日本臨床外科医学会雑誌
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46 巻, 5 号
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  • 術後急性期代謝状態との関連性
    長岡 秀郎, 矢野 真, 鈴木 知行, 登内 真
    1985 年 46 巻 5 号 p. 561-567
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    開心術中において,とくに長時間の体外循環(CPB)から離脱直後の末梢循環動態は術後急性期の患者の状態に大きな影響を及ぼす.一方,深部温度計を用いて計測された中枢・末梢深部温度較差(DBT・Diff)は末梢循環動態をよく反映し,これが増大するときは一般に末梢循環不全状態にあるといわれる. 60分以上の完全CPBを要した22症例(定常流CPB 10, 拍動流CPB 12例)において,主にCPB離脱直後のDBT・Diffと術後急性期の糖および組織代謝状態との関連について検索した. CPB離脱直後のDBT・Diffは定常流で平均4.4°Cに対して拍動流で1.9°Cと小さい傾向がみられた. CPB離脱直後のDBT・Diffと術後1時間の動脈血中lactateとの間に有意な正の相関, insulin-glucagon ratio (I/G ratio) およびc-peptideとの間に有意な負の相関を認めた.即ちCPB離脱直後のDBT・Diffが大きな症例ほど術後急性期にlactateは蓄積し,内因性insulin分泌は低下してcatabolic responseに傾くことが判明した.とくにCPB離脱直後のDBT・Diffが4°C以上例では4°C以下例に比して術後1時間のlactateは高く, I/G ratioは低く, c-peptideは有意に低値であった.したがって, CPB離脱直後のDBT・Diffが4°C以上を示す例においては,末梢循環不全状態が術後急性期の糖および組織代謝に影響を及ぼすことが予測され,可及的早急な末梢循環改善策が必要と思われた.その対策として,著者らは原因の治療に加えて,選択的に細小動脈平滑筋を弛緩させ,心臓のafterloadを減少させるhydralazine 1.0~1.5γ/kg/minの持続静注法が有効であることを認めた.
    以上のごとく,開心術中にDBT・Diffをモニターすることにより,術後急性期の代謝状態を比較的早期に予測し,対策を講ずることができ,極めて有用な方法であると思われた.
  • 山崎 慶二郎
    1985 年 46 巻 5 号 p. 568-574
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
  • 石井 康祐, 渡部 洋三, 小島 一雄, 城所 仂
    1985 年 46 巻 5 号 p. 575-580
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    男子乳癌は比較的稀な疾患とされ,全乳癌の約1%の発生率で,本邦でも約310例が報告されている.今回我々は3例の男子乳癌を経験したので,それらの症例報告および,過去10年間に報告された男子乳癌症例についてその特徴などについて統計学的分析を試みた.発生要因としてはestrogen投与, androgen優位説,女性化乳房症, Klinefelter症候群などのホルモン的背景,慢性刺激,外傷の既往などの器械的刺激,さらに遺伝等があげられている.近年腫瘍のhormone receptor測定が可能となり男子乳癌ではestrogen receptor陽性例が多いことより将来は治療の面でも活用されるであろう.発症年齢は50歳以上に多く,女子乳癌とはそのピークが10~20歳の差が認められた.また主訴は腫瘤の触知がほとんどであり,腫瘤の占居部位は圧倒的にEに多く左右差を認めない.古くから男子乳癌は予後が悪いとされているが,患者の男子乳癌に対する病識,羞恥心などにより病悩期間が長くなり訪医が遅れるのが現実である.そのために腫瘤が増大し予後が悪くなる一大原因になっている.以上のような特徴をもった男子乳癌症例について若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 阪内 正純, 浜田 洋一郎, 遠藤 薫, 工藤 清太郎, 佐藤 泰和, 阿部 邦彦, 佐々木 達哉, 新津 勝宏
    1985 年 46 巻 5 号 p. 581-586
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    解離性大動脈瘤の治療成績は近年著しく向上しているが,未だ手術死亡率は高く安定した手術成績を得る段階には至っていない.我々は最近注目されているリング付グラフト移植法を6例の解離性大動脈瘤(I群)に用い,同期間にlow porosity woven dacron graftを用いて手術を行った解離性大動脈瘤6例(II群)と比較検討した. I群はI型2例, III型4例で年齢33~64歳,平均51歳,男5例女1例,全例慢性期の手術であった. II群はI型1例, II型2例, III型3例,年齢35~70歳,平均49歳,男5例女1例,急性期手術3例,慢性期手術3例であった.手術死亡は1群2例(腎不全,不整脈) II群1例(腹膜炎)で,遠隔期死亡はI群1例(グラフト閉塞), II群1例(脳障害)であった.グラフトに関連する合併症として, I群に真菌感染によるグラフト閉塞1例,グラフト周囲よりLeakage 2例を認めた. II群では認めなかった.大動脈遮断時間はI群の方が短い傾向にあった.両群とも出血症例はなかった.以上より,リング付グラフト移植法は手技が簡便であり,吻合部出血が少ないことより,グラフト移植法として秀れていることが確認されたが,グラフトを大動脈内の至適部位に適合させる方法に更に工夫と習熟が必要であった.
