日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
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55 巻, 2 号
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  • 今脇 節朗, 前田 肇, 白石 恭史, 有岡 一郎, 鶴野 由佳, 鵜川 豊世武, 山下 洋一, 田中 聰
    1994 年 55 巻 2 号 p. 283-289
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    開心術症例16例に対し,無輸血開心術を目的として術前自己血貯血法を行った.自己血貯血にあたり,増血を計るため, 8例にはエリスロポエチンを1回6,000単位・週3回・3週間静脈内投与(6,000単位群)し, 8例には同剤を1回9,000単位・週3回・3週間静脈内投与(9,000単位群)した.両群とも1日210mgの鉄剤を3週間経口投与した.血色素量11g/dl以上を目安として,エリスロポエチン投与開始日から1週間毎に1回最高400mlの自己血採血を最高3回行い, 3週間目に手術を行った.
    術前貯血量は6,000単位群は1,058±279ml, 9,000単位群は1,000±566mlで両群間に有意差はなかった.プロトコール開始時の赤血球数・血色素量・ヘマトクリット値は,両群間に有意差はなかったが,手術当日には9,000単位群の諸量はそれぞれ(444±48)×104/mm3・12.9±0.9g/dl・41.5±2.9%で, 6,000単位群の縫(378±23)×104/mm3・11.2±1.0g/dl・36.1±3.1%より有意に高く維持されていた(すべてp=0.02).
    9,000単位群では8例中7例で無輸血開心術が可能であったが, 6,000単位群では8例中4例に無輸血開心術が出来たにすぎなかった.開心術におけるエリスロボエチンの週3回・3週間投与法による自己血貯血法は, 1回6,000単位よりも9,000単位が適当と考えられた.
  • 冠動脈疾患と後天性弁膜症との比較
    阪越 信雄, 平中 俊行, 矢倉 明彦, 前田 晃
    1994 年 55 巻 2 号 p. 290-293
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    成人開心術における無輸血体外循環の成否に関して,冠動脈疾患 (CAD) と後天性弁膜症 (VHD) との間で比較した.対象は1990年1月から1992年4月の間に無輸血体外循環を試みた39例 (CAD: 25例, VHD: 14例)で,手術中に他家血輸血を行わなかった症例を無輸血体外循環成功例とした.年齢・体重・体表面積・手術時間・体外循環時間・入院時Hct値・術中最低Hct値・術前貯血量・体外循環後の出血量について検討した.無輸血体外循環成功率は, CAD例がVHD例に比し有意に高値で雄CAD例はVHD例に比し体重・体表面積が有意に高値であった.体格が同等のCAD例とVHD例で比較しても,成功率はCAD例がVHD例に比し有意に高値であった.術前後の血行動態はCAD例がVHD例に比し良好であった. CAD例はVHD例より無輸血体外循環の成功率が高く,これには体格及び血行動態の差異が関与している可能性があると推察された.
  • 葛島 達也, 小林 俊三, 岩瀬 弘敬, 福岡 秀樹, 伊藤 由加志, 山下 啓子, 岩田 広治, 伊藤 和子, 内藤 明広, 山下 年成, ...
    1994 年 55 巻 2 号 p. 294-297
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    扁平上皮癌への化生を示した甲状腺癌10例について予後の良悪で分類し比較検討した.予後良好群5例は平均年齢54.8歳,周囲臓器への浸潤は軽度で,全例根治術が可能であった.組織学的には全例分化型の乳頭癌に扁平上皮癌への化生を有するものであった.予後不良群5例は平均年齢65歳で,全例周囲への浸潤が強く切除不能であった.組織学的には全例未分化癌組織が存在した.したがって,扁平上皮癌部分の存在そのものは直接予後には影響していない.
    以上より,甲状腺扁平上皮癌という用語は,いわゆる細胞間橋やケラチン形成を示す“純粋な扁平上皮癌”のみに用いるべきで,乳頭癌や未分化癌に合併した扁平上皮化生には用いるべきではないというWHO分類の注記が再確認された.
  • 濱路 政靖, 中尾 量保, 仲原 正明, 荻野 信夫, 西田 俊朗, 長谷川 順一, 辻本 正彦, 黒川 和男
    1994 年 55 巻 2 号 p. 298-303
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    乳腺腫瘤を主訴とした外来患者108名の穿刺吸引細胞診 (ABC) に得た残存細胞 (FNA) をフローサイトメトリー (FCM) を用いて核DNA量を測定し,切除組織の核DNA量と対比した.
    線維腺腫30例は全例Diploidyを示し,摘出し検索した線維腺腫11例の組織のPloidyとの不一致例はなかった.乳癌70例中61例が解析可能で,組織のPloidyと臨床病期,組織型との関連はなかった. FNAと組織Ploidyの一致率は80.3%で, Aneuploidyを示したDNA Indexは有意に相関した. Aneuploidy出現率はFNA, 組織のFCMで有意の差がなかった.反復FNA-FCM施行例でのPloidyの再現性は,組織のそれに比し劣っていたが, Aneuploidyの検出が確診への手がかりになった症例が12例中2例にみられた. FNA-FCMは,臨床応用可能であるが,腫瘍の複数の部位から可及的多数の細胞数を用いて反復測定し, Ploidyを総合的に評価する必要があると考えられた.
  • 土井原 博義, 高嶋 成光, 横山 伸二, 曽我 浩之, 栗田 啓, 多幾山 渉
    1994 年 55 巻 2 号 p. 304-308
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    乳癌における腫瘍マーカーBCA 225について血清学的および免疫組織学的に検討した.その結果,陽性率は原発性乳癌では10.2%, 再発乳癌では62.1%となっており,再発乳癌で有意に高かった.またBCA 225とCEA, CA15-3によるcombination assayでは原発性乳癌の陽性率21.9%, 再発乳癌82.8%となっており,原発性乳癌においてその有用性は乏しいが,再発乳癌では早期診断および治療効果のモニタリングに有用であろう.
    モノクローナル抗体CU18, CU46による免疫染色ではそれぞれ84,8%, 81.8%の陽性例がみられたが,血清値との相関はみられなかった.また陽性例では細胞質のほうが細胞膜より陽性を示す例が多かった.組織型,病期との相関はみられなかったが,免疫染色も乳癌の診断の1つの方法として有用であろう.
    今後,術後再発のモニタリング,治療効果の判定の指標としての検討が必要である.
