土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
73 巻, 7 号
環境工学研究論文集 第54巻
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環境工学研究論文集 第54巻
  • 鍋谷 佳希, 田中 周平, 鈴木 裕識, 雪岡 聖, 藤井 滋穂, 高田 秀重
    2017 年73 巻7 号 p. III_1-III_8
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,琵琶湖・大阪湾におけるマイクロプラスチックへのペルフルオロ化合物類(PFCs)および多環芳香族炭化水素類(PAHs)の吸着特性を検討することを主目的とした.表層水中の粒径315 μm~5 mmのマイクロプラスチックを対象としてPFCs 15種,PAHs 16種および塩素化PAHs 4種の同時分析を行った.マイクロプラスチック中の含有量は,Σ15 PFCsが49~218 ng/g-dry,Σ16 PAHsが 1,730~27,100 ng/g-dry,Σ4塩素化PAHsが29~799 ng/g-dryであった.PFCsおよびPAHsの各物質におけるマイクロプラスチックと溶存態の濃度比は,オクタノール/水分配係数(Log Kow)が大きくなるにつれて,増加傾向であり,疎水性吸着である可能性が示唆された.さらに,マイクロプラスチックの単位重量あたりのPAHs含有量は,粒径が小さくなるにつれて,増加する傾向が推察された.
  • 仲田 雅俊, 鈴木 裕識, 田中 周平, 雪岡 聖, 北尾 亮太, 藤井 滋穂
    2017 年73 巻7 号 p. III_9-III_16
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     環境水中での有機フッ素化合物類の存在実態の把握を主目的とし,2016年8~10月に琵琶湖・淀川流域の68地点の環境水を対象に,15種 PFCs,15種 PFCs 生成ポテンシャル(PFC-FPs),全有機フッ素(TOF)を分析した.その結果,1)TOF濃度が67地点で検出下限(32 ng-F/L)以上で検出され,琵琶湖・淀川流域の濃度分布データが得られた.2)15種 PFCs濃度がTOF濃度に占める比率は下水処理水,河川水,湖水による顕著な差はなく全試料の平均値で22%であった.3)琵琶湖・淀川流域のTOF濃度は下水処理水,河川水,湖水の順に高く(各平均値748, 458, 175 ng-F/L),安威川流域のN下水処理場で115,000 ng-F/Lであったことから,特定汚染源からの負荷が示された.4)N下水処理場下流のTOFとPFC-FPs負荷量は,水量が47倍の淀川下流に対し各々2.2倍(30,700 g/日), 3.2倍(8,800 g/日)となり,未知のPFCs関連物質の負荷が示唆された.
  • 和田 光央, 藤井 学
    2017 年73 巻7 号 p. III_17-III_27
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     鉄や銅,亜鉛など河川水中の微量金属は水生生物にとって必須栄養素であるが,過剰に存在すると毒性を呈する場合がある.金属の生物利用性・毒性は溶存態全金属濃度ではなく溶解性無機金属濃度に依存することが知られており,金属の存在形態,スペーシエーションを把握することが水生生物の保全に重要である.本研究では相模川流域において鉄と銅を対象とし,排水等の人間活動の影響を受ける本流(都市河川)とその影響が小さい支流(自然河川)での微量金属スペーシエーションを解析,比較した.その結果,自然河川では溶存有機物質濃度が比較的小さく,その影響で生物利用性が高い溶解性無機金属の割合が大きくなることが示唆された.
  • Bibas GURAGAI, Satoshi TAKIZAWA, Takashi HASHIMOTO, Kumiko OGUMA
    2017 年73 巻7 号 p. III_29-III_39
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     To investigate the change in water quality from the source to the point-of-consumption (PoC), we collected and analyzed 56 water samples from various points of an intermittent water supply system in the Kathmandu Valley, Nepal. Compared to treated water from treatment plants, distribution network samples showed large spatial and temporal variations in total dissolved solids (TDS), Fe, Mn, NH4-N, coliforms, and free and total chlorine concentrations due to irregular supplies, intrusion of contaminants, and uneven dosing of disinfection chemicals. Water quality in the household storage tanks was poorer than that in the distribution network for TDS, NH4-N, E. coli and total coliforms, suggesting contamination in the storage tanks. There were no significant differences in water quality in the rooftop and the basement tanks, yet the median TDS, Mn, and E. coli concentrations in the rooftop tanks were higher than in the basement tanks possibly because of its exposure to the environment and low frequency of cleaning. The age of the basement tank and the source of water (piped or tanker-delivered) had no effect on the microbial quality of the stored water, whereas higher cleaning frequency significantly reduced E. coli concentrations. Household water treatment systems were effective in reducing NH4-N, Mn, Fe, TDS, and E. coli concentrations, but total coliform concentrations increased at the PoC possibly due to microbial regrowth or improper storing and cleaning practices. Guidelines for maintaining residual chlorine levels in the basement tank and redesigning rooftop tank to ease cleaning are suggested as potential measures to improve water quality during storage.
  • 古市 昌浩, 日比野 淳, 西村 修, 山崎 宏史
    2017 年73 巻7 号 p. III_41-III_52
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     日本製浄化槽の海外適用化に際し,地域性に応じた汚泥管理の適正化のための情報を収集・整理することを目的に,EU設置を想定した小規模汚水処理プラントの汚泥発生量と汚泥貯留能力に関する検討を行った.EUと日本のプラントの性能評価方法の相違点である汚水量と汚濁量に着目し,日本仕様と同様のBOD容積負荷に設定したEU向けプラントを用いて現地検証を行い,試験結果を比較・分析した.
     その結果,EU仕様のプラントの汚泥排出量は1.1L/人・日であり,日本仕様の1.5L/人・日に対して汚濁物質の異化転換比率が高く,流入BOD量あたりの汚泥排出量も少ない結果となった.また,汚泥発生量と一次処理槽の実滞留時間との間に比例関係が確認され,脱窒は汚泥発生量の抑制に寄与することが示唆された.
  • 石黒 泰, 藤澤 智成, Yenni TRIANDA, 安福 克人, 奥村 信哉, 玉川 貴文, 李 富生
    2017 年73 巻7 号 p. III_53-III_62
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     一般家庭に設置されている11基の合併処理浄化槽に,ばっ気風量の設定変更を行い,ばっ気風量の変更による処理水質への影響を検討するとともに,相関分析,主成分分析により測定項目の関連性を解析した.11基の対象浄化槽のうち7基の浄化槽でばっ気風量の変更のみで,有機性負荷の減少,透視度の上昇が確認された.相関分析,主成分分析により,BODやC-BODで表される有機性の負荷にはSS,VSS,有機態窒素に加えて,粒径0.5-1.0μmの粒子,ORP,硝化も関連していることが示された.また,ばっ気風量の変更に伴うDOの変化は汚泥の沈降性に正の影響を及ぼしていることが示唆された.
