日本臨床外科医学会雑誌
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51 巻, 2 号
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  • 槇島 敏治, 遠藤 健, 喜島 健雄, 磯山 徹, 板東 隆文, 豊島 宏
    1990 年 51 巻 2 号 p. 239-243
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    消化器手術を行った80歳以上の高齢者110例について術後合併症の発生率とその誘因について検討した.胃癌36件,大腸癌32件,胆石症28件,その他27件の計123件の疾患に対し,胃41件,大腸38件,膵胆道32件,その他8件の119件の手術が施行された.術後の合併症は49%にみられ,循環器20件,術後譫妄18件,呼吸器12件などの計82件であった.循環器合併症の発生率はNLA麻酔が他の麻酔法と比較して有意に低かった.術後譫妄は男性と緊急手術症例で有意に多く,呼吸器合併症は緊急手術例や長時間手術例で有意に多かった.手術死亡率は2.7%,また入院死亡率は4.5%と低値であった.高齢者の手術,特に緊急手術においては術後合併症の発生率が高いので,麻酔法をはじめ最適な術式を選択することによって手術時間の短縮に努めなけれぼならない.
  • 伊藤 末喜
    1990 年 51 巻 2 号 p. 244-250
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    高知県において昭和48年から行ってきた乳癌検診は,昭和61年度には対象者の14.4%に達した.61年度までの受診者総数は238,767名で,発見乳癌は202例(発見率0.085%)であった.検診乳癌の進行度をみると,早期癌の割合が54.5%であり,対象とした高知県乳癌と比較して有意に高率であった.検診乳癌の予後についてみると,5年生存率88.9%, 10年生存率80.0%であった.また,高知県乳癌との癌死亡の比較でも差異がみられた.乳癌の標準化死亡比(SMR)の市町村別推移と検診受診率の比較から,受診率が10%を越すとSMRは低下していた.更に,自己検診法の普及についての調査結果や中間期乳癌の進行度から判断して,検診と並行して進めている啓蒙活動も着実に浸透しており,本県における乳癌検診は死亡率の減少に寄与していることが証明された.
  • IAP, CEA値との比較を中心に
    渡辺 明彦, 中谷 勝紀, 澤田 秀智, 西和田 敬, 奥村 徹, 山田 行重, 志野 佳, 矢野 友昭, 山田 義帰, 中野 博重
    1990 年 51 巻 2 号 p. 251-255
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    胃癌手術症例60例における術前後の血清シアル酸値を測定し,同時に測定した血清Imunosuppressive acidic protein (IAP)値,Carinoembryonic antigenと比較検討した.術前の陽性率はシアル酸23.3%, (CEA)値と比較検討した.術前の陽性率はシアル酸23.3%,IAP35.0%, CEA28.8%であった. IAP35.0%, CEA28.8%であった.組織学的進行程度別にみると,シアル酸値はstage IVで,CEA値はstage III, IVで陽性率とともに高い傾向を示し,IAP値はstage IVで有意に高く,陽性率も高かった.手術前後のシアル酸値を手術根治度別にみると,治癒切除群,非治癒切除群では低下したが非切除群では上昇した.シアル酸,IAP, CEAのいずれかが陽性の場合の陽性率は60%で,進行程度が高くなるに連れて陽性率は高くなった.
    以上より,血清シアル酸の測定は胃癌のスクリーニングや進行程度の予測,ならびに術後のfollow upに有用な検査であることが示唆された
  • 山口 明夫, 黒阪 慶幸, 太田 長義, 竹川 茂, 石田 哲也, 西村 元一, 加藤 真史, 神野 正博, 小坂 健夫, 米村 豊, 宮崎 ...
    1990 年 51 巻 2 号 p. 256-260
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    大腸癌治癒切除337例中65例(19.3%)に再発をみたが,そのうち血行再発をみた43例再発をみた43例再発臓器をみると肝69.8%,肺27.9%,骨・脳18.6%と肝転移が多かった.再発発見の時期は3年以内が約80%をしめ,その診断きっかけはCEA高値が19例(44.2%)と最も多かった.病理組織学的には組織型では差がみられなかったが,リンパ節転移,脈管侵襲陽性例に再発が多く,またstageが上がるにつれてその再発率も上昇した.細胞核DNA量をみるとDiploid症例に比してAneuploid症例では高くなる傾向にあった.肝転移巣の切除は初回手術が他院の9例を含め14例に行われたが,その予後をみると7例を再発にて失ったが,2例に5年以上の生存をみ,その5年生存率は42.5%と比較的良好であった.
