日本臨床外科医学会雑誌
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52 巻, 6 号
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  • 杉野 公則, 呉 吉煥, 鈴木 章, 岩崎 博幸, 松本 昭彦
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1171-1175
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    甲状腺未分化癌は,あらゆる治療に抵抗する極めて予後不良な悪性腫瘍である.過去20年間に当教室で経験した甲状腺癌は302例であるが,甲状腺未分化癌は10例, 3.3%であった(男性5例,女性5例).この10例について臨床的に検討を加えた.平均年齢は71.0歳(59歳~83歳)であった.平均生存期間は184日(初診時より)で,全例肺転移による呼吸不全で死亡している. 8例に局所治療のみを行い, 2例に局所治療後に化学療法を併用している.局所治療のみの症例のうち,可及的切除のみで終った症例は2例で, 4例に放射線照射を, 2例に拡大根治手術を施行した.可及的切除手術で終った症例を除けば,その他の治療法の生存期間について差を認めず,さらなる延命効果をあげるには,局所の治療よりも全身の治療へと主眼をおくべきであると考えられた.
  • 野口 昌邦, 小矢崎 直博, 谷屋 隆雄, 太田 長義, 宮崎 逸夫, 中島 憲一, 道岸 隆敏
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1176-1180
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胸骨傍リンパ節転移の有無を術前に診断することができれば,乳癌の予後予測や手術術式の選択などに極めて有用である.そこで,胸骨傍リンパ節転移の術前検査としてlymphoscintigraphyや超音波検査を行い,生検や郭清による胸骨傍リンパ節の組織学的所見と比較検討した.その結果, lymphoscintigraphyと超音波検査による診断率はそれぞれ67%, 90%であり, lymphoscintigraphyより超音波検査の方が優れていた.しかし,拡大乳房切断術施行症例で胸骨傍リンパ節の転移部位を検討すると,第一肋間と第二肋間の転移率はそれぞれ67%, 64%と高率であり,しかも,第一と第二肋間を組み合わせた転移率は97%であった.従って,現時点における胸骨傍リンパ節転移の診断は, lymphoscintigraphyあるいは超音波検査による術前検査よりも,術中における第一と第二肋間の胸骨傍リンパ節生検が有用であると考えられた.
  • 下山 嘉章, 鰐渕 康彦, 須磨 久善, 高山 鉄朗, 古田 昭一
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1181-1186
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1977年1月から1989年1月までに,大動脈弁位機械弁,僧帽弁位および三尖弁位生体弁を使用して多弁置換術を行った182例を術式ごとに細分し1989年8月現在で遠隔成績を検討した.
    その結果,三弁置換術, 61歳以上かつNYHA分類4度の多弁置換術以外の症例群では,僧帽弁位に機械弁を第一選択として使用することが,遠隔成績の向上につながると結論された.しかし機械弁のみによる多弁置換術の場合,術後抗凝固療法としてwarfarinに加え抗血小板剤の投与が遠隔成績の向上につながると考えられた.また,三尖弁位生体弁の遠隔成績は良好なため,高度の三尖弁逆流を伴う症例では,今後とも積極的に生体弁を使用する.
  • 太田 敬, 加藤 量平, 数井 秀器, 近藤 三隆, 土岡 弘通
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1187-1191
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    冠動脈病変(CAD)の合併が腹部大動脈瘤(AAA)手術の周術期riskと生命予後に及ぼす影響について検討した. CADを合併する患者とは,狭心症や心筋梗塞の既応,心電図上にST・T異常,異常Q波のある患者と定義すると, AAA手術108例のうち, CAD合併は57例(53.0%)であった.周術期の死亡は2例にみられたが心臓死ではなかった.術後の狭心症は2例にみられた.遠隔期に死亡した26例のうち心臓死は6例であったが,周術期の心合併症や違隔期死亡に関しCAD群と非CAD群間に差はなかった. AAA手術は,手術手技を含めた十分な術中・術後の管理により, CADを有する例に対しても比較的low riskで手術可能であり,適応を拡大してまでCAGや予防的な冠動脈バイパス術(CABG)の必要はないと考えられた.不安定狭心症のある症例にはCAGを行い,適応があればAAA手術に先行したCABGを考慮する必要がある.
  • 清水 淳三, 渡辺 洋宇, 小田 誠, 林 義信, 山村 浩然, 飯田 茂穂, 岩 喬, 中村 康孝
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1192-1196
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    大網は感染に対し強い防御機能を発揮し,また移動性に富み腹腔外にも容易に到達できる特性がある.われわれは胸部外科領域の術後感染巣に対して,有茎性大網充填術を7例に施行し,その有用性を検討した. 7例の内訳は,肺癌術後の気管支瘻性膿胸2例,肺結核症術後の気管支瘻性膿胸2例,開心術後の胸骨骨髄炎2例,前縦隔腫瘍摘出術後の縦隔洞炎1例であった.大網片は原則として,右胃大網動脈を温存して作製した. 7例中6例は,大網充填術により一期的に治癒が得られた.残りの1例は,肺癌で右下葉切除術を施行後,気管支断端瘻を併発した症例で,大網で断端を被覆したが対側の肺炎を合併し死亡した.難治性の胸部感染巣に対する有茎性大網充填術は,臓器欠落症状を伴わず,手術手技も容易でありながら,良好な治療効果が期待できる優れた術式であると考えられた.今後大網は,胸部外科領域の感染症に対する治療手段として,大きな武器になると思われた.
