土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
76 巻, 5 号
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地球環境研究論文集 第28巻
  • 中川 啓, 竹盛 匠吾, 朝倉 宏
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_1-I_8
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
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     地下水の硝酸性窒素汚染は世界中で深刻化しており,研究対象地においても,地下水環境基準の超過率は高い状態にある.一般に土壌中の成分の溶出量や含有量を調べるには,振とうによるバッチ試験が適用される.本研究では,カラム試験で得られる破過曲線から硝酸イオン溶出量を評価し,バッチ試験による溶出方法の妥当性について検討を加えた.その結果,硝酸イオンの場合,溶出カラム試験では固液比1:3で十分溶出されることが可能であることが分かった.さらにこのことを評価するため,攪拌による溶出方法を加えた3種類の試験方法で比較したところ,ほぼ同程度の硝酸イオン量を溶出させることが確認された.

  • 湯浅 岳史, 松丸 亮, 荒巻 俊也, 眞子 岳, 柴田 京子, Sai Tun Aye , 鈴木 亜香里
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_9-I_18
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     インレー湖を対象に汚濁負荷量を原単位法により推定し,湖の水質汚濁要因をマクロ的に評価することを目的として検討を行った.この結果,a)汚濁負荷量はCOD 29,000kg/日,T-N 20,100kg/日,T-P 1,820kg/日であり,その内訳では面源系負荷が圧倒的に大きいこと,b)インレー湖と日本の主要湖沼の負荷量を比較したところ,CODでは琵琶湖,インレー湖,霞ヶ浦の順に大きいが,T-NやT-Pではインレー湖の負荷量が最も大きいこと,c)この算定結果に基づく水質保全対策の方向性として,生活排水対策や浮畑の施肥適正化を優先的に実施する必要があることなどが明らかとなった.本手法は,詳細なデータ・情報が入手困難な途上国において水質汚濁要因および対策を考える上で有効な手法となる.

  • 糠澤 桂, 深川 柊, 鈴木 祥広
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_19-I_26
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
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     近年,水環境中において迅速で正確な生物調査方法である環境DNA法の利用が加速している.しかし,濁りを有する水域における環境DNAの調査方法は確立されていない.そこで本研究では,異なる濁質条件を有する河川のコイを対象に,環境DNA法の適用可否を検討した.集水域の土地利用が異なる3河川を対象に,ガラス繊維ろ紙を用いた手法と孔径20µmの定性ろ紙をプレフィルターとして用いた手法により環境DNAのろ過・濃縮を実施した.結果として,従来法であるガラス繊維ろ紙を用いた手法では,プレフィルターを用いた手法と比べて,高濁度条件においてろ紙を2枚使用しても通水量が1Lに満たないケースが多いものの,環境DNA濃度は相対的に高いことが示された.環境DNA濃度とSSや強熱減量には相関関係が認められなかった.

  • 松下 知馬, 横山 勝英, 中山 耕至, 畠山 信
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_27-I_32
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     宮城県気仙沼市舞根地区の西舞根川河口域には2011年東日本大震災により塩性湿地が出現したため,2012年から2019年までの8年間にわたって水位,塩分,溶存酸素濃度(DO)の連続モニタリングを実施して,時間変化の特徴を調べた.舞根湿地では塩分の最大値は32程度で変化が無いが,最低値は年々減少する傾向にあった.地盤が毎年約5cmずつ上昇している影響で,海水が河川を遡上しにくくなり,洪水が湿地に入りやすくなっていることが推定された.DOは午前中に上昇し,午後は減少,夜間は緩やかに減少していた.表層では日中に過飽和になり,夜間でも5mg/L以上であった.これは沈水植物の光合成と呼吸が主な要因と考えられた.底層では夜間や洪水後の数日間は無酸素状態になり,沈水植物の活動に加えて塩分成層の影響で底層水が滞留しやすいことが原因と推測された.