  • 笹野 進, 大貫 恭正, 神楽岡 治彦, 前 昌宏, 舘林 孝幸, 西内 正樹, 五味 久左子, 新田 澄郎
    1994 年 55 巻 2 号 p. 309-312
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1987年7月より1992年10月までに東京女子医科大学病院呼吸器センター外科で入院治療を受けた特発性自然気胸症例163例(延べ182回)を検討の対象とした.初回発症例は97例 (97回),再発症例は44例 (63回),対側発症例22例 (22回)であった.男性145例 (159回),女性18例 (23回)と男性が87%を占め,年齢分布は39歳以下が85%を占めていた.患側は左側91回,右側90回で左右差はなく,両側同時発症は1回のみであった.選択した治療法は安静のみ2回,持続ドレナージ38回,胸膜癒着剤注入2回,手術140回(開胸手術134回,胸腔鏡下手術6回)であった.治療後の再発率は安静のみ1/2回 (50%),持続ドレナージ10/38回 (26.3%),手術4/140回 (2.9%)であった.入院日数は安静のみ例で平均4.0日,持続ドレナージ例で5.5日,手術例は開胸手術例10.5日(術後入院日数7.9日),胸腔鏡下手術例8.3日(術後入院日数6.5日)であった.
  • とくにリンパ管侵襲率からの検討
    藤本 三喜夫, 増田 哲彦, 中井 志郎, 河毛 伸夫, 赤木 真治, 落久保 裕之, 結城 常譜, 熊本 隆
    1994 年 55 巻 2 号 p. 313-320
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    最近の10年間に経験した早期胃癌417例を検討して以下の知見を得た.
    1. リンパ管侵襲率はリンパ節転移率をはるかに凌ぐ高い値であり,縮小手術とくに内視鏡的治療の適応を考慮するにあたっては熟慮すべき事項と考えられた.
    2. リンパ管侵襲率からの検討では,腫瘍径3cm以下のm癌および1cm以下のsm癌,低分化な組織型を除いた,IIaおよびIIa類似の形態を示すm癌は内視鏡的治療の適応と考えられた.
    3. 一方,上記以外のm癌およびほとんどのsm癌症例の胃切除に際しては,自験例のリンパ節転移頻度の検討から,m癌ではR1郭清を, sm癌ではR1+No.7・8郭清を基本に,A・M領域癌ではNo.12・1の, C領域癌ではNo. 5・6のサンプリングを行う合理的なリンパ節郭清で充分対処できると推察された.
    4. 70歳以上の高齢者に対しては,内視鏡的治療を含めた縮小手術の適応を拡大できる可能性が示唆された.
  • 鈴木 丹次, 長町 幸雄, 小板橋 宏, 細内 康男, 原 敬, 橋爪 立雄, 竹之下 誠一
    1994 年 55 巻 2 号 p. 321-326
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    組織学的リンパ節転移を認めない早期胃癌に, D1以下の手術を施行し,可及的に残胃容積を確保することを縮小手術と定義し,教室の早期胃癌症例を対象に縮小手術の適応を検討した. D2以上の手術を施行した229例の検討結果からは, A領域のm癌および腫瘍径2.0cm未満のsm癌には,組織学的リンパ節転移陽性例を認めず縮小手術の適応と考えられた. M領域の早期胃癌は組織学的リンパ節転移陽性の可能性が否定できず,縮小手術の適応から除外すべきであり, C領域の早期癌に対しては今後の検討が必要である.
    内視鏡的切除を含むD1以下の手術が施行された35例の予後を検討すると, retorospectiveに縮小手術の適応と判定した13例には再発を認めなかったが,適応がないと判定した16例中の3例に再発を認めた.今回の成績の検討には,内視鏡切除施行例も対象に含めたが,これらの適応については,今後の検討が必要である.
  • 上田 順彦, 小西 一朗, 広野 禎介, 佐藤 貴弘, 瀬川 正孝, 黒阪 慶幸, 鎌田 徹, 草島 義徳
    1994 年 55 巻 2 号 p. 327-334
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    過去9年間に当院で経験した鈍的肝損傷例23例 (Ia型1例, Ib型8例, II型5例, IIIa型4例, IIIb型5例)を対象として,肝損傷の診断,治療方針および手術術式について検討した.診断に関してはGPT値は肝実質損傷の程度を反映しており,とくにIII型では500IU/l以上の高度上昇を示す症例が多かった.画像的にはII型では肝挫滅とその周囲の出血のみであったが,III型では大部分の症例で多量の腹腔内出血と肝表面にまで達する裂傷が描出されており,術前の肝損傷の程度,型分類の指標および開腹術の適応基準に有用であると考えられた.治療方針に関しては腹膜刺激症状がなくvital signが安定していれぽ保存的治療が可能であるが雄腹膜刺激症状を認めたりショック症状を呈する症例では開腹術が必要である.その際II型, III型の手術術式は挫滅部位の止血を原則とし,肝切除が必要な場合にもできる限りresectional debridementに留めるべきであると考えられた.
  • 増子 佳弘, 宇根 良衛, 三澤 一仁, 神山 俊哉, 中島 保明, 佐藤 直樹, 松下 通明, 嶋村 剛, 安原 満夫, 松岡 伸一, 小 ...
    1994 年 55 巻 2 号 p. 335-339
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1985年1月から1992年6月までの原発性肝細胞癌初回切除208例を対象とし,腫瘍最大径10cm以上の巨大肝細胞癌22例と,腫瘍径10cm未満の186例とを比較検討した.巨大肝細胞癌22例は,男性14例,女性8例,平均年齢51.0歳であった.背景因子としては, B型肝炎合併例が多く,肉眼的肝硬変合併例は有意に少なかった. α-fetoproteinは半数以上が1,000ng/ml以上の値を示した.手術術式は81.9%が2区域以上の切除であったが,門脈侵襲陽性,肝内転移陽性が有意に多く,非治癒切除例が多かった.予後は3年生存率28.4%と10cm以下の肝細胞癌の61.7%に比較し不良であった. 3例が5年以上生存したが,これらは術後補助化学療法として5-FUの門脈内注入を施行した2例と,アドリアマイシンの肝動脈内注入を施行した1例であった.
  • 原 均, 岡島 邦雄, 磯崎 博司, 森田 真照, 石橋 孝嗣, 豊田 昌夫, 一ノ名 正, 谷村 雅一, 秋元 寛, 仁木 正己, 奥田 ...
