土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
74 巻, 5 号
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地球環境研究論文集 第26巻
  • 鈴木 絢美, 川越 清樹, 藪崎 志穂
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_1-I_9
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,将来の気候変動や環境負荷問題に向けて,短時間スケールで出現する降雪イベントと化学的組成から得られる特徴の関係を地域スケールで明らかにする取り組みを進めた.福島県を中心とする温帯多雪地帯で進められた調査,分析より得られた結果を以下に①~③に列挙する.①初雪時期は盆地や市街地域に近接するほど非海塩性のイオン,元素が高濃度で含有する.②総イオン濃度が低値の場合,地域固有の条件に依存した非海塩起源の総イオン濃度の含有割合が多くなる.③地形,水域等の周辺環境や海洋との位置関係より,降雪の起源に対する影響度が変化し,特に盆地,山地に囲まれて閉塞された高地の地形条件を呈する領域,湖沼付近で明瞭になる.
  • 河瀬 玲奈, 金 再奎
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_11-I_18
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,地域レベルの環境負荷を示す指標の一つとして消費ベースCO2排出量を導入する.2040年の滋賀県(8地域分類)を対象に,1) 生産ベースCO2排出量および消費ベースCO2排出量を推計し,2) CO2排出量削減における炭素リーケージの分析を行うとともに,3)自立度(=生産ベースCO2排出量/消費ベースCO2排出量)の指標により地域のCO2排出量の構造を分析する.
     その結果,2040年の滋賀県では,県平均では自立度は1.20であったが,地域別に見ると,自立度が1以上であるのは8つの地域中4つであった.また,生産ベースと消費ベースCO2排出量の削減率の比較により,生産ベースCO2排出量の削減が炭素リーケージを誘発していないことを確認した.地域の自立度への寄与は,窯業・土石製品業が著しく大きく,この業種が衰退すると,自立度が大きく減少する可能性があることが分かった.
  • Satoshi Watanabe, Nobuyuki Utsumi, Hyungjun Kim
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_19-I_24
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     Changes in the occurrence of severe weather and clear days in the Yaeyama Islands under global warming conditions are assessed to estimate the impact of climate change on tourism. Although previous studies have investigated the impact of climate change on tourism using historical weather datasets and/or field surveys and have indicated a significant relationship between them, the investigation using future projection has not yet been studied comprehensively. In this study, the projection is thus conducted using, Database for Policy Decision making for Future climate change (d4PDF), a dataset generated by superensemble climate simulations. In order to use the dataset effectively, a simple method that considers the spread of the projected ensemble members is applied. This method estimates future changes and provide a range of uncertainty derived from the ensemble spread. The results indicate that the occurrence of severe events such as heavy precipitation or strong winds will decrease in summer, and the occurrence of clear days, which tourists prefer, will increase in winter. This suggests that climate change will induce regional weather changes which is supposed to be closely related with the satisfaction level of tourism in the Yaeyama Islands. Also, the approach proposed in this study has a potential to provide an efficient way to utilize massive climate projection datasets for various climate change impact assessment studies.
  • 星野 剛, 山田 朋人
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_25-I_31
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     アンサンブル気候予測データベースを用いることにより,計画降雨継続時間での流域平均降雨量の発生頻度および降雨の時空間的な特性を数千年分のデータから評価可能となる.本研究では十勝川流域を対象に大量アンサンブル気候予測データから過去および温暖化進行後の気候における年最大降雨の時空間的な集中度を算出した.その結果,温暖化が進行した際の気候条件では降雨は時間的にも空間的にも集中化することが示された.このような降雨の時空間的な集中化は洪水ピーク流量の増大や洪水被害の形態の変化を招くことが予想されるため,今後の洪水対策において降雨量の増大とともに考慮すべきだと考えられる.
  • Fanny KRISTIANTI, Dzung NGUYEN-LE, Tomohito J. YAMADA
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_33-I_40
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     Land atmosphere interaction is a one of the important factor for Atmospheric Boundary Layer (ABL) processes, including cloud and precipitation formation. The present works thus aim to estimate the amount of soil moisture in idealized simulation affecting the shallow cumulus convection. Homogeneous soil moisture and horizontally homogeneous atmosphere is adapted. Potential of precipitation to occur on wetter or drier soil is quantified by running the model. Large Eddy Simulation (LES) with fully coupled to land surface and radiation model is used with different initial soil moisture percentage. Shallow cumulus cloud and rain shows different response under variety of soil moisture and wind conditions. Our study has showed that heat flux is influenced by soil moisture and wind condition. Decrease of soil moisture corresponds to decrease of net radiation and less difference of the maximum and minimum value of net radiation in diurnal cycle. It is also found that timing of convection does not vary significantly between the soil moisture availability of 100% - 60%, then it is gradually delayed for drier soil condition. Based on the study, it is concluded that cloud and rain formation process is influenced by the soil moisture and wind condition.
  • 小杉 素子, 馬場 健司, 田中 充
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_41-I_52
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     気候変動リスクに対する理解と対処行動を促進するための情報提供方策を検討するため,ターゲットの特徴の明確化とそのボリュームを把握することを目的として質問紙調査を行った.その結果,地球温暖化(気候変動)に関心が乏しく明確な意見を持たないクラスターが回答者の4割以上であること,リスク認知や不安感が高く施策に肯定的な態度を持つクラスターや,地球温暖化に対して懐疑的で対策の必要性を感じていないクラスターの存在を明らかにした.人数の多い無関心なクラスターへの対応が特に重要と考え,地球温暖化に対する理解や対処行動を促進するための情報内容について考察した。地球温暖化について異なる考えを持つ人々に対し,それぞれに適した情報提供活動を行うことで,理解の深まりや緩和・適応策への肯定的評価や協力が期待できるだろう.