  • 韓 燕ジ, 酒井 宏治, 小泉 明, 西間木 千智, 岩﨑 浩美, 上野 俊明, 千葉 徹也
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_33-I_42
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     多摩川上流における東京都水道水源林の保全は安全でおいしい水の安定供給の原点であるため,環境負荷を把握した上で水道水源林の管理を行い,森林を良好に整備することが求められている.本研究では,水道水源林における環境負荷を評価するために,GISを利用して各流域の土地利用を把握した上で,各流域の森林からの総窒素,総リン,COD排出原単位を推定することを行った.計算から得られた山林負荷原単位を既存資料における他の流域の山林負荷原単位と比較した結果,対象流域における原単位は,他流域と比較して小さい値であった,さらに原単位を年間降雨量で割った計算値(原単位指数)を用いて各流域の植生状況及び水源林分布状況との関係を考察した結果,広葉樹などの植生が影響する可能性があることが分かった

  • 田中 仁, Nguyen Xuan TINH , Nguyen Trong HIEP
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_43-I_48
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     宮城県東松島市に位置する野蒜海岸は全長2.8kmである.同海岸は漂砂系の末端に位置することから,以前より砂の堆積が問題となっていた.その最末端部には外海と松島湾の海水交換を促進するための人工的な水道が開削されており,過度な砂の堆積によりもたらされる海水交換機能の低下が松島湾内水質環境に影響を及ぼすものと危惧されていた.2011年東日本大震災津波の際,同海岸は大きな侵食を受けたため,海水交換機能は向上したものと考えられている.本研究においては,Google Earth画像の解析により震災前後における同海岸の砂の堆積速度を評価し,将来の海水交換阻害発生の可能性の検討を行った.その結果,再び砂の堆積が健在化するのは津波発生から約30年後であるとの評価結果を得た.

  • 佐藤 大作
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_49-I_54
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     環礁州島において伝統的に淡水資源として利用されてきた淡水レンズは,近年の都市化による汚染や塩水化の影響で利用が難しい状況となっている.このため,環礁州島では持続的な淡水資源の利用が大きな課題となっている.本研究ではツバル国フナフチ環礁フォンガファレ島に形成する淡水レンズに着目し,州島幅と涵養量との関係,および潮汐変動が淡水レンズに与える影響を数値計算を用いて検討した.州島幅,涵養量,淡水レンズ体積の関係から,フナフチ環礁フォンガファレ島の潜在的淡水レンズ体積を推測したところ,現状の人口においておよそ40~90年分の淡水資源を有するものと推測された.また,潮汐変動による海水の流入・流出の影響で,州島地下に形成した淡水レンズの体積はおよそ2割程度減少することがわかった.

  • Teerawat RAM-INDRA, Yasuto TACHIKAWA, Kazuaki YOROZU, Yutaka ICHIKAWA
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_55-I_63
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     This study investigates the applicability of bias correction for runoff generation data from AGCM3.2s over the northern part of Thailand. A land surface model generates 20 years of reference runoff data after being carefully calibrated and validated by observation discharge to ensure the performance of the runoff reference data. Two simple bias correction methods, namely linear scaling factor and empirical quantile mapping bias correction, were tested to reduce biases. The linear scaling factor method performs better in reducing bias than the empirical quantile mapping in the monthly mean of runoff generation for each grid and river discharge. In contrast, both bias correction methods are not effective in adjusting to the quantile of monthly river discharge. This study provides an understanding of the characteristics of biases in GCM runoff and leads to the development of new bias correction methods.

  • 峯田 陽生, 糠澤 桂, 中尾 彰吾, 鈴木 祥広
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_65-I_74
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
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     水力発電用の取水や洪水調節による流況改変の影響を水系一貫で評価した研究事例は少ないのが現状である.そこで本研究では,宮崎県小丸川流域を対象に分布型流出モデルを適用し,ダム・堰による流況改変程度と,発電放流・支流による流況の緩和の縦断的パターンを評価した.ダム・堰の放流をモデル内に含める・含めないケースでそれぞれ流出計算し,両者の流況指標値の比により流況改変程度を定量化した.流出計算は,3年間を通し高い再現性を示した(NS=0.91~0.96). 発電放流によって豊水流量の改変は緩和される一方,平水~渇水流量における緩和効果は不十分だった.流量の少ない流況ほど,支流からの流入量増加に比例し緩和効果が増加する傾向を示した.これは,緩和効果が空間配置よりも流入量に依存して高まる事実を示唆する.

