土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
74 巻, 6 号
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環境システム研究論文集 第46巻
  • 安室 喜弘, 市原 和幸, 西浦 佑紀, 池川 大哉, 林 倫子, 尾﨑 平
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_1-II_8
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究では,屋外空間の暑熱環境を簡便に可視化する手法を提案し,大阪府摂津市内の緑道ならびに公園を対象とした利用実態調査に基づく利用者属性の把握を行った上で,緑道空間の暑熱環境をモデル化した.提案手法の特徴は,画像における絶対輝度値と日射量を相関付けた日射量推定式を用意することにより,植栽による照光状態を描画した3次元CG画像から地表でのWBGTを推定する方法論にある.この手法により,未だ緑化されていない空間においても,3次元モデルとCGを用いて植栽シミュレーションを行うことで,期待される緑陰の暑熱対策効果を1℃未満の誤差で推定することが可能となった.
  • 山田 宏之, 西本 優奈
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_9-II_18
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     大阪市営長居公園において,夏季の暑熱環境下における利用者の緑陰の選択行動と,温熱環境との関連性を調査した.その結果,WBGTが27.5℃を超える暑熱環境下では,WBGTが1.0℃上昇すると緑陰の茂みを選択する歩行者の割合が2.2~2.4%増加した.走行者に関しては,WBGTが1.0℃上昇すると,歩道日陰を選択する割合は4.5~5.5%増加し,車道日陰を選択する割合が減少した.また,普段,あまり公園を利用しない人は,日常的に公園を利用している人よりも多く日陰を選択する傾向が認められた.WBGTが30.0℃を超えた状態では9割以上の人が,目的地に対して遠回りになるにも関わらず日陰空間を選択しており,このような人に対して屋外サービスを提供する場合は,より多くの日陰空間を確保する必要がある.
  • 鈴木 武, 田中 裕一, 田谷 全康, 山崎 智弘, 木俣 陽一, 前田 勇司
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_19-II_26
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     管理型海面処分場の遮水性能は陸上処分場の考え方をもとに規制されている.そのため,管理型海面処分場内の物質が場外に出て人の健康等に与えるリスクを,処分場が海域への設置であることや投入廃棄物の性格を考慮して分析した.その結果,今回検討した範囲では,遮水壁の透水係数を緩和しても,人の健康等に対して安全性が確保される可能性があるという知見を得た.しかし,リスクの発生の仕方が処分場ごとに異なることや,より現実に近い検討が必要であることを踏まえ,更なる検討を行っていく必要がある.それらは同時に,各地の状況にあわせてリスクを評価して海面処分場の遮水性能を設計するほうが,より合理的である可能性を示している.
  • 山中 元貴, 石井 一英, 藤山 淳史, 佐藤 昌宏
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_27-II_38
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究では焼却施設廃止後,埋立中心となってしまった小規模自治体である北海道占冠村を対象に,(1)埋め立てられている一般ごみ組成調査による短期的な埋立ごみ減量方策,(2)中長期的な埋立以外のシナリオ,(3)特に排出量の多いリゾート系廃棄物を除いた場合の解析を目的とした.その結果,(1)短期的な最終処分場延命化のために資源ごみの分別徹底に加えて,粗大ごみへの対策が必要であること,(2)中長期的には2031年度以降,広域で焼却またはRDF化による中間処理が埋立継続よりも低コストであるが,広域化後のみ比較すると埋立継続した場合であっても分別を徹底した方が低コストとなることを示した.さらに,(3)リゾート系廃棄物を事業者負担とすると,村の負担するコストは50%以上削減できることがわかった.
  • 勝見 慧, 藤山 淳史, 小泉 達也, 佐藤 昌宏, 石井 一英
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_39-II_50
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     廃棄物量の削減と資源化を推進する際,多くの自治体では廃棄物の分別収集とごみ袋の有料化を同時に導入している事例が多く,分別収集のみまたは有料化のみが一般廃棄物処理システムへ与える影響を把握することは難しい.本研究では,2015年4月に分別収集のみを導入した茨城県土浦市を対象に,分別収集導入前後の実データを用いて,分別収集導入による一般廃棄物処理システムへの影響を把握した.その結果,1人当たりの家庭系廃棄物量と最終処分量の減少が見られた.さらに将来の施設更新をも考慮することで,分別収集導入によって,42年間の累積の総コストは増加する傾向にあるが,累積の正味エネルギー消費量と累積の正味温室効果ガス排出量,累積の最終処分量は減少する傾向にあることが示唆された.
