日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
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44 巻, 12 号
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  • 柴田 英男, 佐伯 裕司, 大和 宗久, 松本 健次郎, 小川 雅昭, 中村 哲彦, 岩佐 善二, 安富 正幸
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1383-1388
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当科において発見しえた早期乳癌の46例について,腫瘤の大きさと診断法とを比較した.腫瘤が小さくなるにつれて生検による診断例が増え,早期乳癌46例中19例が,又微小乳癌17例中14例が生検により診断がついたものであった.我々は従来から乳腺症と診断のついた症例にマスチゾールを投与し,腫瘤が残存したものに生検をおこない組織学的に診断する.いわゆる診断治療的内分泌療法をおこなってきた.この方法により発見された微小乳癌は,生検により診断のついた14例中8例におよび,生検対象を選択する方法として優れているといえる.又,この方法により発見された乳癌巣は慢性乳腺症の組織像にとり囲まれており,組織学的な乳癌巣の大きさよりも触診による腫瘤の大きさの方がはるかに大きく触れた.この特徴は,内分泌療法後に残存する腫瘤を捜すうえで,極めて有利な性格といえるであろう.
  • 芳賀 陽子, 梶原 哲郎, 芳賀 駿介, 小川 健治, 矢川 裕一, 湖山 信篤, 成高 義彦, 勝部 隆男, 中田 一也, 榊原 宣
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1389-1392
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去13年間の乳癌手術症例233例のうち,再発症例は55例であった.このうち再発後卵摘症例の26例と,初回手術時に卵摘を施行した8例について卵摘の効果を検討した.
    われわれの再発後卵摘の有効率は30.8%であった.
    これを諸因子に分け,検討した.
    閉経との関係では閉経前40.0%, 閉経後5年以内25.0%, 閉経後5年以上14.3%と閉経前の症例に有効率が高かった.
    年齢との関係では41~50歳45.4%と最も有効率が高く, 31~40歳40.0%, 51~60齢では有効例なく, 61~70歳33.3%であり,閉経前でも若年では有効率が低かった.
    disease-free intervalとの関係では, 3年未満の有効率は35%前後であるのに対し, 4年以上の症例では66.7%と高率であった.
    再発部位に対する効果は肺,リンパ節転移,局所再発に有効率が高く,次いで骨転移に比較的有効率が高かった.肝,脳転移に対してはほとんど無効であった.
    hormone receptorとの関係をみると, receptor陽性例に有効例が多い傾向はあるが明確な結果は得られなかった.
    初回手術時に卵摘を施行したstage III, IVの症例の5生率を非卵摘症例の5生率と比較した.初回手術時に卵摘を施行した症例の5生率は87.5%と高く,非卵摘群の33.8%に比べ良い成績であった.
  • 丹正 勝久, 佐藤 泰, 黒須 康彦, 西村 五郎, 森田 建
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1393-1397
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    教室では,乳癌根治手術後,リンパ節転移陽性例に対する補助的化学療法として, 1976年より1981年までの約6年間, Bonadonnaらの方法によるCMF療法を試み,その成績について検討を行なった.
    CMF療法群(38例)は対照群(21例)に比較し, 2~4年再発率で有意に良好な成績が得られた.さらに,対象症例をリンパ節転移個数別に細分し検討してみると,リンパ節転移個数1~3個の症例においては, 2~5年再発率に良好な成績が得られたが,リンパ節転移個数4個以上の症例については良好な成績は得られなかった.また,対象症例を閉経前後で分類し検討すると,閉経前症例では2~4年再発率に良好な成績が得られたが,閉経後症例では良好な成績を得られなかった.
    以上の成績より,術後補助療法としてCMF療法は有用であると考えられるものの,リンパ節転移個数の多い,比較的進行した乳癌,および閉経後症例については良好な成績は得られず,これらに対しては何らかの他の補助療法の必要性が示唆された.