  • 治療方針決定上の直腸内超音波法の有用性
    小田 奈芳紀, 更科 広実, 斉藤 典男, 布村 正夫, 横山 正之, 井上 育夫, 井原 真都, 中山 肇, 白井 芳則, 滝口 伸浩, ...
    1990 年 51 巻 2 号 p. 261-265
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    1973年1月より1988年10月までに当教室で経験した直腸m癌11例,sm癌17例計28例を臨床病理学的に検討した.性別は,男性11例,女性17例で,平均年齢は62.0歳であった.主訴は血便が半数を占めたが無症状症例も5例に認められた,占居部位分布ではm癌は全直腸に平均していたが,sm癌はRb領域に集中していた.組織学的所見ではm癌は隆起性病変にfocal cancerとして存在するものが大半であり,sm癌の多くは腺腫を伴わないものからなり,異なった発育浸潤形態の存在することが示唆された.また,直腸内超音波検査は直腸早期癌の壁深達度診断に有用であり,治療方針を決定する上で不可欠な検査法と考えられた.
  • 佐藤 勤, 浅沼 義博, 伊藤 正直, 武正 寿明, 鹿嶋 秋五, 白山 公幸, 吉田 節朗, 古屋 智規, 関 仁史, 小山 研二
    1990 年 51 巻 2 号 p. 266-270
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    肝硬変を合併した開腹手術例の周術期にAT-III製剤を投与し,血液凝固線溶系の変化から,その意義を検討した.AT-III製剤の投与法は,周術期の3日間とし,投与量は1,500単位/日とした.対象は肝硬変を合併した肝癌3例,残胃癌2例,S状結腸癌2例の合計7例であり,検査項目はAT-III活性,血小板数,HPT, FDP, D-ダイマー,フィブリノーゲンなどを経時的に測定した.その結果,周術期3日間のAT-III製剤の投与によりAT-III活性は上昇し,7例中6例では50%以上に維持できた.また手術後の血小板数の減少を抑制することが可能であった.しかし1例ではAT-III活性は35%に低下し,DICを併発し死亡した.従って,肝硬変症例における周術期のAT-III製剤の投与は,AT-III活性を50%以上に維持すべく投与期間を考慮する必要があると考えられた.
  • 橋本 聡, 瀬川 徹, 井沢 邦英, 角田 司, 土屋 涼一
    1990 年 51 巻 2 号 p. 271-275
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    肝硬変は生体にhyperdynamic stateやNa,水の貯留などの特殊な循環動態をもたらし,容易に不可逆性の病態に陥らせることがある.肝硬変併存肝癌に肝切除をおこなう際の周術期管理は,その特性を認識したものでなければ重篤な術後合併症が生じる.教室の肝硬変併存肝癌肝切除40例について輸液管理と合併症発生の関係を出血量,電解質の種類,投与量を中心に検討した.
    その結果輸液量45ml/kg/day, Na量3mEq/kg/day以下のものは術後合併症が少なかった.肝硬変を併存した患者の周術期管理においては,その循環動態を認識することが重要であると思われた.
  • 呉 吉煥, 天野 富薫, 安部 雅夫, 鈴木 章, 岩崎 博幸, 杉野 公則, 松本 昭彦
    1990 年 51 巻 2 号 p. 276-280
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    甲状腺腺扁平上皮癌は極めて稀な疾患であり,その生物学的悪性度が高いため多くは未分化癌同様1年以内で死亡している.今回,本疾患に対して拡大手術を施行し,術後19ヵ月経過した現在生存例を経験したので報告する.症例は67歳女性,前頸部腫瘤,嚥下困難を主訴とし,甲状腺穿刺吸引細胞診,食道透視,生検,頸部CTなどより甲状腺腺扁平上皮癌を疑い,甲状腺全摘,両側頸部リンパ節郭清,気管喉頭,頸部食道下咽頭合併切除を行った.食道再建は遊離空腸移植にて行った.病理組織学的には,乳頭癌と扁平上皮癌が混在していることから腺扁平上皮癌と診断された.術後も順調に経過し,術後19ヵ月現在健在である.本疾患に対して拡大手術の必要性を報告する.