  • 堀尾 明宏, 赤羽根 智加人, 安福 克人, 李 富生, 藤澤 智成
    2017 年73 巻7 号 p. III_63-III_69
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     近年,バサルト繊維は,コンクリートやFRPの補強材,耐火性素材として注目されている.本研究は,バサルト繊維の水処理資材として利用の可能性を検証するために,生活排水中の懸濁物質の付着能および剥離性について調査した.また,水質不良の家庭用浄化槽に設置し,処理水質の改善効果の検討を行った.浄化槽の貯留槽内水液や流入水を用いた回分実験では,高濃度の懸濁物質が短時間に除去され,清澄な処理水が得られたことから,懸濁物質の付着効果が確認できた.また,剥離実験では,9割以上が容易に剥離することができた.水質不良の浄化槽(処理水槽)に4ヶ月間設置したところ,透視度が改善され,安定してBODを処理目標水質以下に維持することができた.
  • 山崎 宏史, 豊貞 佳奈子, 蛯江 美孝, 西村 修
    2017 年73 巻7 号 p. III_71-III_77
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,戸建住宅の給排水設備に節水機器を導入し,節水機器導入時における浄化槽からの温室効果ガス排出量の調査,算定を行った.節水機器導入後,浄化槽からのCH4排出のピーク比は増大したが,嫌気好気循環運転を実施することで,CH4排出は緩和された.浄化槽と水使用に係る温室効果ガス排出量を併せると,当初の節水機器導入前,嫌気好気循環運転なしの条件で最も高く,671.6 kg-CO2 eq/戸・年と算定された.一方,節水機器を導入し,嫌気好気循環運転をすることで温室効果ガス排出量が削減され,418.2 kg-CO2 eq/戸・年と算定された.これらの結果より,節水機器と浄化槽嫌気好気循環運転を組み合わせることにより,約38 %の温室効果ガス排出量を削減することができた.
  • 日高 平, 中村 真人, 折立 文子, 西村 文武
    2017 年73 巻7 号 p. III_79-III_88
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     規模が小さな下水処理場での集約嫌気性消化導入を想定して,オキシデーションディッチ法からの脱水汚泥の低温条件を含む嫌気性消化実験および比較のための好気性消化実験を行った.嫌気性消化実験では,投入基質の固形物(TS)濃度を10%としても,現場で適用されている高濃度である5%と比較してバイオガス生成量に大きな差がなかった.低温ほど反応速度およびバイオガス発生率が低下することが示されたものの,25℃までは大きな低下でなかった.有機物(VS)分解率は,嫌気性消化で0.4程度であったのに対して,好気性消化では0.6以上に達した.液肥利用を想定した水田模擬培養実験では,投入資材のVS/TS比が増加するほどバイオガス発生率および反応速度定数が増加したものの,嫌気性消化反応器内よりは低かった.水田で発生するメタンの代表的な基質である稲わら由来のバイオガス生成に比べて,消化汚泥由来の発生量は少なかった.
  • 伊藤 歩, 阿部 詩穂, 田中 宏典, 石川 奈緒, 川崎 栄, 笹本 誠, 海田 輝之
    2017 年73 巻7 号 p. III_89-III_96
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     二重管型光反応装置を用いた消化ガスの脱硫処理を検討した.溶射法によって成形したTiO2皮膜と10 Wのブラックライトランプを装着した場合では,消化ガスにO2を注入することで光触媒反応によってH2Sが効果的に除去されたが,同出力のオゾンランプのみを装着した場合のほうが除去率は高かった.オゾンランプを用いた場合,溶融石英管に比べて合成石英管を用いることと,消化ガスにO2を注入することでH2S除去速度は向上したが,本研究に用いたTiO2皮膜による光触媒反応の効果は確認できなかった.また,H2S除去速度は初期H2S濃度にほぼ比例して増大し,消化ガスの加湿の有無で比較すると,初期濃度が高いほど加湿の条件で大きくなった.光反応副生成物であるSO2は,消化汚泥の脱水分離液を洗浄液に用いることで除去できた.
  • 池田 聡, 神山 和哉, 北條 俊昌, 李 玉友
    2017 年73 巻7 号 p. III_97-III_104
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     下水汚泥の嫌気性消化における前処理として,バイオガス発電排熱を利用した熱処理を提案し,導入に適する熱処理条件を明らかにすることを目的として,初沈汚泥,余剰汚泥,混合汚泥に3つの温度による熱処理を行い,異なる条件での熱処理が下水汚泥の性状とガス生成ポテンシャルに与える影響の調査および汚泥処理システムのエネルギー収支に与える影響の検討を行った.分析の結果,熱処理は温度条件が高いほど下水汚泥の可溶化に効果があり,最も効果が顕著であった余剰汚泥への熱処理では無処理の余剰汚泥に比べて,CODCr,炭水化物,たんぱく質の溶解性物質量はそれぞれ10倍,3.5倍,74倍となった.回分実験によりメタンガス生成ポテンシャルを求めた結果,初沈汚泥への熱処理はガス生成量を減少させ,余剰汚泥への熱処理はガス生成量を増加させることが示された.ガス生成量の増加に最も効果のあった熱処理条件は余剰汚泥に70℃で熱処理を行った場合で,無処理の場合に比べてガス生成ポテンシャルは15%増加することが示された.ケーススタディによる異なる条件の熱処理を導入した汚泥処理システムのエネルギー収支の比較を行った結果,発電のみを行ったケースの電力自給率は60.1%であるのに対し,余剰汚泥に50℃,70℃の熱処理を導入したケースではそれぞれ62.7%,64.5%であり,発電排熱を利用する熱処理による嫌気性消化の前処理としての有用性が示された.
  • 戸苅 丈仁, 宮本 伸一, 平山 奈央子, 池本 良子
    2017 年73 巻7 号 p. III_105-III_113
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     下水処理場に生ごみを集約し,汚泥と混合メタン発酵処理を行うシステムにおいて,その実現に対し大きな障壁と成り得る生ごみの分別収集についてのアンケート調査を,石川県金沢市および石川県鹿島郡中能登町を対象に実施した.アンケート調査では,拠点となるスーパーマーケットに住民が生ごみを持参して回収を行う「スーパーマーケット拠点方式生ごみ分別収集システム」を想定し,コンジョイント分析を用いて,行政が行う分別収集における住民の生ごみ排出行動影響因子を求めるとともに,住民のシステム利用意思を調査し,システムの実用性を検証した.その結果,住民の生ごみ排出行動影響因子として最も重要度が高いのは「分別の程度」であり,続いて「手数料」となり,「収集頻度」の重要度は低いことが確認された.また,システム利用意思調査結果では,何らかの特典の付与まで含めると60%程度の住民の協力が得られることが確認された.これらの結果から,「スーパーマーケット拠点方式生ごみ分別収集システム」は,下水処理場への集約システムとして有効な方式であることが示された.