  • 添田 耕司, 小野田 昌一, 神津 照雄, 奥山 和明, 中市 人史, 磯野 可一
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1197-1205
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胸部食道癌15例(平均年齢65±11歳)の術前後における血漿顆粒球エラスターゼ(PMN-E)と血漿フィプロネクチン(FN)の変化について検討した. PMN-Eは,術前155μg/lであったが, 1病日814±257μg/lと最高値を示し14病日でも術前より高値であった. FNは,術前399μg/mlであったが, 1病日271±57μg/mlと最低値を示し, 14病日でも術前より低値であった. PMN-EとFNの間には関係を認めなかったが, PMN-Eは,血清総蛋白,血清アルブミン値と逆相関を示し,末梢白血球数,血清総ビリルビン値,手術時間と相関関係を示した. FNは,血清総蛋白,血清アルブミン値と相関を示した.頸部郭清例では, 3, 7病日でPMN-E値が高値を示した.したがってPMN-Eは食道癌症例の手術侵襲の大きさを示唆し, FNは,手術侵襲による組織障害の修復に関与しているものと思われた. PMN-Eの過活性化による遠隔臓器の障害予防には,ウリナスタチンがインヒビターとして有用と推察された.
  • 堀見 忠司, 武田 功, 花田 備文, 森田 荘二郎, 近藤 慶二
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1206-1212
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    食道癌切除例91例における術前術後の放射線療法の臨床的評価について検討した.放射線療法非施行群は35例で施行群は56例であった.それぞれの5年率は38.6±11.1%, 15.5±6.1%で,放射線非施行群の生存率が施行群より良好な傾向にあった.また放射線療法の術前術後共に施行群の生存率は非施行群に比べて殆ど差は認められないが,術前のみと術後のみの群の生存率はそれぞれ非施行群の生存率に比較して,統計学的に有意に低下していた. stage 3と4を合わせた症例でも同様であった. Ef3の生存率は極めて良く,他の群に比して明らかに有意差があった.以上より我々は切除可能な比較的早期の食道癌は術前照射を施行し, Ef1, Ef2であれば追加照射し,切除可能な進行癌では手術的根治度を優先し癌が残ったと考えられる場合にのみそこを中心に術後照射を施行するという結論に至った.
  • 塩谷 猛, 内山 正一, 渥美 理, 秋丸 琥甫, 渋谷 哲男, 庄司 佑
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1213-1219
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1981年にGaudererらが開腹,全身麻酔を要しない簡便な経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を行って以来現在数種類の変法が発表されているが今回われわれは1989年7月より1990年10月までの間に脳血管障害により嚥下困難のある患者5名,痴呆症状により食事を摂らない患者2名,低酸素性脳症患者1名,計8例に対しRussellらの方法に従いPEGを試み, 6例は局所麻酔下で施行し得た.
    合併症として1例に施行中ガイドワイヤーの腹腔内逸脱を経験し,また胃瘻チューブ挿入部の発赤,感染を1例に認めた.施行後最長1年2カ月経過しているが,栄養供給としてのみならず4例中3例に誤飲性肺炎の改善, 1例に神経症状の改善や十二指腸狭窄による胃拡張の減圧等二次的効果が認められた.
    本法は手技的に容易かつ安全に行えるため今後症例が増え適応が広がると思われる.
  • 橋本 謙, 掛川 暉夫, 武田 仁良, 田中 裕穂, 孝冨士 喜久生, 岩井 壽生, 安元 健二, 矢野 正二郎
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1220-1224
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    解剖学的に噴門部の後壁は無漿膜野になっており横隔膜線維野と接することから,この領域で壁外に増殖した癌腫の手術では根治性を得る為に横隔膜合併切除が必要なことも稀ではない.教室では1985年より食道浸潤胃癌のうち肉眼的漿膜浸潤陽性で遠隔転移,播種性転移を認めない症例を対象に左開胸下に片側横隔膜広範合併切除を行ってきたのでその治療成績について報告する. 1976年から1988年までに切除したCE癌は111症例で到達経路別では開胸開腹,胸骨縦切: 77例,開腹のみ34例であった.左開胸開腹例のうち横隔膜合併切除は22例に施行し,横隔膜部分切除,残胃癌,多発癌を除く17例について手術成績を検討した.開胸合併切除例(合切例)の2生率は69.9%,開胸非合切例(非合切例) 8.4%であった. PS (+)群に絞ってみると合切例64%,非合切例41.8%であった. stage別ではstage IVで開胸合切例55.6%,開胸非合切例12.5%と明らかな差がみられた.
  • 多変量解析を用いた予後因子の検討
    金平 永二, 川浦 幸光, 太田 安彦, 中野 一郎
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1225-1230
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    済生会石川総合病院で経験した80歳以上高齢者の胃癌切除例29例を対象として早期および遠隔期成績と予後左右因子との相関を検討した.術前合併症を有したものは96.6%と高率であった.術後早期合併症は51.7%と高率に認められた.早期死亡は6.8%に認められた.判別分析の結果,術後早期合併症の危険因子として,心疾患(x1),低タンパク血症(X2),術中出血量(X3)が選択された.合併症発生判別式Z(x)=-4.5x1-2.9x2-2.3x3+12.4を得た.早期死亡例の経験からは穿孔例に対する集中治療の必要性,郭清のための他臓器合併切除に対する疑問が浮き彫りにされた.遠隔期累積生存率は3年75.5%, 5年0%であった. Cox比例ハザードモデルの結果,予後左右因子として根治性, Stage,腹膜転移度,合併切除,深達度の5項目が選択された.これらの因子は独立した危険因子であり,高齢者胃癌切除例の予後不良の指標として臨床上重要である.
