尾小屋鉱山の坑口(第六立坑)からは,現在も高濃度の重金属を含む酸性の廃水(pH3.5)が流出し続けており,消石灰の投入による中和凝集沈殿処理が行われている.処理後の廃水が流入する沈殿池から採取したコアサンプル(44層)の鉱物組成をX線粉末回折(XRD)によって,また含有元素の割合をエネルギー分散型蛍光X線分析(ED-XRF),NCSコーダーによって分析した.コアサンプルの上部には茶褐色の層が多く,下層になるにつれて色は薄れていく.茶褐色は含有するFeの量により,それらは低結晶性の水酸化鉄鉱物の存在を示唆し,Cu,ZnおよびPbが吸着していると考えられる.また,Sの含有量は深層になるに従って多くなる.カルサイトはコアの上層部に多く,下層部にはエトリンガイトが形成されているが,Cdの含有量はカルサイトやエトリンガイトと同じようなプロファイルを示す.その他,堆積物中には,ジプサム,石英,ブルーサイトが認められた.Caは上層部ではカルサイトとして,また,下層部ではエトリンガイトとして堆積している.本研究により,消石灰の投入によって中和処理された鉱山廃水中の重金属イオンは,水酸化鉄,カルサイト,エトリンガイトに伴って堆積,蓄積されていることが明らかになった.
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