日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
Print ISSN : 0386-9776
ISSN-L : 0386-9776
45 巻, 12 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
  • 田村 利和, 生野 文彦, 岡田 憲三, 福田 洋, 川原 弘行, 山本 雅資, 森本 博文, 古味 信彦, 赤木 郷
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1545-1550
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当科の過去10年間の甲状腺手術例中迅速診断を施行した141例について検討を加えた.甲状腺疾患別にみた誤診率は26例(18.4%)であり,良・悪性の誤診は7例(false positive2例, false negative 5例)であった.誤診原因を検討すると,従来より懸念されていたcryostatによる迅速標本の不良性によるものは比較的少なく,外科医の迅速材料採取部位に問題のあるものや病理医の見落しを含む誤診によるものが多かった.また, false negative例でも術中肉眼所見により癌と診断したものも多く,外科医の術中肉眼所見の把握が重要と思われた.甲状腺疾患の術前の良・悪性の鑑別は補助診断法でも困難なことが多く,迅速診断を併用することにより治療法を選択している現状では,誤診原因の大半を占める外科医および病理医の不注意を正せば,簡易な診断法としてますます有用であろう.
  • 肝切除と胃上部切除の併施について
    中村 亮, 村井 隆三, 佐々木 寿彦, 三浦 英一朗, 三森 教雄, 岩本 公和, 長崎 雄二, 安藤 博, 中村 浩一
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1551-1557
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    近年,画像診断の進歩により比較的小さな肝細胞癌が発見されるようになり,同じく肝硬変を原疾患とする食道静脈瘤にも肝細胞癌の合併を経験することが多くなっている.かかる症例に対する治療は双方の疾患に根治性が望まれるが,往々に高度の肝障害のため満足な治療が行ないえない.
    今回われわれは教室で経験した肝切除30例をもとに,肝切除適応基準を設定し,この基準にしたがい食道静脈瘤合併肝細胞癌3例に肝切除術,胃上部切除術,脾摘術を一期的に施行した.
    肝切除適応基準は血清ビリルビン, γ-グロブリン,血清コリンエステラーゼ,プロトロンビン時間,ヘパプラスチンテスト,チモールテスト, ICG R15の7項目を各々100分率比にて算出し,その総和によるものである.
    また成績は1例が後出血による再開腹後肝不全となり術死, 2例は1年6カ月, 1年を経過し再発を認めていない.
    今回行った一期的手術は出血量,手術時間などにいまだ検討を要するが,術前の手術適応基準を明確にし,厳重な管理のもとに行なえば決して過大侵襲な手術ではなく,食道静脈瘤合併肝細胞癌に対して有効な治療法と考えられた.
  • 幕内 雅敏, 高安 賢一, 宅間 哲雄, 山崎 晋, 長谷川 博, 西浦 三郎, 島村 善行
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1558-1564
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝門部胆管癌に対する拡大肝葉切除術は非癌部の切除量が多い故に,術後リークや肝不全など術後合併症を起し死亡することもまれではない.そこで,肝切除後の残肝負荷の軽減を目的として, 14例に肝内門脈枝塞栓術を行った.
    肝内門脈枝塞栓術後は発熱,疼痛とも軽微であり,血清トランスアミナーゼ値は10日前後で前値に復した.
    開腹時門脈塞栓側の萎縮は著明ではなく, 3例に色調の変化と細い皺が肝表面に認められたにすぎなかった.
    肝内門脈枝塞栓術施行14例中9例に拡大肝葉切除が行われた.右横隔膜下膿瘍2例, IVHカテーテル感染,術後HB肝炎各1例の合併症をみたが縫合不全は1例もなく,全体として術後管理が容易であった.
    本法は,本庄の門脈枝結紮術の発想にヒントを得て施行したものであるが,血管造影の手技を応用するので,結紮術による癒着もなく肝門の脈管の剥離は無処置例と同様に行える利点を有する.また,塞栓術によって不利となる点は全く認められず,非塞栓側の代償性再生肥大,肝切除後の門脈圧の上昇の軽減など,拡大肝葉切除の施行には有利な点が多いと思われた.