  • 南 寛行, 窪田 芙佐雄, 河部 英明, 川渕 孝明, 梶原 啓司, 地引 政晃, 七島 篤志, 伊福 真澄
    1990 年 51 巻 2 号 p. 281-285
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    気道に原発した小型腺様嚢胞癌の2例を経験し,気管形成,気管支形成術を行い,良好な結果を得たので報告する.
    症例1は49歳男性,血痰を主訴として来院.気管支鏡検査にて,気管分岐部口側3.5cmの縦隔気管に小隆起を認め,腺様嚢胞癌の診断を得た.手術は気管4軟骨輪を切除して端端吻合を行った.腫瘍は7.0×6.0mm大であった.症例2は46歳男性,血痰を主訴として来院.気管支鏡検査にて,左主気管支中央部に小隆起を認め,腺様嚢胞癌の診断を得た.手術は左主気管支3軟骨輪を切除して端端吻合を行った.腫瘍は6.0×5.0mm大であった.
    気道に原発する腺様嚢胞癌の報告は散見されるが,腫瘍が小型の間に診断が得られ,手術が行われた症例は稀である.
  • 志熊 粛, 佐々木 進次郎, 大関 道麿, 井上 隆夫, 麻田 邦夫, 村木 宏要, 小玉 敏宏, 西本 泰久, 武内 敦郎
    1990 年 51 巻 2 号 p. 286-290
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は52歳男性.僧帽弁狭窄症と右肺の巨大嚢胞の診断で入院となった.手術は胸骨正中切開にて体外循環下に僧帽弁置換術と嚢胞切除肺縫縮術を施行,経過良好で術後19日目に退院となった.術前,心・肺・肝・腎の機能低下,貧血,ツ反陽性,喀痰培養でのカンジダの多量検出などの異常所見がみられたため約1ヵ月かけて食餌療法,経口や点滴による各種薬剤の投与,理学療法などを実施し,術直前には全身状態の著明な改善が得られた.体外循環を必要とする心疾患手術例では,術前における心臓を含めた全身の臓器能の検索と多面的かつ繊細な管理が重要であり,これらは術後経過に強く影響を与える因子と考えられた.また他臓器疾患合併例では一期的あるいは二期的手術の功罪を勘案し,術式を決定することも意義あることと思われた.
  • 古谷 四郎, 佐藤 泰雄, 大塚 康吉, 小野 監作, 川上 俊爾, 辻 尚志, 梅森 君樹, 石崎 雅浩, 宇高 徹総
    1990 年 51 巻 2 号 p. 291-296
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    横行結腸が嵌頓,穿孔を起こして汎発性腹膜炎になったMorgagni孔ヘルニアの1例を経験した.
    自験例の如く横行結腸が穿孔したMorgagni孔ヘルニアの例はわれわれの調べ得た範囲では本邦では2例の報告が見られるのみである.
    症例は82歳女性で白内障の手術5時間後に腹部激痛が出現し,緊急手術を施行した.開腹するに右横隔膜にMorgagni孔ヘルニアがあり,横行結腸が嵌頓,穿孔していた.穿孔した横行結腸を切除したが,ヘルニア嚢は切除せず,ヘルニア門を縫合閉鎖した.術後経過は良好であったが術前よりの腎不全が3ヵ月目に悪化し死亡した.
    Morgagni孔ヘルニアは無症状で胸部X線検査で発見されることが多い.しかし腸閉塞及び穿孔例が本邦240例の報告例中17例見られたので,発見後早急に手術すべきである.
  • 河野 弘, 二村 雄次, 早川 直和, 池田 修平, 塩野谷 恵彦
    1990 年 51 巻 2 号 p. 297-301
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    食道裂孔ヘルニアを伴い食道炎との鑑別に難渋し,経過観察が長期に及んだ食道癌の1例を経験し,食道炎と食道癌の関係について興味深い症例であったので報告する.
    症例は59歳の男性で,燕下困難と心窩部痛を主訴として来院.食道X線造影と食道内視鏡検査にて下部食道に全周性の軽度狭窄と浅い陥凹性病変を認めた.表層型食道癌と食道炎との鑑別困難で,生検組織もgroup IIIのため経過観察した.2年2ヵ月後症状増悪し,検査にて進行食道癌の所見を呈し,生検組織も扁平上皮癌を認めたため手術を施行した.切除標本で食道壁は著明に肥厚しており,癌の深達度は筋層までであるが,その主体は筋層のfibrosisであった.また,初回生検組織と切除標本の癌組織が類似していることから,初診時には癌は存在していたと考えられた.そして食道炎はそれ以前より存在し,その基盤のもとに癌が発生したと考えられた.