  • 横山 幸生, 望月 英隆, 長谷 和生, 山本 真二, 岡田 晋吾, 栗原 浩幸, 小池 聖彦
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1231-1237
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1978年から11年間に当科で経験した直腸癌低位前方切除術例130例中,縫合不全を認めた20例(15.4%)を対象とした.これら縫合不全を腸内容によるドレーンの汚染・臨床症状の程度によりMajor leak群(8例), minor leak群(12例)の2群に分け,縫合不全発生に関する臨床的背景因子,治療法の選択,及び予後について検討した.縫合不全合併のrisk factorとして低蛋白血症(p<0.005),輸血の有無(p<0.05),手術時間などが注目された.縫合不全発現時期は術後平均8.8日, Major群では5.9日と重篤なものほど早期に出現する傾向にあった. minor群は全例禁食等の保存的治療で治癒したが, Major群では7例87.5%に再手術が行われた.この再手術例のうち人工肛門造設例の救命率は83.3% (5/6)であったが,ドレナージのみの症例は救命し得なかった. Major leakに伴う死亡率は25%と不良で,同症例に対する治療として比較的早期の人工肛門造設が適当と思われた.
  • 器械吻合と手縫い吻合との比較
    東 光邦, 隅越 幸男, 岩垂 純一, 小野 力三郎, 黄田 正徳, 山本 清人, 吉永 栄一, 小路 泰彦, 奥田 哲也
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1238-1242
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    直腸癌に対する括約筋温存術式に於ける,器械吻合と手縫い吻合について比較検討を行った.昭和44年から昭和63年まで,当センターで行った直腸癌前方切除例は212例であり,そのうち手縫い吻合は145例,器械吻合は67例であった.占居部位を比較すると,器械吻合はRbの占める割合が18.2%であるのに対し手縫い吻合では3.4%であり,器械吻合では低位の吻合が多く,器械吻合は低位の吻合を可能にしたと考えられた.手術時間を比較すると,手縫い吻合は平均196.1分であるのに対し,器械吻合では平均149.9分であり器械吻合の方が短時間であった.術後早期の排便回数の比較では,手縫い吻合,器械吻合群の間に有意の差は認めなかった.術後早期の合併症を見ると器械吻合の方が少なかった.局所再発率は器械吻合2.9%であるのに対し手縫い吻合3.9%と器械吻合の方が低率であった.器械吻合は,安全で短時間に吻合することが可能である有用な術式と考えられた.
  • 水谷 正彦, 千見寺 徹, 横山 正之, 橘川 征夫
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1243-1245
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    右鎖骨下静脈穿刺により正しく上大静脈に留置した中心静脈栄養用のカテーテルが,約12日後に右内頸静脈に移動し静脈炎症状を呈した1例を経験した.中心静脈栄養施行時の,稀ではあるが注意すべき合併症と考え,文献的考察を加えて報告した.
  • 佐々木 信義, 小林 俊三, 原 普二夫, 江口 武史, 正岡 昭
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1246-1250
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    繰り返し行った咽頭食道造影で瘻管が造影されず,硬性気管支鏡下経チューブ造影で初めて瘻管を証明できた下咽頭梨状窩瘻の1症例を報告した.
    症例は18歳女性. 7歳時より計5回,左前頸部に膿瘍を形成しその都度切開排膿を行い, 15歳時, 3回目の炎症後には側頸嚢胞として根治術を施行した.術後の再発時点で下咽頭梨状窩瘻を疑い,非炎症時に計3回の咽頭食道造影を行ったが瘻管は描出されなかった.そこで小児用硬性気管支鏡を用い透視下に梨状窩最深部までチューブを挿入し造影を行ったところ瘻管の造影に成功した.また,手術に際しても同じ手技で瘻管内にチューブを挿入し瘻管検索のガイドとしたが有効であった.
  • 石根 典幸, 小長 英二, 小田 健司, 片岡 正文, 仁科 拓也, 後藤 精俊, 竹内 仁司, 荒田 敦, 間野 正平
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1251-1254
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    乳腺への悪性腫瘍の転移は稀であり欧米で約250例,本邦で約80例の報告が見られる.このうち卵巣原発のものはNielsenらによると213例中15例(7.0%)と稀で,本邦では桧垣らが初例を報告しているのみである.症例は65歳女性,昭和61年卵巣癌で子宮膣上部切断術,両側付属器切除術を施行. 1年4カ月後右乳房外側上部に径10mmの腫瘤および同側腋窩リンパ節を触知し超音波検査,穿刺吸引細胞診で乳癌の診断にて定型的乳房切断術を施行した.術後病理組織診断にて転移性乳腺腫瘍と診断され,既往歴と組織学的検討により卵巣癌の乳腺転移と診断した. 1989年5月腹腔内リンパ節, Virchowリンパ節転移,癌性腹膜炎にて全身状態が悪化し死亡した.
  • 平野 稔, 植野 映, 田中 秀行, 相吉 悠治, 添田 周吾
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1255-1258
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    線維腺腫は,乳腺に比較的良くみられる良性腫瘍であるが,その内に乳癌が発生することはきわめて稀である.しかもその半数以上は癌として取り扱うか否かが論議されている非浸潤性小葉癌であり,乳管癌は非常に稀である.
    今回われわれは,線維腺腫内に発生した乳管癌の1例を経験したので報告する.症例は, 63歳女性,右乳房の腫瘤と血性の乳頭分泌を主訴に来院した.マンモグラフィーでは腫瘤陰影がみられ,超音波では辺縁平滑な腫瘤とその内部に直径6mmの低エコー域が認められた.細胞診では悪性所見は得られなかったが,乳癌が否定できないため術中迅速診断で方針を決定することとし,腫瘤摘出を行った.迅速診断では線維腺腫の診断であったが,固定標本で線維腺腫の内部に超音波でみられた腫瘤内低エコー域に一致して乳管癌が認められた.