  • 川田 哲己, 山本 正博, 奥村 修一, 織田 耕三, 藤尾 陽一, 大柳 治正, 斉藤 洋一
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1565-1573
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1971年1月より1983年12月までに当教室で手術を施行した慢性膵炎症例46例について術後経過と予後の検討を行い次の結果を得た.
    術後直死は1例(2.2%)で膵頭切除術後に縫合不全をおこし,腹膜炎で死亡した.
    術後6カ月以上経過している42例について遠隔成績を検討した.除痛効果は86%にみられたが,術式別では膵切除群7例中全例に効果をみとめたのに対し,膵管減圧手術群では17例中4例に不変例をみとめた. PFD試験による膵外分泌機能の変化では13例中8例に改善がみられたが,膵切除群と膵管減圧手術群間に差はなかった. OGTTでみた耐糖能では22例中改善5例,不変12例,悪化5例で膵管減圧手術群では11例中改善3例,不変7例であったのに対し,膵切除群では5例中改善例はなく3例に悪化がみられた.除痛効果,膵内外分泌機能の変化および就労状況などを加味し総合的に判定した遠隔成績では,良好21例,やや良好12例,不良4例,不明1例,死亡4例であり, 78.6%に満足できる結果を得た.遠隔死亡した4例のうち1例は心筋梗塞, 1例は腹膜炎, 2例は膵切除後の糖尿病コントロール失敗による低血糖が原因と考えられた.遠隔成績不良例4例のうち2例は嚢胞消化管吻合術, 1例は嚢胞外瘻術, 1例は膵管空腸側側吻合術が行われていた.不良の原因としては, 2例が術後も大量飲酒を続けておりその生活態度にも問題があったが,これら4例はともに膵石や膵嚢胞を合併したことから,手術によっても膵石や膵嚢胞のために十分な膵管の減圧効果が得られなかった可能性も示唆された.
  • 寺部 啓介, 酒向 猛, 杉本 一好, 市橋 秀仁, 亀井 秀雄, 近藤 達平
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1574-1578
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当教室で経験した大腸癌症例228例中, 39歳以下の若年者大腸癌33例(14.5%)について臨床病理学的検討を加えた.病理組織を調べると,若年者,高齢者大腸癌共に高分化腺癌が多いが若年者に印環細胞癌(粘液癌)が多い傾向がみられた.組織学的進行度は直腸癌ではstage Iは若年者,高齢者共に17%, stage Vは若年者は42%,高齢者は13%,結腸癌ではstage Iは若年者は0%,高齢者は19%, stage Vは若年者は15%,高齢者は5%と若年者大腸癌に進行度の進んだ症例が多かった.治癒切除率は直腸癌では若年者は76.5%,高齢者は74.6%,結腸癌では若年者は87.5%,高齢者は92.6%と差がなかった.若年者大腸癌の非治癒切除,非切除の原因を調べると,肝転移2例,腹膜播種3例,他臓器浸潤2例であった.癌化を伴うpolyposisは若年者は9.1%に対して高齢者は0.5%,多発癌は若年者18.2%,高齢者は5.6%とともに若年者大腸癌に多かった.印環細胞癌(粘液癌)の予後を調べると, 1例はP1で非治癒切除となり, 3年6カ月で癌性腹膜炎死,他の2例は治癒切除ができ, 1例は11年生,他の1例は5年8カ月他因死であった.治癒切除例の予後を調べると,若年者では1生率91.3%, 3生率86.9%, 5生率86.9%,高齢者では1生率97.8% 3生率79.7%, 5生率73.4%と若年者大腸癌の予後は悪くなかった.現在までの成績では,若年者大腸癌の進行度は進んだ症例が多いが,将来,大腸癌検診の普及に伴い,若年者大腸癌の早期発見が可能となれば,若年者大腸癌の予後は高齢者大腸癌に比して良好となり得ることが示唆された.