  • 浜辺 豊, 黒田 大介, 生田 肇, 加藤 道男, 斎藤 洋一
    1990 年 51 巻 2 号 p. 302-307
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    食道胃同時性早期重複癌の1例を報告し,さらに,教室における食道胃同時性重複癌の切除再建6例について,その診断及び手術手技について検討した.同時性早期重複癌は本邦17例と希であるが,食道胃重複癌は当科の食道癌切除230例の3.4%と比較的多く,早期胃癌3例また切除標本で胃癌と診断した1例があり,術前には十分な検索が必要となる.
    手術手技に関しては胸部食道癌は右開胸食道全摘を原則とした.胃癌は根治性を落とさない範囲で胃を残す方針とし,再建臓器としては残胃を用いた2例,噴門側胃切除し有茎結腸を用いた2例,胃全摘し有茎結腸を挙上した2例,幽門側胃切除し小腸を用いた1例があった.治療上の問題点は病変の占拠部位や深達度および癌の拡がりを術前に正確に診断し,また,症例毎の状態を把握し,それにもとづいた適切な手術術式をいかに選択するかということにつきる.
  • 新原 亮, 山根 修治, 繁田 直史, 伊藤 利夫, 土谷 太郎
    1990 年 51 巻 2 号 p. 308-311
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    高齢者の緊急手術は合併症も多くリスクが非常に高い.そこで,病態に応じた術式の選択が必要となる.
    症例は90歳,女性.汎発性腹膜炎の診断にて緊急開腹術を施行した.胃前庭部前壁及び後壁に穿孔を認めた.90歳という高齢で穿孔後長時間を経ており,胃壁の浮腫が強いこともあって胃切除をすれば,縫合不全が必発と考えられた.後壁穿孔部は大網充填術,前壁穿孔部は胃管による胃外瘻を形成しその周囲を二重に腹壁に固定した.手術時間は1時間55分であった.術後経過は良好で21日目より経口摂取を開始し35日目に軽快退院となった.松林らによる大網充填法および胃管による胃外瘻法は,単なる縫合閉鎖術とは異なり,合併症が少なく簡便で有用な方法と思われた.
  • 治療法に対する考察
    中本 光春, 裏川 公章, 山口 俊昌, 西尾 幸男, 熨斗 有, 出射 秀樹, 磯 篤典, 安積 靖友, 五百蔵 昭夫, 植松 清, 瀬藤 ...
    1990 年 51 巻 2 号 p. 312-315
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    近年Dieulafoy潰瘍が注目されているが,私達もDieulafoy潰瘍あるいはその類似疾患と思われる2例を経験したので報告する.2例とも突然の吐下血で発症し内視鏡的止血法を含めた保存的治療にて止血困難であったため緊急手術を行い,1例は噴門直下小弯の潰瘍に対し噴門側胃切除術を,他の1例は胃体下部小弯の潰瘍に対し広範囲胃切除術を施行した.いずれの症例も潰瘍は長径10mm以下でU1 IIの浅い小さな急性潰瘍であり,潰瘍底の粘膜下層には各々外径750μmと1,000μmの太い動脈を認めた.Dieulafoy潰瘍に対する手術術式は一般の消化性潰瘍に準じた広範な胃切除術が多く私達もそれに準じて施行したが,Dieulafoy潰瘍の大量出血の原因が粘膜下層の異常動脈の存在にあることを考えれば,広範な胃切除術は必ずしも必要でなく結紮縫合止血術あるいは局所の楔状切除術で十分ではないかと思われる.
  • 徳原 太豪, 酒井 克治, 木下 博明, 東野 正幸, 裴 光男, 大杉 治司, 久保 正二, 前川 憲昭, 上野 哲史, 安田 晴紀, 谷 ...
    1990 年 51 巻 2 号 p. 316-321
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    術前診断が可能であった巨大な胃平滑筋芽細胞腫の症例を経験したので,自験例を含めた胃平滑筋芽細胞腫の本邦報告220例について文献的考察を加えた.