  • 長濱 祐美, 阿部 真己, 松本 俊一, 福島 武彦
    2017 年73 巻7 号 p. III_115-III_123
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     霞ヶ浦土浦入では,Microcystisを主とするアオコがしばしば発生する.アオコの発生には,湖水中での増殖の他,吹送流に伴う輸送,底泥からの回帰,能動的な鉛直移動の影響が考えられているが,これらのMicrocystisの挙動が土浦入のアオコ発生に与える影響は不明である.そこで,多層レベルの生態系モデルを構築し,これら3つの挙動が霞ヶ浦土浦入におけるアオコ発生に与える影響を検討した.その結果,輸送をモデル上で表現することで,拡散に伴う現存量の減少を表現できた.また,実測で確認されるような局所的かつ一時的な高密度化を表現できた.底泥からの回帰が与える影響は大きいことが示唆されたが,実測ベースの現存量や変動を用いて再検討する必要が示された.また,鉛直移動の影響は輸送や回帰の影響と比較して小さいことが示唆された.
  • 金谷 祐里, Windora PRAYOGA, 浦 剣, 渡部 徹
    2017 年73 巻7 号 p. III_125-III_137
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     抗生物質の広範な使用にともない,各種排水が流れ込む水環境からの薬剤耐性菌の検出事例がしばしば報告されている。本研究では,耐性菌に感染後の治療の困難さを反映すべく,従来のリスク評価と障害調整損失年(DALY)の手法に薬物の動態や効果に関するPK/PD理論を取り入れることで,水中の耐性菌による健康影響評価手法を開発した。その手法を用いて,海や河川での水浴と水田での作業のシナリオのもと,セフェピムとシプロフロキサシンに対する耐性菌の存在を考慮した皮膚感染症の健康影響を評価した。評価に必要となる皮膚感染に関する用量反応モデルも新たに整備した。評価の結果,耐性菌の存在により多くのケースで疾病負荷が増加(最大7.7倍)すること,耐性率が高い黄色ブドウ球菌による疾病負荷が特に高いことなどが明らかとなった。
  • 八重樫 咲子, 細川 大樹, 渡辺 幸三
    2017 年73 巻7 号 p. III_139-III_147
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     NGS解析を用いた水中の環境DNA解析は生物採集を行わずに生物の群集構造と生息個体数をモニタリングできる手法として注目を浴びている.しかし水生昆虫を対象とした場合には群集構造の評価にとどまる.そこで本研究では,環境DNAのNGS解析から得られた各水生昆虫科の群集構造およびそのDNA配列数と,従来型の定量採集で得られた群集構造と生息個体数の関係性を比較した.まず,愛媛県重信川水系の12地点で河川水を,11地点で水生昆虫の定量採集を行った.次に河川水から得られたDNAに対して昆虫のCOI領域を対象にしたNGS解析を行い,環境DNAの由来となった科の検索を行った.その結果,環境DNAの配列数と個体数の間に有意な正の相関が見られ,環境DNAのNGS解析から分類群数のみならず生息数が評価できる可能性が判明した.また,流水性以外の科や渓流に生息する科も検出され,環境DNAにより幅広い地域の群集構造を明らかにできる可能性が示された.その一方で,研究対象分類群以外の情報がかなり多く検出された.今後,水生昆虫のDNA情報を効果的に回収する手法開発が求められる.
  • 雪岡 聖, 田中 周平, 鈴木 裕識, 藤井 滋穂
    2017 年73 巻7 号 p. III_149-III_156
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,化粧品中のポリフルオロアルキルリン酸エステル類(PAPs)の好気条件下における生分解生成物の挙動の検討を主目的とした.PAPsは難分解性や生殖毒性が疑われているペルフルオロカルボン酸類(PFCAs)の前駆体として注目されている.下水処理場の生物処理工程を模擬した生分解試験より,化粧品中のPAPsからの類縁化合物類を含めた生分解生成物の挙動を定量的に評価した.化粧品中の10種のdiPAPsの濃度減少を一次反応式で近似した場合,その半減期は6~111時間であり,分子量が大きくなるにつれて,半減期が長くなる傾向が示された.8:2diPAPからのペルフルオロオクタン酸(PFOA)のモル生成率は4.0±0.4%であった.中間生成体と予想されるフッ素テロマーアルコール類(FTOHs), フッ素テロマーカルボン酸類(FTCAs)が生分解生成物として検出された.さらに,低分子量のFTOHs(5:2sFTOH, 6:2FTOH, 7:2sFTOH)は,曝気により気相へ移行する可能性が示唆された.
  • 赤城 大史, 菊池 尉了, 齋藤 利晃, 小沼 晋
    2017 年73 巻7 号 p. III_157-III_164
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,硝化細菌によって微量ながら生産される一酸化窒素(NO)の生理的機能に着目し,NOの強制通気が亜酸化窒素(N2O)生成に及ぼす影響を調べた.実験には無機基質で培養した硝化細菌を用い,回分運転サイクル中の曝気又は撹拌工程にNOを強制通気させた.曝気工程で曝露させた系では,N2O転換率の上昇が確認されたが,DOや亜硝酸の影響を取り除いたNOの直接的効果としては,N2O生成能を減少させている可能性が示唆された.一方,撹拌工程でNO曝露をさせた場合は,N2O転換率の減少が確認されたが,DOがおよそ20%以下ではNOが直接的に生成を抑制し,逆におよそ20%以上では促進している可能性が示唆された.実下水処理場では,DO値が20%以下であることも多く,NOをN2O生成抑制因子及び管理指標として利用できる可能性が示唆された.