    1994 年 55 巻 2 号 p. 340-345
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    過去13年間における組織学的治癒切除がなされた胆嚢癌28例を対象として,核DNA ploidy patternと臨床病理学的因子および遠隔成績の関係について検討した.組織型においてN型はD型より分化傾向の低い癌にみられた.静脈侵潤,リンパ管侵潤陽性例はN型がD型より多く,神経周囲侵潤に関しては有意に多かったた(p<0.05).進行度においても早期の癌はすべてD型であり,進行した癌はすべてN型であった.リンパ節転移ではD型に転移例はなく, N型に50%認め有意に高率であった(p<0.05).遠隔成績は,D型がN型より有意に良好であった(p<0.001).また,深達度ssではD型の遠隔成績はN型より良好であった.従って,胆嚢癌においても,核DNA ploidy patternは生物学的悪性度の指標となり,予後規定因子の一因子と成り得ると考えられた.
  • 戸田 省吾, 鶴田 淳, 牧野 弘之, 吉村 了勇, 内藤 和世, 大森 吉弘, 西山 勝彦, 佐藤 伸一, 神吉 豊, 能見 伸八郎, 岡 ...
    1994 年 55 巻 2 号 p. 346-350
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    当院で過去8年間に施行した下腿動脈分枝与対する大伏在静脈を用いたバイパス症例14例17枝について検討した.このうちASOが11例, TAOが3例であり雄吻合部位は前脛骨動脈3枝,後脛骨動脈11枝,腓骨動脈3枝であった.グラフトは大伏在静脈を最初の1例を除きnon-reversedで,原則としてin situで使用した.弁はACP弁カッターで処理した.またpoor run-off例や早期閉塞例にはprostaglandin E1・urokinase・heparinの持続動注を行った.その結果術翌日までのグラフトの早期閉塞を5枝29%に認めたが,血栓除去と持続動注を行い,晩期にも閉塞を来したのはこのうちの1例を含め計3枝のみであった. TAO症例と腓骨動脈吻合例には晩期閉塞を認めなかった.最近の4例には持続動注を初回手術時より使用し早期閉塞をみておらず,グラフト開存の維持に有効であると考えられた.
  • 田中 克浩, 三木 仁司, 井上 洋行, 河野 宗夫, 都築 英雄, 駒木 幹正, 宇山 正, 門田 康正
    1994 年 55 巻 2 号 p. 351-354
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    抗甲状腺剤で副作用を呈した患者に対して,術前炭酸リチウムを使用して安全に手術しえた1例を経験した. 17歳の女性. 1992年6月にGraves病を指摘され,メルカゾール, βプロッカーが投与されたが雄皮疹にてチウラジールに変更.しかし皮疹は増強し,炭酸リチウム600mg/日の投与を開始した.術直前,炭酸リチウム投与量は1,000mg/日であった.投与期間は3カ月におよびその間血中リチウム濃度は, 0.4~0.9mEq/lにコントロールした.投与中,甲状腺ホルモソ値の変動を若干認めたが,炭酸リチウムによる副作用は認められず, 12月7日安全に甲状腺亜全摘術を行うことができた.副作用のために従来の抗甲状腺剤の投与ができない患者には,炭酵リチウムの術前投与は有用であると思われた.
  • 乳癌との比較検討を中心として
    平井 恭二, 清水 一雄, 内山 喜一郎, 酒井 欣男, 庄司 佑
    1994 年 55 巻 2 号 p. 355-360
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    乳腺に認められた悪性リンパ腫の2例を経験した.症例1は64歳女性,左乳房腫瘤の急速な増大を主訴として来院.腫瘤摘出術施行. LSG分類でびまん性リンパ腫,中細胞型, B cell由来Ann-Arbor分類でStage I, 乳腺原発と診断された.症例2は76歳女性,右乳房腫瘤主訴にて来院.定型的根治的乳房切断術施行. LSG分類でびまん性リンパ腫,中細胞型B cell由来であった.又,術後Gaシンチでの肺門部,鼠径部,肝の異常集積さらに,CT検査より胃壁の肥厚,大動脈周囲のリンパ節腫脹の所見が得られ,全身性悪性リンパ腫, Ann-Arbor分類のStage IVと診断された.
    乳癌と比し,乳腺原発悪性リンパ腫は予後不良であり,診断も困難とされている.今回,われわれは乳癌と乳腺に発生した悪性リンパ腫との比較検討を行ったので報告する.
  • 増田 政久, 田中 英穂, 中島 伸之
    1994 年 55 巻 2 号 p. 361-364
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    近年,静脈内にカテーテルが留置される機会が増え,それに伴う遺残カテーテルの発生,摘出の報告がなされるようになってきた.
    われわれもいままでに9例の心腔内遺残カテーテル症例を経験した全例経皮的に摘出しえた.これらの経験を報告するとともに遺残カテーテル摘出の要点を考察した.遺残カテーテルは経時的に移動することが多く,また重篤な合併症をきたすこともあるので可及的すみやかに摘出すべきである.摘出は高齢者やリスクの高い症例が多いので経皮的に行うのが最善であり,考案した誘導カテーテルとバスケット鉗子を組み合わせた方法は安全かつ有効であると考える.
  • 高木 正剛, 橋谷田 博, 山内 秀人, 宮川 尚孝, 釘宮 敏定, 山崎 士郎
    1994 年 55 巻 2 号 p. 365-369
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    心房中隔欠損を伴わず,左側の全肺静脈が垂直静脈を介して左腕頭静脈に還流するきわめて稀な型の部分肺静脈還流異常症を経験した.患者は5歳女児で心雑音以外はほとんど無症状であったが,心カテーテル検査等で本症と診断された.手術は体外循環下に垂直静脈を切離して左心耳及び左心房壁と吻合し,良好な結果が得られた,部分肺静脈還流異常症自体はさほど稀な先天性心疾患ではないが,その多くは右肺静脈の還流異常であり,また大部分の症例は心房中隔欠損を伴っている.左肺静脈のみの還流異常の頻度は少なく,とくに本例のような左全肺静脈還流異常症の報告は,著者らの検索した限りでは雄自験例を含め本邦で14例に過ぎない.また心房中隔欠損を伴わない例に限れぽ本例が本邦で第6例目の報告例と思われる.