  • 坂本 智幸
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_51-II_61
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究は,冷蔵庫の買替えによる消費電力量の差からエネルギー効率ギャップの把握を試みる.エネルギー効率ギャップは省エネルギー政策の有効性を損なわせるものであり,この原因はこれまでの研究から明らかにされてきたが,その程度(大きさ)については意見の一致が見られない.そこで,世帯レベルのデータから冷蔵庫の買替え効果を明らかにするとともに,その効果からエネルギー効率ギャップの大きさを検討する.その結果,省エネルギー性能の高い冷蔵庫に買替えることによって,54.8%から64.9%の節電効果が推計された.この節電効果は,2014年から13年前の冷蔵庫の省エネ技術を2014年時点で利用可能な冷蔵庫の省エネ技術に切り替えることによって実現できる平均的な削減率である.また,この結果を基に計算した主観的割引率は市場利子率よりも大きいものの,これまでの先行研究の値よりも小さいものであった.冷蔵庫の省エネルギー技術が向上する中,冷蔵庫の買替えによって実現できる節電効果は無視出来ないものであると言える.
  • 本田 雄暉, 松本 亨
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_63-II_71
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究は全国26ヶ所の認証地域の中でも最もリサイクル事業者の集積が進んでおり,施策開始初年度より事業を展開している北九州エコタウンを対象に,2005年より5年間隔で物質フロー調査を実施した.アンケート調査及びヒアリング調査により把握した3時点の物質フローデータをもとに,36~51万t-CO2の削減効果があること,中でも立地事業所数が最も多い2010年の削減効果が最大であること等を示した.また,事業所数の増減,事業所あたり受入量,受入量あたりCO2削減効果の増減を用いてCO2増減の要因分析を行うことで,変化に対する寄与率を示した.さらに,ネットワーク分析によりネットワーク構造と密度を可視化し,北九州エコタウンの長期的な変化を明らかにした.
  • 牧 誠也, 藤井 実, 藤田 壮, 白石 靖, 芦名 秀一
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_73-II_83
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     パリ協定の採択により,世界全体で地球温暖化対策の加速化が進んでいる.インドネシアでは,温暖化対策の一環として,産業施設の省エネ化政策が進められているが,産業施設のエネルギー消費実態や省エネ対策が把握されておらず,低炭素化は思うように進んでいない.本研究ではインドネシアの工場を対象に,装置単位でのエネルギー消費計測システムを開発し,官民合わせた関連主体との導入プロセス構築を通じてエネルギー消費実態調査を行った.また,取得した消費量データから,ARXモデル及びマルコフスイッチングモデルによる予測式を作成し,将来のエネルギー需要予測の可能性を検討した.その結果,欠測を除くと高い一致性を持ち,装置によってはデマンドレスポンスに使用可能な時系列性における高い精度を有する予測モデルを開発した.
  • 篠崎 由依, 藤原 誠士, 白川 直樹
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_85-II_92
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     流量変動に支えられた河川生態系の保全のためには一定の環境流量必要量(EFR)では不十分であり,一年の内に最大でどの程度のEFRがどの季節に必要かを知ることが重要である.本研究では,河川植物の純一次生産力から河川生態系の質と脆弱性を指標化するモデルを用いて,月別に全球環境流量必要量を計算した.その結果,全球年平均のEFRの45%に対し,最大月のEFRは149%と3倍にもなった.特に雨季乾季が明瞭なサバナなど一次生産力や流量の季節変動が大きい場所では最大月を加味したEFRを設定する必要がある.検証の結果,本モデルは個別設定されたEFRと最も一致率が高く,既往の全球モデルで評価の難しかった低緯度地域や流況変動の大きな地域でも精度よく評価できることを確認した.
