日本臨床外科医学会雑誌
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57 巻, 2 号
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  • 吉田 順一, 長田 孝義, 田中 雅夫
    1996 年 57 巻 2 号 p. 267-271
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    消化器外科の患者における多剤耐性黄色ブドウ球菌の院内伝播について検討した. 32名の患者側,総計204株の細菌側および投与薬剤側の多因子についてクラスター解析を加えた.その結果,第1・2世代セフェム,ペニシリン系およびアミノグリコシド剤がクラスターを形成し,それと耐性薬剤数が次のクラスターとなった.菌検出まで使用した薬剤の平均日数はいずれの種別も5~9日であった.
    以上より消化器外科周術期に第1・2セフェム,ペニシリン系剤などが菌の高度耐性化に関係した可能性が示唆され,これらの予防的使用も短期間にすべきと思われる.
  • 小川 哲史, 大和田 進, 池谷 俊郎, 塩崎 秀郎, 棚橋 美文, 澤田 富男, 堀口 淳, 饗場 庄一, 竹吉 泉, 泉 勝, 森下 靖 ...
    1996 年 57 巻 2 号 p. 272-276
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Vancomycin (VCM)の静注療法(0.5g×2/日, 1時間,点滴静注)を,術後のMRSA感染症10例に対して行った.血中VCM濃度のtrough値とpeak値を経時的に測定し,その結果から同静注療法の有用性を検討した. Ccrが50ml/min以上の8例では,経時的なpeak値の平均は22~26μg/mlで,経過中に上昇傾向はなかった. trough値は14日以降で1日目より有意に(p<0.01)上昇したが,最高値は10μg/ml未満であった. Ccrが40ml/min以下の2例では, trough値は10μg/ml以上に上昇し, VCMの著明な蓄積を認め,投与を中止した. MICは0.78~1.56μg/mlで, 10例中8例で細菌が消失した.腎機能障害などの副作用はなかった.
    VCM 0.5g×2/日の静注療法はCcrが50ml/min以上の症例では,十分な抗菌効果があり,かつ安全な投与法である. Ccrが40ml/min以下の症例では,投与開始時から投与量を減量するか,血中濃度の値により投与量や投与回数を減少する必要がある.
  • 血行動態の観察
    中村 好宏, 森山 由紀則, 豊平 均, 山岡 章浩, 西元寺 秀明, 下川 新二, 渡辺 俊一, 平 明
    1996 年 57 巻 2 号 p. 277-280
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1993年11月より1994年6月までに教室で経験した心・大血管手術後症例を,ドブタミン単独投与群(I群) 6例とアムリノン,ドブタミン併用投与群(II群) 6例に分け,血行動態に及ぼす影響について検討した.両群間に有意差は認められなかったが,経時的変化ではCI, SVRI, PVRI, VO2に有意な変化を認めた(p<0.05).作用機序の異なるアムリノンとカテコラミンの併用は相乗効果を期待でき,カテコラミンの使用量を減じ,心・大血管手術後症例の治療に有用な選択肢の1つと考えられる.
  • 奥芝 俊一, 成田 吉明, 奥芝 知郎, 大久保 哲之, 道家 充, 高橋 利幸, 本原 敏司, 加藤 紘之
    1996 年 57 巻 2 号 p. 281-285
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1973年~1994年1月までの22年間に当科で経験した原発性肺癌切除例500余例のうち臨床的に重複癌と診断された29例(6%)を対象とし,原発性肺癌における重複癌症例の臨床像,治療成績を検討した.重複癌29例の男女比は男性21例,女性8例で肺癌切除時の年齢は47~80歳(平均65.8歳)であった.同時性4例,異時性25例(うち肺癌先行7例)で,主な重複臓器は同一症例での重複を含むが,頭頸部9例14部位,胃6例,甲状腺4例,結腸3例,乳腺2例,肝2例などであった.予後は29例中19例が死亡しているが,肺癌死は10例で他癌死および臓器不全による死亡が9例であった. 5年以上の長期生存は5例であった.癌の診断,治療の進歩により重複癌症例は今後も増加すると思われるが,呼吸機能を含め他臓器の予備能に留意した上での積極的な治療が長期生存に結びつくものと思われた.
  • 足立 信也, 深尾 立, 近森 文夫, 湯沢 賢治, 小池 直人, 渋谷 進, 大塚 雅昭, 石川 詔雄, 轟 健, 小島 寛
    1996 年 57 巻 2 号 p. 286-290
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    筑波大学附属病院において過去13年間に治療した胃原発悪性リンパ腫20症例の病期別治療方針とその成績について検討した. Ann Arbor IEの症例は9例で,全例手術を先行させ,全例,無再発である. IIEの4症例も手術を先行させたが2例が再燃し, 1年以内に死亡した. 1例はTHP-CVP療法,他の1例はCis-VACD療法が奏効し,現在CRである. Ann Arbor III, IVの7症例には化学療法を行い,奏効した症例に手術を行った. PRの2例は再燃死亡したが, CRの3例は無再発である.この結果, Ann Arbor分類IEには胃切除術を, IIE以上にはCis-VACDまたはTHP-CVP療法などの根治的化学療法を優先し, CRの得られた症例に対し,胃切除術を行うべきであると考えられた.
  • 分節的胃切除術46例の検討
    石原 省, 西 満正, 高橋 孝, 山田 博文, 大山 繁和, 中島 聰總, 太田 惠一朗
    1996 年 57 巻 2 号 p. 291-297
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    早期胃癌に対する縮小手術として横断胃切除術(以下横切)を1985年から1993年まで46例(以下横切群)に施行した.適応は胃体中下部に局在する(小彎病変は除く)大きさ約2cmまでの粘膜内癌とした.手術は病変から2~3cmの断端を確保し,大小彎を横断するように分節的に胃を切除し,層々二列の端々吻合にて再建,幽門形成術は付加しなかった.迷走神経は前幹肝枝,後幹腹腔枝を温存した.リンパ節郭清は近傍の大小彎リンパ節およびNo.6, 7, 8a等の生検のみとした.同一期間に幽門側胃切除, D2郭清, B-I再建の標準手術を施行した早期胃癌症例52例(以下対照群)と根治性および術後愁訴,残胃機能などQOLの面から比較してみると,横切群は対照群と同等あるいは有意に良好な成績を示した.以上から横断胃切除術は根治性を損なわず,術後QOLを改善しうる早期胃癌の有用な縮小手術術式の一つになりうると考えられた.