  • 高橋 潔, 佐尾 博志, 本田 靖, 藤森 真一郎, 高倉 潤也
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_53-I_60
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     地球温暖化により異常高温の頻度・強度の世界的な増加が生じ,またその結果として暑熱に関連した死亡リスクも高まることが懸念されている.本研究では,世界初の試みとして,世界全域を対象地域とした既存の熱関連死亡数の推計手法と統計的生命価値を組み合わせて用いることで,気候および社会・経済の将来変化の不確実性幅を考慮したうえで,気候変動に伴う熱関連死亡リスクの増加について金銭的な見積もりを実施した.その結果,熱関連死亡による被害額のGDP比は,緩和策が進むRCP2.6排出シナリオの場合,世界全体で1%未満に抑えることが可能であること,一方で緩和策が進まないRCP8.5排出シナリオの場合,世界全体で見て今世紀末に2%台となることが示された.また,被害額増加の主因として,現在の途上国では経済発展に伴うVSLの増加の寄与が相対的に大きいこと,現在の先進国は逆に経済発展よりも気候変化の寄与が大きいことがわかった.
  • 宮元 健太, 山本 真依, 市川 陽一, 嶋寺 光
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_61-I_68
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     微小粒子状物質PM2.5に係る環境施策を考える上で、越境汚染と近隣の発生源の影響を解析することは重要である。しかし、滋賀県を対象としたPM2.5の解析事例は少ない。滋賀県は琵琶湖や盆地、山岳地といった地勢を持ち、解析事例の多い関東などの大都市圏や離島と地理的、気象要因が異なる。本研究では滋賀県の南北地点、滋賀県と山岳地によって隔てられている三重県伊賀市で2016年冬季と2017年夏季にPM2.5の観測を行い、大気化学輸送モデルWRF/CMAQを用いて越境汚染による影響と近隣の発生源の影響を解析した。WRF/CMAQの当該地域におけるPM2.5質量濃度の予測性能は概ね良好であった。WRF/CMAQのシミュレーション結果から冬季の事象において、越境汚染により滋賀県南北で濃度上昇が見られた。また、夏季の事象において、滋賀県南部と伊賀市では近畿都市圏の影響を受けたことを確認した。
  • Saritha Gopalan PADIYEDATH, Akira KAWAMURA, Hideo AMAGUCHI, Gubash AZH ...
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_69-I_77
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     The storage function (SF) models have been extensively used for the rainfall-runoff modeling in which the Kimura's model with lag time is widely used as a fundamental flow model, especially in Japan, due to its simple model structure. In this study, therefore, we aim to analyze the effect of lag time in the conventional Kimura's SF model on hydrograph reproducibility and compared with Prasad's SF model for an urban watershed in terms of error functions, storage hysteresis loop, and Akaike information criterion (AIC) perspective. The analysis of the effect of lag time on hydrograph reproducibility revealed that the use of optimum lag time in Kimura's model can greatly improve the performance. Further, the Kimura's SF model with optimum lag time exhibited higher hydrograph reproducibility associated with lowest error evaluation criteria and lowest AIC values in the single-peak events which makes it the superior model for single-peak events. Concurrently, Prasad's model depicted better performance in terms of reproducibility and AIC aspect during the multi-peak events, which indicates that it is the parsimonious model for multi-peak events.
  • 糠澤 桂, 西元 竣哉, 鈴木 祥広, 渡辺 幸三
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_79-I_85
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     世界的にデング熱感染者数は増加傾向にある.しかし,デング熱媒介蚊の消長に関わる環境因子は深く理解されていないのが現状である.そこで本研究では,マニラ首都圏において高密度・高頻度で観測されているデング熱媒介蚊の卵の存在割合データを用いて,気象・氾濫・土地被覆条件に対する媒介蚊の産卵パターンを把握することを目的とした.媒介蚊の卵の存在割合(OI)は,乾季よりも雨季において高まる傾向を示した.OIにおける空間自己相関は,季節によって傾向が異なることが示された.よって,媒介蚊の産卵行動の空間パターンは季節ごとの環境条件の違いに依存していることが示唆された.一部地域において,降雨の増加に応答してOIが増加する傾向が確認された.居住地において,他の土地被覆分類よりもOIが高まる傾向が確認された.
  • 平岡 透, 豊満 幸雄, 中川 啓, 野中 尋史, 廣田 雅春, 鈴木 祥広
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_87-I_94
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     都城盆地における地下水中の硝酸性窒素濃度と土地利用の関係を検討した.硝酸性窒素濃度は,2007年から2016年までの10年間の冬の2月と夏の8月に1,201箇所の浅井戸で観測されたものを用いた.土地利用は,2009年度と 2014年度に整備された国土数値情報の土地利用細分メッシュデータを基に,硝酸性窒素濃度の観測地点から一定距離内に含まれる土地利用種別の割合を用いた.土地利用種別として,田,その他の農用地,森林,荒地,建物用地,道路,鉄道,その他の用地,河川地及び湖沼の9項目を取り上げた.その結果,硝酸性窒素濃度の高い地点と低い地点の土地利用種別の傾向が明らかになった.また,硝酸性窒素濃度と相関の高い土地利用種別も明らかにした.このとき,硝酸性窒素濃度の観測地点からの距離による土地利用種別の割合に応じた相関係数の変化についても明らかにした.
  • 中川 啓, 和田 信一郎, 朝倉 宏
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_95-I_102
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     わが国の農用地に広く分布している火山灰土における土中水や地下水の水質形成過程を検討することは,農業活動起源の地下水汚染を検討する上で重要である.本研究では,3種類の火山灰土を充填したセグメント結合型カラムを用いて, 塩化カリウム溶液を投入するカラム実験を行った.その結果,火山灰土におけるイオン交換反応輸送特性を明らかにした.また,著者らが提案している土壌溶液中のイオン強度からイオン交換容量の増分との関係と概ね整合する結果が得られた.さらに,カリウムとカルシウムの選択係数が,土壌溶液中のイオン強度に依存することが確認された.