    症例は50歳男性,腹部膨満感を主訴に来院した.上腹部に巨大な腫瘤が認められ,胃内視鏡による組織診断で胃平滑筋芽細胞腫と診断された.開腹下に腫瘤摘出,胃楔状切除術が施行されたが,術後5ヵ月目に肝転移による再発が認められた.
    平滑筋芽細胞腫は,臨床所見において平滑筋腫あるいは平滑筋肉腫と類似している.しかし病理組織学的には,好酸性の円形ないし多角形の細胞と核周囲に透明帯(clear space)を有するという特徴がある,予後は一般に良好であるが,自験例のように組織学的分化度の低いものは,転移再発を来すこともあり,組織学的検討を加え経過観察することが重要である.
  • 星野 光典, 新井 一成, 田村 清明, 横川 京児, 加藤 貞明, 伊藤 洋二, 河村 正敏, 小池 正, 吉田 浩之, 八田 善夫
    1990 年 51 巻 2 号 p. 322-326
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    胃癌に門脈腫瘍塞栓を合併した希少例を経験した.症例は,63歳男性.昭和61年7月頃より食欲不振,腹部膨満感が出現し,昭和62年2月,上部消化管造影にて胃癌と診断され,手術目的にて外科入院となった.術前の腹部超音波,CT,血管造影検査にて,胃癌の門脈腫瘍塞栓と診断され,左上腹部内臓全摘術兼門脈腫瘍塞栓除去術を施行し,現在社会復帰している.胃癌の門脈腫瘍塞栓は,本邦でも自験を含めてもいまだ10例報告されているにすぎず,予後不良な疾患である.画像診断が発達している現在では,本疾患に遭遇する機会が増加すると思われるが,積極的な拡大郭清を行えば,予後の向上につながると考えられた.
  • 本邦報告例28例の検討
    澤井 照光, 中尾 丞, 石井 俊世, 栄田 和行, 野口 恭一, 藤田 晃, 黒氏 謙一, 安倍 邦子, 高原 耕
    1990 年 51 巻 2 号 p. 327-330
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    小腸リンパ管腫は稀で,本邦では現在まで28例が報告されているに過ぎない.最近,空腸に原発した本症を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は30歳女性で,悪心,腰痛を主訴に入院した.検査成績には異常はみられなかったが,エコー,CTにて下腹部に10.0×8.5cmの嚢腫が認められた.卵巣嚢腫の診断で開腹したところ,腫瘤はTreitz靱帯より140cm肛門側より発生しており,大きさ13×9×5cm,多胞性で,内容液は黄色透明であった.空腸部分切除を施行し,病理組織学的に海綿状リンパ管腫の診断を得た.
  • 尾崎 直, 青山 法夫, 末永 直, 岩井 芳弘, 松本 昭彦
    1990 年 51 巻 2 号 p. 331-335
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    小腸腫瘍はまれな疾患であり,特に平滑筋肉腫穿孔はまれな疾患とされている.最近,小腸巨大平滑筋肉腫穿孔の1例を経験したので報告する.症例は79歳女性.右下腹部痛,食欲不振,貧血を主訴に某医院を受診し入院した.上部消化管,大腸の検査では異常なく,婦人科で左卵巣腫瘍と診断されたが退院し経過観察中であった.右下腹部痛が増強し他院に緊急入院した.下腹部に鵞卵大の腫瘤を触知し右下腹部に圧痛を認めた.腹部レントゲン単純写真でfree airを認め白血球増多もあった.小腸造影及び腹部単純CT写真で小腸腫瘍と診断した.手術所見は開腹すると腫瘍は長径15cmの小腸巨大平滑筋肉腫で腸間膜への浸潤強く,Treitz靱帯より60cm,回腸末端部15cmを残した広範囲小腸切除となった.明らかな穿孔部位は不明であった.術後経過良好で無事退院となった術後8ヵ月の現在再発はみられない.