  • 豊田 和広, 岡島 正純, 浅原 利正, 有田 道典, 小林 理一郎, 中原 雅浩, 正岡 良之, 小島 康知, 伊藤 敬, 藤高 嗣生, ...
    1996 年 57 巻 2 号 p. 298-302
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸癌は近年増加傾向にあり,大腸多発癌も稀ではない.また多発癌症例は大腸癌家族歴を有することが多い.最近14年間に当科で経験した大腸多発癌37例について,大腸癌家族歴の有無で分け検討した.第1度近親者に大腸癌家族歴を認めるもの(陽性例)は7例,認めないもの(陰性例)は30例であった.陽性例はやや女性に多く,若年発症の傾向にあった.腫瘍の占居部位は陽性例では全大腸にほぼ均等に分布していたが,陰性例は単発癌と同様にS状結腸,直腸に多く認めた.組織型は陽性例の第1癌ではほとんどが中分化腺癌であったが,第2癌は高分化腺癌を多く認めた.腺腫の合併頻度は陰性例において単発癌より有意に高かった.累積5年生存率は陽性例で62.5%, 陰性例で42.0%であった.今回対象とした大腸癌家族歴陽性大腸多発癌はHNPCCの診断基準を満たしていたが,陰性例でもHNPCCの発端者である可能性があり,注意を要する.
  • 今泉 了彦, 松本 正智
    1996 年 57 巻 2 号 p. 303-308
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1983年4月から1994年12月までの11年8カ月間に82例のHirschsprung病を経験した.無神経節腸管の範囲による病型分類は直腸型33例, S状結腸型29例,下行結腸横行結腸型11例,全結腸型5例,小腸広域型4例であった.無神経節腸管がS状結腸以下の短域型62例では新生児症例は32例(51.6%)だったが長域型症例はすべて新生児であった.合併奇形はダウン症,心奇形など10例にみられた.無神経節腸管が空腸以上の小腸広域型の3例と染色体異常を伴った全結腸型の1例が死亡した.根治手術は腸圧挫鉗子を用いたDuhamel池田手術(Z吻合)を行っている.著者らが開発使用している腸圧挫鉗子を紹介した.小児症例における手術創痕の意味を考察し著者らが採用している恥骨上のしわ線に一致した皮膚切開法を示した.
  • 倉立 真志, 倉橋 三穂, 三好 康敬, 岩坂 尚仁, 村澤 正甫, 四宮 禎雄, 松本 隆裕, 井口 博善, 新谷 保実
    1996 年 57 巻 2 号 p. 309-313
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    気管狭窄を呈した甲状腺好酸性細胞型濾胞癌(本症)の1例を経験したので報告する.
    症例は62歳,男. 1994年8月喘鳴を主訴に受診し,胸部X線写真で左上縦隔に腫瘤状陰影と気管の圧排,狭窄が認められ入院した.血中サイログロブリン(Tg)値は88.9ng/mlと上昇. CT, MRIで頸部から前上縦隔に腫瘤状陰影を認め,気管と食道は右方へ圧排,偏位し,肺野に結節陰影があり.血管造影で腕頭,総頸動脈の圧排,伸展,偏位と内頸静脈の圧排,狭小化があった.針生検で本症と診断し,手術を施行した.腫瘤は甲状腺左葉から縦隔内へ伸展し,脈管を圧排,気管と食道に浸潤があり,腫瘤摘出と縦隔内リンパ節郭清を行った.摘出腫瘤は11×8×4cm,割面は淡黄褐色分葉状で,組織学的に好酸性細胞質を有する大型腫瘍細胞の索状・充実性増殖像を認めた.術後Tg値は正常化した.
    本症の本邦報告は37例で,稀な疾患である.
  • 腰塚 浩三, 羽田 真朗, 武藤 俊治, 中込 博, 高野 邦夫, 神谷 喜八郎, 多田 祐輔
    1996 年 57 巻 2 号 p. 314-317
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の男性,頸部腫瘤を主訴に入院,エコー, CT,シンチグラム,採血より,軽度の甲状腺機能亢進を伴った甲状腺腫の診断にて手術を施行したところ,右甲状腺下極に接するように5×4cm, 2.5×2.7cm大の甲状腺とは独立した腫瘍を認め摘出した.組織学的には腺腫様甲状腺腫と診断された.また術後に甲状腺機能は正常化した.異所性甲状腺は,固有位置に甲状腺を欠く群と,固有位置に甲状腺を有する群とに大別されるが,固有位置に甲状腺を有し2個の異所性甲状腺に発生し甲状腺機能亢進を伴った腺腫様甲状腺腫は非常に稀である.
  • 山内 希美, 山内 一, 原 節雄, 広瀬 一
    1996 年 57 巻 2 号 p. 318-323
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,女性で,前頸部腫脹,動悸を主訴として来院した.入院時, Ca 11.7mg/dl, Caイオン2.84mEq/l thyrogloblin 230ng/mlと高値であった.頸部X線側面像にて甲状腺内に顆粒状石灰化像が認められ,頸部超音波像では甲状腺左葉に径3.2×2.2cmの充実性腫瘤を認め,右葉に嚢胞様腫瘤を認めた. CTにて甲状腺左葉下極背側に, MRIにて右葉背側に上皮小体腫瘤が認められた.原発性上皮小体機能亢進症および腺腫様甲状腺腫に加え,甲状腺癌の疑いがあるため手術を施行した.手術は迅速病理結果より甲状腺分化癌と診断されたため,頸部郭清術変法を伴う甲状腺全摘出術,全上皮小体摘出術を施行した.切除標本より甲状腺左葉の腫瘤は左傍気管リンパ節転移を伴う乳頭癌および被包型濾胞癌であり,さらに腺腫様甲状腺腫および3腺の上皮小体過形成と診断された.術後5年の現在局所再発,遠隔転移の兆候なく経過良好である.
