本論は,新潟平野と宍道低地帯を対象に,温泉水中のヒ素濃度分布と平野の地質構造との関係を検討し,深部熱水に由来するヒ素の供給について考察した.新潟平野内に分布する温泉水は,低温(11〜40℃未満),低ヒ素濃度(0.1〜10ppb未満)であるのに対し,宍道低地帯内では,中〜高温(40〜85℃),中〜高ヒ素濃度(10〜114ppb)で,新潟平野のヒ素濃度の10〜100倍に相当している.両地域とも,花崗岩およびグリンタフ火山岩類分布域では新第三系〜第四系の堆積岩分布域に比べ,泉温・ヒ素濃度とも高い傾向にある.温泉は平野縁辺部に分布し,そこに推定される深部断裂に規制されているとみられる.ヒ素は,両地域とも,深部熱水が基盤花崗岩の断裂を上昇する過程で含まれたもので,天水との混合・希釈によって,温泉中のヒ素濃度が規制されたものと考えられる.宍道低地帯東部では,温泉の採水位置が基盤花崗岩ないしはその直上の場合は,高温-高ヒ素濃度であるが,採水位置が基盤から離れると,低温-低ヒ素濃度になる.これは,採水位置と基盤との距離が離れるほど,天水の混入による希釈率が大きくなることによるものであろう.新潟平野のヒ素濃度がきわめて低い理由は,基盤花崗岩を上昇する熱水中のヒ素濃度が元々低いことに加え,新潟堆積盆地の基盤深度がきわめて大きく,取水位置と基盤岩までの距離が大きいことに起因するためと考えられる.
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