  • 岩見 麻子, 木村 道徳, 松井 孝典, 馬場 健司
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_93-II_101
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究では,気候変動適応策の立案において地方自治体が持つ課題やニーズを把握するために,気候モデルや影響評価を専門とする研究者と地方環境研究所の研究者,自治体行政職員の協働によるコデザインの実践を目指して開催されたワークショップの発言録に対してテキストマイニングを適用した.具体的にはワークショップにおいて話し合われたテーマを特定し,特定したテーマを基に自治体行政職員が適応策の立案に向けて持つ課題とニーズを整理した.その結果,計画目標の設定や短期的な行政計画の検討への長期的な予測情報の活用方法など6つの課題と,関係部局や市民への提供を考慮したわかりやすい情報や,更新された予測情報が継続的に得られる仕組みなど4つのニーズを把握することができた.
  • 松橋 啓介, 陳 鶴, 有賀 敏典, 金森 有子
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_103-II_110
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     持続可能な社会の実現に向けて,個人の行動転換と社会の政策転換を実現することが課題である.本研究は,個人的な移動手段の選択と社会的な交通政策の選択およびその理由について調査し,道徳観や個人属性との関係を分析することを目的とした.結果として,現在,40%超が主に自動車を利用しているが,引越先の手段や利便性向上策としては,自動車よりもバスや鉄道等の公共交通手段の選択が多く,40%を超えた.市長になったとして進める政策としては,公共交通が50%を超え,みんなに使いやすいからとする理由が多くを占め,転換の可能性が示された.公共交通への政策選択は,環境にやさしいことや使うかもしれないことに加え,法律や決まりに反しないことや自分の良心に従うことなどの道徳観が間接的に関係しうることについても示唆された.
  • 岡野 泰己, 平山 修久, 林 光夫
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_111-II_119
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     既往研究での地震による水道管路被害予測においては,管路長当たりの被害件数を用いた推定手法が構築されてきている.しかしながら,地域メッシュ法への適用や災害対応や応急復旧戦略策定への展開には限界がある.本研究では,水道管網を構成する個々の製品である水道管に着目し,確率論的手法を用いて,水道管の離散的被害推定手法を構築することを目的とする.既往の地震災害を対象とし,製品としての水道管に対する管路属性,被害属性,地域属性,ハザード属性のデータベースを構築した.これらの属性による分類を行い,対応するケースごとの,最大速度と被害率による被害関数を構築した.そのうえで,地域メッシュ上において,これらの被害関数とポアソン分布によるモンテカルロ法での水道管路の離散的被害件数を推定手法を提示した.
  • Youngwook NAM, Yasuhiro ARAI, Shinya OTANI, Takaharu KUNIZANE, Akira K ...
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_121-II_127
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     The underground pipelines which are indispensable infrastructure for our society, have aging problems (deterioration and water leakage). Furthermore, the diagnosis area are wide, and it is impossible to use countless sensors due to financial constraints. Therefore in this study, with the focus on the optimal allocation of leak sensors in a water-supply pipeline network, we propose a new model based on the “k-median problem”, and verify the effectiveness via indicator of standard deviation and maximum value of the farthest point. As a result, the new model (the neighborhood model that minimizes a sum of distance to the 1st to the n-th sensor; Type-C) has been proved to be capable of detecting water leakages effectively occurring on the network.
  • 中久保 豊彦
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_129-II_140
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     ごみ焼却場の更新に際して下水処理場との隣接を図り,隣接の強みを活かしたエネルギーシステムの設計が着目される.本研究では,下水処理場において濃縮汚泥・浄化槽汚泥の混合消化により得られるバイオガスを用いて脱水汚泥を乾燥させ,乾燥汚泥をごみ焼却場で混合焼却する連携施策に,隣接することで導入可能なごみ焼却場からの消化槽加温用温水の供給(連携X, Yケースで実施),下水処理場からの冷却水の供給(連携Yケースで実施)を加えたエネルギーシステムを解析対象とした.温室効果ガス排出量を指標とした評価の結果,エネルギー回収が行われていない基準ケースと比較し,連携Xケースで51%,連携Yケースで54%,温室効果ガス排出量を削減できることを明らかにした.