  • 狭間 一明, 川原田 陽, 高田 知明, 小田 潔, 加藤 紘之
    1996 年 57 巻 2 号 p. 324-327
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.昭和57年に甲状腺癌の診断をうけたが,切除不能とされた.その後腫瘤増大傾向なく無治療であったが,平成6年5月より腫瘤の急激な増大をみたため来院,生検で甲状腺扁平上皮癌の診断を得た.他臓器からの転移を否定した後,甲状腺原発の扁平上皮癌の診断で8月17日甲状腺全摘術を施行した.
    甲状腺原発の扁平上皮癌は腺癌からの直接移行と濾胞上皮の扁平上皮化生によるものがあるとされるが,本症例は前者によるものと推察された.
  • 佐藤 隆次, 木村 良直, 加藤 栄一
    1996 年 57 巻 2 号 p. 328-332
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Recklinghausen病に伴った乳癌の1例を経験したので報告する.症例は70歳の女性.高血圧の治療中であったが,前医で左乳房腫瘤を指摘されて平成5年11月当科を受診.左乳房CEA領域に3.5×3.0cmの腫瘤を認め,穿刺吸引細胞診でClass Vの診断であった.術前病期Stage IIで,非定型的乳房切除術(Brt+Ax)を施行した.病理組織学的には浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)で,脂肪織内に浸潤していた. 1a領域のリンパ節9個のうち3個に転移を認めた.
    Recklinghausen病には神経原性の非上皮性悪性腫瘍の合併はしばしば認められるが,上皮性悪性腫瘍の合併もみられる.乳癌との合併例は本邦の報告では本症例を含めて26例である.病期はStage II以上の症例が多いが,これは神経線維腫による皮膚病変のために乳房腫瘤の発見が遅れるためと推察される.
  • 杢野 泰司, 鈴木 一男, 千木良 晴ひこ, 加藤 岳人, 柴田 佳久, 鬼頭 靖, 吉田 克嗣, 神谷 諭, 平松 聖史, 安部 哲也, ...
    1996 年 57 巻 2 号 p. 333-337
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    まれな疾患である異所性乳癌の2例を経験したので報告する.
    症例1: 58歳女性.主訴:左腋窩腫瘤.生検の結果,腫瘤は周囲に乳腺組織を認める乳頭腺管癌で,異所性乳癌と診断し,非定型的乳房切除術を行った.術後72カ月経過し,無再発生存中である.
    症例2: 64歳女性.主訴:右腋窩腫瘤.生検の結果,腫瘤は周囲に乳腺組織を認める硬癌で,異所性乳癌と診断し,広範囲局所切除と腋窩及び鎖骨下リンパ節郭清を行った.腋窩リンパ節に転移を認めた.術後7カ月経過し,無再発生存中である.
    自験例を含む本邦報告例65例を集計し検討を加えた.
  • 池田 文広, 六本木 隆, 川田 清, 藤井 孝尚, 吉田 一郎, 森下 靖雄, 本間 学
    1996 年 57 巻 2 号 p. 338-342
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    極めて稀な胸壁原発の血管周皮細胞腫の1例を経験した.症例は46歳の女性で右背部痛を主訴に近医を受診した.右胸壁腫瘤を指摘され,当科を紹介された.胸部CTで右上肺野に大きさ2.0×2.0cmの胸膜外腫瘤を認め,手術を施行した.第5肋間で開胸し,被膜に覆われた拇指頭大,弾性軟の腫瘤を第4,第5肋骨とともに指出した.術後の病理組織学検査の結果は血管周皮細胞腫であった.術後経過は良好で,術後7カ月目の現在,再発の兆候は見られていない.血管周皮細胞腫は血管の周皮細胞から発生する血管系腫瘍のひとつで,病理組織学的に悪性所見が乏しくても,再発や転移の頻度が高い.一般に,本疾患は下肢軟部組織,特に大腿,骨盤窩後腹膜に発生し,胸壁に原発することは極めて稀である.胸壁原発の血管周皮細胞腫について若干の文献的考察を加え報告する.
  • 川井 邦彦, 倉重 眞澄, 奥村 千登里, 鈴木 雅丈, 渡辺 学, 石橋 弘成, 能戸 保光, 炭山 嘉伸, 若山 恵
    1996 年 57 巻 2 号 p. 343-347
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    24歳男性の胸腺脂肪腫手術例を経験した. 11歳および20歳時,胸部X線上心肥大を指摘されたが,無症状のため放置した.その後,職域検診で縦隔異常陰影を指摘され入院した. CT上,前縦隔の腫瘤は境界明瞭で脂肪の吸収値を示し, MRIでT1T2強調画像ともに高信号を呈し,画像上胸腺脂肪腫あるいは胸腺腫が疑われた. 1993年7月に胸骨正中切開で手術が施行された.肥大した胸腺の右葉下部に胸腺被膜に被われた黄色の腫瘤が認められた.腫瘤は境界明瞭で柔らかく,周囲への浸潤を認めず,縦隔リンパ節腫大も無かった.拡大胸腺摘出術が施行された.腫瘍は20×7.5×3.5cm,重量200gで,割面では粗大分葉状を呈していた.組織学的には,大部分成熟脂肪細胞よりなり,脂肪組織間に島状に多くの胸腺組織が散見されたため,胸腺脂肪腫と診断された.術後経過良好にて14病日に退院し,術後1年10カ月経過した現在,再発の兆候を認めず,社会復帰している.