  • 小川 伸郎, 荒井 他嘉司, 稲垣 敬三
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1259-1264
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性. 32歳時に肺結核に対して右胸郭成形術を受けている.右腋窩部の腫脹を主訴として入院した後,右上肢の疼痛,しびれ感が出現した. CT上,腋窩からいわゆる胸成遺残腔にかけて腫瘤性病変を認めたが,諸検査で確診がつかなかった.急速な増大傾向を示し,腫瘍も否定できなかったため,腫瘤摘出術を施行した.病理では,腫瘤は器質化,壊死,炎症,毛細血管の増生を伴った血腫であった. CT及び手術所見で血腫が再生肋骨の内側の胸腔と連続していたこと,肺表面に胸膜胼胝があり腋窩リンパ節に結核病変を認めたことなどから,胸成部に結核性膿胸が残存し血腫の出血源となったと推察した.急速に増大したのは炎症,壊死による再生血管の破綻が繰り返されたものと考えられた.
    本症例を報告し,関連が考えられる,腔内に巨大な血腫を形成する膿胸の特殊型について,若干の考察を加えた.
  • 網野 賢次郎, 三重野 寛治, 三浦 誠司, 武田 義次, 大瀧 和彦, 里井 豊, 青木 久恭, 花谷 勇治, 師田 昇, 四方 淳一
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1265-1269
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    縦隔炎を併発した歯性感染症の1例を経験したので報告する.症例は41歳男性,入院9日前に歯性感染症を起こし,治療を受けている.入院時頸部腫脹,胸部X線像で縦隔の拡大,縦隔気腫,胸水貯留を認めた.ただちに胸腔内ドレナージ,胸腔洗浄および頸部のdebridementを施行した.頸部膿汁,胸水の培養の結果,グラム陽性菌,陰性菌および嫌気性菌が検出され,種々の化学療法剤投与を行った.縦隔炎・膿胸は胸腔ドレナージ,胸腔洗浄で軽快したが,多臓器障害へと移行し,入院33日目に死亡した.
    歯性感染による縦隔炎は口腔内から頸部,さらに縦隔へと下向性に炎症が波及することが多く,また起炎菌は多種多様であるが,嫌気性菌感染の事も多く,感受性の高い化学療法剤の併用と,早期の外科的処置が肝要である.
  • 鈴木 伸一, 近藤 治郎, 天野 富薫, 赤池 信, 今田 敏夫, 青山 法夫, 加瀬 昌弘, 松本 昭彦
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1270-1275
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    成人の先天性食道気管支瘻の4手術例を経験した.診断時年齢は, 37歳から43歳(平均40.5歳)である.いずれの症例も幼少時から咳嗽,喀痰が多く,呼吸器感染を繰り返し,肺炎,慢性気管支炎等の診断で治療をうけた既往をもつ.全症例とも上部消化管造影検査により食道気管支瘻を指摘された.瘻管の開口部は食道側は全て胸部中部食道であり,気管支側は右B10,右B6,右中間気管支幹及び左B6であった. Braimbridgeの分類では, I型1例, II型2例, III型1例であった.治療は,瘻管切除のみが1例,これに肺葉切除術を加えたものが3例であり,いずれも治癒せしめ得た.瘻管の組織所見では,全例とも食道粘膜,粘膜筋板を有しており,うち2例に食道偏平上皮と気管支円柱上皮の移行部を確認できた.幼少時より呼吸器感染症を繰り返す症例では,本疾患の存在を疑う必要がある.
  • 松島 伸治, 川本 雅司, 本田 二郎, 塩田 晶彦, 小泉 潔, 田中 茂夫, 庄司 佑
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1276-1280
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    食道腺様嚢胞癌の1手術例の経験および本邦,欧米報告62例を各因子別に検討を加え,また発生母地に関して考察を行った.症例は70歳の男性,中部食道,前壁に16×13cmの表在隆起型の腫瘍で,直視下生検で腺様嚢胞癌が疑われた.手術は胸部中部食道亜全摘,胸骨後経路,頸部食道胃吻合等,根治手術が行われ,病理診断は腺様嚢胞癌で, sm, n0, m0, v (+), ly (-), stage 0であった. 62例の性別は男性44例,女性18例,年齢分布は36歳から83歳まで平均年齢は62.5歳であった.腫瘍の好発部位は中部食道で,リンパ節転移はn2以上の症例が多く(65%),脈管侵襲も目立った. 5年以上生存の症例は2例のみであり,予後不良であることが示唆された.本症例の場合,腫瘍は食道粘膜固有層および粘膜下にかけて発育し, sm早期癌である状態において,その発生母地は食道固有腺にあると考えられた.
  • 笹井 巧, 榊原 重泰, 原田 厚, 真崎 義隆, 庄司 佑, 田中 茂夫, 武井 裕
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1281-1284
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    88歳,女性,食物摂取時のつかえ感を主訴として来院.食道造影で胸部中部食道に約4cmの陥凹性の病変があり,食道内視鏡時の生検で中分化偏平上皮癌との診断を得た.全身の検索では転移の所見はみられなかった.術前検査では大きな機能障害もなく,外見は暦年齢よりも若く見えた.手術は右開胸,開腹で一期的に行った.切除標本ではa1n0M0Pl0であった.術後,頸部の縫合不全を起こしたが保存的療法で治癒した.それ以外は大きな合併症もなく,手術後2カ月半で退院した.胸部食道癌の手術は患者に与える侵襲も大きく,合併症の頻度も高い.しかしながら,適確な患者の把握ときめ細かい管理を行えば,超高齢者といえども十分手術に耐えられるものと考えられた. 88歳以上で,開胸開腹による手術例は,過去4例報告があるが,超高齢者の食道癌の治療法に関して文献的考察を加え報告する.