  • ならびに本邦報告33例の文献的考察
    山岡 憲夫, 内山 貴堯, 南 寛行, 山内 秀人, 山口 広之, 辻 浩一
    1985 年 46 巻 5 号 p. 587-593
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肺葉外肺分画症は稀な先天性肺疾患である.肺葉内肺分画症に比べて頻度も少なく,解剖学的にも,発生・成因についても種々の学説がある.今回,著者らは4歳女児で,巨大なニボー状陰影を呈した肺葉外肺分画症を経験したので,文献的考察を加え報告する.
    症例は4歳1ヵ月女児で,発熱を主訴として来院した.胸部単純X線上,前中肺野内側に6.5×5.5cm大のニボー状陰影がみられ,抗生物質を投与するも解熱しないため手術を行った.前縦隔に位置する肺葉外肺分画症であり,異常動脈は不明確であった.また,合併奇形は認められなかった.術後19日目に全快退院した.
    肺葉外肺分画症は,剖検2,000~10,000例に1例と言われ稀である.本邦では本症例も含めて33例が報告されており,これらの文献的考察を行った.男女差はなく, 10歳未満が61%と幼年者に多く,発生部位も左側76%, 横隔膜上58%と最も多く,左側横隔膜上が好発部位であった.また,半数近くが無症状であり,有症状では呼吸器感染症状が最も多かった.術前に診断が下せたのはわずか20%であり,すべて血管造影がなされていた.異常動脈が不明確30%, 還流静脈が不明確53%であり,血管系の発育が乏しく,またその起始部にばらつきがみられた.合併奇形は58%と過半数以上であり,先天性横隔膜異常症が19%と最も多かった.
    小児で感染をくり返す症例や,縦隔腫瘍と鑑別困難な症例,横隔膜ヘルニアなどの症例では肺葉外肺分画症も疑って術前検査を行い,手術へもっていくべきである.また,肺葉外肺分画症の発生・成因は,血管系の発育が乏しく,合併奇形が多いことより,血管系の発育を二次的とした副芽説がより妥当な説と思えた.
