞胃吻合例は術後出血を招来して膵尾部脾合併切除して嚢胞を摘出したが,初回手術時に嚢胞感染が著明であつたことから嚢胞空腸吻合術が得策であつたと考えられた.膵頭十二指腸切除例は術前悪性が否定できなかつた症例で,摘出標本で著明な嚢胞壁の肥厚を認めた.嚢胞腺癌例は術中迅速標本でも仮性嚢胞と診断され嚢胞空腸吻合を施行したが,術後急速に癌性腹膜炎を惹起しており,初回手術時に検索部以外の一部に悪性の部位が存在していたものと推察された.
    膵嚢胞の診断は超音波やCTで比較的容易であるが,質的診断の困難性のため,悪性が否定できない場合には積極的な嚢胞摘出術を行なうぺきであることを強調した.
  • 周波数俯瞰図所見の臨床的検討
    芳野 敏章, 芳野 元, 菅野 久信, 草場 威稜夫
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1583-1592
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腸雑音の周波数ヒストグラムを俯瞰図として表現し,イレウスの病態別に4型に分類した.ちなみに健常成人例では,ピークの位置は340Hz前後,ピークの幅は200~550Hzで, 900Hz以上の高音域音はみられなかった.
    I型およびII型:単純性イレウスにおける金属性音の所見で, 900Hz以上の高音域音が散発ないし群発して認められた.ピークの位置が550Hz未満のものを1型, 550Hz以上に右偏したものをII型とした.
    III型:主に複雑性イレウスで観察された.ピークの位置に右偏性がみられる反面, 900Hz以上の高音域音は消失していた. III型のなかでも,とくに孤立した単峰性の所見は手術適応の指標となる所見のようであった.
    IV型:麻痺性イレウスの所見で,散発的に低いピークが記録されたにすぎなかった.
    以上の分類所見は,イレウスの病態診断あるいは手術適応の診断に有用なように考えられた.
  • とくに臨床症状との関連について
    吉川 厚
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1593-1604
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌手術後の症例に経管栄養を施行し,腸内細菌叢の変動を調べ,臨床症状及び生化学的検査値との関連について検討した.使用栄養剤は成分の異なったElental, Besvion, Hinex-Rの3剤である. Elental群(以下E群), Hinex-R群(以下H群)では経管栄養施行中40%に下痢が発生し, Besvion群(以下B群)では10%であった.栄養剤使用中の腸内細菌叢の変動をみると,嫌気性菌は3群とも術後使用した抗生剤の影響を受けて, 1/100~1/10000にも及ぶ減少を示した. Bifidobacteriumの変動は3群間で差があり, E群, H群では使用中,使用後とも著しく減少しているのに対し, B群ではその減少が少なく,使用後では術前の値に回復していた.これは,栄養剤中の糖質の差に起因するものと考えられ,デキスリンの他にガラクトース,グルコース,乳糖を混じているB群においては,その糖質がBifidobacteriumの増加を促し,増加した本菌が下痢の発生を減少させたものと推測される.電解質, GOT, GPT, LDH, BUN, クレアチニン,血清蛋白(T-p)は殆んど変動なく,ほぼ正常範囲にあった.このため,腸内細菌叢の変動と生化学的検査値との関連はないものと考えられた.
  • 三隅 厚信, 三隅 克毅, 馬場 憲一郎, 八木 泰志, 稲森 洋平, 跡部 安則, 近藤 浩幸, 前野 正伸, 高野 定, 原田 和則, ...
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1605-1612
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道に浸潤を認める噴門癌の根治手術においては,下縦隔リンパ節への転移がみられるので,腹部のみならずこれら胸部の廓清と十分な食道切除を行なう必要がある.教室では,従来主として噴門癌の食道内進展,癌の食道内進展距離(E)>2cmの場合には積極的に右開胸的アプローチを採用してきた.
    最近,森岡式吊り上げ式開腹器を用いて悸肋部を斜め上に牽引し,食道裂孔部より前方に向かって横隔膜を数cm切開して裂孔部を開大すると,開腹操作のみで(非開胸的に)縦隔内の広い視野が得られ,下縦隔リンパ節の廓清と広範な食道切除が容易になり,さらに, EEA型吻合器による器械吻合を応用すると,縦隔内ことに中・下部食道の部位での吻合も可能となった.