  • 佐藤 尚司, 原田 種一, 原太 久茂, 谷口 達吉, 妹尾 亘明, 広川 満良, 真鍋 俊明
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1579-1584
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    頚部腫瘤は,外科医が日常遭遇する最もポピュラーな疾患の一つであるが,その診断には頭を悩ますことが多い.頚部には多くの疾患によって腫瘤を来たす.そのうち約半数が甲状腺由来であるといわれている.そこで甲状腺由来の頚部腫瘤と他の疾患に由来するものとの鑑別が必要となってくる.
    近年アイソトープ検査,超音波検査, CT検査などの画像診断法が進歩し,頚部腫瘤の診断が比較的容易になってきた.しかし術前に確実な診断を行なうことはたいへん難しく,手術にて診断を得ることも少なくない.
    我々は頚部腫瘤を生じ甲状腺腫が疑われ,手術にて頚部食道平滑筋腫と輪状甲状筋横紋筋腫と診断し得た2症例を経験したので報告する.
    症例1は53歳の女性で,前頚部腫瘤を主訴に来院した.術前検査にて確定診断できず,手術を施行したところ食道壁由来の筋腫であり,組織学的にはleiomyomaであった.
    症例2は31歳の男性で,前頚部腫瘤を主訴に来院した.術前に結節性甲状腺腫と診断し,手術にて腫瘤を摘出し,組織学的にrhabdomyomaであった.
    頚部腫瘤を診断する場合,ポピュラーな疾患について精通することはもちろんであるが我々の症例のような稀な疾患の存在を認識することが診断に役立つのではないかと考える.
  • 森岡 秀之, 石上 浩一, 根木 逸郎, 村上 卓夫, 水田 英司, 三井 俊明, 清水 良一, 船本 正明
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1585-1588
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当教室において経験された113例の乳癌根治手術症例に対し,その予後に影響を及ぼすと考えられる諸因子について検討を行い,胸骨旁リンパ節郭清を追加するいわゆる拡大乳房切断術の意義について若干の考察を加えた.内訳は定型的乳房切断術57例,拡大乳房切断術43例,非定型的乳房切断術8例,その他5例である.予後の検討は, 10生率を評価しうる症例がわずかであるため3生率, 5生率にて行った. III期症例における3生率, 5生率を定型的乳房切断術症例と拡大乳房切断術症例とで比較すると,前者では3生率, 5生率それぞれ16.7%, 16.7%であったのに対し後者では75.0%, 50.0%と良好な結果を得た.主病巣の大きさと腋窩リンパ節転移,胸骨旁リンパ節転移とは緊密に関与しており,さらに腋窩リンパ節転移陽性例に胸骨旁リンパ節転移率が高いことを考慮し,症例を選び積極的に胸骨旁郭清を追加すべきであると考えた.
  • 山田 哲司, 吉田 政之, 笠原 善郎, 石田 文生, 平野 誠, 酒徳 光明, 川浦 幸光, 岩 喬
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1589-1592
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺に原発する肉腫は比較的稀なものであるが,我々は2例を経験したので報告する.
    症例1は56歳女性で左乳房C領域に5×5cmの弾性硬の腫瘍を認あた.術中迅速標本で腺癌との組織学的診断をえて,定型的乳房切断術を施行した.術後の組織学的検査で, Reticulum cell sarcomaとの診断をえた.症例2は59歳女性で右乳房A領域に4×3cmの弾性硬の腫瘍を認めた.術中迅速標本で腺癌との組織学的診断をえて,拡大乳房切断術を施行した.術後組織学的検査でosteoid sarcomaとの診断をえた. 2症例はいずれも術後5年生存をえており,肉腫においても合併化学療法が有効であったと考えられた.