  • 久保 正二, 酒井 克治, 木下 博明, 溝口 精二, 広橋 一裕, 井川 澄人, 長田 栄一
    1985 年 46 巻 5 号 p. 594-600
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男.主訴は腹部膨満.初回入院時,肺肝境界は第4肋間で,肝は右鎖骨中線上6横指触知され, GOT, LDH, ICG 15分値の軽度上昇を認めた.胸部X線像上,右横隔膜が著明に挙上し, CT,血管造影像上,右葉のほぼ全域を占める巨大な腫瘍が認められた. 2回のTAEによって臨床症状の改善と腫瘍の縮小が認められたため,昭和57年3月,右3区域切除が施された.その際腫瘍が横隔膜と強固に癒着し,術中腫瘍被膜の一部を損傷したため,開胸術の追加と横隔膜の一部合併切除が行われた.摘出標本は2,950g.腫瘍の65%は壊死に陥り,乙型肝硬変を併存したEdmondson III型の肝細胞癌であった.しかし術9ヵ月後,胸部X線像で右側胸部にextrapleural signを伴う異常陰影が出現した.そこで昭和58年10月,再開胸すると右側胸部で第6, 7肋骨内側に接して母指頭大とくるみ大の腫瘍が,また第3肋間内側に小指頭大の腫瘍が認められたためそれらを摘出した.腫瘍は壁側胸膜より胸腔内に突出して存在し,肝細胞癌の胸膜播種性転移と考えられた.なお初回手術より2年8ヵ月を経た現在,再発徴候なく健在である.ところで肝細胞癌の胸膜転移は約4.7~9.1%の頻度で発生する.本例では初回手術時に腫瘍が巨大であったため開腹下に腫瘍と横隔膜との剥離が困難であり,腫瘍被膜の一部を損傷したのち開胸術を追加した.その結果,癌細胞の胸膜播種性転移を来したと考えられた.したがって横隔膜直下の腫瘍,特に巨大肝癌に対しては,まずTAEにより腫瘍を縮小させるとともに,積極的に開胸操作を加え横隔膜合併肝切除を試みるべきである.さらに本例のように再発例に対しても積極的な切除療法が肝癌の治療成績の向上をもたらすと考えられた.
  • 藤原 敏典, 河野 佳宜, 善甫 宜哉, 中村 勝昭, 江里 建輔, 毛利 平
    1985 年 46 巻 5 号 p. 601-604
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    縦隔の血管腫はまれな疾患であり全縦隔腫瘍の0.4%を占めるにすぎない.われわれは最近,右後上縦隔に生じた血管腫の1例を経験したので報告する.
    症例は71歳の男性で嗄声を主訴として来院した.胸部X線写真, CT検査で右後上縦隔腫瘍と診断し腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は完全に被包されており周囲血管との交通はなかった.病理組織検査で海綿状血管腫と診断された.
  • 織田 耕三, 山本 正博, 奥村 修一, 川田 哲己, 藤尾 陽一, 足立 担, 大柳 治正, 斉藤 洋一
    1985 年 46 巻 5 号 p. 605-612
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    我々は最近,慢性膵炎に合併した縦隔内膵仮性嚢胞の2例と,うち1例に膵性胸水を認めた症例を経験したので,文献的考察を加えて,その病態,診断,治療について検討した.症例1は呼吸困難と背部痛を主訴とし,右側に大量の膵性胸水を認め,又,縦隔内膵仮性嚢胞を合併した.胸水・嚢胞液のアミラーゼはそれぞれ122,200 S.U./dl, 476 S.U./dlと高値であった.又, ERPにより膵管より上方へ向かう瘻孔が造影された.症例2は嚥下困難を主訴とした縦隔内膵仮性嚢胞の症例で,尿中アミラーゼの上昇と,上部消化管透視にて食道の壁外性の圧排と狭窄を認めた.又,嚢胞内液のアミラーゼは8,240 S.U./dlと高値で,ピリルピンも14.2mg/dlと高値であった.
    我々が調べ得た本邦での内膵液瘻の報告例は膵性胸水65例,膵性腹水16例,合併7例,縦隔内膵仮性嚢胞5例であり,そのほとんどが男性であった.その発生機序は膵管の破綻による膵液の腹腔内への,あるいは後腹膜腔を通じての縦隔内,または胸腔内への進展によるものと考えられる.従って,胸・腹水内のアミラーゼは極めて高い値をとることが多い.症状は比較的穏やかであるが,臨床症状からは肝硬変,結核性胸・腹膜炎,悪性疾患等によるものと鑑別し難いことも多く,診断に際しては本症を念頭におくことが第1の要点であると考えられるが, ERP等により瘻孔を確認すれば診断は確定的と言える.治療は急性膵炎に準じた保存的療法が原則とされているが,数週間の内科的治療無効例に対しては,内瘻造設術,膵尾側切除術等の外科的治療が必要であり,その治療成績は一般に良好である.
