長崎県対馬の万関瀬戸は1900年に開削され,1975年に拡幅された人工運河である.この万関瀬戸周辺の浅茅湾で採取した柱状試料(TClコア)を用いて,浅茅湾奥部の近現代における内湾環境の変遷史を明らかにした.本研究では放射性年代測定,有機物分析,粒度分析,貝形虫群集解析を行った.放射性年代測定によって求められた堆積速度は0.105cm/yearである.この堆積速度をもとに解析を行ったところ,各種化学分析結果と貝形虫群集解析結果の変化が万関瀬戸の開削と拡幅に密接に関連していることが明らかとなった.万関瀬戸周辺は開削前には水循環の悪い内湾であったため,貧酸素環境に耐性を持つBicornucythere bisanensisが優占していたが,開削を機に新たな種の侵入または随伴種の増加が始まり,B. bisanensisの相対頻度は徐々に低下していった.これらのことから,外洋水の継続的な流入というイベントに対して,緩やかに内湾環境が変化していったことが明らかとなった.その後の拡幅によって,さらに大量の外洋水の流入が開始され,浅茅湾奥部の内湾環境は開放的内湾環境へと変化した.
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