  • 井口 晃徳, 森 亮太, 鈴木 浩史朗, 橋本 健太郎, 野村 一樹, 林 真由美, 小瀬 知洋, 重松 亨
    2017 年73 巻7 号 p. III_165-III_173
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     新津川原油自噴地域に生息する好気性および嫌気性オクタデカン分解細菌の培養と原核生物の群集構造解析を行った. 新津川土壌の好気性細菌についての分離培養では, 既知のアルカン分解細菌と近縁な細菌が高頻度で培養されてきた一方, 目レベルや科レベルといった高次の未培養系統分類群に属する細菌も75株中4株培養された. また原核生物群集構造解析において, 多様な分類群に属する16S rRNA遺伝子配列が検出された. 新津川底泥試料を植種した, オクタデカンと酢酸を主たる炭素源とした合成廃水を供給するCSTRにおいて, 集積培養した試料の原核生物の群集構造解析を行った結果, Methanosarcina属古細菌, 未分類Bacteroidales目細菌, Paludibacter属細菌の配列が高い頻度で検出された. 嫌気的アルカン分解において重要と考えられているアルキルコハク酸シンターゼのサブユニットをコードするassA遺伝子のPCR-RFLP解析の結果, CSTR内にはassA遺伝子を持つアルカン分解に関与する複数種の生物が存在している可能性が示唆された.
  • 堀内 将人, 小林 剛志, 近藤 利洋
    2017 年73 巻7 号 p. III_175-III_183
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     名古屋市の平和公園射撃場跡地の中で,高濃度の鉛汚染が明らかとなっている地点において,10 m×10 mの区域を25メッシュに分割し,各メッシュの中心で深さ0~5 cmと5~10 cm,区域の中心で深さ90 cmまでを10層に分けて土壌を採取した.土壌中鉛濃度の平面・鉛直分布を得ることで平面的な濃度のばらつきや深さ方向への鉛の動態を評価した.平面分布については,5地点混合法が射撃場のような鉛弾を原因とする汚染土壌で地点代表値を得るための方法として妥当かどうかを評価した.鉛直分布では,全量鉛濃度,溶出量,含有量の分布について比較考察するとともに,土壌への保持形態別鉛濃度比の深さ方向変化から,鉛弾を起源とする鉛の下方移動の動態について考察した.さらには,平和公園散策道利用者の健康リスクについても言及した.
  • 島田 洋子, 下村 遼平, 米田 稔, 福谷 哲, 池上 麻衣子, Hendra Adhi PRATAMA, 颯田 尚哉, 菅原 大輔
    2017 年73 巻7 号 p. III_185-III_194
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP)は,土壌中のCs+を選択的に吸着するサイト(FES)の量の推定や土壌における放射性セシウムの分配係数を予測することができる土壌固有のパラメータとして重要であるが,その測定法として提案されている方法では,測定に約2週間を要し,使用場所が限定され管理が難しいキャリアフリーの放射性セシウムが用いられる.本研究では,RIPの従来の測定方法より迅速に測定でき,容易に使用できる安定同位体セシウムを用いてキャリアフリーの放射性セシウムを用いた場合と差異なくRIPを測定できる測定法を開発することを試み,より迅速にRIPを測定する方法を提案する.また,この方法で安定同位体セシウムを用いた場合にキャリアフリーの放射性セシウムを添加した場合と大きな差がなくRIPを測定するための測定条件を示す.
  • 中村 寛治, 加藤 俊明, 高橋 光, 高橋 京平, 盛 尚樹
    2017 年73 巻7 号 p. III_195-III_202
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     フェノールヒドロキシラーゼ(PH)は6つの遺伝子から成るマルチコンポーネント型の酵素であるが,地下水汚染物質であるトリクロロエチレン(TCE)を好気的に分解することが知られている.本研究では,まず,異なった分解特性を有する2種類のPHの6つの構成遺伝子(phyZABCDE)の中で,1つの遺伝子を置換してハイブリッド体を作製し,TCE分解への影響を検討した.その結果,phyZphyEの置換がTCE分解能の改善につながることが分かった.また,複数遺伝子の置換も実施し,TCE分解への影響をさらに詳しく調査した.作製したハイブリッドPHの中には,元来のPHのTCE分解能と比べて著しく高くなったものも出現し,ハイブリッド化がTCE分解能の向上に有効な手段であることが示された.
  • 玉井 昌宏
    2017 年73 巻7 号 p. III_203-III_211
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     筆者らは,火山ガスの簡易なリスク評価法を開発することを目指して,九州の阿蘇山から放出された二酸化硫黄SO2の熊本平野における濃度変動の要因について検討している.本論では,阿蘇山の火山活動が活発化した2013年11月以降のデータを用いて,SO2の1時間値が環境基準値の半分50ppbを越えた事象を対象として,熊本平野内のSO2濃度と地衡風や地上風ベクトル分布といった気象データとの関連性について検討した.その結果,風速5~20m/s程度の東寄り地衡風が吹く晴天日に,あるいは東寄りの地衡風がより強く,日射の影響がない状況で,この基準を超える高濃度事象が発生することが明らかとなった.熊本平野北部地域については,このような条件下では地衡風の補償流として地上付近に北西風が発生することから,高濃度にはならないことがわかった.
  • 香川 拓輝, 山本 浩一, Muhammad HAIDAR, 神野 有生, 赤松 良久, 鈴木 素之, Sigit Sutikno, No ...
    2017 年73 巻7 号 p. III_213-III_219
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     インドネシア共和国リアウ州ブンカリス島の北岸では海岸侵食が進行している.侵食が進行している土地は主に泥炭地であり,侵食が大きい北岸部では,ボグバーストと呼ばれる泥炭地崩壊の跡が発見された.ランサン島や近隣島嶼域でもボグバーストのような泥炭地崩壊が見られ,ブンカリス島と同様の泥炭地崩壊が進行していると考えられた.LANDSAT画像の解析により,リアウ州では年間約160haの土地が海岸侵食により失われていることがわかった.マングローブが存在しない場所では存在する場所に比較して侵食速度が大きいことがわかった.ブンカリス島の北岸においてはボグバーストだけで2010年時点で11万tの泥炭由来の炭素が海洋に流出していると推定された.
  • 関根 雅彦, Ashraf Elsheikh, Sergio Freitas, To Uyen Doan Thi, 神野 有生, 山本 ...
    2017 年73 巻7 号 p. III_221-III_228
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     水環境汚染が急速に進行する東ティモールの首都ディリにおいて,汚濁物質の流出機構を明らかにし,市民レベルでも実行可能な水質保全策を立案することを目標として,4流域の13井戸と16水路測点で水質調査,水位調査を実施した.その結果,流域全体に地下水深度が小さい流域と,中上流で地下水深度が大きくなっている流域があり,前者では流出高が大きく,わが国のし尿ないし雑排水がそのまま排出されているのと同程度の汚濁物質を排出しているのに対して,後者では流出高が小さく,汚濁物質の排出量も1桁小さくなること,また浸透性や漏水のあるし尿処理施設があり,地下水深度が小さい地域での貯留可能年数の短縮など汚染を助長する恐れがあることが示された.地盤高が低く地下水深度が小さい地域では,水路の水の利用を制限するとともに,浸透性のあるし尿処理施設を水密性の高い施設に切り替え,定期的に汲み取りを行う必要があること,政府としては,このような地域に優先的に下水道整備を進める必要があることを指摘した.