  • Nguyen Quang DUC ANH , 田中 仁, Nguyen Xuan TINH , Nguyen Trung VIET
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_75-I_80
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     ケン河口およびファン河口は,それぞれベトナム北部ハティン省および南部ビントゥアン省に位置し,いずれにおいても砂嘴の成長が著しい.砂嘴の発達は洪水時に河口水位のせき上げをもたらし,治水安全度の低下をもたらす.しかし,途上国においては現地資料が乏しく,様々な対策検討が困難な場合が多い.本研究では1988年以降に撮影されたLandsat画像をもとに両河口における砂嘴の変動に関する定量的な検討を行った.その結果,砂嘴はほぼ一定の速度(ケン河口:65m/年,ファン河口:185m/年)で延伸していることが分かった.ただし,ケン河口においては砂嘴の決壊が生じないのに対して,ファン河口では10年から15年に一度決壊が生じていた.また,砂嘴成長速度と,既往研究による漂砂移動限界水深,バーム高さより,沿岸漂砂量の推定を行うことが出来た.

  • 野依 亮介, 相馬 一義, 髙山 拓哉, 馬籠 純, 石平 博, 田中 賢治
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_81-I_88
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究では,全国一律に空間解像度約1kmで人工顕熱排熱量・人工潜熱排熱量・温排水排熱量を月別・時間帯別に推定する手法を新たに構築した.本手法では全国的に手に入る地域メッシュ統計・国土数値情報に適用可能な人工排熱量原単位を検討し,民生家庭部門,民生業務部門,産業部門,自動車部門の4つに分けて人工排熱量の推定を行う.推定結果から県別の年間総人工排熱量を求め統計データと比較した結果,県別エネルギー消費量に対応した総人工排熱量が表現できていることを確認した.今後は本研究で推定した人工顕熱・潜熱排熱量を雲解像気象モデルに導入した検討を併せて行う必要がある.

  • 関 祐哉, 長谷川 知子, 藤森 真一郎
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_89-I_95
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     気候変動対策をとらない場合、将来の洪水の範囲や強度が増加することが報告されているが、これまで洪水による食料消費・飢餓リスクへの影響は評価されていない。本稿では、世界を対象にした洪水による作物収量変化を通じた食料消費と飢餓リスクの影響を明らかにすることを目的とする。さらに適応策として、その影響に対応するのに必要な食料備蓄量を算出した。世界経済モデルAIM/Hubを用いて世界17地域の食料消費や飢餓リスクなどを算出し、洪水による影響を算定した。結果としては、2030年に世界全体で飢餓リスク人口が約1060万人(780~1290万人; 複数のモデルによる不確実性幅)増加し、平均食料カロリー消費量は6.6kcal/人/日(5.3~8.6kcal/人/日)減少する。途上国では被害が大きく、その他アフリカでは飢餓リスク人口が約550万人(340~590万人)増加し、平均食料カロリー消費量は約14kcal/人/日(10~14)減少した。これらの影響を防ぐための食料備蓄必要量は約190万トン(140~190万トン)となった。

  • 西浦 理, 藤森 真一郎, 大城 賢
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_97-I_107
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     アジアは人口増加や経済成長により排出量の増加が見込まれるため,気候変動の緩和を実施する上で重要な地域である.パリ協定に示された1.5°C目標の達成に必要なGHG削減策や経済的な影響の重要性は高い.本研究はアジア8カ国を対象に,経済モデルを用いて2050年までの温室効果ガス排出削減に伴うエネルギー消費の変化や経済影響を推計し,各国において有効な排出削減策を明らかにするとともに,重回帰分析を用いてGDP損失を説明する推計式を作成し経済的な影響の要因を分析した.その結果,大幅な排出削減を行う際にBECCSの利用が重要であることが示された.また,重回帰分析の結果からGHG排出の増加率やエネルギーに対する依存度,経済水準がGHG排出削減によるGDP損失に影響を与えることが示された.