  • 木村 臣一, 三村 哲重, 北村 元男, 広瀬 周平, 筒井 信正, 大原 利憲, 木村 秀幸, 戸田 耕太郎, 片岡 和男
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1285-1291
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは無症状の腹腔動脈瘤を2例診療したので報告する.
    症例1: 46歳,女性.子宮筋腫の術後,肝機能障害指摘され,超音波検査にて腹腔動脈瘤を疑われ, CT,血管造影にて確診した.動脈瘤を切除し,自家大伏在静脈片を用いて総肝動脈及び脾動脈の血行再建を施行した.
    症例2: 50歳,男性.検診の超音波検査にて肝嚢胞を指摘された.精査目的の超音波検査にて腹腔動脈瘤を疑われ, CT,血管造影にて確診した.動脈瘤を切除したところ,肝動脈の血流が良好であったので血行再建は行わなかった.
    腹腔動脈瘤の診断,治療について考察し,さらに,本邦報告例19例を検討し若干の文献的考察を行った.
  • 才川 義朗, 青木 明人, 岡芹 繁夫, 金井 歳雄, 桜井 洋一, 島田 英雄, 田口 貴子
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1292-1297
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    極めて稀な腸閉塞をきたした回腸子宮内膜症の1例について報告し,更に回腸子宮内膜症の本邦報告例13例につき検討を加えた.
    症例は38歳女性で,腸閉塞症にて来院した. long tubeによる腸管内の減圧を行った後,小腸造影,腹部CT,腹部超音波検査,注腸検査を施行し,回腸の閉塞と両側卵巣嚢腫が明らかとなった.開腹所見では,著明な骨盤腔内の癒着,両側卵巣嚢腫,回腸末端部と盲腸の腫瘤性病変を認めた.迅速病理診断にて回腸腫瘤は子宮内膜症と判明した.以上より,内性子宮内膜症と腸閉塞をきたした回腸,盲腸の子宮内膜症と診断し,両側付属器切除,単純子宮全摘,回盲部切除を施行した.
    腸閉塞に対する減圧療法は,より詳しい術前診断のもとでの予定手術を可能にし,また病変部の術中迅速診断は適切な手術を行う上で重要であると考えられた.小腸子宮内膜症は稀ではあるが,腸閉塞の原因疾患として念頭におくべきである.
  • 辻 福正, 小山 隆司, 山崎 良定, 山中 陽一
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1298-1302
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腸間膜嚢包は比較的稀な疾患とされており,特異的な臨床症状及び所見に乏しく,術前診断は困難とされている.今回急性腹症を呈して開腹し,確定診断した1例と,術前診断し得た1例の計2例の小腸腸間膜仮性嚢包を経験したので報告する.症例1. 27歳女性,主訴:右下腹部痛,腫瘤触知.現病歴: 4日前より右下腹部痛,及び同部に腫瘤を触知したため来院.触診上,右下腹部圧痛及び同部に直径6cm大の可動性腫瘤を触知.腹部エコー, CTにて,内部構造の均一な嚢包状腫瘤を認めた.その後,圧痛が増強するため開腹,小腸腸間膜の腫瘤摘除した.症例2. 44歳男性,主訴:腹部異常陰影.現病歴:昼食後,腹痛,下痢が出現したため来院.腹部単純X線撮影にて,直径4cm大の石灰化像を認めた.腹部エコー, CTにて,内部構造の均一な嚢包状腫瘤を認めた.腸間膜嚢包の診断の下に開腹,小腸腸間膜の腫瘤摘除した.組織像は共に良性の腸間膜嚢包であった.
  • 藤本 三喜夫, Tooru IMAI, 道後 正勝, 布袋 裕士, 河毛 伸夫, 中井 志郎, 増田 哲彦
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1303-1307
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腸管膜嚢包は主として小児期に見られる腹部腫瘤の中では比較的稀な疾患であり,かつ各種の合併症をもってなんらかの症状が発現した時点で本症と診断される場合が多いとされ,今回われわれは本症と診断するにあたっての問題点を象徴するような典型的な2症例を経験したので報告する.症例はいずれも5歳男児で,症例1は他院にて急性虫垂炎との診断にて虫垂切除術を受けた後も持続する腹痛を主訴に来院し,精査の結果本症と診断し得た症例であり,症例2は急性虫垂炎との診断にて開腹時はじめて本症と気づいた症例であった.また,本症の治療法に関しては,手術的に嚢包を切除することで問題はないと考えるが,若年者症例が多いことなどから,エタノール注入療法を行うことも,非手術的療法として試みる価値のある一つの方法ではないかと考えている.
  • 富田 康弘, 日下部 輝夫, 森 秀樹, 前田 隆志, 津島 秀史
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1308-1312
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    癌化を伴った虫垂villous tumorが盲腸内に重積していた極めて稀な症例を経験したので報告する.
    症例は60歳女性.右下腹部痛にて発症し急性虫垂炎の診断のもとに虫垂切除術を施行したが,摘出標本の病理組織診断は癌がpmに浸潤した虫垂villous tumorであった.右半結腸切除術(R3)を追加したところNo.202のリンパ節に癌転移を認めた.術後1年半を経た現在,臨床経過は順調で再発の徴候はみられない.
    villous tumorは直腸, S状結腸に好発し癌化傾向の強い腫瘍である.虫垂villous tumorは本症例をふくめて本邦では5例の報告があり,癌化を伴ったものは,そのうち3例である.