  • 瀬川 大輔, 吉津 博, 羽鳥 信郎, 芳賀 佳之, 瓜生田 曜造, 川上 務, 竹島 茂人, 田中 勧
    1994 年 55 巻 2 号 p. 370-374
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は78歳男性で,主訴は胸痛.現病歴は平成4年3月26日,主訴出現し,急性心筋梗塞の診断で近医人院治療す. 5月20日再び胸痛出現し梗塞後不安定狭心症の診断で再入院するも,内科的治療では胸痛発作の改善が困難なため, 5月28日当院転院となった.入院時のNYHA分類ではIV度で雄心臓カテーテル検査で,左前下行枝及び右冠状動脈に99%の狭窄と, III度の大動脈弁閉鎖不全を認めた.検査データ,患者の生理的年齢, quality of lifeを考慮して手術適応と判断し, 5月29日, 2枝大動脈-冠状動脈バイパス術及び大動脈弁人工弁置換術の緊急手術を施行し,良好な結果を得た.
    高齢者の手術適応を判断するにあたっては,暦年齢にとらわれず,生理的年齢を考慮し,適応があれば積極的に手術を施行するぺきであると思われる.
  • 堀口 倫博, 小林 亮, 野木村 宏, 鈴木 一也, 原田 幸雄
    1994 年 55 巻 2 号 p. 375-379
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は,昭和53年から糖尿病の既往を持つ56歳の女性で,発熱を主訴に来院した.胸部X線写真では肺野に異常陰影はなく,右上胸壁に胸腔内に突出する腫瘤影が認められた. CTでは第2肋骨の破壊を伴う軟部組織濃度の腫瘤が認められ,骨シンチグラフィでは右第1および第2肋骨,右第4肋骨,第9胸椎,胸骨,右肩関節に集積像がみられ,悪性腫瘍の転移が疑われた.平成4年3月5日雄手術を施行した.肺に病変はなく,腫瘤を含めて右第1, 2肋骨および胸壁切除術を施行した.病理組織検査では,乾酪壊死,ラングハンス巨細胞を伴った肉芽腫が認められ,肋骨結核と診断された.骨に病巣を認める結核は全結核の1%以下で,肋骨のものはそのうち5%で稀な疾患である.本症例の如く,骨破壊を伴う軟部組織濃度の腫瘤がみられたり,骨シンチグラフィにて多発集積像がみられる場合には,悪性腫瘍の他に骨の結核性病変も考慮すべきであると思われる.
  • 林 尚子, 並川 和男, 水谷 純一, 土井口 幸, 荒井 光広, 山口 哲也
    1994 年 55 巻 2 号 p. 380-384
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    結核による食道狭窄はまれとされているが,その臨床経過から本疾患と考えられた症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
    症例は80歳,男性.食欲不振,体重減少を主訴に来院した.食道狭窄,左胸水貯留認め,胸水中のadenosine deaminase (ADA) が高値であり,原因として結核を考えた. streptomycin, isoniazid, rifampicin 3者併用による結核の治療を行ったところ,治療開始後, 9週で胸水消失,食道狭窄も改善し退院となった.
    食道結核は比較的まれとされており,英文症例報告は現在までに21例を数えるのみであった.また,本邦では本症例が2例めの報告例である.
  • 鶴田 淳, 内藤 和世, 戸田 省吾, 牧野 弘之, 吉村 了勇, 大森 吉弘, 岡 隆宏
    1994 年 55 巻 2 号 p. 385-389
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    異物による食道穿孔は,急性縦隔洞炎をはじめとするさまざまな合併症を引き起こしやすく,早急与診断,治療を行わなければ,不幸な転帰をたどることも稀ではない.今回,われわれは魚骨により食道穿孔を引き起こした80歳の男性を経験し,発症後約24時間経過した後,開胸術を施し,穿孔部を直接縫合した.術後,絶食,高カロリー輸液,抗生物質療法にて治療したところ,炎症所見の完全な消退までには少々時間を要したが,患者は入院後33日目に退院した.
    本邦報告例与於いて,魚骨による食道穿孔は,今回の例を含めて18例目であり,そのうち4例は死亡している.外科的治療を施した8例のうち死亡したのは大動脈食道瘻を呈した1例のみである.死亡率は発症後24時間を境に大きく増大する為に,より早期に治療を開始することが重要である.
  • 高木 融, 佐藤 滋, 小金沢 修, 森谷 雅人, 黒田 直樹, 逢坂 由昭, 高木 真人, 井上 敬一郎, 小柳 泰久, 木村 幸三郎
    1994 年 55 巻 2 号 p. 390-394
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胸部上部食道の異所性胃粘膜島から発生した原発性食道腺癌の1切除例を経験したので報告する.
    症例は85歳男性.平成3年4月嚥下障害出現し内視鏡施行,上門歯列より20cm左側後壁に全周狭窄性の腫瘍を認め,生検で低分化型腺癌と診断された.平成3年5月9日非開胸食道抜去術,後縦隔経路食道胃吻合術施行.手術所見は, A2NxM0PLxで,術後経過良好のため第39病日退院となった.病理組織学的には, por, sig, tub1, mucなど多彩な組織型を呈す腺癌であり,病巣の口側及び肛門側に重層扁平上皮が存在し,さらに病巣中に胃粘膜類似の円柱上皮が見られたため異所性胃粘膜島から発生した腺癌と診断した.
    異所性胃粘膜島の悪性化の報告は本邦で4例あり,注意深い経過観察が必要である.今回自験例も含め,若干の考察を加え報告する.
  • 高橋 利通, 笠岡 千孝, 小林 俊介, 国崎 主税, 山内 毅, 金村 栄秀
    1994 年 55 巻 2 号 p. 395-398
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    食道癌は大部分が扁平上皮癌であるが,胸部食道に発生した腺扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.症例は49歳の男性で,嚥下困難を主訴として来院.食道透視でImに長径4cm,隆起型,全周性の狭窄を認め,内視鏡検査ではファイパースコープが通過できず,全周狭窄型で生検では食道腺癌であった. 1992年11月17日,食道切除を行い,切除標本では3.4×2cm,表層隆起型,切除度はII度, A1N0M0Pl0, stage II, 絶対治癒切除であった.病理組織所見では大部分は中分化型扁平上皮癌で一部腺癌がみられた.深達度はa1でリンパ節転移なく,腺扁平上皮癌と診断された.術後経過は良好で術後1カ月で退院した.術後4カ月の現在,健在である.