  • impedance pneumographyによる検索
    児玉 喜直, 伊坪 喜八郎, 半沢 隆, 鹿志村 香, 池田 雄一, 桜井 健司
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1398-1404
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    上腹部手術後の局所的換気機能の変化をimpedance pneumographyを用いて観察した.
    Impedance pneumographyの測定結果と局所的換気機能を測定し得ると考えられているradioisotope pneumographyの測定結果とを比較するとr=0.70の相関が認められた.またimpedance pneumographyとpulmonary function indicatorの値も相関する(r=0.85).
    以上の結果により外科手術直後の症例に対してはimpedance pneumographyを用うればbed-sideで正確にかつ安全に局所的な換気状態の変化を測定できる.われわれが観察した上腹部手術例21例では術後の換気機能が次のように推移した.術後1日目から2日目にかけて換気機能は著明に低下し(平均46%に低下)とくに下肺野ではこの傾向が強い(平均40%に低下).その後は漸次改善する傾向を示すが,上腹部手術が左右いずれかに片寄った場合は,その換気機能は明らかに患側が障害される.この傾向は下肺野にとくに強く,換気機能の改善も遅延する傾向を示す.
  • 川田 忠典, 荒瀬 一己, 舟木 成樹, 正木 久朗, 北川 博昭, 平 泰彦, 野口 輝彦
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1405-1409
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    外傷性胸部大動脈断裂の急性期予後は不良であり,外科的治療が唯一の救命手段である.そのためには早期診断が必須であるが,多臓器損傷を伴うために確定診断は意外と困難である.我々は入院直後の胸部レ線像上,縦隔陰影拡大,気管右偏像,大動脈弓部不明瞭化の一つ以上の所見があれば,胸部CTスキャンを行い,縦隔内あるいは大血管周囲に血腫像を呈していれば血管撮影を行うという診断プログラムに基づき本症の早期診断に努めた.
    1979年7月から1982年12月までに胸部外科医が関係した鈍的胸部外傷患者は21例で,そのうち胸部レ線像上診断基準陽性例は15例であった. 15例中13例は胸部CTスキャンが行われ,縦隔内血腫の見い出された7例は大動脈造影が行われた.残る2例はCTスキャンが省略され即大動脈造影が行われた.血管造影の行われた9例中では4例に胸部大動脈断裂が, 1例に左鎖骨下動脈断裂がみとめられ,全例緊急外科的治療にて救命された.
    以上の結果より我々の診断プログラムは本症早期発見に有用であったと考えられた.特に胸部レ線像上診断の疑わしい例ではCTスキャンが補助診断的に有力で,血腫形成像があれば緊急血管造影の決断のよい指標となった.しかし,縦隔拡大が明瞭な例では切迫破裂の危険性が予測され,診断のために時間の浪費は避けるべきで,血管撮影を先行させることが肝要と考えられた.
  • 高見 宏, 八木 宏之, 藤川 正博, 岡村 弘光, 桜井 温, 梁 徳淳, 吉川 澄, 韓 憲男, 南波 正敦, 伊藤 篤, 石田 健蔵
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1410-1420
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    我々は過去7年間に胃癌切除症例717例中,同時性多発胃癌27例,異時性多発胃癌2例,計29例の多発胃癌を経験した.
    同時性多発胃癌の発生頻度は3.8%であった.その性比は2.00:1と男性に多く,平均年齢は64.7歳で胃癌切除症例の平均年齢(57.3歳)に比し高齢であった.また進行癌と進行癌の組合せ3例,進行癌と早期癌の組合せ12例,早期癌と早期癌の組合せ12例であった.早期癌どおしの組合せでは肉眼的形態の類似性が認められた.組織型では低分化腺癌34%, 高分化型管状腺癌28%, 中分化型管状腺癌18%が大半を占めていた.発生部位は小弯に多く,また胃中部(M)44%, 胃下部(A)31%, 胃上部(C)25%と分布していた.