  • 秋山 裕人, 横井 俊平, 鈴木 正康, 新実 紀二, 鳥居 良彦, 木下 知代, 岩田 博英
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1313-1318
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    若年者のびまん浸潤型直腸癌を経験した.症例は27歳男性で,主訴は下腹部痛,便秘排尿困難.近医で直腸狭窄と診断後紹介され,緊急人工肛門造設後に精査し,注腸造影,大腸内視鏡,腹部CTで直腸膀胱窩に転移を有するRsSの原発性びまん浸潤型直腸癌と診断された.手術を施行し主病巣は手拳大で,直腸膀胱窩転移は直腸,膀胱,右精嚢腺に浸潤していたが遠隔転移はなくP1 H0 N2 (+), S2で相対的非治癒切除可能と判断し骨盤内臓器全摘術を行った.切除標本で主病巣は約6cmにわたる約1cmの壁肥厚が見られ直腸膀胱窩にはRb直腸壁,膀胱,右精嚢腺に浸潤する転移性腫瘤が存在した.組織診断はmucinous carcinoma s ly3 v1 n1 (+), p (+), stage Vであった.また神経周囲浸潤を伴っていた.本例は術後42カ月生存中であり,患者のquality of lifeを尊重しつつ,たとえ治癒切除不能であっても,この様な拡大手術も考慮されるべきと考えた.
  • 志摩 泰生, 村上 努士, 下山 均, 吉田 栄一, 黒河 達雄, 梅田 政吉, 小林 省二
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1319-1322
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    きわめてまれな直腸腺扁平上皮癌の1手術症例を経験したので報告する.症例は51歳の女性で僧帽弁狭窄症の治療を続けていたが,増大する子宮筋腫に対し子宮亜全摘術を施行した.ところが術後に下血が出現し,注腸X線検査で上部直腸(Ra)前壁にI型病変を認め,大腸内視鏡下生検で直腸癌と診断した.手術を施行したところ直腸癌の残存子宮頸部への直接浸潤が認められ,低位前方切除術および残存した子宮頸部切断術を施行した.病変は11×5×4cmのI型病変で表面は絨毛状であった.病理組織像では中分化乳頭状腺癌の中に散在性に扁平上皮癌が認められ,直腸腺扁平上皮癌と診断した.初回手術時から3カ月後に局所再発が認められ,術後6カ月で死亡した.
    大腸腺扁平上皮癌の発生は大腸腺癌の扁平上皮化生説が広く支持されているが,複数の発生機序が存在すると考えるべきである.
  • 上田 和光, 梅北 信孝, 松峯 敬夫
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1323-1326
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は66歳の女性. 1989年の5月にS状結腸癌(adenocarcinoma),胆石症の診断にて, S状結腸切除術(R3),胆摘術を施行.術後経過は良好であったが,退院後4カ月目に, 40年来の痔瘻の皮膚開口部に大豆大の腫瘤が2コ出現し,徐々に増大,その1カ月後には,小児手拳大となった.腫瘤のほぼ中央部に2次口が見られ,造影にて,肛門管に通じる瘻孔所見が得られ,生検の結果はadenocarcinomaであった.また,精査にて,直腸・肛門管粘膜に悪性所見はなく,前回手術時の吻合部にも,再発は見られなかった.以上より,痔瘻に併発した肛門癌の診断にて,腹会陰式直腸切断術(R3),腟後壁合併切除を施行した.痔瘻から発癌したことを組織学的に証明することは困難な場合が多く,本症例はその組織像がS状結腸癌と同じものであったため,原発よりもむしろ転移が考えられた.痔瘻への転移例は本邦ではいまだ見られず,稀な1例であった.
  • 久我 貴之, 松本 直晃, 中山 富太, 藤井 康宏, 高橋 睦夫
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1327-1330
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    肝静脈性血管腫は比較的稀有な疾患である.症例は55歳女性.右季肋部痛にて当院を受診した.腹部超音波検査, CT検査, MRIおよび血管造影を施行し,肝血管腫を最も疑ったが, MRIを除き典型的な画像所見を呈さなかった.悪性腫瘍も否定できず手術を施行した.術中迅速検査で肝血管腫と診断され,肝部分切除術を施行した.病理組織学的検索で,肝静脈性血管腫と診断された.
    肝血管腫は肝良性腫瘍の中で最も多い疾患であるが,診断に際し典型的な画像所見を呈さない症例がある点に留意すべきであるが, MRIはその診断に有用であった.
  • 岸本 秀雄, 大橋 大造, 入谷 勇夫, 小川 弘俊, 中村 従之, 大谷 享, 織田 誠, 坂本 英至
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1331-1336
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    肝内に原発した純コレステロール結石症の1例を経験した.症例は49歳,男性で,心窩部痛.嘔吐を主訴に来院した.腹部超音波検査,腹部CT,経皮経肝胆道造影にて, S8に限局した肝内結石ならびに総胆管結石症と診断し,手術を施行した.胆嚢を摘出後,総胆管を切開し,総胆管の結石を採石後,電気水圧砕石器(SD-1)を用いて,胆道鏡下に截石した.胆嚢には炎症所見を認めず,結石も認めなかった.また粘膜面には著明なコレステロージスを認めた.赤外吸収スペクトルによる分析の結果,肝内,総胆管のいずれも純コレステロール結石と判明した.総胆管の結石は,肝内から流出したものと考えられ肝内に原発した純コレステロール結石症と診断した.術後の肝胆道シンチグラフィーならびに腹部CTにて, S8に限局した胆汁排泄の遅延ならびに胆管拡張は改善していた.本症例は肝切除の適応を考える上で示唆に富むものと思われるので報告する.