  • 廣本 雅之, 日下部 輝夫, 津嶋 秀史, 嘉悦 勉, 前田 隆志
    1990 年 51 巻 2 号 p. 336-340
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    今回,穿孔性腹膜炎をきたした回腸平滑筋肉腫のまれな1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
    症例は41歳,女性.前日からの腹痛を認め当院受診.受診時,右下腹部を中心とした強い腹痛を認め,筋性防御,Blumberg signもみられ,WBC 12,600/mm3,腹部X線像にてfree airを認めた.急性虫垂炎穿孔による腹膜炎と診断,緊急手術を施行した.開腹すると回盲弁より約150cm口側に一塊となった管外発育型腫瘍を認め,これによる穿孔性腹膜炎と診断した.約100cmにおよぶ回腸切除術を施行,病理組織学的には固有筋層より管外性に発育した平滑筋肉腫で,核分裂像も高頻度にみられた.
    小腸平滑筋肉腫の穿孔はきわめてまれであり,本邦において過去24例の手術例が報告されているのみである.
  • 浅津 民夫, 橋本 芳正, 石田 武, 辻本 嘉助
    1990 年 51 巻 2 号 p. 341-344
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    消化管重複癌は比較的まれな先天性の疾患である.なかでも回盲部例は小児期に発見されることが多いので,成人例は少ない.
    われわれは,回盲部にみられた成人消化管重複症の1例を経験したので報告する.
    症例は27歳の女性で,急性腹痛にて入院し,右腹部に強い圧痛のある腫瘤が触知された.術前の腹部超音波検査では盲腸の部位に嚢胞があり,胆嚢内に結石を認めた.腹痛が強いため緊急手術を施行したところ,回盲部に腸管を圧迫する腫瘤があり,回盲部切除術と胆嚢切除術を行った.病理組織学的検査で消化管重複症と診断された.術後経過は順調で軽快退院した.
  • 野中 道泰, 吉田 晃治, 原口 周一, 杉山 俊治, 鈴木 稔, 日高 令一郎, 有高 知樹, 杉原 茂孝
    1990 年 51 巻 2 号 p. 345-352
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    原発性回盲部悪性リンパ腫の2例を経験したので報告する.症例1:59歳女性,回盲部腫瘤で来院.精査の結果悪性リンパ腫の疑いで結腸右半切除術を施行した.腫瘍の大きさ6.5×7.0cm, Borrmann II様で肉眼的には癌との鑑別は困難であった.症例2:82歳,男性,イレウス症状で来院し緊急手術施行,術中所見では回盲部腫瘤による回結腸重積を起こしたためのイレウスであった.手術は年齢及び全身状態を考慮し回盲部切除術を行った.腫瘍の大きさは5×6×2cmの隆起性病変であった.組織診断は症例1,2共,びまん性中細胞型悪性リンパ腫で所属リンパ節も共に転移陽性であった.悪性リンパ腫は化学療法に感受性が高いとされているが,われわれの症例は化学療法を行ったにもかかわらず症例1は術後2年1ヵ月,症例2は術後3ヵ月で再発死亡した.
  • 高須 朗, 別府 真琴, 藤田 彰一, 平井 健清, 村井 紳浩, 藤本 憲一
    1990 年 51 巻 2 号 p. 353-357
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    S状結腸直腸型成人腸重積症2例を報告し,当院における他の成人腸重積症5例を加えた7例について検討した.発症年齢は32歳から82歳まで平均年齢63歳で,4例(57%)が70歳以上の女性であった.重積型は小腸腸重積症1例,大腸腸重積症6例であった.大腸腸重積症の原因に,悪性腫瘍を4例(66%)認めた.重積原因の肉眼形態の検討で,例は非全周性の非潰瘍形成型隆起性病変で,うち2例に絨毛腺腫を認めた.大腸腸重積症は悪性腫瘍が原因となることが多く,徒手整復を行わずに腸切除を行うのが原則とされているが,高齢者やイレウスなどpoor riskの場合は,手術侵襲を少なくするために,徒手整復は必要と思われる.
  • 今分 茂, 西村 正, 谷口 英治, 高山 実, 板倉 丈夫
    1990 年 51 巻 2 号 p. 358-363
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    下行結腸原発カルチノイドの1手術例を経験した.症例は69歳女性で,イレウスにて入院し,注腸造影にて下行結腸に約7cmの全周性の狭窄がみられ,下行結腸腫瘍によるイレウスを疑い開腹した.大腸癌取扱い規約に準ずると,Stage V, H3P0S2N4であったので,左半結腸切除及び人工肛門造設にとどめた.病理組織学的に下行結腸原発カルチノイドと診断されたので,術後,エンドキサン,メソトレキセートの化学療法を施行したが,術後4ヵ月目に腫瘍死した.
