十八傾壕金鉱床は,内モンゴル中部における始生代のグリーンストン帯を構成する東五分子層群中に産し,この層群の延びの方向に平行する構造帯に規制されている.構造帯はダクタイルな剪断帯,劈開帯,キンクバンドおよび断層からなり,原生代から中生代にかけての構造運動によって形成されたものである.本金鉱床は2種類の鉱体からなり,それぞれの鉱石をマイロナイト型鉱石および石英脈型鉱石とよぶ.マイロナイト型鉱体はダクタイルな剪断帯に規制され,脈石鉱物と鉱石鉱物は共にダクタイルな変形を受けている.この型の鉱石中の黄鉄鉱のδ^<34>S値はマントルに由来する硫黄のδ^<34>Sに類似し,Pb同位体比は^<207>/^<204>Pb-^<206>/^<204>Pb図において,モデルマントル進化曲線付近にプロットされる.これらの特徴から,マイロナイト型鉱石はダクタイルな剪断作用時またはそれ以前(初期原生代)に形成され,造鉱元素は周囲のグリーンストン帯構成岩(マントルに由来する玄武岩やコマチアイトなど)からもたらされたものと推定される.一方,石英脈型鉱体は構造帯が引張された時(中生代)に形成されたもので,この型の鉱石中の黄鉄鉱のδ^<34>Sは,ある種の花崗岩の値に近く,Pb同位体比は地下に分布する中生代の花崗岩中のカリ長石のそれに類似する.これらのPb同位体比は,^<207>/^<204>Pb-^<206>/^<204>Pb図において,モデル上部地殻進化曲線付近にプロットされる.これらの特徴から,石英脈型鉱石の造鉱元素は,地殻起源の花崗岩質マグマからもたらされたものと推定される.本研究によって,十八傾壕金鉱床は,原生代と中生代の異なる時期の異なる鉱化作用によって形成された複鉱化金鉱床であることが明らかにされた.
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