  • 鈴木 修司, 日高 真, 羽生 富士夫, 大橋 正樹
    1994 年 55 巻 2 号 p. 399-403
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは受傷後15年を経過して発症した外傷性横隔膜ヘルニアを経験したので若干の文献的考察を加え報告する.症例は43歳男性,間欠的な心窩部痛と腹部膨満感を主訴に来院し入院となった.入院時胸部X線検査では左横隔膜の挙上と左肋骨横隔膜角の不鮮明化を認めた.また注腸検査にて横行結腸の胸腔内脱出を認めた. 15年前の刺傷 と注腸検査所見より外傷性横隔膜ヘルニアと診断し手術を施行した.ヘルニア門は左横隔膜腱中心の左前外側部に認められ横行結腸がわずかに嵌入していた.手術は横行結腸を還納しヘルニア門を1層の結節縫合にて閉鎖した.ヘルニア門辺縁の病理組織学的検索では外傷の搬痕治癒過程を認めた.外傷性横隔膜ヘルニアは稀な疾患ではないが受傷後長期間経過して発症したものは少ない.本症は病状の進行が急であるため外傷後長期間経過していても本症を考慮にいれ系統的な検査を施行していくことは大切である.
  • 早田 邦康, 三角 芳文, 柏井 昭良, 清崎 浩一, 宮田 道夫, 山中 桓夫, 永井 純, 山田 茂樹
    1994 年 55 巻 2 号 p. 404-408
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃外性に発育した巨大な平滑筋由来腫瘍(良性)の1例を報告する.症例は46歳男性で,市の住民検診で腹部腫瘤を指摘され雄精査目的にて当院与入院した.腹部CT, MRIでは内部与小さな出血巣を思わせる部分が散在する充実性腫瘤が指摘された.腹部超音波検査では腫瘍内部に高輝度の点状エコーを認めたが,超音波ドプラー検査では腫瘍内部の血流は豊富ではなかった.血管造影の所見では,腫瘍は脾動脈からの血流を主に受けるhyper-vascular massで,下横隔膜動脈,肋間動脈からも血流を受けていた.手術所見では,腫瘤は胃体上部大彎側と一部癒着していたが,周囲臓器との明らかな連続性は認められなかった.腫瘤は腫瘤と癒着している約1cm四方の胃壁と共に切除した.術後診断は大網原発平滑筋腫瘍としたが,組織学的検討で,腫瘍は0.3cmの茎で胃の筋層と連続しており,最終的には胃原発の平滑筋腫瘍と診断した.
  • 安田 博之, 山田 直樹, 鬼束 惇義
    1994 年 55 巻 2 号 p. 409-412
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹膜炎症状や膿瘍を認めず,肝との間に腔を形成した胃癌穿孔の極めて稀な1例を経験し,待機的に切除し得たので報告する.症例は64歳雄男性.心窩部不快感,嘔吐,体重減少があり来院し,消化管造影検査で胃体中部から前庭部にかけ陰影欠損があり,胃外与もバリウムの貯りが認められた.胃癌被覆性穿孔の診断のもとに手術を施行した.胃体中部から幽門部与かけ,小彎に手拳大の腫瘤があり,肝左葉外側区域に覆われていた.腫瘤の周辺には大網の癒着がみられたが,腹膜炎の存在したことを思わせるような広範囲の癒着は認められなかった.腫瘤を覆っている肝左外側区域の部分切除とともに,幽門側胃亜全摘を施行し一塊として腫瘤を摘出した.腹膜炎症状は全くなく,線維性癒着が先行し被覆性の穿孔を来たしたことで極めて特異的な経過を示した症例と考えられた.
  • 杉谷 巌, 稲葉 博隆, 小山 博之, 橋本 雅司, 国土 典宏, 坂本 裕彦, 柴山 和夫
    1994 年 55 巻 2 号 p. 413-417
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃十二指腸潰瘍等の良性疾患に対し胃切除を伴わない胃空腸吻合術が行われた例は本邦では数少ない.われわれは,このような胃空腸吻合術後40年目に吻合部胃癌の発生をみた1症例を経験したので,自験例を含め30例の文献的考察を加えて報告する.
    症例は63歳,女性. 1952年,幽門狭窄に対し,結腸前胃空腸吻合を施行された. 1992年,内視鏡にて吻合部に中分化型腺癌を発見され胃亜全摘,空腸部分切除,リンパ節郭清を行なった.組織学的に癌は僅かにpmに進行し,また, gastritis cystica polyposaの像も認められた.
    近年,残胃癌に関する検討から,胃癌発生機序について胆汁を含めた十二指腸液の胃内逆流の関与が考えられている.胃空腸吻合術後胃癌は稀であり,残胃癌同様の発生機序が示唆された.
  • 佐藤 久芳, 星野 正美, 五十嵐 渉, 安斎 圭一, 小野 俊之, 浦住 幸治郎, 土屋 敦雄, 阿部 力哉
    1994 年 55 巻 2 号 p. 418-421
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    鈍的腹部外傷により遅発性に十二指腸の閉塞をきたした症例を経験したので報告する.
    症例は, 19歳,女性.交通事故により上腹部をハンドルにて強打.腹部CTでは後腹膜血腫を認めたが,内視鏡的胆膵管造影では異常なかった.血漿アミラーゼ値が上昇し,外傷性膵炎を考えて絶食,受傷後5日目から経口摂取を開始したが,受傷後2週間を経過してから嘔気嘔吐を訴え,上部消化管透視にて十二指腸水平部の狭窄を認めた.その後,増悪と改善を繰り返し,狭窄が強度となったため,約3カ月後に開腹術を行った.
    鈍的腹部外傷による十二腸閉塞は稀であり,特に十二指腸の内径が小さい小児に起き易く,大人には少ない.また,鈍的十二指腸損傷に対する開腹術の多くは受傷後48時間の間に行われており,遅発性の十二指腸閉塞にて手術治療の適応となる症例は稀である.
  • 中神 克尚, 小堀 哲雄, 大和田 進, 佐藤 泰史, 宮本 幸男, 森下 靖雄
    1994 年 55 巻 2 号 p. 422-425
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は80歳男性で,硅肺による呼吸不全のため入院中に突然の腹痛と下血が出現し,急性腹症の診断で開腹した.回腸末端より4カ所の小腸が部分的与赤く変色,腫張していたため,病変部を含む小腸を切除した.粘膜面には不整型の小潰瘍が散在し,病理組織学的に,結節性多発性動脈炎 (PN) と診断した.本邦におけるPN小腸病変による開腹報告例は自験例を含めて27例にすぎず,術前よりPNを疑われた症例は1例だけであった.予後は不良で,早期診断とステロイドや免疫抑制剤による早期治療が必須である.
