滋賀県南部地域には流紋岩質火砕岩とともに白亜紀末の珪長質岩脈・花崗岩が広く分布し,これらを火山深成作用の観点からとらえた湖東コールドロンモデル,それをさらに展開した琵琶湖コールドロンモデルが提起されて現在に至っている.本論文では,まとまった記載がなかったこの地域の珪長質岩脈・火砕岩脈・花崗岩体・花崗岩産出地点の産状および地質年代測定値についてのこれまでの研究結果を集約するとともに,最近の野外調査の結果を加えて,これらの産状と関連する地質学的事実や岩石化学的検討から,琵琶湖コールドロンモデルの現時点における総括を行った.その結果および最新の年代測定結果から,琵琶湖コールドロン形成時のマグマ活動期間の再検討(数千万年→数百万年)と,対応するマグマ溜まり実態およびマグマ集積過程についての今後の具体的解明の必要性が明らかになった.なお,これまで湖東地域において,白亜紀末の火砕流堆積物である火砕岩 (多くが溶結凝灰岩)とこれに伴われる岩脈類とを含む全体が,「湖東流紋岩」あるいは「湖東流紋岩類」と表記されてきたが,湖東流紋岩質火砕岩類と呼ぶのが適切である.
妙義山域は,群馬県の西部に位置している.この山域は,高度差が数100 m の屏風状の断崖・絶壁が集合した特異な山容を呈する.山域の地層は後期中新世の乾陸成の妙義層から,その周囲は中期中新世の海成層からなる.
妙義層は下位から四ッ家部層,一本杉部層,中之岳部層,丁須の頭部層の4 部層に区分される.下位の2 部層は下部妙義層と上位の2 部層は上部妙義層と呼ばれる.上部妙義層は,直方輝石-単斜輝石安山岩溶岩・火山砕屑岩互層からなり,それらの全層厚は1,800 m 以上である.ほぼ同時期に活動した安山岩~デイサイト質の多数の岩株状貫入岩体や岩脈類,および小規模の火山-深成複合岩体が分布する.
中之岳部層は,多くの地域で成層構造が急傾斜~直立し,数100 m ~1 km 以下の多数の小ブロックに分断されている.また,これらの小ブロック群は,周囲を断層で囲まれ,直線で南北7 km,東西9 km の菱形範囲内にジグソー的に寄せ集まっている.
このような地質構造の成因は,多角形の直線状断層で囲まれた深さ1,000 m 以上の陥没カルデラの形成に求められる.この火山性カルデラを妙義カルデラと呼称する.その後の削剥によって,妙義山域は深部構造が露出し,現在の高峻な地形が造られた.