    診断面では同時性多発胃癌において術前に21%の病巣を見落していた.副病巣は大部分が早期癌であり術前診断は困難な面もあるが,胃癌手術に際しては同時性多発胃癌の存在を念頭に置き慎重に胃切除範囲を決定することが重要と考える.
    同時性多発胃癌の存在は胃癌の多中心性発生を示唆するものであるが,なお胃癌の壁内転移,管腔内着床等も完全に否定することは困難である.また逆に本来多発胃癌であったと考えられる衝突癌症例を1例経験しておりその発生の問題に関しては興味深い点が多々ある.
    異時性多発胃癌として初回治癒切除後それぞれ15年及び25年目に残胃に癌発生を見た2例を報告した.異時性多発胃癌に関してはとくに第2癌が初回胃癌の再発であることを否定するのは難しい.また異時性多発胃癌においては異時性の胃癌多中心性発生以外に,いわゆる残胃癌の発生要因が加味されているとも考えられる.いずれにせよ胃癌治癒切除症例といえども異時性多発胃癌の発生も考慮のうえ術後follow upをすべきと考える.
  • 特に粘膜化生に関連して
    松峯 敬夫, 山田 福嗣, 山下 裕一, 吉永 圭吾, 青木 幹雄, 瀬戸 輝一
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1421-1425
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    従来より筆者らは,種々胆嚢疾患における胆嚢粘膜化生の特徴を示して来たが,今回は特に,周囲消化管との間に特発性内胆汁瘻を生じた9例の摘除胆嚢を取り上げ,このような化生組織を中心に,病理組織学的検索を試みた.
    剔除胆嚢は,おおむね強い慢性炎症像を示し,広汎な粘膜剥脱とともに,高度のリンパ球・プラズマ球浸潤,線維化が認められた.
    残存粘膜の化生傾向は概して著しく, 8例(89%)に偽幽門腺化生, 6例(67%)に腸上皮化生が見出されたが,このほかごく稀れな変化として,胆嚢十二指腸瘻の1例(11%)に扁平上皮化生が検出された.
    このような化生組織のうち,発癌に拘わる重要な病変として腸上皮化生の存在を挙げ,本症と胆嚢癌発生の関連につき若干の文献的考察を行った.
  • 特にAdenomyomatosisとCholesterolosisについて
    稲田 章夫, 小坂 進, 古川 信, 湊 浩志, 笹本 清, 小西 二三男
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1426-1432
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近私どもの教室においてadenomyomatosisと早期胆嚢癌合併症例,また血管造影, CTにて浸潤性胆嚢癌と鑑別不可能であったadenomyomatosisのgeneralized type等を経験したことよりcholecystosesにつき臨床病理学的に検討することは重要であると思われる.そこで今回私どもは過去8年間における胆嚢摘出症例372例を対象にretrospectiveに検索した結果adenomyomatosisは38例(10.3%), cholesterolosisは33例(8.8%)にみられた. Adenomyomatosisは男21人,女17人,平均年齢52歳, cholesterolosisは男15人,女18人,平均年齢48.9歳であり, adenomyomatosisでは諸家の報告と異なり男性に多くみられた.胆嚢造影で診断可能であったのは胆嚢造影良好例においてlocalized typeは6例中3例(50%), segmental typeは9例中8例(89%), generalized typeは6例中5例(83%)とかなり高率に術前診断が可能であった.最近は超音波検査も価値が高く特に単発性のpolypとcholesterolosisの鑑別診断に有効であった. Adenomyomatosisのみで手術した症例は3例ですべてgeneralized typeで症状は右季肋部鈍痛と脂肪食不耐症であった. Adenomyomatosis 38例すべて胆嚢摘出により症状の消失をみていることより本症の治療は外科的手術が妥当と思われた.合併症は1例にみられた.胆嚢十二指腸瘻形成による胆石イレウスも緊急手術により救命し得ている.また胆嚢上皮には変化を認めないが, Rokitansky-Aschoff sinusesに広範に腸上皮化生を認めた症例を経験したが, premalignantの可能性も否定できずそのfollow upは厳重にしなければならない.