  • 岩井 和浩, 中村 豊, 菱山 豊平, 池田 淳一, 松崎 賢司, 安藤 政克, 柴野 信夫
    1994 年 55 巻 2 号 p. 426-429
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肺癌の小腸転移による穿孔性腹膜炎に対し手術治療を行った2症例を経験したので報告する.症例1は75歳男性で肺癌(低分化腺癌)術後,第7病日穿孔性腹膜炎の診断にて開腹,小腸穿孔部を含む部分切除を施行した.病理学的検査にて肺癌の小腸転移であることが確認された.症例2は64歳男性で肺癌(中分化扁平上皮癌)術後, 42カ月後突然の腹痛にて来院,検査の結果,穿孔性腹膜炎の診断にて開腹し2個の小腸転移巣を切除した.病理学的検査にて肺癌の小腸転移であることが確認された.症例1は第53病日,症例2は第51病日に死亡した.肺癌の小腸転移は稀であるが,経過観察にあたっては腹部症状にも留意する必要がある.
  • 松原 俊樹, 浦口 貴, 丸尾 啓敏, 小坂 昭夫
    1994 年 55 巻 2 号 p. 430-434
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腸重積にて発症した虫垂粘液嚢胞腺癌の1例を経験した.患者は56歳の女性で,腹痛を主訴に当院外来を受診した.入院時腹部超音波検査で回盲部にtarget like appearanceを呈した3×3cm大の嚢胞性病変を認め腸重積症が疑われた.注腸検査,大腸内視鏡, CT, 血管造影にて虫垂原発の嚢胞性腫瘍による腸重積と診断した.さらに超音波検査では嚢胞内腔へ突出した乳頭状腫瘤を認め,虫垂癌の存在が強く疑われた.手術はリンパ節郭清を含む右半結腸切除術を施行した.病理組織学的にはmucinouscystoadenocarcinoma (m, ly0, v0, n0) であった.虫垂病変の術前診断として超音波検査は有用な検査法であった.
  • 三村 卓司, 小野田 正, 金田 道弘
    1994 年 55 巻 2 号 p. 435-438
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    直腸癌を合併したvon Recklinghausen病(以下R病)の1例を経験した.症例は55歳男性,人間ドックで直腸腫瘍を指摘された.血族にR病はなく,数年前より躯幹に柔らかい小腫瘤が多発していた.諸検査の後, Rbの直腸癌と診断され,直腸切断術,皮膚腫瘤生検術が施行された.組織学的には高分化型腺癌で,皮膚腫瘤は神経線維腫であった. R病は,特有のcafe-au-lait-spotsと,皮膚および末梢神経に多発する神経線維腫を特徴とする常染色体優性遺伝疾患で,非上皮性腫瘍をしばしば合併する.消化管にも神経原性の非上皮性腫瘍の合併は報告されているが,消化管上皮性腫瘍合併の報告は比較的少なく,直腸癌との合併は本症例が7例目である.しかし, R病における消化器癌発生との間に因果関係が明らかであったとする見解はなく,今後症例を重ね検討を要すると考えられた.
  • 西川 淳介, 黒田 房男, 遠藤 公人, 本多 博, 成島 陽一, 小林 信之, 遠藤 良一
    1994 年 55 巻 2 号 p. 439-442
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併した直腸癌患者の術前に,免疫グロブリン大量療法(25g/日5日間舗投与)を施行し,血小板数が4.9万/mm3から11.3万/mm3と増加を確認した後に,直腸癌に対して低位前方切除術, R2リンパ節郭清及びITPに対して摘脾術を行った.術中・術後を通して異常出血はみられず,順調に経過・退院し,現在も外来通院中で,血小板数約30万/mm3と良好である.
    ITPに対する免疫グロブリン大量療法は,短期間に血小板数を増加させ,かつ特別な副作用も認められず,今回の症例のごとき早急な外科的処置が必要な場合に,最も良い適応であると考えられる.
  • 花輪 茂樹, 渡邊 正志, 長谷部 行健, 鈴木 康司, 蔵本 新太郎, 柳田 謙蔵, 吉雄 敏文, 野中 博子
    1994 年 55 巻 2 号 p. 443-447
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    病理組織学的にcholangiolocellular carcinoma (細胆管細胞癌)が疑われた小肝癌を経験したので報告する.症例は61歳の男性で,超音波検査にて肝S5に径約2cmのhypoe-choicな腫瘍を認めたため入院となった.術前確定診断は困難であったが,吸引細胞診にて悪性細胞を認めたため,肝前区域切除術を施行した.腫瘍はやや硬い白色結節状を呈し,被膜形成はみられなかった.病理組織学的には,腫瘍はHering管に似た小管状配列を呈する一方,肝細胞癌に類似した索状配列部が混在していた.また,特殊染色では胆管細胞由来の結果が得られ,細胆管細胞癌が最も疑われた.術後経過は良好で, 3年4カ月現在再発はみられていない.
    現在のところ,本症の報告例は少なく診断に苦慮する場合が多い.今後,原発性肝癌における位置づけや診断基準を含め,症例を重ね検討する必要があると考えられる.
  • 高石 聡, 浅野 武秀, 尾崎 正彦, 有我 隆光, 王 伯銘, 浅井 隆善, 磯野 可一
    1994 年 55 巻 2 号 p. 448-451
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    患者は13歳の女性で腹痛を主訴に近医を受診し,先天性総胆管拡張症 (CBD) の診断にて当院内科を紹介された.精査にて胆管膵管合流異常を伴うCBDと診断され手術目的にて当科に入院.術前検査にて出血時間7分と出血傾向を認めたため凝固系の精査を施行したところ,第VIII因子活性の低下を認め, von Willebrand病 (vWD) と診断された.本疾患治療薬の一つである第皿因子製剤は反復輸注により,第VIII咽子インヒビターや後天性免疫不全症候群 (AIDS), C型肝炎を発生し医療上重要な問題となっている.今回本製剤を使用せずに手術直前と術後に1-deamino-8-D-argininn-vasopressin (DDAVP) を反復投与し安全に胆管手術(胆管剥離および胆管空腸吻合)を施行しえたので若干の文献的考察を含めて報告する.