  • 古市 昌浩, 酒谷 孝宏, 蛯江 美孝, 西村 修, 山崎 宏史
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_141-II_150
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     浄化槽分野の低炭素化推進に際し,1990年からの20年余の技術開発による温室効果ガス排出量の推移を明らかにし,この結果を基にさらなる削減施策のあり方について考察した.5から10人槽の浄化槽を対象に1990年から2013年を調査期間として,浄化槽のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量を分析した.その結果,2013年度生産品の排出量は1990年度に対し,一基当たり35%削減され,ブロワの省エネ化と浄化槽のコンパクト化は効果的な低炭素化手法であったことがわかった.また,我が国の排出量削減目標である2030年度マイナス26%(2013年度比)の本分野での達成は,現時点で最高性能を有する浄化槽の普及にて可能となるものの,長期目標(2050年までに8割削減)達成にはさらなる削減施策が必要と示唆された.
  • 菊原 紀子, 田中 裕一
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_151-II_156
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     ヤンマ科の1種であるクロスジギンヤンマ(Anax nigrofasciatus nigrofasciatus)は都会の小規模なビオトープにも出現しやすい種である.大型のトンボ目で胸部の緑色,腹部の水色が特徴的なことから視認しやすく,ライフサイクルや産卵形態は知られているが,詳細な羽化や出現期間,頻度などの情報は把握されていない.そこで,五洋建設技術研究所の水辺ビオトープでクロスジギンヤンマの羽化や成体に関する調査を行った.その結果,羽化のピークは羽化開始日から1週間~10日程度で迎え,年度毎の単位水面積あたりの羽化個体数は0.36~0.71頭/m2であった.成体の出現ピーク期は出現開始日から1週間程度で迎え,出現ピーク時間は午前・午後の2峰型であることが明らかになった.
  • 青木 宗之, 齋藤 圭汰, 芦刈 晃司, 船越 智瑛
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_157-II_163
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究では,階段式魚道プール内の礫堆積時におけるウグイの遡上および滞留行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.そのため,水理実験と実魚を用いた挙動実験を行った.実魚を用いた挙動実験では,特にウグイの滞留行動に着目した.
     その結果,プール内の礫堆積の有無に関わらず,魚の遡上に適した落下流が形成されることを再確認できた.しかし,プール内に礫が堆積するとその領域は5~8割程度に縮小した.また,ウグイの滞留箇所では時計回りと反時計回りの回転流れが混在したため,ウグイは上下流を向いていた.そのため,ウグイが魚道を通過する時間やプール内に留まる時間が長くなり遡上率Rrは低下した.さらに,ウグイは流速が2BL (cm/s)程度であり,かつ,流れの乱れが10~15(N/m2)程度の礫床付近で滞留した.
  • 林 倫子, 沓間 景, 栢原 佑輔, 尾﨑 平
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_165-II_173
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     文化的生態系サービスは恵みの生成と享受の構造が捉えにくいため,生態系サービスの内在的価値の内容を吟味し,人々の価値を表現する「語彙」を増やしてゆく必要がある.本研究では,富士山を擁する静岡県の人々が富士山から日常的に享受している文化的サービスの価値を,140曲計154番の小学校校歌を素材とした読み解きをもとに明らかにした.各小学校からの富士山の可視/不可視分析,校歌歌詞データのテキストマイニング,さらに歌詞の文意の読み解きを通じて,文化的サービスの「場所の感覚」「審美的価値」「精神的価値」「教育的価値」「宗教的価値」に分類できる歌詞表現を計22種類抽出し,富士山のもつ内在的価値を多元的に把握することができた.
  • 山下 良平
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_175-II_182
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究では,絶滅危惧種である希少生物を地域資源として活用する可能性を事例的に検討すべく,地域住民が希少生物の保護と活用に関してどのような認識にあるかを精査し,それらの関係性について統計的に評価した.対象となる希少種はイカリモンハンミョウであり,その価値の捉え方と利活用に関する考え方の相互関係を分析対象とした.2016年10月に石川県内で行われた郵送式質問紙票調査でデータ収集され,409の回収サンプル(有効回答数312)を用いて分析した結果,イカリモンハンミョウが棲む海岸保護に対する支払意思額と労働意思量ともに,自身への経済的メリットに期待する要因が寄与しており,地域づくりの文脈で希少種の保護と活用のあり方を位置づけるうえで,新たな知見が提示された.