  • 炭山 嘉伸, 長尾 二郎, 鈴木 秀明, 黒瀬 恒幸, 草地 信也, 中村 集, 鶴見 清彦
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1433-1437
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    高カロリー輸液法(以下TPN)と成分栄養法(以下ED)は,術前術後の栄養管理として不可能なものであるが,問題はいかにしてこれら,栄養管理を,合併症なくして目的どうり完全遂行できるかどうかである.特に,一カ月以上栄養管理例では,短期施行例のそれよりもはるかに合併症の発生頻度は高く,また重篤なことが多い.本稿ではこれら長期栄養管理例の合併症を検討するため,当教室におけるTPN 341例, ED 67例,両者移行併用例(以下TPN+ED)175例,計583例のうち, 30日以上の長期栄養管理を要した83例について,合併症の種類(内訳)を検討し,また短期栄養管理例と長期栄養管理例.合併症発生頻度の面から比較し,またTPN単独管理中の合併症対策に対する教室の考え方をまとめた.
  • 伊藤 洋二, 西田 佳昭, 渋沢 三喜, 小池 正, 石井 淳一
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1438-1442
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    頸部腫瘤を主訴に来院する患者は多い.就中,リンパ節性のものが多く,その原因疾患も種々あり,鑑別診断も容易でない.この為リンパ節生検は診断手段として,あるいは治療方針を立てる上で重要である.当教室において,過去5年間に外来で施行された頸部リンパ節生検71例について検討した.結果は, 1) 結核性リンパ節炎は,最近は減少傾向にあると言われているが,まだまだ高頻度にみられ,各年齢層に平均していた. 2) 悪性のものは加齢に伴ない増加傾向が認められた. 3) 悪性リンパ腫は10歳代と60歳代にピークがあり, 2峰性を示した.
  • 内藤 和世, 田中 承男, 石橋 治昭, 稲葉 征四郎, 山岸 久一, 柴田 純祐, 橋本 勇
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1443-1447
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    5年および10年相対生存率を計算するために,従来用いられている便宜的な単年度生命表から求めた期待生存率(A法)と各年度毎の簡易および完全生命表から求めたコホート期待生存率(B法)を計算した.昭和42年から昭和52年の間に手術をしたStage I胃癌147例の5年および10年累積生存率はそれぞれ, 85.7%, 76.9%であった. A法による期待生存率を用いて計算した5年, 10年の相対生存率はそれぞれ, 98.2, 109.2%であった.一方, B法のコホート期待生存率によって求めた5年, 10年相対生存率は95.3, 98.5%であり, A法, B法それぞれで求めた相対生存率の間には, 5年で2.9%, 10年で10.7%の差がみられた.長期相対生存率の算定にとっては,コホート期待生存率の応用がより意義深いことが示唆された.
  • 土田 勇, 枝国 節雄, 植田 正信, 曹 光男, 姜 定幸, 福島 駿, 弓削 静彦
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1448-1451
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    67歳の男子乳癌(Stage III)に対しBr+Ax+Mj+Mn+Psの手術後,放射線療法,化学療法を併用した1症例を報告し2, 3の文献的考察を加えた.
    (1) 男子乳癌は比較的稀れな疾患で,その発生頻度は全乳癌の1.0%前後である.
    (2) 主症状は乳房腫瘤触知である.
    (3) 病悩期間が長いため女子乳癌に比べて進行例が多く,女子乳癌に比べ予後が悪い.