  • 内田 賢, 蛯名 大介, 篠崎 登, 細谷 哲男, 石川 正昭, 桜井 健司
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1593-1595
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    触診による乳癌誤診因子を検討した.対象症例は,組織学的診断の判明した910例(乳癌331例,線維腺腫300例,乳腺症267例,その他12例)である.検討した背景因子は, 1) 年齢, 2) 腫瘤の性状((1) 大きさ, (2) 硬度, (3) 境界), 3) 乳癌の組織型である.
    全乳腺腫瘍の正診率は64.5%であった.疾患別にみると乳癌77.0%,線維腺腫76.0%,乳腺症39.0%であった. 1) 若年齢ほど乳癌の正診率が低い. 2) 腫瘤径が3cm以下では乳癌の正診率が悪い. 3) 境界の明瞭な乳癌は正診率が低い,これは線維腺腫との見誤りが多いことによる. 4) 髄様腺管癌は乳頭腺管癌・硬癌より正診率が低い.という結果をえた.
  • 小檜山 律, 宮田 道夫, 稲葉 直樹, 柏井 昭良, 金澤 曉太郎, 羽田 圓城, 川井 俊郎
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1596-1600
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    我々は,最近,成人の憩室を伴った先天性食道気管支瘻の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
    症例は42歳の女性.上部消化管透視にて,偶然,瘻管を指摘され当科へ入院した.瘻孔は憩室を伴い,下部食道右壁より,右B7気管支へ開通していた.
    成人の先天性食道気管支瘻は,本邦で約80例報告されており,そのうち憩室を伴うもの(Braimbridge I型)は,調べえた範囲では16例にすぎず,本例が17例目にあたる.大部分の例が中年以降に発症し,性差は認めない. 1例を除き16例は,右側気管支と交通し,そのうち14例は右下葉と交通している.さらに, B6が9例, B10が2例と,圧倒的に背側へ向かう枝と交通しているのが特徴である.
    治療は,手術が唯一のものであるが,瘻孔切除にとどめるか, dependent lungにも処置を施すかどうかの判断が問題となる.集計例17例のうち, 10例には肺葉切除あるいは区域切除が行なわれており,単なる瘻孔切除のみ施行は7例にすぎない.本例では,術前に,右下葉の機能低下と残存肺がintactであることを知りえ,かつ術中所見も同様であったため,瘻孔切除+右下葉切除術を施行した.肺合併切除の適応に慎重であることは論を待たないが,術前評価,術中所見より,必要とあれば積極的に対処すべきものと考えられる.
  • 種本 和雄, 小林 直広, 近藤 秀則, 朝倉 晃, 畠山 哲朗
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1601-1606
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃軸捻転症は比較的稀な疾患であり,捻転軸,捻転方向等により分類される.近年その報告例は増加したとはいえ,未だ後方型の報告例は少ない.今回我々は,胃切除術により良好に経過した慢性短軸性後方型胃軸捻転症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
    慢性胃軸捻転症に対する外科治療は,諸家により様々な術式で行われている.本症例では,胃の周囲との癒着も強く,偏位・変形も激しかったため,胃切除術を行ない,術後愁訴も少なく良好な経過をとった.慢性胃軸捻転症に対する手術術式は,軽症例には胃固定術で良いが,本症例のように胃の偏位,変形の強い症例に対しては,積極的に胃切除術を行なうことにより,術後愁訴も少なく,良好な経過が得られると考えた.
  • 嶋田 裕, 武田 克彦, 片山 哲夫, 門田 一宣, 平野 鉄也, 河野 幸裕, 小笠原 敬三, 場田 浩二, 鈴岡 正博, 大林 瑞夫, ...