    現在では,食道内癌進展距離E<3cmの噴門癌に対しては原則として本術式を施行している.過去3年余における41例の噴門癌のうち非開胸例が36例であり,このうちEEA非使用が14例,使用が22例,開胸が5例である.術後合併症のうち縫合不全はEEA非使用例で7.1%にみられたが, EEA使用例と開胸例ではみられず,また,肺合併症の発生率はEEA非使用例で7.1%, 使用例で13.6%, 開胸例では20.0%であった.
    このように,本術式は非開胸下に縦隔下部に到達でぎ,また術後合併症の発生率も比較的少なく,噴門癌に対して有用である.
  • 片桐 一, 十九浦 敏男, 今関 隆雄, 田辺 貞雄, 松峯 敬夫
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1613-1617
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    昭和44年以降17年間に,都立墨東病院で外傷性横隔膜ヘルニアを6例経験した.性別は男性5例,女性1例と男性に多く,年齢は6~66歳で平均42歳であった. Carterらの病期分類によると,急性期3例,慢性期1例,閉塞・絞扼期2例で,急性期の2例が合併損傷のため死亡した.本症は早期診断・早期手術が原則だが,特に閉塞・絞扼期では早期減圧が重要であると考えられた.
  • 猶本 良夫, 岡信 孝治, 小林 元壮, 合地 明, 大西 長久, 大西 信行, 山際 裕史, 吉村 平, 富山 浩基
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1618-1623
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    若年者(30歳未満)の早期胃癌症例を,他の年齢群の早期胃癌と比較し,その臨床病理学的特徴を検討した.
    自験9症例(10病変)は,全早期胃癌症例数の2.0%にあたった.男女比は3.5:1で,他の年齢群より男性の占める割合が高かった.心窩部痛を主訴としたものが多数で,病悩期間は平均25ヵ月であった.肉眼型は10病変中9病変が陥凹型で,早期胃癌全体では50歳未満の群で陥凹型が多数を占め, 50歳以上で加齢とともに隆起型の占める割合が漸増し, 70歳以上で陥凹型病変数を上まわった.組織型は, 7病変が未分化型で3病変が分化型であった.加齢とともに分化型の割合が漸増し, 70歳以上で分化型が90%を占めた.占居部位は8病変がMで,他の年齢群に比しMの占居率が高かった.脈管浸襲は1例のみがly(+), v(+)であった以外は, ly(-), v(-)で,リンパ節転移に関してもすべてn0であった.このことは,他の年齢群と比較して若年者群で特に浸潤傾向が強いとはいえないことを示している.予後は, 1例のみが再発死しているが他はすべて健在で,うち5例は術後5年以上を経過していた.
  • 草野 敏臣, 草野 義輝, 南 宣行, 福島 弘道, 小森 宗治
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1624-1629
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    門脈圧亢進症を伴う胃静脈瘤破裂症例に対し,術前施行した血管造影で,肝右葉前区域に巨大な肝動脈門脈痩(以下肝A-P fistula)を認め,胃静脈瘤除去,脾臓摘出,胃上部離断に加え,肝A-P fistulaを含む肝部分切除を施行し良好な成績を得た.肝A-P fistulaは, 1892年Sacksが消化管出血による死亡例を報告して以来,昨年までに47例に及ぶが,本邦では奥田の報告の他数例が散見するのみである.今回の症例は,乙型肝硬変があるため,肝A-P fistulaが胃静脈瘤破裂の主因と一論的に決められないが,肝生検後種々の門脈圧亢進症状が出現し,文献的にも数例報告されているので,医原性の肝A-P fistulaと推定した.本疾患は,直接的血流量増加による門脈圧亢進症が本態であるが,肝硬変が合併する例では複雑な背景因子のため,一期的手術の妥当性を理論的に証明することは困難である.著者らは,超音波ガイド下に,従来困難とされていたA-P fistulaを含む肝切除を容易に行い得るため,胃静脈瘤破裂予防の手術と同時に行い術後経過の良好な症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 早川 直和, 二村 雄次, 神谷 順一, 前田 正司, 岡本 勝司, 山瀬 博史, 長谷川 洋, 松本 隆利, 塩野谷 恵彦
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1630-1635
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    術後の膵液瘻が原因と考えられる仮性肝動脈瘤が吻合部腸管に破裂した2例を報告する.