  • 新井 涼允, 豊田 康嗣, 大庭 雅道, 佐藤 隆宏, 風間 聡
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_109-I_119
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     我が国の日本海側の地域では,Rain-on-Snow (RoS)に伴う融雪出水が冬季に極端化すると予測されている.本研究の目的は,RoS起因の融雪出水に対する気候変動の影響を流域スケールで評価することである.本研究は庄川流域を対象として,積雪・融雪過程を考慮した水文モデルに気候予測データベース(d4PDF)の気象データを標高に応じて適切に入力した.温暖化に伴い,平均的な融雪出水量は減少するものの,これまでよりも大きい融雪出水ピーク流量が出現することが示唆された.RoS起因のピーク流量も温暖化に伴い極端化する結果となった.RoS起因の極端なピーク流量は現在気候の12~3月においてほとんど出現しなかったが,将来気候において頻出することが示唆された.

  • 田村 誠, 関根 滉亮, 王 瑩, 安原 侑希, 今井 葉子, 槇田 容子
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_121-I_127
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本稿は,2019年12月に茨城県常総市の農業従事者を対象に実施したアンケート調査から,農業分野における気候変動影響と適応策の現状と課題を議論する.その際には,空間情報解析と統計解析を組み合わせて考察する.

     調査の結果,8割以上の農家が収量低下,生育不良,病虫害などの天候被害の経験を有しており,その要因に高温,多雨等を挙げていた.実践中の適応策には農薬,防除,水やりの変更等の順に回答が多く,将来的な適応策には栽培品種の変更,栽培時期の変更,作物転換も視野に入れた回答が見られた.さらに,こうした適応実践には被害経験の有無,気候変動の実感,適応の認知等の複数要因が関与していることが明らかとなった.

  • 渡邉 諒一, 藤森 真一郎, 長谷川 知子, 大城 賢
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_129-I_140
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     大気汚染物質から生じる対流圏オゾンは,温室効果ガス排出に伴う気候変動とともに作物の収量に影響を及ぼすことが注目されている.本研究では気候緩和策の実施条件が異なるシナリオ下で推計された将来の対流圏オゾン濃度分布を用いて,対流圏オゾンが作物収量に与える影響を推計した.その結果,強い緩和策は対流圏オゾン濃度減少を通じて将来的に作物収量を全世界で1%程度改善させるが,排出削減による気候変動影響の軽減効果と比較すると3割程度と副次的な便益としては限定的であることがわかった.しかし,中東・北アフリカ・アジアでは世界平均よりも約4倍大きな収量改善効果が強い緩和策で見られ,対流圏オゾンによる局地的な収量減少を回避しうることから,世界全域の安定的な発展には重要であることが示唆された.

  • 山本 道, 風間 聡, 峠 嘉哉, 多田 毅, 山下 毅
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_141-I_150
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     気候変動による洪水被害の影響とそれに対する緩和策と適応策の効果を評価した.二次元不定流モデルと治水経済調査マニュアル(案)を用いて,洪水時の浸水深と被害額を算出した.また21世紀末における洪水被害を推定するため5つのGCMを用いて将来気候における降水量を求め,それを入力値として将来の浸水深と被害額を求めた.また,適応策として土地利用規制に着目し,その被害額軽減効果と費用便益比を検証した.21世紀末におけるRCP8.5からRCP2.6への緩和は洪水の年期待被害額を2465億円/年削減すると推定された.再現期間200年の洪水時に3m以上浸水する箇所を規制する土地利用規制による適応策は現在気候において年期待被害額を26%減少させると推定された.また,費用便益比は緩和策は0.684となる一方,土地利用規制の費用便益比は約0.019と推定された.