  • 八木 孝仁, 田中 紀章, 岡林 孝弘, 森 雅信, 金澤 卓, 上川 康明, 折田 薫三
    1996 年 57 巻 2 号 p. 348-352
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は70歳の女性で,呼吸困難と喘息を主訴に来院した.術前の気管支内視鏡では上門歯列より23cmの上部気管に,膜様部より発生する応基性のポリープ様腫瘤を認めた.胸部CTでは軟骨輪の変形が見られ,腺様嚢胞癌の疑いにて手術を施行した.頸部襟状切開に胸骨正中切開を加え,腫瘍部分の2.5軟骨輪を管状に切除して端端吻合を行った.経過は順調で術後病理診断は多形性腺腫であった.
    気管の良性腫瘍は悪性腫瘍に較べ,頻度は少ないが,その中でも多形性腺腫は比較的まれである.気管腫瘍はしばしば慢性閉塞性肺疾患と誤診されやすく,早期治療が肝要であると考えられた.
  • 西村 秀紀, 青木 孝學, 巾 芳昭, 加藤 邦隆
    1996 年 57 巻 2 号 p. 353-356
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,女性で,胸部X線写真の異常陰影を指摘されて当科を受診した.胸部単純X線写真では心陰影に重なって,境界明瞭で大きさ約3×2cmの腫瘤陰影を認め,胸部CT検査では,左下後縦隔に存在した.神経原性腫瘍もしくは先天性嚢腫を疑って胸腔鏡下手術を行った.腫瘤は横隔膜直上の下行大動脈の壁側胸膜より発生するポリープ様の腫瘍で,大動脈から流入する動脈の存在と病理学的所見より肺葉外肺分画症と診断された.術後経過は良好で,創痛も消失し, 5日目に退院した.手術侵襲および疼痛が軽微な点から,胸腔内腫瘤の診断および治療に対する胸腔鏡下手術は極めて有用である.
  • 角谷 直孝, 泉 良平, 広野 禎介, 小西 一朗, 草島 義徳, 広沢 久史, 上田 順彦, 太田 長義, 吉光 裕
    1996 年 57 巻 2 号 p. 357-362
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    直腸癌術後に発症した肺動脈塞栓の2例を経験した.症例1は術後第14病日に,症例2は第6病日に発症したが,肺血流スキャンにより診断でき抗血栓療法によって救命できた.発症の誘因として截石位,肥満, dry sideの輸液療法が考えられ,さらに症例1では内腸骨動静脈領域の郭清操作も誘因の一つと考えられた.直腸癌手術後の肺動脈塞栓の予防および診断,治療には,截石位での手術時間の短縮や臨床症状のきめ細かいチェック,肺血流スキャンおよび早期の抗血栓療法が重要であると考えられた.
  • 野村 昌哉, 中尾 量保, 荻野 信夫, 仲原 正明, 前田 克昭, 西田 俊朗, 弓場 健義, 宮崎 知, 江本 節, 福原 謙二郎, 辻 ...
    1996 年 57 巻 2 号 p. 363-368
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは骨肉腫成分をともない極めて悪性の経過を示した肺癌肉腫の1例を経験したので報告する.患者は66歳,男性.主訴は血痰.左中肺野に腫瘤陰影を認め,肺扁平上皮癌の診断下に平成4年10月手術を施行.左肺舌区を中心に9×8cm大の腫瘤を認め,左肺上葉切除,下葉部分切除術を施行した.病理組織学的には,線維肉腫,扁平上皮癌,腺癌および骨肉腫細胞を認め,前2者の間に移行像を認めた.術後化学療法および免疫療法を施行したが,術後7カ月目に死亡した.
    本邦報告25例を移行像と分化型肉腫成分の有無で検討すると4群に分類され,両者を認めたのは自験例を含め4例のみで, so-called carcinosarcomaとtrue carcinosarcomaの中間タイプと考えられた.従来の病理組織学的分類では分類困難なタイプが比較的多く存在することから,肺癌肉腫は従来と異なる分類がなされ得るのではないかと考えられた.
  • 佐藤 篤司, 片岡 誠, 桑原 義之, 川村 弘之, 三谷 眞己, 隅田 英典, 木村 昌弘, 西脇 巨記, 成田 清, 加藤 丈博, 小山 ...
    1996 年 57 巻 2 号 p. 369-373
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肺癌の胃,小腸転移により大量下血をきたし,緊急手術を必要とした1例を経験したので報告した.症例は72歳男性.近医にて胃悪性腫瘍を発見され,手術目的で入院.入院時検査にて左B10の肺癌(大細胞癌)を発見された.入院後2週目より下血をきたし,保存的治療困難なため,緊急手術を施行した.胃前庭部に1個, Treitz靱帯より60cmから回腸末端より120cmにかけて計12個の腫瘍が存在し,これらすべての腫瘍から出血していた.胃周囲リンパ節,腸間膜リンパ節の著明な腫大を認めた.胃切除術および約260cmの小腸切除術を施行し,組織学的に肺癌の胃・小腸転移と診断した.肺癌の胃・小腸転移率は,肺癌剖検例では各々約4%と報告されているが,生前に転移が明らかとなり,治療が必要とされる症例はさらに少ない.
  • 沖津 宏, 長野 貴, 藤野 良三, 佐々木 克哉, 片山 和久, 松山 和男, 下江 安司, 土広 典之, 黒上 和義, 林 尚彦, 松崎 ...
    1996 年 57 巻 2 号 p. 374-378
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    長径15cmにおよび胸腹部に進展する巨大食道平滑筋腫の1例を経験したので治療を中心に文献的考察を加え報告する.