  • 塩見 正哉, 蜂須賀 喜多男, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 久世 真悟, 真弓 俊彦, 近藤 真治, 新美 教弘, 青野 景也, 新井 利幸 ...
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1337-1343
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    肝未分化肉腫は極めて稀で,化学療法,放射線療法等にも反応しにくく,予後不良な疾患である.今回肝未分化肉腫の1例を経験したので報告する.
    症例は11歳,女児で主訴は右季肋部痛である.腹部超音波検査, CT検査にて肝右葉に巨大な嚢胞状腫瘍を認め,血管造影検査ではhypovascularであった.摘出標本では腫瘍は厚い被膜に被われており内部には凝血塊を含んだ壊死組織が充満し,肉眼的に明らかな腫瘍成分は認められなかったが,組織学的検索の結果被膜の一部に未熟な間葉系成分からなる腫瘍細胞を認め,肝未分化肉腫と診断した.術後, VCR, ACD, CPAによる多剤併用化学療法を施行し,術後1年5カ月の現在再発の徴候なく健在である.
  • 佐藤 勤, 浅沼 義博, 面川 進, 白山 公幸, 小山 研二
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1344-1347
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    横隔膜に近接する肝硬変合併肝癌2例,転移性肝癌1例に対し,手術侵襲の軽減を目的として右開胸経横隔膜的肝部分切除を施行した. 3症例とも術後合併症の発生をみずに良好な経過をとり,肝機能,動脈血ケトン体比からも手術侵襲が軽度であることが推察された.したがって本術式は,肝門部処理や肝脱転が過大な手術侵襲になる患者の横隔膜に近接する小腫瘍の切除に有用な方法であると考えられる.
  • 和田 大助, 余喜多 史郎, 井内 正裕, 福田 洋, 古味 信彦, 岩河 正典, 佐野 暢哉
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1348-1352
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    肝内に嚢包を形成する腺癌はcystic adenocarcinomaとされ,本邦では現在まで40例の報告がみるが,しばしば肝嚢包からの癌化と混同して,これを肝嚢包腺癌(cystadenocarcinoma,以下本症)として報告している例が少なくない.本症は,成因から, (1) cystadenomaからの癌化, (2) cystadenocarcinomaとして発生,の2つに分類され,肝嚢包からの癌化例とは臨床経過,病理組織像からも区別すべきである.われわれはcystadenocarcinomaとして発生したと思われる,本症の1例を経験したので報告する.症例は52歳男性.主訴は右季肋部痛,発熱.腹部超音波検査,腹部CT検査およびERCP検査の所見から,総胆管結石および左肝内結石を疑い,左外側区域切除術および総胆管切開Tチューブドレナージ術を施行した.手術所見では総胆管内にゼリー状の粘液様物質が採取されたが,結石は存在しなかった.術後病理組織学的所見にて肝嚢包腺癌と診断した.
  • 再発肝癌に対する経皮的エタノール注入療法
    金城 治, 古謝 景春, 喜名 盛夫, 国吉 幸男, 伊波 潔, 大嶺 靖, 城間 寛, 赤崎 満, 宮城 和史, 草場 昭
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1353-1357
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胃,大腸の重複癌の根治手術後, 2年10カ月後に肝癌が発見され肝切除術を施行,さらに肝癌の再発に対しては経皮的エタノール注入療法を行い初回手術より6年を経過した現在,健在である三重癌の症例を経験した.症例は73歳男性. 1984年4月胃早期癌に対して胃亜全摘術ならびに上行結腸癌に対して結腸右半切除術を施行し, 1987年1月肝細胞癌に対して肝亜区域切除術を施行した. 1987年11月, α-fetoprotein (AFP)の再上昇をみ,画像診断にてS4, S6に局在する腫瘤を認め,肝癌の再発と診断,経皮的エタノール注入療法を行い,さらに1989年6月S8の再発性肝癌に対して同様に経皮的エタノール注入療法を行い, AFPの低下をみた.初回手術より6年を経過した現在, AFPは正常値を示し,画像診断でも腫瘤を指摘し得ない.
  • 阿部 秀樹, 若山 達郎, 奥山 正治, 豊田 忠之
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1358-1362
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    急性気腫性胆嚢炎の1例を報告するとともに,本邦報告96例を集計し若干の考察を加えた.
    症例は63歳の男性で,胃切除後第12病日に発症した.腹部単純X線撮影で右肋弓下に胆嚢の輪郭を縁どる特徴的なガス像を認め,急性気腫性胆嚢炎と診断し胆嚢摘出術を行った.またその1年後の胆道造影で総胆管内に結石を認め,これを経皮経肝的,内視鏡的に切石した.
    本症の本邦報告96例中胃手術後の発症は11例あり,うち術後早期の発症は3例である. TAE施行後の発症は3例あり,すべて施行後早期の発症である.またこれら96例中12例の経過中に総胆管結石が認められている.
  • 菊池 嘉一郎, 飯田 修平, 五味 清英
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1363-1367
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腫瘍の肝内胆管への穿破に伴う胆道出血のため,大量の吐下血を認めた肝内胆管癌の1例を経験したので報告する.