  • 梅田 信, 安松 陸史
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_151-I_157
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     近年,気候変動の影響により局所的豪雨が頻発するようになり,貯水池内の濁度の上昇や濁水放流の長期化が問題となっている.貯水池での濁水現象は,年間湖水回転率や土砂生産量といった貯水池,集水域の特性から影響を受けるため,気候変動の影響を検討する際にもこれらを考慮することが求められる.そこで本研究では日本全国30のダム湖を対象として鉛直一次元モデルを用いた気候変動下における貯水池内濁水現象に関する将来予測を行った.その結果,気温と日射という水温成層に直接的に影響がある気象要因のみの変化では,SSの放流負荷量の増加率は1.04倍と小さいが,降水変化にともなう流量の変化を加味すると1.77倍という放流SS負荷量の増加につながることが分かった.また気温の変化にともなう,貯水池内の水温構造の季節変化に影響を及ぼし,融雪期に放流SSの増加につながる可能性が示された.

  • 周 可, 荒巻 俊也, 北脇 秀敏
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_159-I_165
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究では,中国湖南省の省都である長沙市の市民を対象として,分別に対する市民の意識や認識について2種類の調査方法でアンケート調査を行い,市民の意識や認識に関する要因と目標意図および行動意図との関係を分析した.その結果,目標意図に対しては調査方式に関係なく環境リスク認知や責任帰属認知が関連性は高くなっており,行動意図に対しては調査方式により影響を与える要因が異なり,社会規範評価,目標意図などが回答者の属性に応じて影響を与えていた.また,学歴が高い層は環境問題の認知が目標意図に結び付きやすく,記述規範が行動意図に結び付きやすい一方で,低学歴の層では責任の帰属に対する意識が目標意図に,主観規範が行動意図に結び付きやすいなどの属性ごと傾向がみられた.

  • 小杉 素子, 馬場 健司, 田中 充
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_167-I_176
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     2017年と2020年のオンライン質問紙調査データを用いて,地球温暖化に対する態度の特徴により回答者を細分化し,人々の関心の程度や態度,対策行動の実施等についてどのような変化があるかを調べた.その結果,危機感が強く対策行動に積極的に取り組む人々(警戒派: 20%),関心が低く明確な意見を持たない人々(無関心派: 33%),懐疑的で対策の必要性を感じない人々(懐疑派: 6%),内容によらず質問全般に同意する傾向の強い人々(肯定派: 10%)は割合に増減があるが3年前と変わらず存在することが示された.他方,質問全般に否定的に回答する傾向の強い人々はまとまりとして抽出されず,警戒派と近い認知や態度を持つが対策行動を伴わない人々(用心派: 30%)が新しく抽出された.最大のボリュームである無関心派は依然として情報提供の重要な対象であると同時に,新しく出現した用心派は回答者の3割を占めており既に関心もリスク認知も高いことから,この人々に対して行動を促すアプローチの検討が重要と考えられる.

  • 奥山 忠裕
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_177-I_186
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究は,自然環境の保全による移住者への助成金の軽減効果を便益計測の概念に基づき計測することで自然環境の保全の意義を示すことを目的として行われた.全国21大都市の居住者の中から地方部への移住希望者に対し,移住してもよいと考える移住助成金(受入補償額;WTA)の額や,自然環境を含む移住先で重視する居住環境(政策変数)を調査した.推計の結果,政策変数の中にはWTAを削減するもの/しないものがあり,削減する政策無しの場合のWTA(基準値)の中央値は約59万円/1回となった.削減効果が最も大きい政策は『住宅の質の改善』の約5.2万円,次いで『自然環境の保全』であり約3.3万円分の額を基準値から削減できる可能性が示された.

  • 白木 裕斗, 佐藤 真, 村上 一真
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_187-I_195
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究は,企業を対象にした質問紙調査により,企業における電気自動車(EV)の導入状況等の実態把握,および,EVの導入意思の影響要因の特定を行った.実態把握の結果,EVの導入状況とISO14000シリーズの取得状況との間に有意な関係性があることが明らかとなった.共分散構造分析の結果,EVの機能性評価から導入意思への標準化解が最も大きいことが示された.また,企業の社会的責任やEV導入による企業イメージ評価が導入意思に対して有意に影響を与えているという企業の独自要因が抽出された.多母集団同時分析の結果,社用車の利用頻度が高いグループでは,充電スタンド評価から導入意思への標準化解が有意に大きかった.非常用電源としての機能性を高めた車種の開発や充電スタンドの一層の整備と整備状況の周知が,企業におけるEVの普及に効果的と考えられる.