  • 末永 遼, 小杉 優佳, 高野 典礼, 本多 了, 池本 良子
    2017 年73 巻7 号 p. III_229-III_239
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     日本海側の中規模海跡湖である河北潟の有機物の起源を推定するために,流域の水質調査を行った.その結果,夏季における有機物濃度の上昇の多くが溶存態有機物(DOM)の増加によるものであり,これは流入河川のDOMの増加に起因すると推定された.また,流入河川のDOMの増加は中流部でも同様に認められたことから,DOMの起源は河川上流部であることが示された.次に,流入する代表河川のDOMの動態をEEM-PARAFAC解析を用いて解析した結果,河川上流部からDOMの増加が認められ,上流部に点在するため池および水田からの流出が起源と推定された.
  • 野村 宗弘, 千葉 高之, 藤林 恵, 西村 修
    2017 年73 巻7 号 p. III_241-III_246
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     現在,多くの湖沼で水生植物群落が激減している.一方,ハスなど水生植物の中には生育面積を拡大させている種も存在し,これらの植生の変化に伴い,湖沼底質の泥化や浅底化の進行が懸念されている.しかし,ハス由来有機物の残存量に関する知見は少ない.そこで,ハスのリターに含まれる難分解性有機物が底質環境に及ぼす影響を評価することを目的として,ハスの分解実験および伊豆沼の現地調査を行った.733日間の分解実験のデータに対して,Multi-Gモデルを適用した結果,好気条件下で残存する粒状有機物の割合は約35 %,嫌気条件下で約58 %を示した.また,長期の分解実験および現地の底質コアサンプルの分析の結果,LCFAs/全脂肪酸比を用いることで粒状有機物の難分解性を推定できる可能性が示唆された.
  • 鬼束 幸樹, 秋山 壽一郎, 三原 和也, 鎹 敬介, 定地 憲人
    2017 年73 巻7 号 p. III_247-III_252
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     河川における魚類の生息特性を把握する上で,単一の魚種だけでなく,複数の魚種が周囲に存在する場合も対象としなければならない.既往の研究より,異魚種の個体群が遭遇した際の魚群の挙動は若干解明されているものの,魚の体長を系統的に変化させてその挙動を解明した研究は少ない.本研究は,静止流体中においてアユの体長を固定した状態でオイカワの体長を系統的に変化させ,両者の行動特性の変化を解明したものである.その結果,オイカワの体長の増加に伴い,オイカワは遊泳距離,遊泳速度および屈折角度を減少させ,アユがオイカワに対して威嚇する傾向は徐々に弱まることが明らかになった.
  • 鬼束 幸樹, 秋山 壽一郎, 宍戸 陽, 武田 知秀
    2017 年73 巻7 号 p. III_253-III_260
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     視覚情報は魚の行動特性に影響を及ぼす一因であるため,光を用いた魚の行動制御が試みられてきた.光に対する反応は魚種によって異なると推定されている.井上らは海洋魚より河川魚の方が視覚を利用して定位する傾向が強いことを指摘した.しかし,光と各魚種の行動特性との関係は十分には解明されていない.本研究では矩形プール内外において白色光の配置を変化させ,静水中を遊泳するアユの遊泳挙動に及ぼす影響の解明を試みた.その結果,白色光の配置を変化させてもアユの魚群半径にほとんど影響を与えないが,プール内で白色光が底面に接近するとアユの遊泳速度が増加することやアユが白色光から遠ざかることが判明した.
  • 平岡 喜代典, 中原 真哉, 大道 優平, 小林 英明, 寺脇 利信, 岡田 光正
    2017 年73 巻7 号 p. III_261-III_267
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     岩国市地先において天然藻場(アマモ場)と同様な藻場を再生させるため,順応的管理の考え方に基づき,移植や播種を行なわず,旧航路を埋め戻すことで,自立的に回復する藻場の再生に取り組んだ.本研究では,藻場再生の一連の手法の提案とこれの妥当性を検証した.本事業では,再生方針から目標設定,工事計画の立案,モニタリングを行い,3年目の中間評価で再生の可能性を判断し,5年目の最終評価では天然藻場との比較で目標の達成度を判断した.その結果,埋戻区ではアマモの生育可能な環境にあっただけでなく,花枝の出現やアマモの群生が確認された.アマモとコアマモの生育状況は,概ね天然藻場の範囲内で同様な変動を示し,天然藻場と同様な自立的に回復する藻場が形成され,手法の妥当性が示された.
  • 泉 完, 東 信行, 丸居 篤, 矢田谷 健一
    2017 年73 巻7 号 p. III_269-III_274
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     小型通し回遊魚の一つであるシロウオの突進速度と遊泳できる限界の流速に関する実験を野外の現地河川で実施した.その結果,体長4cm台のシロウオの平均突進速度は40cm/s台の流速で最も速い値を示し,その速度は90cm/sで,体長の21倍の速度であった.シロウオが遊泳する流速と遊泳距離との関係を明らかにし,流速40cm/s以下の条件では,80%以上の個体が50cmの距離を前進できることがわかった.また,シロウオが遊泳できる限界流速は95cm/s程度までであり,突進速度に相当することがわかった.
  • 張 錚, 大下 和徹, 高岡 昌輝, 藤森 崇, 長野 晃弘, 小関 多賀美
    2017 年73 巻7 号 p. III_275-III_286
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,都市ごみとし尿汚泥の混焼を想定し,都市ごみ焼却施設とし尿処理施設との施設間連携の現状を明らかにするとともに,更なる連携の可能性を明らかにすることを目的とした.まず,既に混焼を実施している都市ごみ焼却施設へのアンケート調査を行い,連携のためには,(1)施設間距離は20km以内,(2)混焼率は14%以下,(3)稼働率は86%以下が望ましいと考えられた.また混焼による都市ごみ焼却炉への影響は専用設備の導入や排ガス組成、焼却灰量などの観点から小さいと考えられた.次に,この結果を用い,連携により混焼処理可能なし尿汚泥量を計算したところ,全発生量109.8万t/年のうち39.3%に相当する43.1万t/年が,新たな連携により都市ごみと混焼処理可能であり,15.8%に相当する17.4万t/年は高い実現性で混焼処理可能であると算出できた.また,混焼導入には中規模なごみ焼却施設(日処理量100t以上300t未満)が比較的に多い地域が有利であることが分かった.