  • 山田 慶太郎, 風間 聡, 会田 俊介
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_103-I_108
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     メコン河氾濫原において衛星画像を用いた全リン濃度分布の推定を行った.雨季と乾季それぞれの衛星画像により偏最小二乗回帰分析を行い,クロロフィルa濃度を求めた.既往の式を複数検討し,そのうちの一式によってクロロフィルa濃度から全リン濃度を求めた.雨季の回帰式から雨季と乾季の濃度分布図を,乾季の回帰式からも雨季と乾季の濃度分布図を推定した.雨季の回帰式による雨季の推定値と観測値の相関係数が0.97であり乾季における同相関係数は0.070であった.また乾季の回帰式による乾季における相関係数が0.66,雨季における相関係数は-0.49であった.異なる季節に対して回帰式を適用できないことが理解され,より精度の高い推定のためには季節毎の回帰式を求める必要があることが分かった.
  • 小林 将之, 酒井 宏治, 小泉 明, 山崎 公子, 稲員 とよの, 村木 瑞穂, 岩﨑 浩美
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_109-I_115
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     閉鎖性水域である貯水池は流入河川の影響を受け,水質が変化しやすいため,流入河川の水質を良好に保つことが必要である.そのため河川流域から,土壌と挙動を共にするマンガンおよびリンの流出を防ぐことで水道原水中のマンガンの高濃度化およびアオコ発生の抑制に寄与できると考えられる.そこで本論文では,小河内貯水池に流入する河川の流域土壌に着目した.まず,土壌中マンガンおよび全リンの含有量を測定し,重回帰分析で推定式を構築することで各成分の影響要因を把握した.その結果,全リン含有量を目的変数とする推定式の第一説明変数要因は強熱減量となったため,全リンと有機物の関係性が特に強いことが分かった.また,流域中の植生や傾斜角度との相関関係を把握した結果,特に全リンと広葉樹の間で強い関係性があることが示唆された.
  • 綿貫 翔, 山田 正
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_117-I_123
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究は,水深が浅い湖沼において,熱収支法とデータ同化手法を用いることで,日平均水温の推定精度の検証を目的としている.データ同化手法には,最適内挿法を用い,水温の観測値を同化することで予測精度の向上度合いを調べる.そのため,観測誤差分散の値を予測誤差分散よりも小さい値を設定し,観測値に対する重みを3通りで水温を計算した.その結果,初期値の影響は約7日後までしか見られず,精度良く推定するためには7日以内に観測値を同化しなければ,年間の30~50%の日がデータ同化手法を用いる前の結果よりも悪化することがわかった.その原因は,8日以降の結果はデータ同化手法の適用の有無に関わらず,ほとんど変わらないからである.
  • 竹田 稔真, 朝岡 良浩
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_125-I_132
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     田んぼダムは水田に特殊な排水装置を設置することにより落水量を制御する取り組みで,洪水時のピーク流量の緩和とその遅延を目的としている.水田耕区に適した装置を選定するために,本研究は水理実験と水理シミュレーションによって3種類の排水装置の貯留能力を比較した.対象とする装置は田んぼダムで使用されるフリードレーンと軽量落水枡,田んぼダム未実施の地域で使用される標準的な落水枡とした.
     解析の結果,軽量落水枡は降雨時に安定して貯留能力を発揮し,フリードレーンは水深が高く,広い水田面積の条件で貯留能力を発揮する.1時間の総雨量141mm,中央集中型,水田面積2000m2の条件設定の場合,軽量落水枡はピーク落水量の74%を抑制,280分の遅延,フリードレーンはピーク落水量の44%を抑制,70分の遅延となった.
  • 中村 徹立, 山田 正
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     手賀沼,印旛沼,霞ヶ浦は利根川流域内に位置し気象条件に同期性が見られる.これら3湖沼の水質変動を日,月,年の複数タイムスケールで解析することによって,気象条件の同期性による水質変動の同期性と湖沼特性による個別性があることがわかった.解析には国土交通省が管理している水質自動観測の1時間データを使用した日単位の解析と1ヶ月に1,2回行なわれている定期観測データを使用した月・年単位の解析を行った.日単位の解析から手賀沼においては降水後のCOD低下,霞ケ浦においては強風によるCOD昇が顕著に示された.月単位の解析からは3湖沼の月平均CODの変動には同期性と個別性がみられた. 年単位の解析から3湖沼の年平均CODの変動には年日照時間と年降水量が関係していることが示された.
  • 白坂 厚大, 糠澤 桂, 鈴木 祥広
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_139-I_146
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     ダムによって下流の河川環境は大きく改変される.しかし,ダムによる流況平滑化が河川生態系に与える影響を調査した研究事例は少ないのが現状である.そこで本研究では,発電用ダムの複数存在する水系内においてダムによる流況改変が河川生物(魚類,底生動物,付着藻類)に及ぼす影響を調査した.ダム放流量データを用いて水文改変指標を算出し主成分分析を行った.結果として,第一主成分は流量の多寡と流況の変動程度により説明され(寄与率 = 56.2 %),これにより減水区間と非減水区間の調査地点が明瞭に区別された.第一主成分は,魚類の個体数および種多様性との間にそれぞれ負(r = -0.502)と正(r =0.706)の有意な相関を有していた(P < 0.05).以上より,ダムによる流量改変程度の違いにより魚類が影響を受ける可能性が示された.
  • 丸谷 靖幸, 原田 守啓, 伊東 瑠衣, 川瀬 宏明, 大楽 浩司, 佐々木 秀孝
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_147-I_156
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本論文は,地域スケールで気候変動影響評価研究を実施する際に,空間解像度をどの程度高める必要があるかの検討を目的としている.そこで本研究では,長良川流域を対象流域とし,過去に発生した洪水事例を対象に再解析データJRA-55を基に力学ダウンスケーリング実験(力学DS実験)を行うことで空間解像度を変化させ,流出解析のインプットとすることで,空間解像度の違いが洪水予測へ与える影響について検討を行った.さらに,DS1 km実験結果を基に粗視化実験を行うことで,降雨分布が流出に与える影響も検討した.その結果,力学DS実験(DS20 km,DS5 km,DS2 km,DS1 km)における降雨分布及び流出解析結果は大きくばらつきことが分かった.一方,粗視化実験による流出解析結果では,力学DS実験と比較してピーク流量のばらつきが小さいことが確認された.
