牟婁帯北帯の北部および中部にあたる調査地域における牟婁層群は,下位から,安川累層,打越累層,合川累層に区分される.安川累層は成層泥岩および泥岩優勢な砂岩泥岩互層(泥質互層)からなる.打越累層は主として塊状ないし厚層理砂岩からなり,合川累層は種々の砕屑性堆積物からなる.産出した放散虫化石によれば、調査地域の牟婁層群の地質時代は中期始新世中期〜後期始新世前期である。安川累層および打越累層は、それぞれ深海平坦面および海底扇状地堆積物としての特徴を示す。両累層ともに,側方への岩相変化は認められない.これに対し,合川累層は非常に顕著な側方への岩相変化を示す.このため,合川累層の部層区分は,北部域,中部域,南部域において異なっている.中部域においては,本累層は前弧海盆上のトラフ充填堆積物と,それを覆う斜面性の堆積物であると推定される.対比される南部域の合川累層は海底扇状地堆積物からなる.牟婁層群の圧縮変形は,少なくともその堆積中に始まっていたであろう.単調に広がっていた海底扇状地の環境から複数のトラフ型の狭い堆積盆を持つ前弧海盆への変化は,沈みこむ海洋プレートの収束方向の変化を示すのかもしれない.牟婁層群の最末期の堆積物は前弧域での構造場の変化による堆積盆の浅化,細分化を示している.
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