    症例は34歳,男性で, 11年前に下部食道の隆起性病変を指摘されており,上腹部痛を主訴とした.上部消化管透視にてIm食道から胃噴門部にかけての狭窄と,胃体上部小蛮におよぶ隆起性病変を認めた.食道内視鏡では全周性の狭窄を呈するも,粘膜は正常であった.胸腹部のCTおよびMRIにて,食道内腔を全周性に取り巻くように発育し,胸腹部に進展する巨大な食道粘膜下腫瘍を認めた.手術は左開胸開腹横隔膜切開下に下部食道胃体上部切除,空腸間置術を行った.腫瘍は15×10.5×10cm大であり,病理所見で平滑筋腫と診断した.患者は第25病日に退院し,体重減少など食事摂取に関する術後不定愁訴は認めていない.
  • 牧田 陽一郎, 金丸 洋, 堀江 良彰, 高田 伸, 小高 明雄, 猪熊 滋久
    1996 年 57 巻 2 号 p. 379-383
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃粘膜下腫瘍には各種の疾患があるが,平滑筋芽細胞腫は比較的稀である.腫瘍が小さい場合,臨床的に平滑筋腫,平滑筋肉腫などとの鑑別が難しい.治療としては悪性の場合を考え予防的にリンパ節郭清を伴う胃切除が主に行われており,局所切除は少ない.われわれは39歳男性の胃後壁の粘膜下腫瘍を平滑筋腫と術前診断し,腹腔鏡下に腫瘤を含む胃部分切除を行った.摘出標本の病理所見で平滑筋芽細胞腫と診断されたが,核分裂像は認められず良性と判断し追加手術は行わなかった. 1年4カ月後の検査でも胃の変形や再発を認めず,術前と同様の生活の質を維持している.術前の良・悪性の確定診断が難しい比較的小さな胃粘膜下腫瘍に対しては,まず手術侵襲の小さい腹腔鏡下切除を行い,病理検査で悪性と診断された場合に,根治術を追加とし,良性で根治術追加の不必要な胃切除術を避ける一方法と思われる.
  • 北川 雄一, 田近 徹也, 亀岡 伸樹, 神田 侑幸, 渡邊 智仁, 三浦 敦, 寺本 誉男, 政井 治
    1996 年 57 巻 2 号 p. 384-388
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は62歳,男性. 1994年1月末頃より腹部腫瘤に気付き, 2月22日に腹部腫瘤・左上腹部痛を主訴に来院. CT・USで左上腹部の径約30cmの不整な内部構造を有する嚢胞性腫瘤と,肝に多発する嚢胞性腫瘤を認めた.上腹部腫瘤の穿刺細胞診では,空胞を有する円形細胞を認めた.圧迫症状が強いため手術を施行.腫瘍は胃壁より発育しており,多発肝転移も認めた.胃部分切除を伴う腫瘍摘出と,動注リザーバー挿入を施行.病理組織学的に空胞を伴う円形細胞を認め,平滑筋芽細胞腫と診断. PCNA染色も陽性.術後化学療法を施行したが,転移巣は増大し,術後13カ月で死亡.剖検では肝以外の転移巣はなく,肝は病理組織学的に胃と同一の細胞を認めた.胃平滑筋芽細胞腫肝転移例15例の検討では,平均生存期間が約1年と極めて予後不良であった.肝転移を伴う腹腔内の巨大嚢胞を認めた場合でも,本症を念頭におくべきである.
  • 遠近 直成, 公文 正光, 荒木 京二郎
    1996 年 57 巻 2 号 p. 389-392
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    左傍十二指腸ヘルニアを経験したので若干の文献的考察を加え報告する.症例は45歳の男性で, 12年前より時々上腹部痛を経験していた. 7年前上腹部痛と嘔吐を主訴として当院を受診し,精査するも原因不明のまま軽快した.その後も間欠的な腹痛があったが,短時間で軽快していた.今回は激しい上腹部痛を主訴として来院し,腹部単純X線写真にて左上腹部に小腸の鏡面像を認め, CT検査にても同部位に小腸の嚢状集積像を認めた.絞扼性イレウスの術前診断にて開腹したところ,左傍十二指腸ヘルニアが認められ,ヘルニア内容を還納しヘルニア門を閉鎖した.
    傍十二指腸ヘルニアの本邦報告は自験例を含め81例とまれであり,緊急手術例が多い.しかし特徴的な所見も有しており,本症を念頭におけば,術前診断も可能であると思われた.
  • 中村 利夫, 土屋 泰夫, 長渡 裕子, 梅原 靖彦, 坂元 隆一, 佐野 佳彦, 大久保 忠俊, 森山 龍太郎
    1996 年 57 巻 2 号 p. 393-396
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸の悪性リンパ腫は比較的まれだが,特異的症状に乏しく,発見時には進行している例が多い.最近われわれは小腸悪性リンパ腫が鼠径ヘルニアに嵌頓した1例を経験したので報告する.症例は39歳男性.主訴は右下腹部腫瘤である.平成6年4月より腫瘤に気付き, 9月には食欲不振と嘔気が出現, 11月近医受診し当科を紹介され11月14日に入院となる.現症は腹部平坦で軟,右鼠径部に鶏卵大の腫瘤を触知する.貧血黄疸なく表在リンパ節は触知しない. CTおよび小腸造影にて回腸壁が嵌頓したRichter's herniaと診断し, 11月24日手術施行.開腹すると回腸末端より約5cmで回腸が内鼠径輪に嵌頓しており,回盲部切除およびヘルニア孔を腹腔側より修復して手術を終了した.嵌頓した腸管壁の病理組織検査より小腸悪性リンパ腫と診断され,術後CHOP療法を行い現在外来通院中である.
  • 青木 信一郎, 福井 貴巳, 上西 宏, 日下部 光彦, 山森 積雄, 古市 信明, 三澤 恵一, 大橋 広文
    1996 年 57 巻 2 号 p. 397-401
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Blind pouchに発生した大腸穿孔の2例を経験した.