    症例1は36歳,女性で胆嚢摘出術,総胆管切開切石術を受けた既往がある.嚢胞内結石を合併した膵胆管合流異常を伴う先天性胆管拡張症と診断,肝外嚢胞切除, Roux-en-Y総肝管空腸吻合を行なった.
    症例2は60歳,男性で上部胆管癌の診断にて膵頭十二指腸切除,肝門部胆管切除がなされ, Child法で再建した.
    2例とも術後,ドレインより膵液を混じた排液がみられた.術後11日目(症例1), 33日目(症例2)に胆汁外瘻よりの出血や大量の吐下血がありショック状態となった.緊急腹部血管造影を行なうと肝動脈より造影剤の血管外貯溜とそれにつづいて吻合部空腸が造影された.緊急開腹術を行ない,動脈瘤切除,肝動脈瘤結紮を行なった.症例1のみ救命できた.
    肝動脈瘤の原因は様々であるが,この2例はともに術後の膵液瘻が関与していると考えられる.診断には2例ともに緊急血管造影が有効であった.術後の膵液瘻の多くは自然閉鎖するが,かかる重大な合併症も存在するので,そのドレナージには充分注意を要する.術後の仮性肝動脈瘤の多くは胆管内へ破裂し,吐下血,黄疸を呈する.自験例の如く吻合部腸管や腹腔内に破裂するものもあり,これらはきわめて予後不良である. 2症例を報告し,文献的に検索しえた12例の術後仮性肝動脈瘤破裂例を合わせて考察を加えた.
  • 窪田 敬一, 高橋 寿久, 長谷川 周二, 河合 大郎, 原口 義座, 斎藤 慶一, 若林 利重
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1636-1642
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    短期間に経験した先天性胆管拡張症に合併した胆嚢癌の2例を報告する.症例Iは44歳男性.右背部痛,発熱を主訴に入院. ERCPで総胆管は紡錘状拡張を示し,戸谷分類のI (c) 型で,膵管合流型合流異常を示した.手術は胆摘,総胆管切除,肝管-空腸吻合術を施行した.病理は乳頭管状腺癌で, Stage IIIであった.症例IIは47歳,女性.右季肋部痛,発熱を主訴に入院.腹部超音波検査で,胆嚢内腔に隆起性病変あり,胆嚢癌を疑った. ERCPで総胆管は紡錘状拡張を示し,戸谷分類のI (c) 型で,膵管合流型合流異常を示した.手術は胆摘,総胆管切除,リンパ節郭清,肝管-空腸吻合術を施行した.胆嚢癌肉眼所見はStage Iで,病理は乳頭管状腺癌であった.
    最近,膵管胆管合流異常が,先天性胆管拡張症の発生要因としてばかりでなく,発癌因子の可能性としても注目されている.当院で経験した先天性胆管拡張症は26例であるが,検討できた19例中14例が膵管胆管合流異常を有していた.又,今回の2例を含む胆嚢癌合併4例においても,全例に膵管胆管合流異常(膵管合流型3例,胆管合流型1例)が認められており,発癌との関係が考えられた.
  • 丹生 智史, 内藤 和世, 近藤 雄二, 鴻巣 寛, 柴田 純祐, 山岸 久一, 大森 吉弘, 岡 隆宏, 布施 好信
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1643-1648
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    十二指腸結腸瘻は稀な疾患であるが,悪性疾患を除く良性例は極めて少なく,本邦では自験例を含め13例の報告を見るに過ぎない.
    症例は76歳男性で,腹部膨満,上腹部痛,悪心・嘔吐を主訴に入院した.胃腸透視にて十二指腸結腸瘻が認められ,続いて施行した注腸透視,内視鏡にても瘻孔が確認されたが,壁の不整像,陰影欠損,狭窄等の悪性所見はなかった.また十二指腸潰瘍,十二指腸憩室,結腸憩室なども否定的であった.経静脈性胆道造影,内視鏡的逆行性胆道造影では胆嚢は描出されなかったが,肝内胆管,総胆管の拡張を認めた.しかし閉塞はなく,結石もエコー上存在せず, CTにても有意の所見はなかった.