  • 垣迫 健二, 桑原 亮彦, 多田 出, 衛藤 薫, 小林 迪夫
    1994 年 55 巻 2 号 p. 452-456
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆嚢穿孔は発生頻度は少ないが,通常,胆石,胆嚢炎に続発することが多い.しかし原因の明らかでない特発性のものは非常にまれで,本邦での報告はこれまで15例を数えるに過ぎない.今回われわれは,胆汁性腹膜炎をきたした特発性胆嚢穿孔の1例を経験したので報告する.症例は84歳女性,腹痛を主訴に来院した. US, CTにて腹水の貯留を認めたのみで原疾患の診断は困難であったが,腹部所見増悪のため開腹術を施行した.腹腔内には清澄な胆汁性腹水が中等量認められ,胆嚢底部には暗赤色の変色域と,そこより胆汁の流出が認められた.胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎の診断で,胆嚢摘出術, T-tubeドレナージを施行した.胆嚢内には結石, debrisはなく,胆汁の細菌培養検査も陰性であった.病理組織学的検査では炎症所見に乏しく,穿孔部は全層性のnecrosisであり,周辺の血管には血栓形成が認められた.
  • 宮治 正雄, 羽鳥 俊郎, 生越 喬二, 幕内 博康, 田島 知郎, 三富 利夫, 鬼島 宏
    1994 年 55 巻 2 号 p. 457-461
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    われわれは極めて稀と思われる急性胆嚢炎状態を呈したAFP産生胆嚢癌の1例を経験し,免疫組織学的に検討を加えたので報告する.症例は58歳,男性で,急性胆嚢炎の診断で緊急に胆嚢摘出術を行った.胆嚢は腫大し,胆嚢内腔は頸部に付着する柔らかい物質で充満していた.病理組織学的にはこの物質の大部分は壊死性変化で,その中心部および胆嚢壁付着部に大部分は粘膜内でごく一部に漿膜下層に及ぶ低分化腺癌が認められた.術前の血清腫瘍マーカー値はCEA 0.6ng/ml, CA19-95u/ml未満, AFP 6,750ng/mlとAFPのみ上昇を認めた.本症例の腫瘍細胞は明るい細胞質を有し,シート状の発育が特徴で,その部分与免疫組織学的にAFP陽性像が約70%にみられ,本症例の発生も鶴細胞のmalignant germ cell tmmorへの異分化像と推定された.術後すみやかに正常化したAFPが,比較的早期に再上昇するとともに多発肝転移がみつかった. AFP産生胆嚢癌と肝転移との強い関連が示唆された.
  • 国府 育央, 水本 正剛, 黒川 英司, 岸渕 正典, 森 浩志
    1994 年 55 巻 2 号 p. 462-466
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    膵癌の中には,まれに扁平上皮癌成分の混在するものが知られている.われわれは,下血にてみいだされた膵腺扁平上皮癌の1切除例を経験したので報告する.なお本症例は,胃癌との同時重複癌であった.症例は, 82歳,男性.主訴は,下血.胃透視,内視鏡などの検査で,十二指腸癌と胃癌の重複癌と診断し手術を施行した.門脈などに浸潤が認められ,膵頭十二指腸切除術,横行結腸,門脈合併切除術を施行した.腫瘍は,膵頭部にあり,十二指腸I部に穿破していた.組織所見は,大部分が高分化扁平上皮癌であり,ごく一部に腺癌が混在し腺扁平上皮癌と診断した.胃腫瘍は,高分化型管状腺癌であり,重複癌であった.リンパ節転移は圧倒的に腺癌成分であり,扁平上皮癌成分に比べmalignant potentialがより高いと思われた.本症は予後が悪く,本症例も術後7カ月で現病死した.膵腺扁平上皮癌と胃腺癌の同時重複癌の切除例の報告はなく,文献的考察を加えて報告した.
  • 西田 豊, 櫛渕 統一, 西村 彰一, 高尾 美幸, 柴田 純祐, 小玉 正智
    1994 年 55 巻 2 号 p. 467-471
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    患者は74歳男性,左上腹部痛を主訴に入院した.左上腹部に圧痛ある腫瘤を触知し,腹部エコー, CT, 67Gaシンチグラフィーで脾腫瘍,胆石症の診断のもとに脾摘,脾門脾動脈幹リンパ節郭清,胆摘,肝生検を行った.摘出脾は1,090g, 大きさ19×13×10cmで,病理組織では腫瘍内に異型リンパ球が増生しLSG分類の濾胞性リンパ腫,混合型であった.郭清したリンパ節も同様の所見であったが肝には浸潤をみなかった.本邦でのLSG分類後の脾原発濾胞性リンパ腫の報告はわれわれの調べでは5例しかなく,本症例は6例目と思われる.患者は術後CHOP療法を3回行い,現在術後8カ月で再発の徴候を認めず健在である.
  • 清水 喜徳, 村上 雅彦, 普光江 嘉広, 安藤 進, 亀山 秀人, 李 雨元, 李 雅弘, 副島 和彦
    1994 年 55 巻 2 号 p. 472-476
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腎癌との鑑別が困難であった極めて稀な膿瘍型黄色肉芽腫性腎盂腎炎の1例を経験した.症例は48歳の女性.主訴は発熱と腰痛.昭和63年9月25日より38°Cをこえる発熱が見られ,内服薬搬与されたが繍傾向がなく,腰痛も出現し,白血球13,100/mm3,尿中白血球数30/毎視野,赤血球数10/毎視野であったため腎盂腎炎と診断し, 9月27日入院となった.入院後の腹部超音波・CT検査では,右腎中央外側から上極にかけて約4~5cm径の辺縁が比較的整で内部が均一な腫瘤が認められ,血管造影では同部位がhypovascular areaとして認められた.腎癌を疑い同年10月26日右腎摘出・リンパ節郭清術を施行した.摘出標本では,肉眼的には腎中央外側に限局した約5cm径の黄色調の腫瘤を認め,病理組織学的検索では,類上皮細胞がabscessを囲むepithelioid cell granulomaの所見であり,膿瘍型黄色肉芽腫性腎盂腎炎と診断された.術後4年を経過したが症状はなく健在である.