    症例1: 60歳,男性. 19歳時に虫垂切除術と術後腸捻転に対する解除術を受けた.また56歳時に胃癌のため胃切除術を受けた.今回S状結腸癌の手術後に,腸捻転解除術の際に作製された回腸・横行結腸側々吻合部口側の残存上行結腸Blind pouch部位に大腸穿孔を来した.上行結腸切除を行ったが,術後全身状態悪化し死亡した.
    症例2: 64歳,女性. 28歳時に移動性盲腸のため右側結腸切除術を受けた. 50歳時に子宮筋腫のため子宮摘出術を受けた.今回右側結腸切除時に作製された終未回腸とS状結腸端側吻合部口側の残存横行結腸Blind pouch部に宿便性の大腸穿孔を来し来院した.穿孔部結腸部分切除と回腸横行結腸端々吻合でblind pouchを解除した.術後経過は良好であった.
    大腸Blind pouch穿孔例の本邦での報告は極めてまれで,若干の文献的考察を加え報告した.
  • 石川 恵一郎, 塩崎 憲, 森本 修邦, 木村 文彦, 石田 秀之, 桝谷 誠三, 龍田 眞行, 川崎 高俊, 里見 隆
    1996 年 57 巻 2 号 p. 402-406
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    52歳,女性.主訴は腹部膨満.平成6年11月急に腹部膨満が出現す.腹痛,嘔吐は認めなかった.腹部単純X線検査にて著明な結腸拡張を認めたが,注腸検査,大腸ファイバー検査にて器質的病変を認めず, Ogilvie症候群と診断された.大腸ファイバーによる脱気療法をするも軽快せず,経肛門的にイレウスチューブを挿入し持続的に脱気したところ,劇的に症状は軽快した.
    本症候群の治療は,大腸ファイバーやチューブによる脱気療法で大部分が軽快するため,まず保存的療法を早期より試みることが重要である.
  • 三木 宏文, 柴田 信博, 山本 秀樹, 篭谷 勝巳, 相川 隆夫, 中野 克俊, 野口 貞夫
    1996 年 57 巻 2 号 p. 407-410
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    直腸Dieulafoy型潰瘍が原因と思われる特発性直腸出血の1症例を経験したので報告する.症例は59歳,男性.下血を主訴にショック状態で入院となった.輸血を行いつつ,緊急大腸内視鏡検査,血管造影検査にて出血源の検索を行ったが判明せず,大量下血が続くため,出血源の検索を兼ねて緊急手術を施行した.開腹所見から直腸出血が推測された.経肛門的に洗浄を繰り返し直腸内を再度観察すると,直腸歯状線より2cm口側の直腸左側壁からの動脈性出血を認めたため同部の結節縫合を行い,止血した.手術所見,臨床症状から直腸Dieulafoy型潰瘍と診断した.本症は,下部消化管大量出血をきたす疾患として近年注目されており,本症の存在を念頭に置くとともに,迅速な対応が必要であると思われる.
  • 中川 英刀, 吉川 宣輝, 柳生 俊夫, 三嶋 秀行, 辛 栄成, 東野 健, 小林 研二, 高塚 雄一
    1996 年 57 巻 2 号 p. 411-415
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,潰瘍性大腸炎に発生した多発性大腸癌と多発性dysplasiaを経験したので報告する. 1例目は, 60歳男性で潰瘍性大腸炎発症から8年後に直腸癌が発見され,大腸全摘術を施行した.病変は下部直腸に高分化腺癌,上部直腸に低分化腺癌とdysplasiaを認めた. 2例目は56歳女性で難治性の潰瘍性大腸炎で発症後14年にて多発性の隆起性病変を認め,大腸全摘術を施行した. low grade dysplasiaの診断であった.潰瘍性大腸炎は大腸癌発生の高危険群であり,特に隆起性病変に伴ったdysplasiaの存在は癌発生の可能性が高く,手術適応と考える.癌が発生した時はもちろんのこと, dysplasiaを伴う腫瘍が発生したときも,予防的意義も考え積極的に大腸粘膜をできるだけ多く切除する事が望ましい.
  • 中崎 隆行, 飛永 晃二, 武冨 勝郎, 君野 孝二, 仲宗根 朝紀, 岸川 正大
    1996 年 57 巻 2 号 p. 416-419
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは放射線大腸炎に合併した直腸癌の2例を経験したので報告する.症例1は53歳女性, 11年前に子宮頸癌にて放射線治療を受けた既往がある.便秘を主訴として来院し,大腸内視鏡検査にて直腸にIIa様病変を認め,生検で腺癌の診断を得た.手術は腹会陰式直腸切断術を行った.切除標本では直腸にIIa様病変を認め,組織学的には深達度mの高分化腺癌であった.また,抗P53抗体による免疫組織染色で癌周辺の萎縮腺管に陽性細胞がみられた.症例2は62歳女性. 20年前に子宮癌で放射線治療を施行している.下痢を主訴として来院し,大腸内視鏡検査にて直腸前壁に潰瘍限局型の腫瘍を認めた.手術は腹会陰式直腸切断術を施行した.切除標本では直腸に潰瘍限局型の腫瘍を認め,組織学的には深達度mpの中分化腺癌であった.いずれも,癌周辺に放射線腸炎の所見を認め,放射線誘発大腸癌と考えられた.
  • 花崎 和弘, 袖山 治嗣, 大塚 満洲雄, 宮崎 忠昭
    1996 年 57 巻 2 号 p. 420-423
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肛門外へ脱出したS状結腸癌による腸重積症の1例を報告する.
    症例は70歳の男性で腹痛,肛門からの腸管の脱出を主訴に入院した.大腸ファイバーにて脱出した腸管の先端部に腫瘍を認めた.手術は腸重積を整復した後,腫瘍を含めて腸管を切除し,ハルトマン手術を施行した.切除された腫瘍は大きさ4.0×3.2cmのBorrmann 2型のS状結腸癌であった.術後経過は順調であった.