  • 北村 洋樹, Astryd Viandila DAHLAN, 田 宇, 島岡 隆行, 山本 貴士, 高橋 史武
    2017 年73 巻7 号 p. III_287-III_295
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     SEM-EDXによる元素分布の相関分析により、キレート処理済みの一般廃棄物焼却飛灰に含有する重金属の化学形態を推定する手法を開発することを目的とし、キレート処理飛灰に含有するTiの化学形態分析も併せて試みた。焼却飛灰を抽出能力の異なる溶出試験へ供することで、難溶性あるいは不溶性内部マトリクス上に存在する重金属の観察が可能となった。相関分析によるTi化学形態分析の結果、焼却飛灰中の結晶性Tiはrutile (TiO2)あるいはperovskite (CaTiO3)であり、アルミノケイ酸マトリクス中に混在していると推察された。一方で非晶性のTiとして、アルミノケイ酸と結合している形態も併せて推察された。本研究の手法は、XRD分析では同定が困難な重金属化学形態を粒子レベルで推定できる利点を持つ。
  • 袖野 玲子, 高岡 昌輝
    2017 年73 巻7 号 p. III_297-III_306
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     廃棄物最終処分場は,埋立が終了した後も施設が廃止されるまで適正な維持管理が必要であり,最終処分場設置者は,廃棄物処理法に基づき,施設の廃止までに必要な維持管理費用を積み立てることとされている.しかし,積立金額の算出には,終了から廃止までの期間(維持管理年数)の予測が重要だが,その根拠情報は限られており,予測が難しい状況にある.廃止までの期間が予測よりも長期化すれば,積立金が不足し,適正な維持管理が困難となる事態も懸念されることから,維持管理年数に影響を与える因子の解明が求められている.このため,本研究では,産業廃棄物の管理型最終処分場における維持管理年数及び費用に関連があると考えられる要素について自治体及び処分場設置事業者に調査を行い,重回帰分析により,維持管理年数を規定する要因を検討した.
  • 高橋 史武
    2017 年73 巻7 号 p. III_307-III_314
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     水銀はその毒性の高さから水俣条約(2015年)など国際的な規制が強化されつつある。水銀が環境へ排出される際の環境リスクを推定するには、水銀の環境動態をモデルシミュレーションし、最終的に水銀曝露量を求める必要がある。しかし環境動態モデルは多くのパラメータを必要とし、そのパラメータ値は環境に応じて数桁の範囲で変化する。本研究はパラメータ値の不確実性を統計分布解析によって定量化し、推定される水銀曝露量の不確実性を評価した。想定したモデルケースにおいて、モデルパラメータの不確実性のため水銀曝露量は8桁もの大きな変動幅を示した。魚介類の摂取量などの社会的条件よりも生物濃縮係数などの環境的条件に関わるパラメータが水銀曝露量に大きな影響を与えた。上記の不確実性を加味して水銀曝露量が耐容摂取量を超える確率を計算したところ、1.78%と評価できた。本手法は環境リスクの市民的理解を促す可能性がある。
  • 天野 充, Jenyuk LOHWACHARIN, 滝沢 智, 小熊 久美子, 橋本 崇史
    2017 年73 巻7 号 p. III_315-III_322
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     浄水処理のろ過工程におけるハロ酢酸(HAA)前駆物質の除去率を高めるため,酸化鉄または酸化マンガンを添着した石英砂とアンスラサイトを調製し,カラム通水実験を行った.酸化鉄は酸化マンガンよりもろ材に多く添着し,添着後は細孔径が縮小し,比表面積は増大した.アンスラサイトは石英砂よりも多くの酸化鉄やマンガンを添着した.カラム通水実験では,酸化鉄添着ろ材は高い有機物除去率(DOC:50~70%)とHAA生成能(HAAFP)除去率(63~70%)を示したが,酸化マンガン添着ろ材は共に低かった.さらに酸化鉄添着アンスラサイトは幅広い種類の有機物を吸着することから,4種のろ材のうち,HAAFP除去に最も適したろ材であると判定した.カラム内の酸化金属量とHAAFPの除去量には相関があり,より多くの酸化金属を添着することでHAAFPの除去率が高まることが示された.
  • 村田 直樹, 青木 伸浩, 本山 信行, 李 富生
    2017 年73 巻7 号 p. III_323-III_328
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,凝集とオゾン処理が,膜ファウリングへの関与が指摘されている水道原水中のバイオポリマーの除去性に与える影響を,高度に利活用された淀川原水を用いて,両処理プロセスの導入位置を変更させた実験条件(凝集処理→オゾン処理→膜ろ過処理およびオゾン処理→凝集処理→膜ろ過処理)において検討した.その結果,凝集処理を先に行うことで,バイオポリマーの減少が確認され,続いてオゾン処理を行っても,バイオポリマーの増加をほとんど生じないことが確認された.バイオポリマーの除去とオゾン酸化に伴う微生物からの放出に対する抑制効果およびオゾン注入率の削減効果から考えると,凝集処理を先に行うことが有効であると示唆された.
  • 潮 俊希, 榊原 豊, 小森 正人
    2017 年73 巻7 号 p. III_329-III_335
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,操作性に優れた電気化学的オゾン生成還元促進酸化処理法を提案し,設計・操作条件に関する基礎資料を得ることを目的した.SnO2電極および固体高分子電解質膜(SPE膜)を用いたオゾン生成実験では,オゾンは連続的かつ安定的に生成され,電流効率は12 %同程度であった.OHラジカルプローブのp-クロロ安息香酸(p-CBA)の連続処理実験から,除去量は通電量の増加につれ増加し, その後減少する傾向にあった.p-CBAの総括除去速度が通電量および物質移動に律速されるとし, さらに発生ガスの影響を考慮した数学モデルを構築して実測値と比較すると, 両者の傾向は概ね一致した.また,90 %除去率でエネルギー消費量を計算し,他の促進酸化処理法(AOPs)と比較すると同程度であった.以上より, 本法は通電のみの簡易な操作で運転できるため,既存AOPsの代替法の一つとなる可能性がある.