  • 内田 裕貴, 鈴木 真之介, 佐藤 克己, 岩下 圭之, 杉村 俊郎
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_157-I_165
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     気象衛星「ひまわり8号」が2014年10月7日に打ち上げられ,翌2015年7月7日より正式運用されている.観測波長帯数,空間分解能,観測間隔,それぞれの機能が向上している.日本周辺域等特定の領域を2分半毎に観測可能で短時間間隔での連続観測が実現した.また可視・近赤外バンドからは土地被覆状況を,熱赤外バンドからは地表面温度情報を監視出来る.
     本研究では,日本の主要都市の地表面日温度変化と温度分布の特徴を地域傾向面分析による巨視的視点から調査し、各都市に現れるヒートアイランド現象の可視化及び数値化を試みた.地表面温度上昇と残存増加温度は各都市のヒートアイランドの強さに関連する.ヒートアイランド現象の要因となる人口や消費電力量等の統計値が地表面温度上昇と残存増加温度に関係する傾向は認められるが,都市の位置する緯度や周囲の土地被覆状況による影響も大きいため,人間活動に関する統計値だけでは十分な説明が難しいと考えられる.
  • 土田 晃次郎, 田村 誠, 熊野 直子, 増永 英治, 横木 裕宗
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_167-I_174
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本稿では,CMIP5にある8個の気候モデルおよび社会経済シナリオ(SSPシナリオ)を用いて海面水位上昇量および潮汐を考慮した全球沿岸域における浸水影響の不確実性を評価した.その結果,2100年における潜在的浸水面積はRCP8.5で約35万km2(NorESM1-M)~約46万km2(MIROC-ESM-CHEM)であり,平均値に対して29%の幅があった.影響人口は,RCP8.5では5,700万人(NorESM1-M,SSP1)~1.17億人(MIROC-ESM-CHEM,SSP3)であり,RCP2.6では5,000万人(NorESM1-M,SSP1)~9,700万人(MIROC-ESM-CHEM,SSP3)であった.被害額は,RCP8.5では1,640億$(GFDL-ESM2M,SSP3)~5,260億$(MIROC-ESM-CHEM,SSP1)であり,RCP2.6では1,470億$(NorESM1-M,SSP3)~4,520億$(MIROC-ESM-CHEM,SSP1)であった.これらの全球沿岸域における気候変動影響の不確実性評価は,地域毎の最適な適応策を検討する際の判断材料になることが期待される.
  • 佐藤 大作, 横木 裕宗, 桑原 祐史
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_175-I_180
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     ツバル国フナフチ環礁では将来の海面上昇によって多くの影響が生じると危惧されている.本研究ではツバル国フナフチ環礁で人口が集中するフォンガファレ島に着目し,現地で問題となっている越波現象および陸域内で生じる浸水,伝統的作物であるタロイモの栽培について,海面上昇が及ぼす影響を検討した.越波に関する検討結果から,フォンガファレ島外洋側海岸で有義波高は大きく上昇し,場所によって200%以上上昇する地点が存在することがわかった.浸水域に関する検討結果からは,海面上昇の影響によって,特に現在宅地となっている領域で潜在的な浸水域が増加することがわかった.伝統的な作物であるタロを栽培するタロピットは海面上昇の影響で潜在的栽培可能域が変化し,現在のタロピットは将来,栽培可能域から外れるものと予想された.
  • 朝倉 宏, 中川 啓
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_181-I_188
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     日本の安定型最終処分場で硫化水素が発生し,作業員が死亡する事故が発生した。嫌気的条件下で廃石膏ボード由来の硫酸塩を硫酸塩還元菌が還元することによって硫化水素が発生する。現在の発生抑制のための対策は,ガス抜き管の設置によるガス状酸素の導入が主流であるが,設置コスト,海面処分場への適用が不可,などの問題がある。一方,下水道分野では,硝酸塩による発生抑制の事例がある。本研究では,最終処分場における硫化水素発生抑制手法開発のために,硝酸塩およびガス状酸素添加による硫化水素発生抑制および有機物削減効果を定量的に評価した。薬品硝酸塩およびガス状酸素添加によって硫化水素発生速度比を0.1以下にできた。また,全有機炭素減少速度を大きくできた。コンポスト抽出硝酸塩添加では,硫化水素発生抑制および有機物削減効果がみられなかった。
  • 朝倉 宏, 中川 啓
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_189-I_194
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     廃棄物最終処分場における高濃度硫化水素発生防止のための有機炭素に関連する指標について,易および難分解性有機物を区別しない全有機炭素(TOC)より,有機炭素の利用速度をもとにした指標の有効性を評価する必要がある。本研究では,セルロース系有機物である木質を使用した時の硫化水素発生ポテンシャルを測定した。既往研究結果である易分解性有機物(微生物培養用溶液)によるポテンシャルと比較した。同じTOCにおいて,木質抽出液は,微生物培養用溶液より硫化水素発生ポテンシャルが小さかった。高濃度硫化水素発生防止のためにTOCで基準を設定すると,木質を過剰に排除しなければならなくなる。木質抽出液および微生物培養用溶液ともに,酸素消費速度0.3 mmol-O2 / (L·h)以下で高濃度硫化水素が発生しなかった。
  • 坂口 直也, 田内 裕人, 江種 伸之, 大塚 義一
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_195-I_202
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     災害廃棄物の処理計画を策定する際には,最終処分場や仮置場の位置・設置数等を条件として想定・比較し,最適な計画を立案することが要求される.本研究では,様々な条件をシナリオとして設定可能な災害廃棄物収集運搬・処理連動モデルの開発を行った.本モデルでは,災害廃棄物の収集運搬過程と破砕・分別過程を考慮しながら廃棄物量の変化を追跡し,処理に要する日数を算出する.本モデルを南海トラフ巨大地震の被害が想定される都市に適用し,仮置場と運搬車両の運用について単純なシナリオを設定し,3年で処理を終えるために必要な運搬車両台数と破砕分別処理能力について検討した.その結果,条件を満たすためには運搬車両台数と分別破砕処理能力を大きくとる必要があり,より現実的な災害廃棄物処理シナリオを検証する必要があることがわかった.
