ひだ山地に分布する福地層は,その石灰岩より,1941年に杉山敏郎がFavosites asper D'ORBIGNYを発見して以来,久しく中部あるいは中・上部ゴトランド系とされてきた.しかし,最近,その最上部F_<2D>帯よりCheirurus(Crotalocephalus) japonicus KOBAYASHI & IGOが発見されてより,中・下部デヴォン系の存在が知られて来た.筆者は,福地フオーナの再検討の結果,最下部のF_1帯のGephuropora fukujensis(KAMEI)およびKeriophyllum sp.の存在などから,福地層全体が,中部デヴォン系,とくにその下半部(Eifelian)に相当するものであることをあきらかにした.したがって,日本の中部デヴォン系は,ひだ山地の福地層と北上山地の中里統によって代表されることになる.この両者の間には,岩相,フオーナの構成,火山活動の経緯について相異点が認められる.しかし,また一方において,両者のフオーナの構成要素にオーストラリア要素のあること,また,中国東北部(満州)および朝鮮半島の中部デヴォン系と比較すると,湊正雄(1959)の指摘したような満州相と日本相といったような岩相・生物相の対立が存在し,日本のものは日本相に属する.この対立は,ヨーロツパ西部の中・下部デヴォン系に見られるライン相とボヘミヤ相の対立に相当し,日本相はボヘミヤ相にあたる.さらに,ひだ山地の上部古生界は,大陸相であることは指摘されているが(小貫1960),このような状態は,ひだ山地の中部デヴォン系にまでさかのぼるかもしれない.したがって,ひだ変成岩類中には,満州の中部デヴォン系が先カンブリア系の上に不整合にのるという事実から見て,先カンブリア系が全く存在しないとは断言できない.
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