  • 阪田 義隆, 葛 隆生, 長野 克則
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_197-I_204
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究では,全国人口5万人以上及び北海道の全ての地方自治体に対しアンケート調査を通じ,公共施設への地中熱ヒートポンプシステムについての導入意識とその要因,導入されたシステムの分析を行った.回答を得た5万人以上443件, 5万人未満117件の内,地中熱ヒートポンプシステムを知っていたのは9割だが,実際に導入していたのは約1割に留まった.導入課題としては,導入コストの低減が共通し,5万人以上では設計・積算方法の規格化・標準化,5万人未満では環境負荷低減効果の定量化が挙げられた.判別分析からは,人口5万人以上では暖房デグリーデイ,地中熱利用促進協会会員数,人口,5万人未満では人口と人口増加量,緑の分権改革への参加が導入要因になると分析された.また回答を得た導入コストを地中熱交換器延長,ヒートポンプ出力のべき関数として近似した.

  • 今井 葉子, 田村 誠, 増冨 祐司, 馬場 健司
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_205-I_210
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究では,2019年2月に設計・実施した国内の農業従事者を対象としたWebアンケートにより,全国の耕種農家における気候変動の影響と適応策への意識を抽出し,現状で行われている適応の取り組みを整理した.アンケートから得られた426件の有効回答を用いて分析を行った.

     回答者の約半数にあたる215名はこれまでに温暖化による被害を受けた経験があり,「台風」や「熱波・猛暑」等の複数の自然災害に対するリスクを高く評価していた.気候変動への適応に対する認知や実践では回答にばらつきが認められ,温暖化による被害経験があるグループで対策を実践する傾向がみられた.一方,被害経験があっても適応策を実践していないグループでは実践の意図はあっても行動に結びついておらず,効果的な適応策の周知が今後の課題として挙げられた.

  • 鈴木 皓達, 斎藤 洋介, 浜田 崇, 川越 清樹
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_211-I_220
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
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     本研究では,土砂災害警戒区域に対する既往最大,気候変動予測の極大降雨量に応じたリスクの時空間情報を整備することで,適応策として活用可能な情報の開発を試みた.対象地域は長野県である.気候変動予測の極大降雨量として,可能最大降水量を用いて警戒区域のリスク情報を導出した.また,リスクの時空間情報として,斜面崩壊発生確率モデルより求められた警戒区域の過去から将来に至る発生確率のマップデータを整備した.結果として,現在,近未来,将来の土砂災害警戒区域のリスク情報が開発され,地域に応じた時間変化に応じたリスクの定量化が図られた.また,緊急的に警戒区域の対応の必要な自治体の情報が取得された.加えて,結果のアウトプットを利用した適応策の実行事例案を提示した.

  • 熊野 直子, 田村 誠, 井上 智美, 横木 裕宗
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_221-I_231
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     気候変動に伴う海面上昇等の浸水影響に対してグレイインフラとグリーンインフラを組み合わせた適応策が有効だと考えられる.筆者らはこれまで都市域や人口分布によってグレイインフラかグリーンインフラのいずれかの設置を仮定した場合の費用分析を行ってきた.しかし,同一の汀線でグリーンインフラとグレイインフラの多重防護が実施されている地域もある.本稿は,ベトナムとフィリピンを対象に,従来の防護シナリオを見直し,同一の汀線に堤防のみで防護する場合とマングローブ林と堤防等を組み合わせ多重防護する場合の費用を比較した.その結果,マングローブ林を海岸防護に有効活用することにより,必要な堤防の設置量が減少し,適応費用が軽減され,費用効率性が高まることが確認された.