  • 宮本 善和, 安東 正行, 鈴木 倫太郎
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_203-I_211
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     高水温による白化や,赤土,栄養塩の流出などの複合的なストレスの影響を受け危機的状態にある八重山地方のサンゴ礁生態系の保全・再生を促していくため,農業,漁業,観光業などの事業活動から生じる様々な負荷を低減してサンゴ礁生態系と共存する持続可能な産業へ転換を促すことを追求する.その一環として,陸域からの主な負荷である窒素やリンの栄養塩類を対象として,その発生量を主なステークホルダー別に定量的に分析・評価した.そして,栄養塩類の主な発生源の1つであるパインアップル栽培のローカル環境認証による負荷低減の可能性について3段階のレベルを設定し試算した.その結果,エコファーマーや沖縄県特別栽培農産物等を考慮した基準の設定によってその低減が図れる可能性が示唆された.
  • 藤森 真一郎, 大城 賢, 白木 裕斗, 長谷川 知子
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_213-I_222
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では日本の2050年温室効果ガス排出80%削減における電力構成および電力量の変化,必要な削減費用を推計し議論する.経済モデルを用いてその推計を行うが,その際エネルギー技術モデルの結果を用いて経済モデルに取り込むことで,エネルギー関連出力に現実性を持たせた.その結果,GDP損失は2050年において,エネルギー技術モデルの情報を用いた場合は0.4%となり,従来の経済モデル単独の結果よりも約2%小さくなることが分かった.エネルギー技術モデルは従来の経済モデルとは異なる削減技術に関する情報を持つことにより,部門間の生産活動,家計行動や炭素税収が変わることがその主たる要因と考えられた.
  • 田内 裕人, 中村 誠, 中村 祐生, 江種 伸之
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_223-I_232
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,世界各地の水・栄養塩の統合流出解析で利用実績のあるHYPEを紀の川流域に適用した.まず,スウェーデンのHYPE適用事例を参照してGISによりHYPEの基礎モデルを構築し,次いで河川の予測流量に対してキャリブレーションを実施した.その結果,特に低水時の河川流量を高精度で予測可能なHYPEが構築された.そして,同モデルを活用し,窒素・リンの流出解析を実施するとともに,計算された窒素・リンの河川水中濃度を観測値と比較した.その結果,窒素・リンの解析濃度は低水時において概ね妥当であり,特に窒素の河川水中濃度は精度よく予測できることが示された.本研究を通して,HYPEを用いた紀の川の水・栄養塩の流出解析が可能となるとともに,特に低水時において,HYPEを日本の流域の水・栄養塩流出解析に適用可能であることが示された.
  • 小島 塁, 大澤 和敏, 松浦 麻希, 藤澤 久子, 冨坂 峰人, 松井 宏之
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_233-I_239
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     沖縄地方では降雨に伴って過度の土壌侵食が発生し,濁水が沿岸域へ流入することによって,サンゴをはじめとする水域生態系に多大な負の影響を与えている.土壌侵食の発生源対策として,藻類・菌類による土壌被覆(Biological Soil Crust, BSC)に着目し,受食性の評価試験を行った.その結果,裸地条件下では降雨強度や掃流力の増大に伴ってインターリル侵食量およびリル侵食量も増大したが,BSCによる土壌被覆条件下では侵食量の軽減が見られた.特に,リル侵食試験では,十分大きな掃流力を与えても侵食が発生しなかった.また,降雨によってBSCの剥離が確認されたが,侵食量抑制効果は持続した.試験結果から同定された受食係数のベース値をWEPP (Water Erosion Prediction Project)に入力して解析した結果,BSCによる土壌被覆によって裸地状態の90%程度の侵食量を抑制できることが示された.
  • 米勢 嘉智, 河村 明, 天口 英雄
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_241-I_248
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,神田川上流域における豪雨イベントを対象とし,XRAINや地上観測雨量データを用いて,分布型流出モデルによる流出解析を実施し,計算流出ハイドログラフにおける再現性を検証した.計算流出ハイドログラフの再現性は,高密度の地上観測雨量データを使用した場合に最も高く,詳細な空間分解能を有するXRAINを用いた場合よりも高いことを確認した.また,XRAINの空間分解能をメッシュ雨量として分布型流出モデルに直接用いることで,流域平均雨量を用いた場合と比べて,全体的な計算流出ハイドログラフの再現性が向上することを示した.
  • 竹原 由, 山田 朋人
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_249-I_255
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     2016年8月,台風10号が北海道接近時に日高山脈付近で記録的豪雨が発生した.本研究では大気の安定度を示すブラントバイサラ振動数やそれを用いたフルード数によって,豪雨特性を分類し,議論することを目的とした.乾燥状態でのブラントバイサラ振動数と湿潤効果を含んだ湿潤ブラントバイサラ振動数をそれぞれ算出した.標高が高い地域では乾燥,湿潤状態に関わらず,ブラントバイサラ振動数が小さく算出され,大気はより不安定であることが示唆された.山間部周辺の大気の流れが持つ運動エネルギーと山を越えるために必要なエネルギーの比であるフルード数の大小によって豪雨の分類を行った.この結果,特に無次元数が大きい事例で標高が上昇するほど降雨量が増加し,より局所的な降雨がもたらされていたことが分かった.