    胆道系に原因を絞り,瘻孔閉鎖を目的に手術を施行したところ,悪性所見なく肝門部にて胆嚢,十二指腸,横行結腸の三者が高度に癒着していた.十二指腸結腸瘻以外にも胆嚢十二指腸間に交通が見い出された.また胆嚢は萎縮し,胆汁を有していなかった.
    結局,胆嚢炎による胆嚢十二指腸瘻がまず形成され,炎症の波及により十二指腸結腸瘻が形成されたものと推測される.
    診断は比較的容易であるが,良性・悪性の鑑別は重要で,その治療方針,予後にもかかわってくるため,慎重を期さねぱならないと考えられる.
    文献的にも稀なる良性十二指腸結腸瘻の1治験例を報告した.
  • 鈴木 俊輔, 森 昌造, 鈴木 克, 佐藤 雅夫, 吉田 博, 斎藤 和好, 桑田 雪雄, 高山 和夫
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1649-1653
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    鈍的腹部外傷による小腸損傷の極めて稀な合併症として遅発性小腸狭窄がある.今回我々は術前に診断し得た鈍的腹部外傷による遅発性小腸狭窄の1例を経験したので,自験例1例を含めた過去20年間の本邦報告例9例を集計し,文献的考察を加え報告した.
    症例は21歳男性で,鈍的腹部外傷後17日目に腹痛と嘔吐を主訴として来院した.精査の結果,外傷後の遅発性小腸狭窄の診断で手術を施行した. Treitz靱帯から肛門側約1.9mの空腸に狭窄があり,その付近の腸間膜は瘢痕化しており,腸切除を行った.病理組織学的には小腸潰瘍であった.狭窄の原因として腸間膜損傷にもとずく腸管の循環障害による器質的変化が考えられた.また自験例では特にlong intestinal tube (Dennis tube) を挿入したが,この方法ではイレウスの症状の改善を計るばかりでなく,狭窄の部位およびその程度の診断にも有効であった.
    本邦報告例の検討
    記載の明らかな8例全例が男性で,年齢分布は4~60歳,受傷から症状出現までの時間は4日から1ヵ月で,平均16日であった.術前の診断法としては小腸造影,血管造影,腹腔鏡検査などが行なわれており,これらによって腸狭窄の診断が得られていた.また小腸の狭窄部位については一定の傾向はなかった.
  • 渡辺 俊明, 川嶋 昭, 小河原 当元, 日下部 輝夫
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1654-1657
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    原発性小腸癌は,近年報告例が増加しているが,依然頻度は低く早期発見・診断が困難な状況である.今回我々は,術前に小腸内視鏡にて診断できた空腸癌を1例経験したので文献的考察を加え報告する.
    症例は, 34歳女性で,嘔吐を主訴とし,小腸二重造影,小腸内視鏡にて空腸癌と診断し,空腸部分切除とリンパ節郭清を行なった.病変は, Treitz靱帯より20cm肛門側の空腸に存在し,病理組織学的には高分化型腺癌であった.
    原発性小腸癌は,全消化器癌中0.1~0.3%の低頻度であり,特有の症状もないため術前診断は困難である場合が多い.予後の面から考えても早期発見・診断が重要であるため,予想されうる場合には積極的に小腸二重造影,小腸内視鏡を行なう必要がある.治療は,手術療法が基本であり小腸切除術,右半結腸切除術などのリンパ節郭清を含めた根治手術を行なう必要がある.予後は,術前診断が遅れがちなので根治的手術例でも5年生存率20%と不良である.