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1607-1610
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    我々は過去30年間に8例の胆嚢捻転症を経験した.いずれも,右上腹部を中心とする疝痛様発作と悪心嘔吐を主訴とし,身体的特徴として多くの症例でるい痩および脊柱の変曲を認めた.全例に10,000/mm3以上の白血球増加を認め,局所の圧痛および筋性防禦が著明であったが,黄疸は認めず発熱も37°C前後であった.術前診断は困難であったが,最近の2症例では,腹部超音波検査が補助診断として有用であった. 30年前の1症例を除き,すべて捻転整復後胆嚢摘出術が行なわれ,救命し得た.全例その成因は,術中に認めた遊走胆嚢と称される解剖学的異常に基づくものと考えられたが,症例によっては不定愁訴として以前より右側腹部痛を訴えており,不完全な捻転を繰り返していたと考えられた.
  • multiple skip lesionの1例
    根木 逸郎, 秀浦 信太郎, 本間 喜一, 内山 哲史, 有吉 秀生, 大石 秀三, 林 弘人
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1611-1615
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    膵頭部癌において膵内多発病巣は切除例の0~20%の頻度で認められる.この膵内多発病巣の存在は,絶対的な膵全摘の適応となる.今回われわれは高度の線維化をともなった膵内多発病巣を有する膵頭部癌を経験した.本症例は術中所見より,門脈,中結腸動脈が主病巣に巻き込まれていたので,膵全摘に,門脈,中結腸動脈の合併切除を行った.組織学的には高分化型管状腺癌で主病巣は頭部下部にあり,体尾部に散在性に多発病巣が認められた.膵全体は線維化が高度で,慢性の膵液のうっ滞があったことを示唆した.リンパ節転移はなく, ew(-)であった.術後15月経過しているが,血糖のコントロールが困難でまだ時に低血糖発作をきたすため入院生活を続けている.しかし再発の徴候は全くない.
    本症例は膵外性の進展,つまりリンパ節転移,血行性転移,膵周囲神経叢浸潤を認めず,膵内にはおびただしいskip lesionを認め,特異な進展様式を示したものと思われる.そして膵全摘と脈管の合併切除によって,はじめて治癒切除が可能であった症例で,比較的良好な経過を辿っているので文献的考察を加えて報告した.
  • 肝膿瘍の発生防止のための肝動脈内抗生剤注入療法
    緒方 賢治, 中熊 健一朗, 大塚 樹也, 田代 征記, 平岡 武久
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1616-1619
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    18歳の男性で交通事故による鈍的肝外傷によって生じた右肝内血腫症例に対して,抗生物質を全身的に投与して保存的に治療した.
    しかし,経過中に高度の発熱を認め,血腫への細菌感染が疑われ,更に血腫が肝膿瘍へ移行することが考えられた為,右肝動脈内抗生剤注入療法を施行し,良好な経過を示した.鈍的肝外傷後の主な合併症の一つである肝膿瘍の形成を予防するためには,肝動脈内抗生剤注入療法も有効な治療法の一つと考えられた.
  • 鈴木 俊輔, 森 昌造, 石田 茂登男, 山下 栄敏, 吉田 博, 大森 英俊, 安部 彦満
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1620-1625
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸脂肪腫は稀な疾患であり,本邦においては1909年に熊谷が報告して以来1982年末までに118例を見るにすぎず,また小腸脂肪腫に関しての詳細な検討は現在まで行なわれていない.今回我々は自験例1例を加えた小腸脂肪腫119例の統計的観察を行い文献的考察を加え報告した.
    症例は47歳女性で,腹痛を主訴として来院し,精査の結果胆嚢結石症並びに上行結腸腫瘍の診断で手術を施行した.腫瘍は回腸末端部に存在し,病理組織学的には粘膜下脂肪腫であった.
    本邦における小腸脂肪腫119例の検討
    男女ともほぼ同数で性差はなく,年齢分布は11~83歳で,平均52歳であった.発生部位別では空腸と回腸の比は約3対7で回腸に多くみられ,とくに回盲弁から口側60cm以内では小腸脂肪腫の77%を占めた.また84%の症例に腸重積の併発を認めたが,その発生頻度と脂肪腫の発生部位又は発育形式との間に一定の関連性はみられなかった.