  • 及川 佑一郎, 伊藤 伊一郎, 井筒 岳, 佐藤 泰和
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1452-1457
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    3例の心房粘液腫の治験例について若干の考察を加え報告した.左房粘液腫2例,右房粘液腫1例で左房粘液腫の1例は左房内の別々の部位より2個の粘液腫が発生していた.粘液腫は4個とも有茎性であり,その付着部位は2個は卵円窩, 1個は心房中隔, 1個は右房自由壁であった.全例術前に超音波検査や心血管造影により腫瘍の存在を確認した.右房粘液腫例では通常の右房造影ではなく, RIアンギオグラフイにて腫瘍を確認した.手術は胸骨正中切開,体外循環下に大動脈を遮断し摘出術を行った.右房粘液腫例の下大静脈への脱血チューブは右大腿静脈より挿入した.腫瘍の摘出方法は卵円窩発生例では卵円窩切除,異所性発生例は腫瘍付着部の心内膜を筋層も含めて切除した.腫瘍細胞は心内膜下層にとどまっていた.
  • 神谷 順一, 奥川 恭一朗, 新美 隆男, 榊原 正典, 三田 三郎, 末永 義人, 中村 達雄, 秋山 三郎
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1458-1462
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性,左上腹部の腫瘤を訴えて来院した.腹部エコーで,腫瘤は球形ではないが嚢胞のパターンを示し,また血管造影で血管に乏しいことより,腸間膜嚢腫を強く疑った.しかし, CTでは腫瘤は均一で実質性であった.なお,十二指腸造影で第4部内側に圧排がみられた.
    手術所見では,腫瘤は周囲組織,特に上腸間膜動脈との癒着が強く,非常に硬いことが特徴的であった.十二指腸・空腸切除にて腫瘤を摘出した.腫瘤は7×7×6cm,粘膜面には潰瘍はなく,割面は実質性であり,黄白色・結節状であった.組織学的には,腫瘍は固有筋層から発生した平滑筋腫であった.以上より,十二指腸第4部に生じた平滑筋腫と診断した.
    消化管の平滑筋腫あるいは平滑筋肉腫は,血管造影上血管に富んでおり,診断は比較的容易と考えられている.しかし本例のように血管に乏しいものもあり,注意を要すると思われた.また,成因は不明であるが,本例では周囲組織との癒着が高度であったことが,印象的であった.
  • 渡辺 成, 北島 政樹, 薩摩林 恭子, 八木田 旭邦, 小野 美貴子, 立川 勲, 相馬 智
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1463-1468
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Peliosis hepatisは肝実質内に血液貯留腔が多発する極めて稀な疾患で,本邦報告例も35例を数えるに過ぎない.本症は従来,剖検時に偶然発見される場合が多く,その発生病理も不明なことから,主として病理学的検討がなされてきた.しかし最近では,本症の発生とタンパク同化ホルモンの使用との関係や,本症と肝悪性腫瘍の発生との関係などから,臨床的にも興味がもたれるようになってきた.今回我々は下血を主訴として来院した本症の1例を経験したので報告する.更に,本邦報告例を集計し検討を加えた.
    症例は35歳の男性で大量の下血とそれによる貧血症状のため入院した.消化管の精査を行ったが出血源は不明であった.血液生化学検査で肝機能障害がみられたことから,肝超音波検査と肝動脈造影を行ったところ,肝右葉に海綿状血管腫を思わせる腫瘤が発見された.肝海綿状血管腫の破綻によるhemobiliaが下血の原因と考え,肝右葉部分切除術を行った.術後下血は全くみられなくなり,第28病日軽快退院した.切除標本の病理組織学的検索ではPeliosis hepatisと判明し, Yanoff & Rawsonによる分類ではI型(parenchymal type)に属するものと考えられた.
  • 碓氷 章彦, 蜂須賀 喜多男, 山口 晃弘, 近藤 哲, 堀 明洋, 安井 章裕, 広瀬 省吾, 山田 育男, 深田 伸二, 宮地 正彦, ...