  • 笠原 洋, 田中 茂, 上田 省三, 山田 幸和, 中尾 稀一, 竹本 雅彦, 森下 明彦, 浅川 隆, 久山 健
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1658-1664
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    偶然に左上腹部の腫瘤を触知し,他には特別の症状を伴なわなかった主婦に対して,膵嚢胞の診断で嚢胞空腸吻合を患者の33歳時に施行した,嚢胞壁の組織所見から貯留嚢胞と考えられた.三年後に患者は再び同様の腫瘤を触知し,増大傾向がみられるため,昭和59年9月28日(38歳)入院した.腹痛,悪心嘔吐などその他の症状はみられず,左上腹部に超手挙大の圧痛を伴なわない腫瘤を触知した.臨床検査上はヘモグロビン8.3g/dl, 血清鉄27μg/dlと低値を示した以外は著変をみなかった.腹部超音波検査およびCTで膵尾に一致しての1個の多房性嚢胞がみられ,膵嚢胞腺腫と考えられた.再開腹 し, 12×11×7cm, 500gの腫瘤を膵尾,脾と共に摘出した.術後経過は良好であった.
    摘出標本の割面は無数の嚢胞により構成され,漿液性ないし粘液性の内容液がみられた.組織学的には嚢胞内腔の上皮は一層ないし二層の立方ないし円柱上皮よりなり,悪性所見なく, PAS, ムチカルミン両染色で赤染し,ジアスターゼ添加後も赤染のことから細胞質内にグリコゲンを含まず,粘液性嚢胞腺腫と診断された.膵の粘液性嚢胞腺腫は本邦文献上自験例を含めて27例であり,漿液性粘液嚢腫の同じく15例に比べて1.8倍と多く,高齢者に多く,膵体尾部における発生例が多かったが,両嚢胞腺腫間に性差はなく,腺腫の平均最大径の差もみられなかった.
    漿液性嚢胞腺腫は一般に良性と考えられているのに対して,粘液性嚢胞腺腫は悪性化して嚢胞腺癌に至る可能性が強い.従って粘液性嚢胞腺腫には切除が最良の方法であり,自験例のようにドレナージ手術を施行して後日再開腹といった事態を避けるためには,術前の画像診断に加えて,術中に複数箇所の生検が必要と思われる.
  • 別所 啓司, 小野 雄司, 中村 隆二, 川村 隆夫
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1665-1668
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Insulinomaはその特異な臨床症状から古くより注目されている.最近,我々は典型的な臨床症状を呈しながらその部位診断に難渋したInsulinomaの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は80歳の女性.くり返す意識消失発作を主訴として来院.精査の結果Insulinomaと診断したが,その部位診断に難渋した.数度にわたり諸検査をくり返し,結局Angiographyによりその部位を確認し,腫瘍核出を行った.術後経過は順調である.
    各種検査法の進歩につれInsulinomaの臨床診断は比較的容易になってきたが,手術にあたってはその局在診断が重要となる. PTPC, 術中エコーなどの新しい試みもあるが一般的でなく今後の問題であろう.やはり各種検査法をくり返し施行し,総合的に局在診断に努めることが必要である.特にAngiographyは有用であると思われた.
  • 大平 雅一, 石川 哲郎, 武田 温裕, 坂崎 庄平, 奥野 匡宥, 梅山 馨
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1669-1675
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近経験した5例の褐色細胞腫を中心にその局在診断と外科治療につき考察を加えた.自験例はすべて副腎原発で,うち1例は胃癌を,他の2例は甲状腺髄様癌を合併するSipple症候群であった.
    腫瘍の局在診断にはCT,超音波検査が極めて有用であり,また最近登場してきたNMR-CT (Nuclear Magnetic Resonance-CT), 131I-MIBG (131I-metaiodobenzylguanidine)シンチグラフィーも有用であった.
    術前の血圧の管理にはlabetalolおよびprazosinなどの薬剤によるコントロールが必要であり,また循環血液量の測定は腫瘤摘出後の低血圧の予防に有用であった.
    自験例では全例に経腹膜的到達法を用いたが,腫瘍の局在診断の明らかな症例などでは経後腹膜的到達法の使用も考慮する必要があると考えられた.
  • 稲田 潔, 小池 茂文, 味元 宏道, 広瀬 光男
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1676-1682
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    褐色細胞腫は比較的まれな腫瘍であるが, 1983年の集計で526例の報告がある.しかし悪性についての記載は内外ともに少ない.
    最近まれな悪性例を2例経験したので報告する.