  • 平野 勇二郎, 五味 馨, 戸川 卓哉, 有賀 敏典, 松橋 啓介, 藤田 壮
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_183-II_191
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     生活者の交通によるCO2排出の削減は低炭素型ライフスタイルを実現する上で重要課題である.本研究では,家計調査によるガソリンや公共交通への支払額や,小売物価統計,LCAデータベースなどを活用し,生活者の交通に伴うCO2排出を推計し,その都市間比較を行った.自動車利用のCO2排出は,ガソリン消費による直接CO2排出だけでなく,自動車の製造や整備等に伴う間接CO2排出も算出した.この結果,大都市ほど交通によるCO2排出が少ない傾向が生じた.そこで,都市化の程度を代表する変数として可住地における人口密度を選択し,ガソリン消費によるCO2排出との関係を調べた結果,明確な負の相関が生じた.また,自動車保有台数と自動車に関わる直接・間接CO2排出との関係を調べた結果,正の相関が得られた.次に,移動距離を概算し,人口密度によるマクロ推定式を構築することにより高密度化の影響を移動距離の縮小と公共交通への移行という二通りの要因に分けて把握した.
  • 石河 正寛, 松橋 啓介, 金森 有子, 有賀 敏典
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_193-II_201
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     家庭CO2統計の全国試験調査結果と,AMeDASデータから推計した暖房デグリーデーを用いて,全国および10地方別の排出要因分析を行った.さらに,排出要因分析で得たパラメータと直近の公的統計調査における市町村統計値等を用いて,全国市町村別の世帯あたり排出量を推計した.10地方別の排出要因分析から,全国モデルに対して地方別モデルは重相関係数で1-3ポイント程度の精度改善が図られること,北海道・東北・関東甲信・九州では地方内での暖房デグリーデー差がCO2排出に有意な差を生じさせることを明らかにした.地方別モデルを用いた市町村別原単位の推計結果からは,東北・関東甲信・北陸・近畿における四分位偏差が0.4以上であり,地方内における市町村間の排出原単位の差が特に大きい可能性を示した.
  • 森 朋子, 田崎 智宏
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_203-II_211
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     サステナビリティ・トランジションを促すためには集団での環境行動が重要であると指摘されている.本研究では再生可能エネルギーシステムの導入活動を対象として,身近な人が若者の集団での環境行動意図に及ぼす影響を多母集団同時分析によって定量的に把握した.その結果,地域活動に参加する身近な人がいる集団の行動意図はいない集団と比べて有意に高く,他者と協働するコンピテンスへの有能感が実行可能性評価を高め,行動意図に影響していることが分かった.また,いずれの集団においても集団環境行動に対する実行可能性評価と責任帰属認知及び環境問題への積極的興味・関心が行動意図に有意な正の影響を及ぼしていた一方で,個人での環境行動で環境問題の危機を回避できるという認知は集団での環境行動意図を引き下げることが明らかとなった.
  • 立花 潤三, 清水 健哉
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_213-II_220
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     急速に進む少子高齢化を背景として,地方の市町村には将来的な財政不安が広がっている.自律的に財政を永続させるためには,その地域の様々な資源を有効活用し地域経済を活性化することが不可欠であり,再生可能エネルギーはその重要な資源の一つに数えられている.ただし,このエネルギー事業による経済効果は地域内の企業の参画度合いによって大きく異なる.本研究では,全国の風力及び小水力発電事業者へアンケート調査を行い,各発電事業とその関連事業間のキャッシュフローを明らかにし,それを基にした発電事業による経済効果(可処分所得,地方税収,雇用者数)を推計する手法を構築した.そして富山県朝日町,入善町において,風力,小水力発電事業への地域内企業の参画可能性を調査し,地域内の企業状況を反映した地域経済効果を推計した.