  • 細井 山豊, 小熊 久美子, 滝沢 智
    2017 年73 巻7 号 p. III_337-III_343
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     給水栓において水道水を消毒するPoint-of-Use(POU)型浄水装置に紫外発光ダイオード(UV-LED)を適用する場合, 紫外線で不活化された微生物が直ちに可視光に曝され, 光回復する可能性が懸念される. 本研究では, 発光ピーク波長265nm, 280nm, 300nmのUV-LEDを用いて大腸菌を不活化し, その後の光回復を比較することで, 不活化と光回復の両方を考慮して, POU処理に適した不活化波長を明らかにすることを目的とした. 実験の結果, 265nmと280nmのUV-LEDの不活化速度は同等であった. また, 各UV-LEDの3log不活化に要する電力量を比較すると, 本研究の範囲では280nmのUV-LEDが最も電力量あたりの不活化効率に優れていた. 一方, いずれのUV-LEDでも, 3log不活化後に可視光照射で光回復を生じ, 光回復飽和後の実質の不活化率は265nm, 280nm, 300nmの順に0.51, 0.55, 0.42logとなった. 本研究により, POU型浄水装置に導入するUV-LED素子の波長選定に有用な知見が得られた.
  • 鬼束 幸樹, 秋山 壽一郎, 國﨑 晃平, 武田 知秀, 泉 孝佑
    2017 年73 巻7 号 p. III_345-III_350
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     近年,河川におけるウナギの個体数が激減している.この原因として,乱獲や河川環境の悪化などが推定されており,改善の必要性が指摘されている.ところが,ウナギの生態やウナギ用魚道に関する研究がほとんど進んでいないのが現状である.ウナギ用魚道はウナギの遊泳能力に加えて,水で濡れた斜面の登坂能力を考慮して設計することが合理的である.本研究では斜面の傾斜を一定にし,斜面に配置する粗石の粒径を変化させて,クロコウナギの登坂特性を解明した.その結果,本実験条件の範囲内では粗石長径が20mmの場合によじ登り成功率が最大となった.また,クロコウナギは体を左右に屈曲させて,斜面上の粗石に体を引っ掛けるようによじ登っていることが確認された.加えて,粗石長径の増加に伴い,屈曲頻度のばらつきが増加し,平均よじ登り速度が減少することが判明した.
  • 杉原 幸樹, 新目 竜一
    2017 年73 巻7 号 p. III_351-III_356
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     塩淡二層汽水湖の網走湖において,塩水層の貧酸素改善を目的に気液溶解装置(WEP)による酸素供給時の水質変化について実水域で実験的な検討を行った.現地で貧酸素水塊を採取し,循環水槽でWEPによる酸素供給を行った結果,純酸素を吸気した場合に溶存酸素を約40 mg/Lまで溶解可能であった.
     現地の貧酸素水塊には毒性物質である硫化水素が130 mg/Lの高濃度で蓄積しており,酸素供給によって水中の硫化水素を固体硫黄へ酸化させる反応が優先して,硫化水素を無害化可能であることが,明らかとなった.また,硫化水素を完全に酸化させた水を底泥と接触させることで,水中のオルトリン酸が減少することを確認した.一方で数日間の酸素供給ではアンモニウム態窒素に影響しないことが分かった.
  • 鬼束 幸樹, 秋山 壽一郎, 定地 憲人, 緒方 亮
    2017 年73 巻7 号 p. III_357-III_364
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     階段式魚道の底面に設置した粗石の配置の変化が魚の遊泳特性に及ぼす影響はほとんど解明されていない.本研究では,階段式魚道の底面に設置した粗石の配置を変化させ,オイカワの遡上特性への影響の解明を試みた.その結果,プール底面の上流側に粗石を配置した場合,オイカワは上流側粗石間の空隙を利用して遡上する傾向があることが判明した.これは,粗石間の空隙を利用して遡上することで高流速領域を回避し,疲労の蓄積が軽減されるためと考えられる.
  • 山﨑 廉予, 重村 浩之
    2017 年73 巻7 号 p. III_365-III_373
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     下水処理場における汚泥の発生量削減は,汚泥の焼却場への運搬コストの削減,廃棄物の削減などの観点から,常に課題とされてきている.汚泥脱水時には,一般的には凝集剤が添加されるが,コストが高く,繊維質等を脱水助剤として活用する取り組みが行われている.
     本研究では,下水汚泥の脱水助剤として,バイオマスとしての活用が求められている河川や道路等で発生する刈草に着目した.裁断したイネ科の刈草を,標準活性汚泥法の濃縮汚泥および消化汚泥,OD法の濃縮汚泥と混合し,実験室レベルでの脱水試験を行った.その結果,汚泥のTSに対して,凝集剤1 %,刈草10 %の混合により,どの性状の汚泥においても,凝集剤添加量の減少や汚泥量の減容化が見込まれ,汚泥処分費の削減が期待できる可能性が明らかとなった.
  • Yahya MAHZOUN, 大下 和徹, 高岡 昌輝, 藤森 崇
    2017 年73 巻7 号 p. III_375-III_384
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,日本全国の29種類×2期の下水汚泥脱水ケーキを用いて,熱重量・示差熱分析(TG-DTA)により,強熱減量と発熱量を,少量の試料でかつ同時に推定する手法を実験的に検討した.
     まず,下水試験方法から求めた強熱減量と,TG曲線から求めた強熱減量は1:1の高い相関を示し,相対誤差の平均値は,1.02%であったことから十分な精度で強熱減量を推定できることが確認された.DTA曲線は,2つのピークを有し,これらのピークの大小から2つのグループに区分できた.多変量解析等から,この違いは,主に消化の有無に由来することが示された.ピーク面積と,校正係数: Kの強熱減量による実験式から求めた低位発熱量と,ボンブ熱量計と元素分析計により求めた低位発熱量を比較したところ,概ね1:1の高い相関が得られ,相関誤差の平均は5.17~5.20%の範囲で,低位発熱量の推定が可能であった.
  • 高松 さおり, 袋布 昌幹, 丁子 哲治
    2017 年73 巻7 号 p. III_385-III_395
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     下水汚泥焼却灰等を酸抽出したリン酸抽出液からリン資源を回収する際,不純物として分離・除去されてきたアルミニウムや鉄を活用し,抽出液中のアルミニウムイオンからアルミニウムゲルを生成させリン酸カルシウム合成の反応場として利用する技術の開発を目的に,リン酸イオンのゲルへの濃縮効果,リン酸カルシウムへの転換率,鉄が共存した場合の影響について検討した.模擬溶液および実試料から得たリン酸抽出液を用いて検討を行った結果,アルミニウムゲルを利用することにより,ほぼ全量のリン酸イオンがゲル中に濃縮でき,通常の石灰添加によるリン回収と比較してリン回収率は18%向上した.さらに,下水汚泥焼却灰および炭化汚泥を酸抽出したリン酸抽出液を用いたところ,約90%のリン酸イオンがフッ素吸着材として利用できるリン酸カルシウムとして回収できることが見いだされた.