    結腸カルチノイドは,自験例を含め40例報告されているが,下行結腸原発のものは,わずかに1例報告されているのみで稀であり,文献的考察を加えて報告した.
  • 三谷 祐司, 大和 幸保, 大久保 靖, 三島 好雄
    1990 年 51 巻 2 号 p. 364-367
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は,59歳の男性で,主訴は下血であった.家族歴,既往歴には特記すべきことはなかった.現病歴では,昭和63年3月より主訴が出現し,近医にて精査を行い,S状結腸に病変を指摘されて当科に入院した.注腸造影,大腸内視鏡検査の結果,S状結腸癌と診断され,S状結腸切除術が施行された.CEAは正常範囲であった.組織型は高分化型腺癌であり,S, 2型,2/3周,大きさは3×4cmで,ss, ly0, v2, n(-), Dukes Bの癌であった.Polypが2個併存しており,1個に腺腫内癌が認められ,腺癌に接して骨化を伴う組織を認めた.大腸癌に骨化を伴う例はまれで頻度は0.4%前後とされている.本症例を若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 佐藤 淳, 石山 秀一, 瀬尾 伸夫, 布施 明, 薄場 修, 小沢 孝一郎, 塚本 長
    1990 年 51 巻 2 号 p. 368-372
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    結腸癌に合併した肝inflammatory pseudotumorの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は49歳の男性で,右側腹部不快感を主訴に来院した.精査にて上行結腸癌と診断されたが,同時に,肝に小腫瘤を指摘された.肝腫瘤についてさらに精査をすすめたが,転移性肝癌を否定できなかった.このため右半結腸切除術および肝部分切除術を施行した.肝腫瘤は術後の病理組織学的検査にてinflammatory pseudotumorと診断された.術後14ヵ月を経過したが経過は良好である.
  • 塚本 忠司, 上野 哲史, 井川 澄人, 木下 博明, 広橋 一裕, 街 保敏
    1990 年 51 巻 2 号 p. 373-379
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    原発性硬化性胆管炎(以下PSC)は胆道系慢性線維性炎症で,肝内胆管の閉塞をきたし肝硬変にいたる稀な疾患である.しかし病因が不明なこともあり,その診断基準は変遷を重ね未だ確固たるものがない.われわれは胆嚢内結石を合併し,胆道造影像上総胆管三管合流部直下に限局性狭窄を認めたPSCの1例を経験した.本邦での報告例は欧米に比し少ないが,これは本邦におけるPSCの診断になお混乱があり,自験例のような胆嚢内結石合併例の多くが逸脱しているためではないかと考えられる.現在,LaRussoらの診断基準が一般的であるが,彼らは血清アルカリフォスファターゼ(以下ALP)値の上昇を診断基準のひとつにあげている.しかし自験例における血清ALP値の推移から,血清ALP値は胆汁鬱滞の指標にすぎずPSCの診断には不可欠ではなく,むしろ病変の進行の程度をあらわすのにすぎないと考えられた.
  • 李 俊尚, 柴中 光一, 平田 賢一, 植木 秀実, 浦岡 忠夫
    1990 年 51 巻 2 号 p. 380-384
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は67歳の男性で閉塞性黄疸にて発症した.PTCDにて総胆管内に凝血塊をみたが,当初は結石と誤認した.4日後の胆管造影にて凝血塊の消失を認め,胆道出血と診断した.ドレナージにて止血がえられ,精査のためPTCSと血管造影を施行したが,病変は認められなかった.入院2ヵ月後,治癒退院した.胆道出血は比較的まれな病態であり,中でも原因不明のものは少なく,文献的考察を加えて報告する.本症におけるPTCSの診断的価値についても述べる.
  • 鈴木 修一郎, 霜田 光義, 白崎 功, 佐伯 俊雄, 穂苅 市郎, 山田 明, 櫛渕 統一, 桐山 誠一, 唐木 芳昭, 田沢 賢次, 藤 ...
    1990 年 51 巻 2 号 p. 385-388
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    燕麦細胞癌は肺をはじめとして全身の各臓器より発生することが知られているが,胆道原発の燕麦細胞癌の報告は極めて少ない.
    最近,われわれは胆嚢原発燕麦細胞癌の1例を経験したので報告する.