  • 馬場 健司, 小楠 智子, 工藤 泰子, 吉川 実, 大西 弘毅, 目黒 直樹, 岩見 麻子, 田中 充
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_233-I_242
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究では,全国の都道府県,政令指定都市の環境部局を対象として,地域気候変動適応計画の詳細な内容分析,聞き取り調査,質問紙調査により,科学的知見の実装化に焦点をあてながら,経年的な変化を分析する一方で,地域気候変動適応センターが今後具備すべき機能について明らかにした.その結果,第1に,科学的知見を,自治体の単独予算を使って収集するのは稀であり,国による補助事業の影響を受ける.第2に,より詳細な空間スケールや近未来の時間スケールでの気候データと影響評価という自治体のニーズに近づいた科学的知見が活用される事例が今後は増える傾向にある.第3に,地域気候変動適応センターは,科学的知見の翻訳やニーズとシーズの共有の役割を担うことも肝要である.

  • 大城 賢, 藤森 真一郎, 長谷川 知子, 明石 修
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_243-I_252
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     パリ協定気候目標の達成に向けアジアにおけるエネルギーシステム転換の役割は大きく,日本の技術輸出の観点からも,アジアにおける投資需要を把握することは重要である.本研究では,気候目標達成に必要となるアジアの2050年までのエネルギー投資,2030年の短期削減目標水準の影響を定量的に評価した.結果,アジア各国が現状の2030年目標を上回る追加削減を行わない場合,それ以降に急激なエネルギーシステム転換が必要となり,2050年時点の投資額は,2℃目標達成に向けて2030年以前から追加削減が進む場合に比べ約2倍となった.また炭素回収貯留を伴わない石炭火力発電は2050年までにすべて停止し,2030年の追加削減が無い場合,アジア全域で約1,200GWが耐用年数以前に停止し,回収不能資産となる.これは2030年に追加削減が行われるケースと比較し約2倍の量に相当する.

  • 平山 奈央子, 山下 花音, 馬場 友美, 瀧 健太郎
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_253-I_260
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     近年,大規模な洪水や土砂災害が発生していることを受け,地域防災力を向上させるためにハザードマップ(以下,HM)の作成が推進されている.本研究では自治会におけるHM作成と水害危険度上昇時の対策との関係を明らかにするため滋賀県内の全自治会を対象としたアンケート調査を実施した.得られた2248の回答を用いて,クロス集計およびカイニ乗検定を実施した.その結果,1)HMを作成した自治会は作成していない自治会と比較して,水害危険箇所の見回り,役員参集,土のう積み,住民の安否確認,避難誘導,消防団・水防団との連絡を実施している傾向が,2)HMを作成した自治会の中でも,避難経路や避難場所を決定した自治会は水害危険箇所の見回り,消防団・水防団との連絡,役員参集,住民の安否確認を実施している傾向があることが明らかとなった.

  • 齋藤 奏磨, 松本 綾乃, 渡部 哲史
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_261-I_267
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究では気象庁による観測を基に気温および降水量と積雪深の関係について推計し,2020年における積雪深の特徴をこれらの関係から明らかにした.2020年は積雪の少ない年であったが,その背景と考えられる気温と降水量の傾向は地域で異なり,北海道では記録的少雨,本州では記録的高温の年であった.これは各地域の気温および降水量と最深積雪の相関の傾向と一致した.さらに,地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)の日本域予測値を基に,対象期間で最深積雪が最も小さい年の気温と降水量の2℃,4℃上昇下の気候での出現頻度を算出した.気温2℃上昇時にも2020年のような少雪事例は1~2年に1度という高頻度で出現し,近い将来標準的な事例になる結果を得た.

  • Jean Margaret R. MERCADO, Akira KAWAMURA, Hideo AMAGUCHI, Christabel J ...
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_269-I_276
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     Monitoring & evaluation (M&E) of the integrated flood risk management (IFRM) in Metro Manila has not been carried out since its inception. There is no monitoring agency in charge of the M&E activities for the adaptation to IFRM in the Philippines, and this resulted in the lack of baseline information and measurable indicators to be used for M&E activities. This study attempts to conduct an M&E of the IFRM in Metro Manila. The performance for the IFRM of each municipality in Metro Manila was appraised by the officers-in-charge of the local government offices related to disaster risk reduction. The qualitative judgments from the respondents were evaluated using a multi-criteria analysis approach based on priority ranking methodology to quantify the appraised performance for IFRM. The results show that several municipalities in Metro Manila are performing very well but with recognized limitations, and at least three municipalities requires serious attention because all components of the IFRM in these municipalities are gravely lacking. The results of the study can be used as baseline information for the M&E activities on IFRM in Metro Manila. The methodology proposed in this study is simple and systematic that can guide decision-makers and practitioners in evaluating the performance for the IFRM.