  • 田中 裕夏子, 風間 聡, 小森 大輔
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_257-I_264
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     洪水,高潮それぞれの単独災害ならびに洪水と高潮の複合災害に着目し,被害額の分布を定量的に地図の形に示した.洪水・高潮複合災害の要因を低気圧と仮定し,年最小気圧と日降水量,年最小気圧と潮位偏差の関係性から複合災害を引き起こす日降水量と潮位を求めた.日降水量を入力値,潮位を境界条件として二次元不定流モデルに与え浸水深を算出し,浸水深をもとに被害額を算定した.日本全土における洪水の年平均期待被害額は1.1兆円/年,高潮の年平均期待被害額は4678億円/年,洪水・高潮複合災害の年平均期待被害額は7784億円/年となった.洪水,高潮の単独災害と洪水・高潮複合災害の被害額を県別に比較すると,沖縄を除く46都道府県のうち38都道府県において洪水単独災害による被害額が最大となった.
  • Bambang Adhi PRIYAMBODHO, Shuichi KURE, Idham Riyando MOE, So KAZAMA
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_265-I_271
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     The risks associated with changes in land use are a common concern, especially in relation to their potential impact on many cities around the world. Jakarta, Indonesia is a typical urbanized Asian city where flooding presents a challenge. In this study, our main objective was to evaluate quantitatively the impact of changes in the use of land upstream of the city by using a flood inundation model to analyze several land-use-change scenarios. We considered four scenarios of future changes in land use in Jakarta based on the SLEUTH model: the worst-case, compact-growth, and controlled-growth-I and -II scenarios. The controlled-growth is a scenario to decrease the growth rate and delay the progress of urbanization compared to the compact-growth scenario.
     According to our analyses, the predicted changes in land use with the land subsidence in the worst-case and controlled-growth-II scenarios would cause flood inundation volumes in 2050 to be 37% and 27% larger than in 2013, respectively. Thus, even under the controlled-growth-II scenario, the modeled changes in land use with the land subsidence would significantly increase flood inundation. Based on these results, we strongly recommend the Jakarta government to regulate land use in the forested upper regions and land subsidence in the lower regions as soon as possible to reduce future flood damage to the city.
  • 山田 真史, 知花 武佳, 渡部 哲史
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_273-I_284
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,長期の水害統計に基づいて水害リスクカーブを評価するFrequency-Damage法(FD法)について,被害が発生しない年の存在を考慮できる改良FD法を考案し,市区町村規模の小スケールへの適用可能性を検討した.全国の市区町村を対象とした従来のFD法と改良FD法の結果の比較から,改良FD法は,(1)従来のFD法における被害額期待値の過大・過小評価傾向が改善され,被害額の実績値である平均年間被害額と近い被害額期待値を算出する傾向にあること,(2)作成されるリスクカーブの形状が実績値曲線に近く,水害リスクの確率的特徴を良く反映していること,を示した.小規模な地理的スケールへの適用可能性が高い水害リスクの回帰的評価手法を開発したことで,市区町村ごとの水害リスクの要因分析や,水害リスク特徴の地域性の分析への活用が期待される.
  • Jean Margaret R. MERCADO, Akira KAWAMURA, Hideo AMAGUCHI
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_285-I_292
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     An integrated flood risk management (FRM) plan was established in the Philippines for the first time in 2012 after the disastrous flooding brought by Typhoon Ondoy in 2009. It is a crucial task to identify and analyze the barriers that may hamper the effective implementation of the FRM plan. In this study, barriers to FRM were identified from a collection of literature related to flooding then interrelationships among barriers were analyzed by conducting a pairwise assessment by experts. Barriers to FRM in Metro Manila are found to be related to three aspects namely, governance, social and scientific resources aspects. There are 4, 3 and 5 barriers identified in the governance, social and scientific resources aspect, respectively. The barrier interrelationships were elicited by 5 carefully selected local experts and practitioners in the Philippines. The results of this study show that barriers in the governance aspect heavily influence all other barriers while the barriers on the social aspect have the least influence but strongly depends on the other aspects. The collective perception of the 5 local experts and practitioners also showed satisfactory understanding on the barriers in FRM. This study was able to identify and analyze the interrelationship of each FRM barriers which can provide insights to decision makers on how to overcome them.
  • 清水 啓太, 山田 正, 山田 朋人
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_293-I_301
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     現在,利用可能な水文量の観測極値は限られているため,これらのデータを基に推定した水文統計量(確率水文量,モデル母数等)に内在する不確実性は数理統計学的観点から極めて大きいといえる.著者らは,確率限界法検定を応用し信頼区間を構成するとともに,当該信頼区間に基づき水文統計量の不確実性を評価する水文頻度解析手法を提示した.本研究では,同手法を降雨流出解析に適用することで,確率洪水ピーク流量の信頼限界値が生起するリスクを定量化した.この結果は,信頼区間の導入により,従来では想定外とみなされるような洪水流量を河川・水文分野における諸検討に取り込める可能性を示したものである.
  • 豊田 康嗣, 佐藤 隆宏, 石井 孝, 新井 涼允
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_303-I_313
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     水力発電は他の再生可能エネルギーと比べると導入コストが大きいが,安定した電力供給を見込むことができる.一方で水力発電設備は一般的に山地森林域に位置するため,林業域における導入も想定される.しかしながら近年,木材単価の低迷や林業従事者の高齢化等によって荒廃が進行している林業域も存在する.本研究では林業域における水力発電の導入を想定し,林業の施業方式による林相変化が流況に及ぼす影響を解析することで,発電電力量および発電単価に与える影響を評価した.積極的な造林や伐採を実施する林業経営シナリオによって発電量が若干増加することに加え,林道が適切に整備されるため,水力発電設備の維持管理に間接的に役立つと考えられる.