  • 明石 章則, 飯尾 雅彦, 吉川 幸伸, 中村 正廣, 伊藤 則幸, 中島 信一, 杉野 盛規, 南 俊之介
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1626-1631
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大量下血をきたしたと思われる盲腸脂肪腫を1例経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は下血を主訴として入院し,入院2日目に大量下血を認めた.注腸造影及び大腸内視鏡検査で回盲部の粘膜下腫瘤から一過性に出血したものと考え,回盲部切除術を施行した.切除標本では,盲腸に4.3×1.8cm大の隆起性腫瘤が認められ,組織学的には粘膜下に成熟した脂肪細胞からなる腫瘍であった.
    盲腸脂肪腫の本邦23手術症例のうち,大量下血をきたした症例はなく自験例が最初である.手術後2年余りが経過するも,再下血は認められず便潜血は陰性である.
  • 有吉 秀生, 根木 逸郎, 松本 憲夫, 大石 秀三, 丹黒 章
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1632-1636
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は27歳女性で1年前頃より時々右下腹部痛をきたしていた.注腸透視にて盲腸内腔の虫垂根部附近に凹凸不整な隆起性病変を認めたため悪性腫瘍の診断で入院した.右下腹部に3×5cm程度の卵円形の腫瘤を触知したが,胸写,心電図,血液学的検査等では異常はなかった.盲腸の悪性腫瘍の診断で回盲部切除術を施行した.手術所見では,盲腸内にて虫垂根部に一致して, 2×2cm程度の硬い腫瘤を触知したが漿膜面の変化はなく限局されていた.虫垂は表面の炎症所見軽度で,壁は浮腫状で肥厚しており,内腔に液体の貯留を思わせる波動を認めた.切除標本の肉眼所見では,虫垂根部に乳頭状に隆起した病変を認めた.表面は米粒大から小豆大の大きさのポリープの密集を思わせた.またBauhin弁部にも小豆大のポリープを認めたが,回腸粘膜自体には異常所見はなかった.虫垂は,壁の肥厚著明で,内腔に膿の貯留を認めたが,肥大は著明ではなかった.病理組織学的検索にて虫垂に類上皮細胞とLanghans型巨細胞からなる非乾酪性肉芽腫の存在およびリンパ球の集簇巣を主とする全層性炎症の存在が確認された.また,裂溝の存在,密集性炎症性ポリポージスの存在もあり,典型的なCrohn病と診断された.術後の病理組織学的検索にて虫垂のCrohn病と診断された症例を報告した.本例は3年半を経過した現在,再発をみていない.
    虫垂のCrohn病の概念の確立が期待されている現在,大変興味ある症例と思われた.
  • 中村 亮, 島田 明, 原 芳信, 平沢 正典, 安藤 博, 中村 浩一
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1637-1640
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    65歳男性,昭和48年左腎腫瘍にて左腎摘出術を施行し,病理学的診断はclear cell carcinomaであった.以後肺転移及び脳転移に対して各々手術療法を施行したが,昭56年7月ごろよりタール便を認め,また同年11月に吐血をおこし近医入院し,昭57年1月8日当院へ入院となった.入院後胃内視鏡にて胃体上部に腫瘤を認め,同年2月8日イレウス症状を呈し当科転科,緊急手術となった.手術所見は胃および小腸に多発性の腫瘍を認め,このうち1つが先進部となって腸重積症をおこしていた.手術は胃腫瘍摘出と小腸部分切除をおこない,病理学的診断では原発巣と同様のclear cell carcinomaが認められた.