  • 根本 明久, 花上 仁, 浅越 辰男, 北野 善昭, 宮川 貞昭, 堀江 文俊, 箭本 浩, 西村 志郎, 四方 淳一
    1985 年 46 巻 5 号 p. 613-617
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例はBorrmann III型胃噴門部癌の診断のもとに来院した71歳の男性である.
    上部消化管造影にて,中部食道右側に憩室様の突出を認め,その頂点より右気管支への造影剤の流入を認めた.内視鏡検査では,門歯より約25cmの中部食道右側に陥凹病変を認めた.
    食道気管支瘻ならびに胃噴門部癌の診断のもとに,瘻管を含めた中下部食道,胃を所属リンパ節と共にen-blockに切除した.再建は胸腔内食道・空腸Roux-en-Y吻合とした.
    瘻管およびその周囲に炎症所見はなく,瘻管は食道筋層を有し,臨床経過と合わせて,先天性食道気管支瘻と判定した.
    術後経過は順調で,約3ヵ月後軽快退院となった.
  • 荻野 和功, 冨田 一成, 佐野 正憲, 浅井 隆志, 南 正樹, 杉原 順一, 曽布川 憲充, 川口 勝徳
    1985 年 46 巻 5 号 p. 618-623
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道癌の発育進展過程を知る上で不可欠と思われる長期経過観察は,偶然の機会でしか経験できないためほとんど報告されていない.私達はX線上retrospectiveに約4年間の経過を観察し得た食道癌の1症例を経験した.
    症例は76歳男性.定期検診にて食道の異常を指摘され入院となった.食道X線所見ではEiIm,前壁に長径38mmの堺界明瞭な腫瘤型陰影欠損が認められた. X線による検討により約4年前こEiIm,前壁に長径26mmの境界明瞭な表在隆起型病変が認められ,経時的に施行していた食道X線写真によりこの表在隆起型病変が発育進展してゆく過程をretrospectiveに観察することができた.切除標本より腫瘍長径は38mmで隆起型,境界明瞭で深達度a1,低分化型扁平上皮癌であった.また癌巣の先進部にはリンパ球を主体とする細胞浸潤が著明に認められ,術後2年3ヵ月経過した現在も癌の再発徴候はない.
    X線上異常所見を認めてから4年間の長期経過観察は文献上ほとんどない.またX線上表在癌と考えられる3年間での長径進展は5mmであったのに対し,進行癌と考えられる1年間での長径進展は7mmであり,発育状況をうかがい知ることができた,病理組織学的には癌巣先進部にリンパ球を主体とする細胞浸潤が認められ予後良好の因子と考えられた.以上retrospectiveに長期経過を観察し得た食道癌の1例を報告し,文献的考察を加えた.
  • 岡 統三, 河野 暢之, 谷口 勝俊, 山本 達夫, 福永 裕充, 尾野 光市, 柿原 美千秋, 浅江 正純, 玉置 陽司
    1985 年 46 巻 5 号 p. 624-628
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹膜垂は,時に炎症をおこし,腹膜垂炎として急性腹症の様相を呈すると報告されている.今回,私達は腹膜垂炎により腸閉塞を呈した稀有な症例を経験した.
    症例は,肥満型の75歳の男性で,腹痛に続いて嘔吐,腹部膨満等の腸閉塞症状を呈した.保存的治療で改善せず,開腹したところ,回腸未端部の小腸が,横行結腸の腹膜垂と盲腸の癒着により形成された索状物によって絞扼されていた.索状物を形成していた腹膜垂を切除して腸閉塞を解除した.組織学的検索で,腹膜垂には,うっ血,出血,血栓形成,炎症細胞浸潤の所見がみとめられ,腹膜垂炎による腸閉塞と診断した.
    腹膜垂による腸閉塞では,腹膜垂炎が先行し,癒着による索状物形成,癒着による屈曲,または炎症性腫瘤による圧迫によって腸管内腔の閉塞をきたす.以上に加え,腹膜垂炎の本邦報告例を集計し,文献的考察を加えた.
