前報において設定したサーマルサイクリング条件に則り, 被着材の物性とサーマルサイクルによる接着強さの低下傾向との関係について調べた.
レジン系接着材の場合, 被着材と接着材の熱膨張係数差によってセメントが受けるひずみは, 接着強さの低下因子に必ずしも関係しない.このことは, 例えば, 被着材の表面処理等の前処理によって経時的な接着強さの低下が防止できることを示唆している.
また, 歯に対する接着強さの低下傾向は, 合金に対する場合よりも小さい.したがって, 長期間にわたって装着された金属修復物の離脱は, 歯とセメントとの界面ではなく, 金属-セメント界面で生ずるものと考えられる.
そして, 合金の場合, 接着強さの経時的低下傾向は, その表面に生成する酸化膜の構造に関係するものと思われ, 非金属合金の場合でのうすくて強固な不動態被膜は, 加熱によって酸化膜を形成させる貴金属合金の場合よりも好ましい結果が得られる.
被着材の剛性では, その値が高いほどサーマルサイクルによる接着強さの低下傾向は小さくなるが, その効果は経時的接着強さの低下率を補うほど大きくはない.
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