  • 室城 智志, 中谷 隼, 栗栖 聖, 森口 祐一, 花木 啓祐
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_221-II_228
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     関東地方における耕地へのソーラーシェアリング(農地において営農を継続しながら太陽光発電を行う技術)の導入を検討する.作物類別に遮光への適応性が異なることを考慮し,パネルの設置比率と減収率の関係を定式化した.また,農作物の作付面積に対して,許容される減収率や地域の系統連系の空容量などの制限因子を考慮した発電ポテンシャル量を推計した.推定の結果,関東地方におけるソーラーシェアリングの導入賦存量は定格容量で65.1GW,年間発電量は69,118GWh/年であった.制約条件を考慮した導入ポテンシャルの算出結果から,電力系統への連系に関する制約条件によって最も強い制約を受けることが分かった.地域全体の収量を維持する制約条件では,農作物の導入優先度を設定し,減収分は各都県内の耕作放棄地で営農を再開することで導入ポテンシャルは最大化されることがわかった.また,ソーラーシェアリングは従来の耕作放棄地における通常太陽光発電設備の導入以上のポテンシャルを持つことが明らかとなった.
  • 池田 裕一, 飯村 耕介, 川島 千恵
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_229-II_236
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     鬼怒川の2列蛇行河道の大礫中州において,礫河原保全事業後に上流側に開いたU字型の植生領域が形成されることに着目し,室内固定床・移動床実験及び数値解析により,出水時の流況及び粗粒土砂の動態について検討した.その結果,U字型の中空部の最奥部では,流れが減速するとともに水深が増加することによって掃流砂量が減少傾向となり,土砂が堆積しやすい状況になること,植生領域背後では流速が極めて遅く顕著な堆積が生ずることを明らかにした.また,U字型領域の主水路側の腕のすぐ外側では堆積傾向が弱まり,礫河原固有の植物種が生息しやすい環境になること,植生領域の外側の水路の左右岸に沿う領域およびU字型の中空部の入口付近では流れの集中により強い洗掘が生じることがわかった.さらに,数値解析により流れ場と粗粒土砂の動態のおおよその傾向を再現できることを示した.
  • 鬼木 哲, 土屋 哲, 谷本 圭志, 細井 由彦
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_237-II_244
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     乾燥地のように水資源に乏しい地域において安定的に水を確保する手段の一つとして,下水処理水の再利用(再生水)が挙げられる.再生水の利用により,水不足の解消や河川・海洋などの水環境保全に期待がかけられているが,具体的に地域経済へどのくらい効果があるのかは明らかではない.本研究では,水不足が常態化する地域に再生水を導入して農業振興を図る施策を想定し,これにより農業生産が増加する場合の地域経済効果を計測するための方法論を示す.具体的には,再生水導入により水資源量が増加した状況下での最適な品目別生産量を線形計画法により求め,これを農業系部門の最大の生産量とみなして産業連関分析に適用し,地域経済への波及効果を算出する.また,事例分析として本研究の分析方法をオマーン国に適用し,再生水導入の効果を計測する.
  • 檜山 万由子, 鳴海 大典
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_245-II_253
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     我が国の農山村地域では過疎高齢化に伴う地域衰退が深刻化しており,地域・生活の質の維持を可能とする地域再設計が求められている.本論文では日常移動環境の現状調査を行うことで,農山村における移動を中心とした日常生活上の課題整理を試みた.また,再設計効果の予測に資するPTデータの収集を行った.得られた結果として,自動車の交通分担率は90%を占め,公共交通の利用分担率は徒歩よりも低い2%であり,利用頻度および依存度が高い傾向を示した.また,年代および居住地と交通弱者には相関性があり,後期高齢者の40%が自身を交通弱者と評価した.これらの結果は,農山村地域が抱える公共交通の満足度の低下,買い物サービスの不便さなどの問題と関係しており,農山村では移動を中心とした日常生活上の課題が山積していることが示された.
  • 斉藤 良太, 森口 祐一, 中谷 隼, 栗栖 聖
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_255-II_265
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     インフラを対象とした物質フロー・ストック分析(MFSA)の既往研究を踏まえると,鉄道の構成体全てを網羅したMFSAは十分に行われていなかった.本研究では,鉄道の中でも東海道新幹線に着目して時系列的MFSAを車両編・構造物編・電車線編・軌道編に分けて行い,東海道新幹線の開業時から現在に至るまでの,物質フロー量・総蓄積量・累積投入量を部材別に明らかにした.その結果,2017年までに約413万tの累積投入量があり,内訳はコンクリート:約329万t, 鉄:約76万t, アルミ:約5万t, 銅:約3万t, ステンレス:約1万tと推計された.2011年における東海道新幹線のストック使用効率は11,319人キロ/tであり,既往研究から求めた日本全国の鉄道平均の値1,059人キロ/tと比較すると,ストック使用効率は約10倍高いことが判明した.