  • Anil ARYAL, Jun MAGOME, Jaya Ram PUDASHINE, Hiroshi ISHIDAIRA
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_315-I_321
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     Hydropower(HP) is the major source of renewable energy supply in Nepal. The current power generation is only 1% of the gross theoretical hydropower potential (84,000 MW). In this research, we tried to quantify the potential locations for hydropower plant (HPP) sites within Bagmati River Basin and estimate the total energy that can be generated spatially. We used SWAT hydrological model for discharge simulation and GIS for spotting potential locations. Then, general power equation was used to calculate the total power that can be generated from the basin area. Potential sites having head difference of more than 10m was included for estimation of the energy. Different criteria (for example, technical and socio-environmental constraints) were setup for locating the potential sites. Flow duration curve (FDC) for each HPP sites were determined at different flow exceedance of discharge for determining design discharge. First 80 potential sites were spotted after applying the technical constraints and finally 73 sites were determined as HP potential sites with gross head differences of 12m to 689m when applying the socio-environmental constraints. These potential sites were categorized as micro hydro, small hydro, medium hydro and mega hydro and numbers of HP sites were found to be 4, 25, 35 and 9 respectively at 40% of flow exceedance. The total energy that can be generated from the basin area were calculated by summing up all the energy that can be produced from individual potential site and calculated to be 3442.6 MW. The results of the research can be utilized by the policy makers and developers of the renewable energy for generating HP for sustainable development and green environment.
  • Nguyen Thi Thuy TRANG, Hiroshi ISHIDAIRA
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_323-I_331
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     Human activity is the most significant factor driving water demand. In this paper, we quantify the water demand in the transboundary 3S River Basin (Sesan, Sekong and Srepok) according to projected societal and economic developments, the so-called Shared Socioeconomic Pathways (SSPs). We considered the water demand across four water use sectors, namely domestic, irrigation, industrial and environmental, and derived estimations that were compatible with the three SSPs (SSP1, SSP2 and SSP3) for three periods: the 2030s, 2060s and 2090s. Three population projections, corresponding to the three SSPs, were made using the cohort component and ratio methods. The Land Change Modeler (LCM) model was employed to prognosticate the future land use land cover change. By the end of this century, the basin's population is projected to increase by 60%, 117% and 139% under SSP1, SSP2, and SSP3 respectively. Agricultural and urban areas are predicted to increase by 33% and 100% in the 2090s, respectively. Consequently, total water demand would increase by 98%, 101.9% and 102.8%, under SSP1, SSP2, and SSP3 by the end of this century respectively. The results of this study will help policy makers and planners in developing appropriate water supply plans to tackle the continuous but uncertain increases in future demand.
  • 石原 成幸, 河村 明, 高崎 忠勝, 天口 英雄
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_333-I_339
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     日本橋川は東京都知事が管理する一級河川・荒川水系神田川の右支川であり,1964年の東京オリンピック直前に河川並びに重要文化財・日本橋の上空に首都高速道路(首都高)が架設されたことで知られている.日本橋・大手町周辺では,2020年の東京オリンピック等に向けた再開発事業が進行中であり,首都高の大規模修繕に伴う地下化検討に際して,再開発事業と首都高との一体整備や官民連携の河川環境整備が模索されている.本論では1964年東京オリンピック時における日本橋川上空への首都高計画の検討経緯に関して,河川管理上の視点から考察を行ったものである.さらに,首都高建設当時と現在進められている首都高地下化に伴う河川環境整備方針との相違について,若干の言及を試みた.
  • 田中 良賢, 立花 潤三, 浦 和哉, 榊原 一紀
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_341-I_347
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,地方自治体のエネルギー供給システムを対象に,2段階確率計画法を用いて将来の不確実性を考慮した長期計画モデルの開発及び実証的検討を行った.2段階確率計画法は,株式投資など不確実性下における最適戦略を導出する数理計画法であり,本研究では将来の各エネルギー需要量,系統電力需要におけるCO2排出原単位を不確実要素とし,その中で最適なエネルギー施設計画を導出するモデルを開発した.本モデルを用いて2016年から2050年における富山県の最適なエネルギー施設計画を導出した結果,再生可能エネルギーの中でも,富山県が多く保有する水力発電や地熱発電が導入される結果となり,化石燃料や系統電力消費量が大きく削減される結果となった.最終期(2046年から2050年)における電源構成は,系統電力からの供給量が45.6%,地熱発電が29.5%,水力発電が14.3%,その他の再生可能エネルギーが10.6%となった.本モデル開発により,従来の長期エネルギー計画では考慮されてこなかった将来における不確実要素を考慮した上で,最適なロードマップの検討が可能になった.
  • 供田 豪, 森 龍太, 森杉 雅史, 大野 栄治, 中嶌 一憲, 坂本 直樹
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_349-I_357
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,近年のスキー場来客数の減少と温暖化との因果関係について考察することを目的とする.具体的には,2007年~2016年の長野県のスキー場来客数を対象に,エリアごとの時系列データによって説明変数となる気象要因を抽出し,その後プーリングしたデータの下でパネル解析を図ることで,来客数の変化率を気象的要因とそれ以外の要因に分離した.その結果,対象期間における年あたりのスキー場来客数の全要因による変化率,気象的要因による変化率,気象以外の要因による変化率はそれぞれ,-2.95%,0.46%,-3.41%となった.すなわち,来客数の減少は主に社会的要因などの気象以外の要因に起因するものであり,気象的要因はこの期間むしろ来客数の減少をわずかながら軽減させていたことが知見として得られた.
  • 阪田 義隆, 葛 隆生, 長野 克則
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_359-I_367
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,地中熱ヒートポンプ暖房システムを戸建住宅に導入する場合のCO2排出量の削減可能量(削減ポテンシャル)を全国10 kmグリッドで試算し,システム導入による環境貢献効果を比較分析した.気候の異なる7地域の戸建住宅を想定し,全国地盤物性データベースの有効熱伝導率分布と地中熱システムシミュレーションを組み合わせ,各グリッドでシステム運用時の地中温度・熱媒体温度が安定する地中熱交換器長さと,その場合の従来システムに対する戸別の削減ポテンシャルとグリッド単位の削減ポテンシャルを計算し,都道府県毎に集計した.その結果,戸別の削減ポテンシャルは寒冷地や山間部で高い一方,グリッド単位の削減ポテンシャルは温暖地域,特に太平洋岸の都市部で高く,地中熱利用による環境貢献効果が全国で広く期待できることが示された.