    これまで本邦で報告された肛門外へ脱出したS状結腸癌による腸重積症例は自験例を含め13例あり,文献的考察を加えた.
  • 霜田 光義, 鈴木 修一郎, 長田 拓哉, 坂東 正, 山岸 文範, 白崎 功, 田沢 賢次, 藤巻 雅夫
    1996 年 57 巻 2 号 p. 424-430
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は61歳の女性.人間ドックで肝S3の嚢胞性病変を指摘され精査, USにて嚢胞壁より内腔に突出するechogenicな内部エコー像がみられ,一部で隔壁様の高エコー像が認められた. CTで壁や内腔の一部がenhanceされたことより腫瘍性嚢胞と診断した.嚢胞穿刺液の細胞診はclass Iであったが, CA19-9が32, 263U/mlと高値を示した.以上より肝腫瘍性嚢胞と診断し肝左葉切除術を施行した.切除時の嚢胞液中のCA19-9, CEAはそれぞれ120,000U/ml以上, 215ng/mlと高値を示した.肉眼所見では一部で内腔に突出する部位を認めたが組織学的には腫瘍性増殖はみられず,肝嚢胞と診断された.嚢胞液中の腫瘍マーカ高値は必ずしも腫瘍性病変や悪性病変を示すものではないことが示唆された.
  • 中島 日出夫, 北条 郁生, 石田 秀行, 樋口 哲郎, 権田 剛, 三島 好雄
    1996 年 57 巻 2 号 p. 431-436
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は68歳女性.上腹部痛を主訴に来院,画像診断上胆嚢内の腫瘍,総胆管の閉塞と肝内胆管の拡張,および大動脈周囲のリンパ節の腫大を認めた.血液検査では,閉塞性肝機能障害の所見に加えて, AFP値が503ng/mlと高値を示した. AFPのレクチン親和性分析では,非肝細胞パターンであった.経皮経肝ドレナージを施行したが逸脱したため,緊急手術を行った.大血管が転移リンパ節に巻き込まれていて,姑息的に胆嚢摘出,総胆管切除,胆管空腸吻合を行った.血清AFP値は術後一過性に下降したが再上昇し,術後5カ月目に癌性腹膜炎にて死亡した.組織学的には低分化型腺癌で,総胆管内の少数の腫瘍細胞でAFPが陽性であった.
    本邦報告例のAFP産生胆道系腫瘍につき, AFPのダブリングタイムを計算し検討した結果,拡大手術を含めた集学的治療の必要性が判明したので併せて報告する.
  • 戸部 直孝, 守屋 仁布, 長屋 昌樹, 清水 要, 太田 智彦, 小森山 広幸, 福田 護, 窪田 倭, 山口 晋
    1996 年 57 巻 2 号 p. 437-441
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    無症候性右肝管狭窄をきたしたMirizzi症候群の1例を経験したので報告する.症例は70歳の男性で無症候性胆嚢結石の経過観察中,肝機能障害を指摘され,腹部超音波検査を施行したところ,右肝内胆管の拡張を認めたため入院となった. CTスキャンにて,肥厚した胆嚢壁および胆嚢頸部に嵌頓した結石を, MRI,経皮経肝胆道造影にて右肝管狭窄を認めたため, Mirizzi症候群と診断し,胆嚢摘出術および総胆管切開, Tチューブドレナージ術を施行した.右肝管は胆嚢頸部に嵌頓した結石による圧排および炎症の波及により狭窄をきたしており, McSherry分類type IのMirizzi症候群であった.
    右肝管に限局した狭窄をきたすMirrizzi症候群は非常に稀であるが,本症例のように無症状に経過する可能性があり,悪性疾患との鑑別の際に念頭に置くべきであると思われた.
  • 本田 五郎, 上原 徹也, 八木 草彦, 坂尾 寿彦, 岡上 豊猛, 梶原 伸介, 山崎 信保, 木下 研一
    1996 年 57 巻 2 号 p. 442-446
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腎移植後6年目に発生した腫瘤触知型の乳腺Paget病を経験した.症例は47歳女性で, 41歳時に慢性腎不全に対し生体腎移植を受け,免疫抑制剤の投与のもと経過良好であったが,術後6年目に右乳頭部の難治性の痂皮に気づき当院皮膚科で生検を受けPaget病の診断を得た.術前に乳房内にも腫瘤を指摘され,腫瘤形成型のPaget病の診断のもと胸筋温存乳癌根治術を施行した.
    近年,免疫抑制剤の進歩により慢性腎不全に対する腎移植術は積極的に行われるようになり,移植後の患者の発癌率の上昇が懸念される.同時に抗癌剤と免疫抑制剤の使用方法などが問題になってくる.
  • 中野 芳明, 金 柄老, 加納 寿之, 西 敏夫, 川崎 勝弘, 相沢 青志, 森 武貞, 小林 哲朗, 長松 正章
    1996 年 57 巻 2 号 p. 447-450
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    頸部リンパ節への悪性腫瘍の遠隔転移は,一般に外科的治療の対象外と考えられてきた.今回われわれは子宮頸癌の放射線治療後の頸部リンパ節転移を郭清することにより約1年半の延命を得たので報告する.症例は, 71歳,女性.左頸部腫瘤で来院し穿刺吸引細胞診にて転移性扁平上皮癌と判明した.他に癌病巣を認めず,既往歴に子宮頸癌があったことから子宮頸癌の頸部リンパ節転移と診断した.手術は左modified radical neck dissectionを行った.術後約1年6カ月後に死亡したが,その間日常生活が可能であった.また,この症例はミノサイクリンを大量に内服していたためと思われるblack thyroidを合併していた.遠隔転移としての頸部リンパ節転移のある症例にもリンパ節郭清術の対象となるものがあること,ミノサイクリンにより甲状腺が黒化することがあるが,機能は保たれていることを知っておくべきであると思われた.
