地球科学
Online ISSN : 2189-7212
Print ISSN : 0366-6611
70 巻, 2 号
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総説
  • ―複雑系科学としての地質学 その3―
    志岐 常正
    原稿種別: 総説
    2016 年 70 巻 2 号 p. 35-44
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2018/01/23
    ジャーナル オープンアクセス
    武谷三段階論は地質学の対象の複雑系階層に適用できる.たとえば 1: 舞鶴地帯の砂岩では,粒径が細かいほど長石が多く石英がより粗粒な砂岩に多い.これは本質的性質としての成熟度と矛盾する現象に見える.しかし,構成鉱物の内部構造の実態をみれば,鉱物種によってとりやすい粒径があり,それごとに 粒径淘汰,運搬されたと説明される.2:宍道湖の湖底堆積物中のMo は,バルク試料についてみれば斐伊川が流入する西部で含有量が低い.しかし泥分を調べると,Mo は宍道湖に流入する斐伊川川口に濃集している.バルク試料の分析では,粘土鉱物との共沈と砂分による濃度希釈というメカニズム(本質)と,その結果の実態に気付かないことになりかねない.3:宇治川の天ヶ瀬ダムで,放流可能量を増すために造られたトンネルの放流口近くで,地下水から規制基準を超えるPb とAs が検出された.規定に沿う調査が行われたが,岩盤,岩石鉱物,水などでの具体的存在状態や,疑われる供給源と供給経路などの実態調査がなされなかったので,これら元素が当該の場所に存在するわけ(本質)は不明である.以上の例は,多階層に渡る実態把握の重要性を示している.一般的に,ある階層の現象の本質は下位の階層の実体がつくる実態である.ある現象から本質を知りたい場合の要諦は,下位の階層の実態に目をつけることである.ただし,地質学では,本質は既知で知りたいのが実態である場合も多い.
原著論文
  • 根本 直樹, 佐伯 健太郎, 久島 隆, 山田 努, 箕浦 幸治
    原稿種別: 原著論文
    2016 年 70 巻 2 号 p. 45-64
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2018/01/23
    ジャーナル オープンアクセス
    メッシニアン期の間,蒸発岩が古地中海に広く堆積した.南東スペインのソルバス盆地は,大西洋と地中海の間のジブラルタル海峡の近くに位置し,古地中海の一部であった.この盆地における前期メッシニアン期の間の古環境を復元するために,ソルバス盆地に分布するトゥレ層アバッド部層産の浮遊性および底生有孔虫群集の変化を調査した.アバッド部層の基底部からのGloborotalia miotumida の産出および本部層中部でのこの種の消滅は,本部層の基底が7.246Ma より新しく,そして下半部が6.506Ma よりも古いことを示唆する.Neogloboquadrina acostaensis の巻き方向は,アバッド部層の大部分が6.337Ma より古いことを示唆する.
    浮遊性有孔虫の群集変化に基づくと,アバッド部層の堆積の間に以下の表層環境が繰り返し出現した;混合層が浅く温暖,混合層が浅く冷涼,混合層が深く冷涼.この環境変化は,Sierro et al.(2003)により提唱された表層水の周期的変化を表すかも知れない.表層水の塩分は,アバッド部層堆積の間に増加した.底生有孔虫に基づいて,底層環境も復元した.長期的には,底層では,恐らくそれぞれソルバス海盆の隆起および底層水の停滞により引き起こされた古水深の減少と深層水の貧酸素化が起こっていた.
  • 坂本 隆彦, 谷口 圭輔, 増田 富士雄
    原稿種別: 原著論文
    2016 年 70 巻 2 号 p. 65-81
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2018/01/23
    ジャーナル オープンアクセス
    京都府南部を流れる木津川で5 年間に3 度の大増水が発生した.高水敷に設置された野球グラウンドが冠水し,多様なベッドフォームが形成された.冠水によってつくられたベッドフォームは,野球グラウンドの上流側から下流側に向かって,舌状型デューン,平行型デューン,三日月型デューン,舌状型リップルと平行型リップルなどが順に配列していた.特定のベッドフォームが発達しない場合もあるが,この配列順は一定不変であることがわかった.異なる種類のベッドフォーム間の重なり具合や分布の特徴などから,冠水時に水位の上昇に伴って,下流側に分布するベッドフォームから上流側に分布する ベッドフォームへと順に形成されていったことがわかった.またマイクロデルタのように減水過程で形成されたベッドフォームも存在することも明らかになった.さらにグラウンド面のわずかな傾きが冠水深や堆積物供給等に影響し,標高の少し高い野球グラウンドの南部では,デューンが発達せず平行型リップルや舌状型リップルが発達することも分かった.
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