  • 白木 裕斗, 大城 賢, 藤森 真一郎, 長谷川 知子
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_369-I_378
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     変動性再生可能エネルギー大量導入下では,デマンドレスポンス(DR)や蓄電池など,電力系統安定化策の導入が不可欠となる.電力システム分析には主に電力部門に特化した電源モデルが使用されるが,同モデル単体ではDR可能な技術の実施量や低炭素目標下の電力需要量等が推計できない.本研究では,エネルギーシステム全体を考慮可能な技術積み上げ型モデルの情報と電源モデルを組み合わせ,長期低炭素シナリオ下の系統安定化策実施量を推計した.その結果,蓄電池やDR等の系統安定化策の組み合わせにより,低炭素シナリオの下での発電費用を約7.7%(1.6兆円)削減可能であることが示された.加えて,2040年頃には現在の揚水発電の発電容量を越える規模の短周期変動用蓄電池の導入が必要となること,火力発電の設備利用率が25%まで低下すること等が示された.
  • 渡邊 淳, 中村 仁
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_379-I_386
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,米国のNJ州のPineland地域の5自治体とRI州のNorth Kingstownを対象に,農地・自然環境保全型の開発権移転制度の現状と課題を,運用上の詳細な規定と開発権の取引実績の関係に着目して分析することで,開発権の取引数に影響を及ぼす要因を探ることである.調査・分析の結果,TDR取引が増加しない要因として,1)相互に取引可能な自治体数が少ない,2)受け地として指定されている面積の割合が小さい,3)出し地においてTDR配分前には戸建住宅の建設に制限がないが,TDR配分後に戸建住宅が禁止になる制限がある,4)TDRを使用した容積緩和を受けるうえで,一定割合の低価格住戸を設けるといった「条件付きTDR使用許可」の規定があることが示唆された.
  • 安西 聡, 風間 聡
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_387-I_393
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     新しい水質指標「人と河川の豊かなふれあいの確保」の代替指標を,Instagramデータにより提案するため,2データ間の関係性の把握を目的とした.結論として以下を得た.Instagramデータと「人と河川の豊かなふれあいの確保」の指標の比較をする際に,主に投稿が行われている地点と「人と河川の豊かなふれあいの確保」の指標の調査地点の位置関係に注意する必要がある.「釣り」等の単語を含む投稿数と推定された「人と河川の豊かなふれあいの確保」の指標の関係性において,「バス」の単語が多く使用される河川の場合,「人と河川の豊かなふれあいの確保」の指標値が低くなる傾向が見られた.
  • 熊野 直子, 田村 誠, 井上 智美, 横木 裕宗
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_395-I_404
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     気候変動に伴う海面上昇への適応策として,海岸線を防護し被害を軽減させる必要がある.熱帯などでは海岸線に分布するマングローブ林をグリーンインフラとして活用した海岸防護が行われており,堤防などの社会基盤と組み合わせることで,効果的に防護できるとされている.しかしながら,先行研究は特定の地区を対象にしたものが多く,海面上昇への適応策に関する国全体の影響評価,あるいは長期的な費用効果を分析した研究は少ない.そこで,本稿はフィリピンとベトナムを事例に,海面上昇に対して現存するマングローブ林を最大限に利用した場合における適応評価と費用効果を分析した.その結果,潜在的浸水面積と被害額が大きくなるベトナムではマングローブ林を活用した防護に国全体で経済合理性がある一方,フィリピンは国全体での費用便益比は小さく,地域毎のきめ細かいマングローブ植林計画が必要となることが示された.
  • 馬場 健司, 工藤 泰子, 渡邊 茂, 永田 裕, 田中 博春, 田中 充
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_405-I_416
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,気候変動影響をはじめとする適応計画策定に必要な要素について,地方自治体行政職員が主観的な評価により回答可能な気候変動リスクアセスメント手法を開発し,これを用いて,適応策の立案に向けてどのような技術開発に対するニーズを持ち,また部局間で認知ギャップを持っているのかを明らかにしてきた.主な結果は以下のとおりである.科学的データについては,水稲,果樹,熱中症,暑熱による生活への影響等,自然林・二次林,土石流・地すべり等への影響について,より短く詳細なレベルでの推計にニーズがある.アセスメント手法により,気候変動の外力リスクと影響の重大な分野,感受性と適応能力の評価について部局間での相違が視覚的に確認でき,庁内横断検討会などでの活用が期待される.
  • 瀬尾 直樹, 原田 賢治, 金原 剛, 風間 聡
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_417-I_424
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     東日本大震災では,津波からの避難において,盛土への避難者が被災から免れたことから,盛土式津波避難施設が注目されている.このような観点を踏まえ,静岡県袋井市の検討実績から,瀬尾ら1)が,盛土式構造の津波避難施設の設計手法を提案している.本論文は,瀬尾ら1)の報告している設計手法のうち,盛土式津波避難施設の天端高の算定について詳細に検討したものである.特に,津波避難施設建設後の津波シミュレーション結果より,津波避難施設前面における建設後前面最大浸水深が津波避難施設建設前の最大浸水深よりも大きくなったことから,津波避難施設建設後の浸水深の算定を行う必要があることがわかった.津波避難施設および周辺構造物を考慮可能な解像度で解析することが必要であることを示した.
  • 中嶌 一憲, 坂本 直樹, 大野 栄治, 森杉 雅史, 森 龍太
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_425-I_436
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究は,気候変動による環境変化の経済的影響を捉えるために,環境要因(砂浜)を旅行費用法のレクリエーション需要関数と整合的な独立変数として有する効用関数を持った応用一般均衡モデルを用いることによって,砂浜侵食による都道府県別の被害費用の計測,および砂浜回復を目的とした仮想的な適応策の費用便益分析を行うことを目的とする.本研究の結果から得られた主な知見は,1)RCP8.5では砂浜侵食の被害費用は2031年から2050年に174億円/年から252億円/年,2081年から2100年に615億円/年から644億円/年と推定されたこと,2)全ての期間,全てのRCPシナリオ,全ての気候シナリオにおいて,費用便益比が1.0を超える地域は神奈川県,大阪府,佐賀県,熊本県の4府県であったことである.
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