  • 多田 出, 有田 毅, 安部 寿哉, 安田 一弘, 鹿野 奉昭, 掛谷 和俊, 増田 雄一
    1996 年 57 巻 2 号 p. 451-456
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    早期胃癌の根治術後に肝リンパ漏によると考えられる大量の腹水が発生した2症例を経験した.症例1は79歳の男性,症例2は57歳の女性で,いずれもC型肝炎の既応歴が認められた.腹水は外観が淡黄色透明,高比重,高蛋白で,リンパ球を主体とする細胞成分を含み,乳糜を含まない肝性のリンパ液と考えらた. OK-432の腹腔内注入療法を前者は6回(計75KE),後者は3回(25KE),施行,治癒が得られ,それぞれ術後89日目,術後75日目に退院した.
    術後の肝リンパ漏による難治性腹水に対するOK-432の腹腔内注入療法は,有用な保存的療法であると考えられた.
  • 藤田 繁雄, 井上 善文, 渡辺 洋敏, 田中 康博, 城戸 哲夫, 砂田 祥司, 本多 正治, 保木 昌徳, 仲村 輝也, 高尾 哲人, ...
    1996 年 57 巻 2 号 p. 457-460
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌根治術後に膵液瘻が生じた場合,郭清により露出した主要血管が浸蝕され,腹腔内大量出血に至ることがあり,致死的な合併症として知られている.今回,胃全摘膵体部尾部合併切除術を施行し,術後に感染を合併した膵液瘻を契機として腹腔内大量出血を来した3症例をいずれも手術により救命することができたので報告する.このうち大動脈壁からの出血を生じた症例において, occlusion balloon catheterが止血術の際に極めて効果的であったので,その有用性についても併せて報告する.
  • 今治 玲助, 諸国 眞太郎, 須田 学, 石田 数逸, 河島 浩二, 三原 康生
    1996 年 57 巻 2 号 p. 461-464
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は69歳男性.右総腸骨動脈の完全閉塞にてaorto-rt. femoro-popliteal bypass術を施行.術後8日目から16日目まで38°Cを越える発熱が続き,炎症反応の上昇も認め,術後感染症を疑い,諸検査を行うも原因不明であった.術後47日目より次第に腰痛を訴えるようになり,座位および体動も困難となった. MRI,骨シンチ, Gaシンチ施行し,化膿性脊椎炎を疑われたため整形外科へ転科となり,手術的治療も考慮されたが,長期の保存的治療にて軽快,退院した.
  • 龍田 眞行, 桝谷 誠三, 川崎 高俊, 塩崎 憲, 木村 文彦, 奥山 正樹, 石田 秀之, 石川 恵一郎, 里見 隆, 東山 聖彦
    1996 年 57 巻 2 号 p. 465-470
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    65歳男性.アスベスト被爆歴不明.全身倦怠感と食思不振で近医受診,胃透視と胸部X線検査で異常を指摘された.胃内視鏡生検と穿刺肺生検で胃癌および肺肉腫あるいは悪性胸膜中皮腫と診断した.血中CA19-9は80U/ml, CEAは32ng/mlと高値を示した.まず胃全摘術を施行したが, CA19-9は563U/mlと上昇, CEAは8.7ng/mlと低下した.この間,胸部腫瘍は急速に増大して胸壁が膨隆,痛みが出現した. 40日後に右上葉部分切除術+胸壁合併切除術を施行した.病理組織で悪性限局型胸膜中皮腫と診断した.術後のCA19-9は65U/mlと低下した.術後QOLを維持できたが,入院後5カ月で悪疫質にて死亡した.同時性の悪性胸膜中皮腫・胃癌の手術報告例はなく,中皮腫の頻度と悪性度に起因すると思われた.免疫染色では悪性胸膜中皮腫および胃癌の両組織でCA19-9が検出され,中皮腫の上皮型の分化の過程で産生されたと推測した.
  • 高尾 信太郎, 井上 和則, 河村 史朗, 浦田 尚巳, 芦田 卓也, 岩垣 聡一, 杉原 俊一
    1996 年 57 巻 2 号 p. 471-475
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は55歳男性,黄疸を主訴に入院. PTCD施行し,総胆管の高度不整狭窄を認めた. ERPでの膵頭部主膵管の不整な圧排狭窄像から膵頭部癌が疑われた.腹部エコー, CT,血管造影にて,右腎下極に腫瘍陰影を認め,膵頭部癌,右腎癌の同時性重複癌と診断した.手術は,膵頭十二指腸切除術および右腎摘出術を施行した.病理学的診断は,膵高分化型管状腺癌,通常型淡明細胞亜型腎細胞癌であった.術後経過は良好で,術後16カ月の現在,健存中である.
    膵癌と他臓器癌との重複は,全膵癌症例の10%前後に認められている.しかし,腎癌との重複例は極めて稀で,現在まで7例の報告を見るのみである.
    これらを併せて,膵癌と腎癌の重複癌につき若干の文献的考察を加え報告する.
  • 池田 聡, 向井 勝紀, 桧垣 昭光, 小林 理一郎, 増田 昌彦, 平岡 敬生, 河石 浩
    1996 年 57 巻 2 号 p. 476-479
    発行日: 1996/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    消化管異物はそれ程珍しい疾患ではなく,なかでも小児が60~80%を占める.成人例でも,小児と同様に自然排泄が多く,手術に至ることは少ないとされている.今回,成人消化管異物手術例12例について検討を行った. 12例中9例(75%)が精神疾患を合併した症例(6例)か拘留中の被告(3例)であり,いずれも企図的に異物を嚥下した症例であった.しかも,アンテナや針金や箸といった常識では考えられないような物質を嚥下していた.このような症例ではX線透過性の物質を嚥下していたり,嚥下の時期が不明確であったり,また向精神薬の服用により腹部症状が不明瞭な場合があるので診断に特に注意が必要である.異物によっては放置すると穿孔やイレウスなどの可能性もあり積極的に手術を行うべきと考えられた.
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