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1469-1476
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Periarteritis nodosaは全身諸臓器をおかす血管炎で,消化器症状は比較的高率に認められるが,開腹術を必要とする症例は少ないといわれている.われわれは最近,胃,小腸,大腸の多発性壊死性潰瘍をきたし,透過性腹膜炎を合併し死亡した71歳男性と,回腸末端の多発性壊死性潰瘍で,手術により救命し得た55歳男性の2症例を経験し,組織診でPNの診断を得たので報告する.
    又, PNで開腹術が施行された本邦報告例は自験例を含め33例で,男性21例,女性12例で男性に多く,年齢は9~77歳,平均50.6歳で,中高年層に好発していた.小腸病変は18例にみられ,最も高率で,主に腸間膜付着部対側に位置する輪状,斑状または分節状の多発性壊死性潰瘍で, 8例に穿孔がみられた.胃病変は7例で,胃角部小弯の島状ないし帯状潰瘍が多かった. 33例の予後は生存16例,死亡15例,不明2例で死亡率は48.4%であった.
  • 池沢 輝男, 長谷川 洋, 前田 正司, 中神 一人, 仲田 幸文, 城 卓志, 小野木 宏
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1477-1482
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    バリウムは消化器疾患の診断上欠くことのできない造影剤であり広く用いられているが,時に重篤な合併症として穿孔によるバリウム腹膜炎をおこすことがあり,その予後は不良といわれている.最近われわれは,このバリウム腹膜炎の2例を経験し手術的に救命しえたので報告する.
    症例1は76歳女性で,腹痛を主訴に来院した.腸閉塞を疑い,注腸造影を施行したところ,バリウムの腹腔内流出を認めたため, 2時間30分後に緊急開腹術を行い救命した.直腸憩室穿孔が原因と思われた.
    症例2は38歳男性で十二指腸潰瘍の既往があり腹痛精査のため某医で胃透視をうけた.その後腹痛増強するため5日後に腹部X-Pとり,腹腔内バリウムを指摘された.このため当院へ転送され緊急開腹術を行い救命しえた.
    本疾患は医原性疾患のためか報告例は少く本邦では自験例を含めて27例の報告しかみられなかった.穿孔部位はS状結腸と直腸や大部分を占めており上部消化管はまれであった.
    本疾患の治療は,早期手術,大量の生食水による腹腔内洗浄,術前中後にわたり大量の輸液,強力な抗生剤の投与,血漿製剤の投与が基本的に必須であり,穿孔部の外科的治療は閉鎖もしくは切除が原則となる.
    予後は抗生剤の普及する以前は51%の死亡率といわれたが,本邦例では22.2%と減少している.しかしながらその予後はまだ良好とはいえない.
    この重篤な疾患を予防する為には,検査時に愛護的に操作を行い,腸内圧の急激な上昇を防くように注意し,特に老人や腸管壁の脆弱性が疑われる患者には尚一層の注意が必要と思われる.
  • 中口 和則, 杉立 彰夫, 土山 牧男, 河原 勉
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1483-1487
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    hemangiopericytomaは, Zimmermannのいうcapillary pericytes由来の血管性腫瘍といわれている.われわれは,本腫瘍の後腹膜腔発生例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告するとともに,本邦報告例の集計を試みた.
    症例は,腹部腫瘤を主訴とする21歳の女性で,術前検査にて後腹膜腔に発生した血管性の腫瘍を疑った.摘出術を施行し,病理組織学的にhemangiopericytomaと診断された.本腫瘍の後腹膜腔発生例は,本邦では,自験例も含め14例であり男女比は同率で年齢は17~68歳に及ぶ.その中には肺や肝へ転移したものが4例もあり,本腫瘍の悪性腫瘍としての側面がうかがわれ,術後の定期的なfollow upが必要である.