  • 小野 隆男, 別所 啓司, 小笠原 武, 猪苗代 盛貞, 冨地 信和, 長澤 敏明, 森 昌造
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1641-1647
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腎結腸瘻は稀な疾患であり,これまで本邦において15例が報告されたに過ぎない.最近われわれは腎結腸瘻の1症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は75歳の女性.左側腹部痛と混濁尿を主訴として入院.注腸造影にて左腎下行結腸瘻の診断を得,瘻孔を含めた結腸壁切除と左腎摘出を行った.結腸には病変はなく,術前の尿培養にて多数の大腸菌を認めたが,結核菌は検出されなかった.術後経過は順調で,元気に退院した.
    自験例を含めた16例の検討では本症の原因は欧米と同じく結石性腎感染症が最も多い.そのため腎機能障害例が多かった.手術にあたっては腎周囲は硬い結合織性癒着により剥離に難渋することが多く,腎動静脈を各々個別に見出して処理することが困難であった.術前の血管走行の確認,輪血の準備,十分な手術侵襲への配慮が必要であった.
  • 岡村 弘光, 藤川 正博, 八木 宏之, 桜井 温, 吉川 澄, 韓 憲男, 伊藤 篤, 石田 建三
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1648-1652
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    難治性痔瘻に癌が発生しやすいことは良く知られている.それと同様の発生機序と思われるが,最近我々は,直腸仙骨部瘻が長期化したためにその瘻孔内に粘液癌の発生をみた症例を経験した.
    症例は67歳の男性で, 9年前に直腸癌様の狭窄にて発症し, 4年前より直腸仙骨部瘻を形成した.今回,直腸狭窄と瘻孔切除の目的で腹会陰式直腸切断術を施行し,切除標本にて瘻孔内に限局した粘液癌を認めた.
    本例の直腸瘻は直腸周囲炎より発生したものと考えられ,痔瘻の一亜型と思われる.臨床的にいわれている痔瘻癌の場合は,既に直腸粘膜にまで癌が及んでいることが多く,組織学的に瘻孔より発生した癌と診断することは困難である.本例は,組織学的に瘻孔内にのみ限局した癌であり,発生母地としての慢性炎症の関与が強く疑われる.
    したがって,数年以上経過した難治性瘻孔に対しては,癌の発生を予期し,瘻孔内の生検や分泌物の細胞診等の積極的な検索が必要と思われる.
  • 岩井 武尚, 佐藤 彰治, 山田 武男, 村岡 幸彦, 寺本 研一, 紺野 進, 鈴木 宗治
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1653-1658
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    昭和50年から58年11月の間に経験した医原性を除いた上肢虚血性疾患のうち,動脈撮影を行った69症例について検討した.
    その結果,大動脈炎症候群,粥状硬化症,胸廓出口症候群が中枢側動脈に,塞栓症や線維筋性形成異常が上腕動脈に,バージャー病ではほとんどの例で前腕の動脈に主病変がみられ,膠原病や白ろう病では手指動脈に限局した病変がみられた.一方,動脈瘤や外傷は上肢動脈の全体にわたっていた.
    術式は,バイパス術4例,自家静脈置換または端々吻合11例,第1肋骨切除6例,塞栓除去4例,胸交切4例などとなっており,血行再建術率27.5%, 手術率は46.3%であった.
    術後経過は,血行再建例のうち1例が牽引外傷後閉塞した以外,全例開存をみている.また, drop attackなど椎骨-脳底動脈系虚血症状を併発して鎖骨下-鎖骨下動脈間バイパス術を行った2例のうち1例は,脳神経症状が完全には消失しなかった.胸交切や第1肋骨切除をうけた例では,肋骨切除の1例を除き症状の軽快または消失をみている.
    次に,上肢主要動脈閉塞時の側副路としては,中枢側よりそれぞれ,甲状頚動脈,肩甲下動脈,上腕深動脈,骨間動脈が重要であることが確認できたが,上肢は下肢と較べて変異が少なくないのでその点にも留意すべきであろうと考えられた.