  • 岩瀬 和裕, 金 昌雄, 平田 展章, 山本 文夫, 高橋 俊樹, 藤原 清宏, 中川 勝裕, 岸本 康朗, 前田 克昭, 松岡 国雄, 藤 ...
    1985 年 46 巻 5 号 p. 629-633
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    S字状結腸捻転症は従来観血的に治療されることが多かったが,比較的最近になって内視鏡,特に大腸ファイバースコープによる非観血的整復成功例が報告される様になってきている.今回我々は,大腸ファイバースコープにより非観血的に整復し得たS字状結腸捻転症の1例を経験したので報告する.
    本症に対する内視鏡的整復の本邦報告例は,今回調べ得た限りでは,過去9報告, 21例であったが,この内記載の詳細なものに自験例1例を加えて若干の検討を行った.当院における本症緊急手術症例4例との比較においては,年齢および病悩期間については差がなかったのに対し,初診時白血球数については手術症例において高い傾向を示した.このことは,非観血的整復の適応限界を決定する上で,腸管壊死の所見や腹膜刺激症状の有無に加えて,白血球数増加等の炎症所見の有無も一助となり得る可能性が示唆されているものと考えられた.
  • 真船 健一, 関根 毅, 須田 雍夫, 藤田 吉四郎, 島村 香也子
    1985 年 46 巻 5 号 p. 634-639
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    villous adenomaは本邦では比較的稀な疾患とされているが,近年増加の傾向が認められている.また,その癌化頻度が高いため,外科的な治療方針が問題となっている.最近,われわれは直腸に発生した本症の1例を経験した.症例は76歳,男.下痢を主訴として,埼玉県立がんセンター受診,直腸(RaRb)に,ほぼ全周性の軟かい腫瘍が認められた. villous adenomaの診断で,前方切除術を施行した.病理組織学的検索では,粘膜固有層に限局する広基性の10×9cmの大きなvillous adenomaで,中等度,一部高度の異型性を示したが,悪性所見は認められなかった.現在,術後7ヵ月経過,外来にて観察中であるが,再発の徴候はない.
    本邦報告例のうち,占居部位を直腸に限り,腫瘍の大きさ,癌化の有無が明記されている自験例を含めた53症例について検討すると,腫瘍の最大径が5cm未満のものでは,癌浸潤が粘膜下層を越えるものは存在しないが, 8cm以上では,癌化の頻度が83%と高率で,進行癌も多く含まれている.しかし,一概には,腫瘍の大きさのみでは判断できず,腫瘍の性状-触診による硬さや可動性,表面の性状などの所見が重要であり,総合的に検討し,症例に応じて手術術式の選択を行なう必要がある.すなわち,原則的には局所切除術で十分であるが,硬さや可動性などにより,癌浸潤が強く疑われる場合には,リンパ節郭清を伴う直腸切断術や前方切除術などの根治手術が必要であると考える.
  • 内藤 広郎, 今村 幹雄, 亀山 仁一, 佐々木 巌, 今野 喜郎, 土屋 誉, 成井 英夫, 斉藤 芳彦, 佐藤 延子, 山根 誠久
    1985 年 46 巻 5 号 p. 640-646
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸手術を施行した11例を対象として,手術3日前よりTobramycin (以下, TOB) (240mg×4/日)を単独経口投与した群6例,同量のTOBの他にVancomycin (以下, VCM) (500mg×4/日)を併用経口投与した群5例に分け,便中細菌叢の変動,術中に採取した末梢静脈血,門脈血,腹腔内浸出液および術後ドレーン浸出液の細菌検出率,副作用について両群の比較検討を行ない,以下の成績を得た.