  • 刀山 五郎, 亀山 雅男, 福田 一郎, 和田 富雄, 松井 征男, 谷口 健三, 岩永 剛
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1488-1492
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    自然脱落をきたしたきわめてまれな1例を含む3例の大腸脂肪腫を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例1は68歳の男性で,腹痛,粘血便,腹部膨満感を主訴として来院した.注腸X線および大腸内視鏡検査で下行結腸に腫瘤型の隆起性病変が認められ腸重積を生じていた.入院第24病日および25病日に便中に拇指頭大の組織様排泄が認められ,脂肪組織の診断を得たが,大腸癌も否定できないので左半結腸切除術を施行した.切除標本には腫瘍は認められず,一部脂肪組織が残存していた.
    症例2は52歳の女性で,下腹部痛,粘血便を主訴として来院し,注腸X線および大腸内視鏡検査で下行結腸に腫瘤陰影がみられその部は腸重積像を呈していた.生検で脂肪組織が認められ,脂肪腫疑いで下行結腸部分切除術を施行した.切除標本では3.0×2.9×(+2.5)cm大の腫瘤を認め,組織学的には,成熟した脂肪細胞からなり,粘膜下層に限局していた.
    症例3は59歳の女性で,当センタードックにて,経口消化管透視で上行結腸の狭窄を指摘され入院となった.注腸X線および大腸内視鏡検査で上行結腸の腫瘤を指摘され,粘膜下腫瘍の疑いで上行結腸部分切除術を施行した.切除標本では, 5.5×5.5×(+3.0)cm大の半球状の腫瘤が認められ,組織学的には固有筋層内に存在し,成熟した脂肪細胞からできた腫瘍であった.
    大腸脂肪腫の本邦報告例のうち,自然脱落をきたした症例は極めてまれであり,また本邦73例中32例に腸重積の合併がみられた事は注目すべき点であると考えられる.
  • 門田 俊夫, 三村 一夫, 岩佐 博, 前川 貢一, 畑山 純, 篠崎 伸明, 鈴木 隆夫, 内山 冨士雄, 上野 文昭
    1983 年 44 巻 12 号 p. 1493-1496
    発行日: 1983/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸の平滑筋腫は,多くが単発性で,多発性平滑筋腫の本邦報告例は,本例を含め7例に過ぎない.今回我々は, 33歳男性で以前より下血と貧血をくり返し精査を受けるも出血源不明で経過観察中大量下血で緊急入院.入院後も出血持続したため,緊急動脈造影を施行.小腸に出血部位を確認したため緊急手術を行ない,空腸に管外性に発育した大小計7個の血管に豊んだ腫瘍を認め,この部を切除した.病理組織学的にはSpindle型の細胞の密な増殖を認めたが,悪性所見はなかった.空回腸良性腫瘍の種類別頻度は,本邦と米国で同じ傾向を示し,平滑筋腫,脂肪腫,血管腫の順であった.しかし多発性平滑筋腫は極めて少なく,その発症年齢は40~50に多かった.腫瘍の大きさは種々で,症状は出血や貧血が多く,術前診断のつかないまま開腹を余儀なくされる場合が多いと考えられる.診断の糸口としては,病歴,診察,静脈確保等緊急処置の後,胃管を挿入し,胃内容に出血を認める時は緊急内視鏡,その他は肛門鏡, S結腸鏡を行なう.この部に変化を認めない時は,緊急動脈造影を行なう.
    病理組織学的に平滑筋腫の良性,悪性の鑑別はさほど困難ではないが,良性のものが後に悪性化したり,肝転移を認めた報告もある.特に腫瘍の径が5 cmを超えるものでは,組織学的に良性でも悪性を念頭に経過を観察する必要がある.本症例は径5 cm以上の平滑筋腫が多発しており,病理組織的には良性でも,臨床的には悪性の性格を有すると考えて,局所再発,肝転移の発生の可能性を念頭におきつつ,厳重な経過観察が必要と思われた.
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