    症例は63歳,男性で胆嚢癌と診断され,手術を行った.腫瘍は胆嚢頸部より胆管にかけて一塊となっており,後腹膜より大動脈周囲にかけてリンパ節転移が著明であった.原発巣の切除は困難であったため,胆嚢,及び総胆管にT-tubeを挿入し胆汁外瘻とした.組織学的には腫瘍細胞は一様に小型で胞体に乏しく,塊状のcell nestを形成し,増殖していた.術後CDDP, OK-432等の化学療法を行ったが,術後2ヵ月癌性悪液質にて死亡した.
    治療については早い時期での外科手術につきるが,一部には化学療法に反応するものも見られる.しかし,その予後は未だ極めて不良である.
  • 坂本 英至, 大村 豊, 大橋 大造, 入谷 勇夫, 岸本 秀雄, 小川 弘俊, 大谷 享, 織田 誠
    1990 年 51 巻 2 号 p. 389-392
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    1986年より1988年までの3年間に4例のadrenal incidentalomaを経験した.全例が偶然にご腹部CTで見つかっており,無症状で,内分泌学的検査でも異常はなかった.全例に手術的摘出が行われ,病理組織学的には3例が結節性過形成であり,1例が皮質腺腫であった.adrenal incidentalomaはCT, MRIの普及に伴い今後増えてくることが予想される.本邦報告の104例を集計し考察を加えた.
  • 三方 律治, 今尾 貞夫, 堀内 大太郎
    1990 年 51 巻 2 号 p. 393-395
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    55歳女性.1982年5月に残尿感,排尿痛及び血尿を訴えて来院,尿検査で膿血尿と細菌をみとめ,抗菌剤の1週間投与で症状は全く消失.2月後に全く同じ症状で再受診,当時も膿血尿を認め,尿培養は陽性であった.同時に検査した尿細胞診が陽性であったために,膀胱鏡検査,DIP及びRPで右腎盂尿管癌と診断し,根治的手術を行い,病理組織学的には移行上皮癌pT2N0M0であった.この症例を報告し,腎盂尿管癌と尿細胞診について若干の考察を行う.
  • 徳田 裕, 斎藤 剛一, 水谷 郷一, 花上 仁, 田島 知郎, 三富 利夫, 里 悌子, 長村 義之
    1990 年 51 巻 2 号 p. 396-398
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    卵巣甲状腺腫は,比較的まれな疾患である.最近われわれは,十二指腸潰瘍の穿孔に対する緊急手術時に偶然発見された本症の1例を経験した.症例は,72歳の女性で,右卵巣に10×9×5cmの多嚢胞性で一部充実性の腫瘍を認めた.組織学的には,甲状腺類似組織よりなり,triiodothyronine (T3), thyroxine (T4),およびthyroglobulinが陽性であった.奇形腫の他の成分はなく,また悪性所見も認められなかったので,良性卵巣甲状腺腫と診断した.術後1ヵ月の甲状腺機能検査で血中T4およびfree T4の上昇が認められ,甲状腺腫大はなく,TSHは抑制され,TSH receptor抗体は陰性であったが,奇形腫の特殊型である本腫瘍の発生を考える上で興味ある症例と思われたので,若干の文献的考察を含めて報告した
  • 柴 忠明, 山口 宗之, 野崎 達夫, 原 彰夫, 吉田 宏重, 池田 正視, 高木 純人, 野中 杏栄, 高塚 純, 鈴木 孝雄, 竹内 ...
    1990 年 51 巻 2 号 p. 399-404
    発行日: 1990/02/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    われわれは過去11年間に16例の血液疾患を有した消化器外科症例を経験した.そこで,この16例を遡及的に検討し,参考となる3症例を呈示した.
    16例中14例では術前に血液疾患の存在が判明していたが,2例では術後に血液疾患の存在が判明した.この2例では術後合併症が血液疾患発見の端緒であった.16例中5例に術後合併症が発生した.術後合併症として各種の術後出血,縫合不全,腸閉塞などが認められた.手術死亡は2例であった.
    血液疾患患者には貧血,出血性素因,血栓傾向,易感染性,創傷治癒障害などの危険因子が存在する.そして,これらの危険因子は術後合併症の発生に関与する.したがって血液疾患を有した手術症例の管理に際してはこれらの危険因子に充分に配慮する必要がある.そして術前に血液疾患の存在を知る必要がある.
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