  • 稲田 洋, 勝村 達喜, 藤原 巍, 土光 荘六, 元広 勝美, 木曽 昭光, 野上 厚志, 正木 久男, 中井 正信
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1659-1665
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    川崎医科大学胸部心臓血管外科において過去8年間に緊急手術を施行した破裂ないし切迫破裂性腹部大動脈瘤症例は9例であり,これを同時期に待期手術を施行した腹部大動脈瘤症例44例との比較を行い,破裂ないし切迫破裂性腹部大動脈瘤の外科治療上の問題点を検討した.
    緊急手術例のうち入院後即刻手術を施行しなかったのは2例であるが,うち1例は経過観察中にショック状態となり,また他の1例は切迫破裂の症状が増強したため結局緊急手術を施行せざるを得なくなった.また術前破裂および切迫破裂と考えられた症例は各々4例と5例であり,手術死亡率は破裂例,切迫破裂例,緊急手術例で各々50%, 20%, 33%であり,これに対し待期手術例では0%であった.また生命表法による術後7年累積生存率は緊急手術例で16.7%, 待期手術例で73.2%であった.手術死亡原因では急性腎不全2例,出血1例で,遠隔死亡原因では吻合部縫合不全に起因するものが4例中3例を占めていた.また非特異性炎症性動脈瘤が9例中3例あり,しかもその3例中2例が上記原因にて遠隔死亡した.
    よって今後の手術成績の向上のためには破裂と考えられる症例のみでなく切迫破裂と考えられる症例にも入院後即刻緊急手術を施行すべきであり,その手術は迅速かつ出血を可及的に少なくするよう努め,また炎症性動脈瘤と考えられる症例には手術方法と手技の工夫,慎重な術後管理が必要と考えられる.
  • 加納 宣康, 酒井 聡, 池田 正見, 原 俊介, 雑賀 俊夫, 松原 長樹, 小川 賢治, 森 一郎, 大原 国章
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1666-1670
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近われわれは,手指の悪性黒色腫に胃の多発性早期癌を合併した1例を経験したので報告し,悪性黒色腫と他の悪性腫瘍との合併について文献的考察を加える.
    症例は75歳男性.主訴は心窩部痛.既往歴として68歳時,右第2指の悪性黒色腫として同指の指列切断術を受けている.現病歴: 1983年8月より心窩部痛増悪したため当院内科受診し,胃X線検査および内視鏡検査にて胃体中部およびその小弯寄りに2個の早期癌を証明された.手術後の病理組織学的検査にて,小弯上の病変は粘膜内に限局したwell differentiated tubular adenocarcinomaで,後壁病変は一部粘膜下に浸潤したmoderately differenciated tubular adenocarcinomaであり,両者の間には正常粘膜の存在を認めた.
    悪性黒色腫患者には他の悪性腫瘍の合併が高頻度にみられることを文献的に明らかにし,悪性黒色腫患者の経過観察上の厳重な注意点として指摘したい.
  • 田伏 洋治, 田伏 克惇, 小林 康人, 勝見 正治, 尾野 光市, 稲生 正樹, 山本 誠己
    1984 年 45 巻 12 号 p. 1671-1674
    発行日: 1984/12/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    輸血の既往のある62歳の男性において直腸癌手術をおこない,その術前術後にかけて8日間に計2,200mlの全血輸血を実施した. 7, 8日目の輸血後急激に間接ビリルビン優位の黄疸が増強した.輸血時の交叉試験では生食法,クームス法にて陰性であったが,黄疸出現後の不規則抗体検査では生食法,クームス法ともに高力価の抗E抗体が検出され,抗E抗体による副作用と推定された.これは輸血初期には免疫抗体が低力価であったが,今回のたびかさなる輸血がsecondary responseをひきおこし,急激に力価上昇がおこって溶血反応が進行したものと考えられる.本症例では黄疸以外には不都合な合併症もおこらず,ほぼ順調な術後経過をとった.さらに1年後の不規則抗体検査でも低力価の抗E抗体が存在していた.
feedback
Top