  • 山内 正仁, 池田 匠児, 新原 悠太郎, 山田 真義, 八木 史郎, 黒田 恭平, 原田 陽, 山口 隆司
    2017 年73 巻7 号 p. III_397-III_405
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,下水汚泥堆肥の成分特性を把握後,マッシュルーム(ツクリタケ,Agaricus bisporus)の栽培を試みた.その結果,下水汚泥堆肥を単独の栄養材として利用した試験区では,収量が対照区(牛糞堆肥区)と比較して極端に少なかった.これは,菌糸の生殖成長期に利用されるセルロースやカリウムが培地中に極端に少なかったことが影響していると考えられた.一方,下水汚泥堆肥と牛糞堆肥を併用した試験区では,収量が対照区と比較して1.2~1.8倍に増加した.また,子実体中の重金属含有量は対照区と同等であったこと,さらに一般成分,アミノ酸含有量などの栄養成分についても対照区と遜色ないことから,下水汚泥堆肥はマッシュルーム培地に利用できると考えられた.
  • 杉田 創, 小熊 輝美, 張 銘, 原 淳子, 川辺 能成
    2017 年73 巻7 号 p. III_407-III_418
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     汚染水中のヒ素を除去した吸着材は,それ自体が多量のヒ素を含有するため,適切な処理を行わずに環境中に廃棄された場合,ヒ素溶出による二次的な環境汚染を引き起こす懸念がある.本研究では,土壌等から溶出したケイ酸がマグネシウム系使用済吸着材の環境安定性に及ぼす影響を評価するために,ケイ酸溶液を用いた振とう試験を実施した.その結果,Mg(OH)2及びMgCO3系使用済吸着材では,ケイ酸濃度の増加に伴いヒ素の溶出量が増大することが明らかになった.一方,MgO使用済吸着材では,ヒ素の再溶出はほとんど生じず,ケイ酸に対しても非常に高い環境安定性を持つことが示された.それゆえ,土壌やセメント系固化材等からのケイ酸成分の溶出が想定される条件下で使用するヒ素吸着材として,MgOが最も優れていると結論付けられた.
  • 兼澤 真吾, 橋本 崇史, 小熊 久美子, 滝沢 智
    2017 年73 巻7 号 p. III_419-III_428
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     高濁度河川水の膜ろ過における膜ファウリングの特徴の把握を目的に,タイ王国のチャオプラヤ川およびその上流のピン川を原水とし,異なる孔径の精密ろ過膜による全量ろ過実験を行い,粒径の異なる微粒子の除去率を分析した.上流は下流より,粒径3 μm以上の微粒子を多く含むため,空隙が多く厚いケーキ層が形成され,ろ過抵抗が小さくなった.また上流では下流より,微粒子の除去率は0.1~1.3log10高かったことから,微粒子の除去にはケーキ層の構造が影響すると推察された.公称孔径0.1 μmの膜では,細孔と同程度の大きさの微粒子が原水中に多いため,ろ過初期から細孔の閉塞に加えケーキ層が抵抗を持ち,孔径の大きな膜に比べて,ろ過抵抗が3.7~4.4倍大きくなった.
  • 小島 啓輔, 田崎 雅晴, 岡村 和夫, Mark N. SUEYOSHI
    2017 年73 巻7 号 p. III_429-III_437
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     石油随伴水の前処理として,油水分離による油分回収について検討した.エマルション状油分を含む模擬石油随伴水に塩を添加することで油水分離が促進され,油分が表層に浮上し最大96.3%の油分を回収できることを確認した.使用する塩は,Na+よりもMg2+やCa2+のような2価の陽イオンから成る塩を添加した方が少ない添加量で高い回収率を示した.石油随伴水原水と,塩添加による油分回収後の含塩石油随伴水に対して凝集処理を実施したところ,初期油分濃度の違いから含塩石油随伴水に対しては原水より少ない凝集剤(PAC)の添加で良好な処理が可能であった.また増粘剤を含む石油随伴水では,塩添加による粘性低下効果により凝集剤を容易に全体的に拡散できるため,粘性低下を目的とする凝集剤添加が不必要となり,凝集剤の添加量を削減できる可能性が示された.
  • 福嶋 俊貴
    2017 年73 巻7 号 p. III_439-III_448
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     流域における下水処理場の物質・エネルギー循環拠点化を目指して,人口50万人規模のモデル都市を対象に,消化ガス発電量の増加のための可溶化処理や余剰消化ガスの受入を検討し,併せて物質回収(リン回収)も検討した.地域バイマスとして,モデル都市で共通に実施されている合併処理浄化槽汚泥を対象とした.また,流域が一体となった取組を意識し,複数の下水処理場を統合して評価する指標として,流域電力自給率や流域リン回収率を導入して各種施策を比較した.松山市・宇都宮市・岐阜市を対象とした評価では,宇都宮市は流入水BODが100mg/Lと低いために流入下水中の有機物をエネルギー換算したエネルギーポテンシャルは18.6万kWh/日と松山市の1.2倍に留まった.発電量は松山市と宇都宮市でほぼ同じであったが,エネルギーポテンシャル利用率が松山市は20%と宇都宮市よりも2ポイント高く,最も高い流域電力自給率57.4%に貢献したものと考えられた.物質循環として流域リン回収率で評価したところ,岐阜市では焼却灰からのリン回収を既に実施しているため,水処理でのリン除去量は615kg/日(除去率91%)と最も多く,流域リン回収率も46%と最も高い結果であった.リン回収量は307kg/日であり,浄化槽汚泥受入によりさらに7kg/日増加していた.
  • 藤井 都弥子, 浜田 知幸, 前田 光太郎, 重村 浩之, 山下 洋正
    2017 年73 巻7 号 p. III_449-III_456
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル フリー
     下水道設備における主要機器の電力消費の実態を把握するため、メーカーヒアリングや下水道事業者へのアンケートにより各機器の仕様や運転状況等を整理するとともに、水処理方式や処理場規模、機器の組み合わせが異なる複数のケースにおいて、各機器の電力消費量の原単位及び下水処理場全体の電力消費量を試算した。試算の結果、例えば標準活性汚泥法において省エネ型機器への更新により電力消費量を30%程度削減できる可能性があることが把握できた。また、得られた原単位の値を用いて、下水処理場や流域全体における電力消費量削減に向けた検討を行う際の考え方をとりまとめた。
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