  • 奥岡 桂次郎, 野中 一鴻, 谷川 寛樹
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_267-II_273
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     循環型社会の実現に向けて,廃棄物の発生源となる物質ストック及び物質代謝を詳細に把握することが重要である.社会的背景や地理的要因が物質代謝に与える影響について把握する必要がある.本研究では,名古屋市中心部(約12km2)を対象に,1949年から2009年における各構造物単位(建築物,道路,鉄道)での都市構造物データベースを構築した.建築物滞留年推計モデルを構築し,社会的・地理的パラメータを説明変数として分析し,階数,人口密度,建物工法,公定歩合の変化ごとの建築物滞留年を推計した.また,名古屋市中心部2003年から2009年の6年で解体される建築物について実データと建築物滞留年推計モデルのシミュレーションによる結果を比較,検討した.解体判定が正確に行えたのは6.03Mt中の4.89Mtであり,RC造で高層な建築物ほど正確な解体判定が行えた.
  • 長谷川 高平, 荒井 康裕, 小泉 明
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_275-II_286
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     水道管路資産の急速な老朽化と更新財源の逼迫を受け,長期に渡り発生するライフサイクルコスト(LCC)の最小化を目指すアセットマネジメントが多くの水道事業体で広まりつつある.これまで,水道管路システムを対象にLCCを最小化する管路更新計画モデルを用いた研究が数多く行われてきたが,人口減少下におけるポンプ圧送系に対する更新の考え方(ダウンサイジング等)は十分に確立されていない.そこで本研究では,更新時期と口径を整数で表現する遺伝的アルゴリズム(GA)を用いた管路更新計画モデルを提案し,人口減少下におけるポンプ圧送系の樹枝状送水システムにモデルを適用した.この結果,ポンプ運転費用を考慮した合理的な口径決定と同時に末端圧力の余裕を活用した積極的なダウンサイジングの立案が提案モデルによって可能となった.また,計画期間中における水需要のピーク(計画水量)から口径を決定することが設計規範として合理的であることが示され,人口減少下では更新時の水量から口径を決定することが有効であるということも明らかとなった.
  • 吉田 知広, 中尾 彰文, 吉田 登, 山本 秀一, 靏巻 峰夫
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_287-II_298
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究では,廃熱ボイラを持たない小規模ごみ焼却施設がエネルギー回収技術を導入した際の熱収支モデルの作成と技術導入時の費用対効果の推計を目的とし,和歌山県白浜町における事例分析を行った.モデル施設の熱収支解析をもとに,適用可能なエネルギー回収技術を導入した場合の発電量を推計した.加えて,技術導入時の費用対効果について推計した.分析の結果,小規模ごみ焼却施設においても適用可能なエネルギー回収技術が明らかとなった.費用対効果の面では,メタン発酵-ガス発電設備が最も優位な適用技術で,小規模発電も費用対効果の高い選択肢ということが明らかとなった.
  • 八幡 聖人, 高山 大貴, 中尾 彰文, 山本 秀一, 吉田 登
    2018 年 74 巻 6 号 p. II_299-II_310
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー
     本研究では,下水汚泥焼却炉が更新時期を迎える様々な規模の都市に対して,自立的なエネルギー回収(汚泥廃熱発電)と連携によるエネルギー回収(ごみ混焼発電)のどちらが得策であるかを,イニシャル・ランニングを合わせたトータルコストの費用構造を評価するモデルを構築し分析を行った.分析の結果,双方のエネルギー回収技術とも従来の汚泥焼却に比べて事業性において優位な技術であることが示された.また都市規模が3万人を上回る場合,自立的エネルギー回収が得策であることが明らかとなった.一方,この分析結果は汚泥の集約処理がなされていることを前提としており,分散された複数の汚泥焼却炉を有する都市の場合には,連携によるエネルギー回収が得策となる可能性に留意する必要がある.
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