    症例1は, 40歳の男性で腹部腫瘤,腹痛,便秘を認めた. CT検査にて大動脈分岐部に一部石灰化を伴う5×8cmの腫瘤を認めた.内分泌検査では尿中VMA, ノルアドレナリン,ノルメタネフリンおよび血中ノルアドレナリンの増加を認めた.手術にて大動脈分岐部前面にあった8×5×4cm, 90gの腫瘍を全摘出した.組織学的検査にて副腎外褐色細胞腫と診断された. 6カ月後に肝および仙骨への転移を併発し, 9カ月後に死亡した.
    症例2は, 21歳の男性で体動時の腰痛を認めた.腰椎レ線検査にて第3腰椎横突起部にクルミ大の骨腫瘍およびCT検査にて,肝,下大静脈を前方に圧排し,中心部壊死と一部石灰化を伴う新生児頭大の後腹膜腫瘍を認めた.内分泌検査にて尿中VMA,ドーパミン,ノルアドレナリン,ノルメタネフリンおよび血中ノルアドレナリンの増加を認めた.手術では下大静脈への浸潤を認めたため部分切除とした.組織学的検査にて副腎褐色細胞腫と診新された.術後下大静脈病巣部に6,600rad,第3腰椎部分に4,400radのコバルト照射を行い,血中,尿中カテコールアミンのほぼ正常化を認めた.術後1年を経過し健在である.
    悪性褐色細胞腫は組織学的検査では良性,悪性を区別しえないという意見が多く,悪性を証明する唯一の所見は, paraganglionic tissueが本来存在しない部位(肺,肝,骨,リンパ節など)へ発生した場合のみといわれている.本症例1では,肝,骨,症例2では,骨への転移を認め悪性と判断した.
    治療は外科的療法が優先するが,骨転移に対しては放射線療法がかなり有効との意見もあり,症例2では,放射線療法が著効を示した.
  • 仲本 光一, 石山 暁, 林 嘉繁, 武藤 正樹, 小林 衛, 米沢 健, 那珂 喘和, 原 正道
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1683-1687
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    本邦では比較的稀な直腸平滑筋腫の1例を治験したので報告する.
    症例は34歳女性で,妊娠,出産を契機として直腸の右側粘膜下の腫瘤を指摘され,生検を受け,良性平滑筋腫と診断され経過観察となった.その後時々便柱の狭小化を自覚するようになり,また腫瘤の増大を指摘され,生検後5年後当科入院,腫瘤摘出術を施行した.腫瘤は8×6×3.5cm. 組織学的には定型的紡睡細胞よりなる平滑筋腫であり,悪性所見は認められなかった.退院後経過は良好であり,手術後1年半経過する現在も再発の徴候はない.
    本疾患は諸家の指摘するように,組織学的にも良性悪性の判定が難しいが,まず摘出術を施行し,十分な標本検索をし,悪性が疑わしければ,あるいは再発の徴があれば,直腸切断術を考慮すればよいと考えた.
  • 森山 正明, 中島 秀彰, 平田 祐造, 音琴 要一郎, 井上 文夫, 千葉 武彦, 綾部 欣司, 合屋 忠信
    1985 年 46 巻 12 号 p. 1688-1692
    発行日: 1985/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    慢性血液透析患者の内シャント合併症により動脈血行再建を必要とした5症例を経験したので報告する.
    症例は男3, 女2例の5例で動脈血行再建までの透析歴は1年4ヵ月から9年7ヵ月であった.合併症を来した内シャントは上腕動脈と近傍の皮静脈間動静脈瘻3, 上腕動静脈間gore-tex graft動静脈瘻1, 大腿動静脈間bovine graft動静脈瘻1例であった.合併症は吻合部を含めた感染4, 移植片内血栓遊離による動脈塞栓1例であった.感染4例では上腕動脈血流遮断により末梢阻血症状を来したもの3例,動脈結紮に先立って血行再建したもの1例で,感染巣を迂回し,肘関節部では内側皮下を通して自家静脈バイパス移植を行なったが,この経路は関節屈曲時移植片が屈曲せず好ましい経路と考えられた.大腿動脈塞栓症の1例では塞栓除去術を行った.
    感染は最も厄介な合併症であり,内シャント作成時あるいは透析時感染防止に細心の注意が必要である.
    また動脈塞栓症の1例では,内シャントの急性閉塞時同部を揉んだため発生しており,シャント閉塞時は揉まないように指導すべきである.
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