    1) 便中細菌叢についてみると, TOB, VCMを併用経口投与した場合, TOBを単独で経口投与した場合に比して嫌気性菌が著明に減少した.一方,好気性菌に関しては両群ともに著明に減少した. 2) 術中に採取した門脈血および腹腔内浸出液の細菌検出率はTOB・VCM併用群でTOB単独群より低い傾向にあったが,末梢静脈血の細菌検出率は両群において全例陰性であった. 3) 術後1日目のドレーン浸出液の細菌検出率はTOB・VCM併用群の方がTOB単独群より低値を示したが,術後2日目以降では両群間の差は認められなかった. 4) TOBおよびVCMの経口投与による副作用は全症例で認められなかった.以上のように, TOBおよびVCMを併用して経口投与することは,細菌学的検討でも良好な成績であり,副作用もみられないことから,大腸手術の前処置として今後大いに試みられてよい方法であると考えられた.
  • 佐藤 浩道, 米光 一明, 石田 照佳, 花宮 秀明, 吉田 裕利, 中橋 恒, 井上 哲也, 立石 春雄, 皆川 清三, 大脇 義人, 瀬 ...
    1985 年 46 巻 5 号 p. 647-655
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    S状結腸憩室炎に起因するS状結腸膀胱瘻は,欧米では比較的多い疾患であるが,本邦では極めて稀であり, 41例の報告をみるにすぎない.しかし,本邦でも大腸憩室症の増加にともない,本症の発生も増加することが予測され,今後注意すべき疾患である.
    我々は,本症の1例を経験したので,本邦報告例の文献的考察を加えて報告する.
    症例: 46歳,男.病歴に結腸憩室炎があり,以来2年間,膀胱刺激症状が持続した.便柱狭小を来たし,逆行性注腸造影にてS状結腸の狭窄像と小憩室を認めた.瘻管造影は不成功だったが,検尿にて尿中に糞便が混じていた.膀胱鏡検査で,糞便が膀胱内に押し出されるのを確認し,本症と診断した.一期的に根治術を施行し全治せしめ得た.
    本症の診断は,特有の病歴+症状に消化管造影と泌尿器科的検査を組み合わせれば比較的容易であるが,一般に病悩期間が長いことはなお診断にあたって留意すべきことと考えられた.
    治療は根治術を施行すべきである.特に瘻孔の単純切除では再発が必至であるため, S状結腸切除+膀胱部分切除が望ましい. One-stage operationかmultiple-stage operationかの選択は,夫々の利点をもとに主張されているが,近年ではOne-stage operationが主流をなしている.一方,局所炎症・全身状態不良などの時には, Multiple-stage operationが必要である.根治術の成績は良好である.
  • 桜井 恒久, 山田 育男, 太田 敬, 松原 純一, 塩野谷 恵彦, 吉田 文直, 中村 明茂
    1985 年 46 巻 5 号 p. 656-662
    発行日: 1985/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    血液透析の進歩に従い,慢性腎不全の患者の生命予後は著しく向上し,長期慢性透析患者数も増加してきた.近年,これら透析患者に対しても積極的に外科手術が行なわれ,その安全性もかなり確立されてきた.しかし,その多くは消化器,泌尿器領域の手術であり,血管疾患に対するものはまだ少ない.
    今回,我々は透析患者で血管外科手術を必要とした2症例を経験したので,これを報告し,透析患者に対する血管外科手術についても考察をくわえた.症例1は53歳男子の腹部大動脈瘤であり,瘤切除とダクロンの人工血管による血行再建が行なわれた.症例2は65歳男子の閉塞性動脈硬化症で,右足部の壊死のため外腸骨-膝窩動脈バイパスが行なわれた.両者とも血行再建術は成功した.
    透析患者においても,術前,術中,術後管理を十分行なえば,一般の場合と同様に血管外科手術を行ないうる.そのため,適応があれば,血管疾患の病態の評価は積極的に行なわれるべきである.
    Digital Subtraction Angiographyは術前検査として,特に透析患者には有用であると思われる.
    術中,術後管理においては, Swan-Ganzカテーテルによる肺動脈圧モニターとGabexate mesilateによる術直後からの透析は,水分量及び電解質バランスなどの是正,維持に極めて有用である.
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