  • 下村 知雄, 田伏 克惇, 山本 誠己, 坂口 雅宏, 下間 仲裕, 長浜 実穂, 有井 一雄, 酒谷 邦康
    1994 年 55 巻 2 号 p. 477-480
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    患者は70歳,女性.胆石症術前に偶然,腹部USにて右腎上部に腫瘍を指摘された. CT, 血管造影,血・尿中ホルモン検査より副腎腫瘍と診断し,胆嚢摘出術および右腎腫瘍摘出術を施行し,病理組織学的に血管腫と診断された.副腎血管腫は非常に稀な疾患であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 松井 祥治, 村松 三四郎, 坂根 正芳, 中沢 健, 福田 裕, 藤本 彊, 川西 正敏, 鎮西 忠信
    1994 年 55 巻 2 号 p. 481-486
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    原発性アルドステロン症を呈した巨大右副腎腺腫の1切除例を経験した.患者は42歳,女性で約15年来高血圧症で当院内科に通院していた.血中アルドステロン値が5,698pg/mlと高値を示し,さらに腹部US, 腹部CT, 腹部MRIで右腎上極に腫瘤を認め原発性アルドステロン症(右副腎腺腫)と診断,手術目的で外科に転科した.腹部血管造影施行後右副腎摘出術施行.摘出副腎の大きさは5.1×4.9×2.0cmで重量は31gであった.術後2週間目与血中アルドステロン値は51.1pg/mlと著減したが高血圧状態は持続し引き続き降圧剤の使用を要した.術後15日目に血圧のコントロール目的で内科に再転科となった.
  • 由良 博, 中田 雅支, 鴻巣 寛, 白方 秀二, 岡本 雅彦, 河内 秀幸, 岡 隆宏, 福田 亙
    1994 年 55 巻 2 号 p. 487-490
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹膜垂炎は腹膜垂を主座とする炎症で,その原因として腹膜垂の捻転による血行障害が重視されているまれな疾患である.本邦報告例でもわれわれが検索した限りでは27例のみである.今回,右下腹部痛を主訴とし,急性虫垂炎と鑑別困難であった盲腸腹膜垂炎の1例を経験した.
    症例は33歳男性で,急性虫垂炎の術前診断で開腹したが,虫垂には明らかな異常を認めず,母指頭大,有茎性の盲腸腹膜垂が黒く変色し,捻転による血行障害型の腹膜垂炎と判断し,これを切除した.組織学的には,腹膜垂表面に高度のうっ血および軽度の出血と炎症細胞浸潤を認め,循環障害の存在が示唆された.
    盲腸腹膜垂炎は急性虫垂炎や憩室炎との鑑別が重要であるが,臨床所見と術前診断に基づく開腹所見が一致しない場合には本疾患を念頭において付近の腹膜垂を検索すべきであると考える.
  • 町田 彰男, 森 秀樹, 横山 登, 小林 明彦, 津嶋 秀史, 高橋 望, 日下部 輝夫
    1994 年 55 巻 2 号 p. 491-495
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    食道癌に対し胸部食道全摘,リンパ節郭清を施行後,リンパ管損傷による乳び腹水を来した症例を経験した.術後20病日頃より腹水貯留したため,腹腔穿刺を施行した.腹水の性状は乳白色で,蛋白濃度は低いが中性脂肪濃度が高く,細胞診はclass IIでリンパ球を多数認め,術後乳び腹水と診断した.保存的療法を続けたが,腹水の減少傾向がみられず,術後60日目に外科的治療を行った.手術所見は7,500mlの腹水貯留があり,腹腔動脈近傍にリンパ液の漏出を認めたため,リンパ管を結紮し,さらにフィブリン糊を塗布し腹腔内を生理食塩水で洗浄し閉腹した.術後は腹水の貯留なく,再手術後44病日で退院した.腹腔動脈近傍の郭清においては,リンパ流のうっ滞を来たさない様に配慮するとともにリンパ管の結紮を確実に行うことが重要である.
  • 平野 正満, 藤村 昌樹, 山本 明, 周防 正史, 森 渥視, 岡部 英俊, 佐藤 功, 添田 世沢
    1994 年 55 巻 2 号 p. 496-501
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は64歳女性,腹痛を主訴として来院.右側腹部に腫瘤を指摘され入院.腹部X綿写真で腫瘤に一致した石灰化像があり,腹部CTやMRI検査で石灰化を伴う後腹膜腫瘍であることが判明したが,術前に確定診断はつかなかった.腫瘍摘出術を施行したところ雄腫瘍は13.4×8.8cmで雄重さ640g,内部は充実性でびまん性に石灰化がみられ,割面は黄色調であった.病理組織学的には脂肪変性をきたした脂肪腫で悪性所見はみられなかった.石灰化をきたす機序は不明だが,病理像でmembranous lipodystrophyの所見がみられたことから,長期にわたり脂肪腫に虚血性変化が生じ,カルシウム沈着をきたしたものと推測された.
  • 松田 裕之, 渡邊 雅之, 野添 忠浩, 筒井 信一, 園田 孝志, 岡留 健一郎
    1994 年 55 巻 2 号 p. 502-506
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    真性多血症 (Polycythemia vera, PV) を合併した大腿ヘルニア嵌頓の手術症例を経験した.症例は76歳女性で7年間PVの診断でbusulfanにてコントロールされていた.今回,小腸の壊死を伴う大腿ヘルニアの嵌頓で全身麻酔下に小腸切除・ヘルニア根治術を行った.術前より高度徐脈,低栄養などの合併症がみられ,術後も軽度呼吸不全徴候がみられたがTemporary pacing, Ulinastatinの併用などによりDIC, 血栓症などの合併症はきたさず順調に経過し,術後15日目に退院した. PVを合併した手術症例の報告は本邦で10例余りをみるが,合併症,死亡率は高頻度であり,出血傾向・血栓形成に留意した厳重な術後管理が必要と思われた.
  • 深田 代造, 若原 正幸, 日下部 光彦, 坂田 一記, 田中 千凱
    1994 年 55 巻 2 号 p. 507-510
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.嘔気,嘔吐と右ソケイ部の有痛性腫瘤を主訴として来院したため右大腿ヘルニア嵌頓と診断し直ちに手術を施行した.嵌頓腸管を還納し,ヘルニア根治術を行っていったん退院したが,約4カ月後にイレウスをおこしたので開腹したところ,嵌頓を解除した小腸に狭窄がおきていた.狭窄部の小腸切除を行ったが,切除腸管の組織所見では粘膜面の潰瘍疲痕や腸管壁の肥厚,線維化はみられず,壁在神経層の著しい変性,消失が認められた.従って,ヘルニア嵌頓による腸管壁の虚血によって神経節細胞が選択的に傷害され,その結果無神経節腸管が形成されて蠕動障害が生じ腸管の通過障害がひき起こされたものと推察された.
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