    症例は56歳女性で,昭和60年5月に胆嚢内結石にて胆嚢摘出術の既往がある.上腹部痛,黄疸を主訴として入院した.入院後2日目より吐下血出現し高度の貧血を呈した.緊急消化管内視鏡を施行したが出血源は不明であった.腹部超音波検査, CTで肝左葉外側区域に径5cm大の腫瘍性病変を認めた. PTCで,左肝内胆管よりの造影剤の漏出と胆管の拡張を認め,総胆管内には凝血塊を思わせる陰影欠損を認めた.全身状態の改善を待って手術を施行した.肝S3に径5cm大の腫瘍を, S8に径1cm大の転移巣を認めた.外側区域切除, S8部分切除術を施行した.病理組織診断はCholangiocellular type Adenocarcinomaで,腫瘍が肝内胆管に穿破していた.術後経過は良好で,軽快退院した.
  • 中野 秀麿, 飯尾 里, 瀬山 厚司, 金田 好和, 高橋 睦夫
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1368-1373
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    早期胆嚢癌の診断は困難であり,その診断の困難性と相俟って,早期胆嚢癌の外科治療に関しても種々と論議され,確立されたものはない.
    症例は60歳の男性である.検診時の血液検査で異常を指摘され来院した.腹部症状はない.血液生化学検査でGOT,コリンエステラーゼが僅かに上昇していたが,腫瘍マーカーを含め,その他に異常はなかった.腹部超音波検査,点滴静注胆管造影で,胆嚢頸部に14×10mmのポリープを認めた.癌併存の可能性もあったので,胆嚢を切除した.術後の組織検査で,深達度mの早期胆嚢癌(腺腫内癌)であることが判明した.
    術後に二期的リンパ節郭清は行わなかった.良好に経過して,術後12日目に退院した.
    退院後は, 5Fu 600mg/日の内服を継続させ,外来で経過観察している.
    自験例を呈示し,早期胆嚢癌の診断,外科治療方法,中でも初回に胆嚢切除術のみ行った早期胆嚢癌に対する二期的手術(肝床切除,リンパ節郭清)の介入方法について文献的に考察した.
  • 中井 肇, 原藤 和泉, 折田 洋二郎, 折田 泰造, 田中屋 宏爾, 渡辺 直樹, 笠原 潤治
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1374-1378
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    アルコール性慢性膵炎に合併した脾嚢包の1症例を報告する.症例は55歳の男性で,左側背部痛を主訴として入院.入院時の検査で血中,尿中アミラーゼは高値を示し,腹部エコー, CTにて膵体尾部の石灰化像,膵尾部の嚢包,脾内の嚢包が認められ,エコーガイド下の脾嚢包穿刺により得られた嚢包内液のアミラーゼ値は高値を示した.以上より膵仮性嚢包及びそれに合併した脾嚢包と診断され,膵体尾部,脾合併切除術が施行された.膵尾部,脾臓は一塊となっていたが,切除標本では,脾嚢包と膵臓とのつながりは認められなかった.組織学的には嚢包壁に上皮細胞は認められず,脾嚢包は仮性嚢包であった.脾嚢包が形成された機序としては,膵炎による膵酵素の脾実質への直接作用が考えられた.脾合併症を有する慢性膵炎の報告は少なく,貴重な1症例と思われる.
  • 前田 雅裕, 乾 正彦, 伊藤 英夫, 伊藤 春雄
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1379-1382
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    悪性腹膜中皮腫は,臨床所見に乏しく術前診断が困難で,また有効な治療法もない予後不良な疾患である.疫学的に石綿暴露と悪性中皮腫の関係が指摘されているが,腹部原発中皮腫では頻度が低く,今までに石綿が誘因と考えられるのは,本邦で18例しかない.
    症例は27年前より約5年間,建築業にて石綿に暴露した既往を有する45歳男性で,腹部膨満を主訴に来院.腹水細胞診にて悪性中皮腫と診断された.開腹手術で腹腔内播種が著明な大網原発の悪性中皮腫と判明した.化学療法・放射線療法・ステロイド療法等を行ったが,入院後4カ月で死亡した.病理解剖を行い,その結果肺胞内に多量の石綿小体を含む,肺石綿症と診断された.
    日本では, 1960年頃より石綿の大量使用が始っており,今後石綿暴露の関与する悪性腫瘍が増加する可能性がある.この為,石綿接触歴者は,胸部のみならず腹部も含め,生涯にわたる健康管理が必要と考える.
  • 酒井 秀則, 本郷 碩, 黒田 豊, 倉田 悟, 中安 清, 亀井 敏昭
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1383-1386
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腹部打撲により後腹膜奇形腫が破裂して腹膜炎症状を呈し,緊急手術を行った症例を経験したので報告する.症例は15歳の男性で,昭和62年1月6日午後2時頃,上腹部を蹴られた後より同部に激しい疼痛が出現した.翌日,汎発性腹膜炎の状態となり当科に紹介され,入院となった.腹部単純写真で胃ガス像に一致して石灰化を認めた.開腹すると胃後面に奇形腫を認め,一部嚢胞壁が破れ,内容液の流出をみた.摘出標本の病理検査では成熟型の奇形腫であった.後腹膜奇形腫の破裂による汎発性腹膜炎の報告はなく,貴重な症例と思えたので報告した.
  • 飯尾 里, 郷良 秀典, 中野 秀麿, 安武 俊輔, 古川 昭一, 小田 達郎
    1991 年 52 巻 6 号 p. 1387-1390
    発行日: 1991/06/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は45歳女性で,全身倦怠感,痒疹にて来院した. CTにて後腹膜腫瘤を認め,手術を行い,病理組織検査でCastleman's lymphomaと診断された.
    後腹膜Castleman's lymphomaは現在までに43例報告されている.
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