  • 冨樫 聡, 内田 洋平, 嶋田 一裕, シュレスタ ガウラブ , 石原 武志, 佐野 星河
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_277-I_287
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     河北平野の中心部に位置する石川県工業試験において,降雪期と非降雪期の季節別に熱応答試験を実施した.降雪期には適切な熱応答試験データが得られなかった.これは,積雪時に稼働する融雪システム用の地下水揚水井の影響によるものと考えられる.また,GSHPシステムの実証実験結果より,冷房・暖房ともに良好な運転実績が確認できた.実証実験中の地下温度の簡易再現計算を行ったところ,非降雪期に実施した熱応答試験データから得た見かけ熱伝導率を用いる場合に高い再現性が得られた.以上より,河北平野の公的施設・オフィス等の空調にGSHPシステム導入は有望であり,見かけ熱伝導率の評価には非降雪期の熱応答試験データの利用が理想と言える.また,非降雪期に熱応答試験が実施できない場合は地質情報から推定する有効熱伝導率をシステム設計に利用することが,システム導入時の留意点となる.

  • 霜山 竣, 冨樫 聡, 佐藤 大地, 金子 翔平, 佐藤 怜, 柴崎 直明
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_289-I_299
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     大谷石採掘跡地の地下空間が有する冷熱エネルギーを持続的に利用するには,地下空間の温度上昇を適切に予測しなくてはならない.数値解析による将来予測には大谷石の熱物性が必要となるが,大谷石は場所によって岩相が異なるため熱物性の地域的な偏在性が大きく,地域全体の空間的な熱物性分布の評価が課題であった.そこで,従来方法よりも安価で多地点に実施可能な地下空間を利用する原位置調査と一次元非定常熱伝導解析により熱物性値を評価する手法を提案した.原位置調査には過去に宇都宮市が実施した実験結果を活用した.室内試験による測定値と既往文献の熱物性値を用いて実験結果の再現計算を行ったところ,良好な再現性を示し,本提案手法の有用性を確認できた.さらに,本提案の実用化を目指して解決すべき課題を把握した.

  • Magsar AMGALAN, Toru MATSUMOTO, Tarzad ULAANBAATAR, Nyamosor NANDINTSE ...
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_301-I_309
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     Water resources are dramatically sensitive to climate change in Mongolia. In this study, the authors aimed to evaluate the impact of climate change on Ogii Lake by using the estimated daily evaporation from the lake and the variation in the surface area of the lake. Ogii Lake is located in the eastern region of Arkhangai Province, central Mongolia, which registered as an International Ramsar Convention site in 1998. Evaporation was estimated from 1986–2019 using the energy-budget method based on ERA5 reanalysis climate data. Landsat–8 operational land imager (OLI) satellite remote sensing images were used to estimate the monthly lake water surface area changes from 2013–2019. The results showed that increases in evaporation since 1995 exceeded the precipitation in most years. Comparing to 1989 total annual evaporation from the lake increased by 32.4 mm in 2019, which is 1.1 times higher than evaporation in 1989. However, during the period from May to October (2013–2019), monthly average lake water surface area has increased steadily, while the evaporation accounted higher than the precipitation. Based on the results, the authors assume that groundwater may strongly impact the water balance of Ogii Lake.

  • 豊田 慎伍, 桑原 祐史
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_311-I_318
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     洪水氾濫や高潮等の水災害のリスクの高まりが指摘されるなか,沿岸域の浸水被害を定量的に予測することは,適応策を構築する上で重要となる.全球を視野に入れた場合,一律なデータ生成基準に基づく堤防データは公開されていない.このため,著者らは既往の研究において東京湾および伊勢湾を対象とした全球堤防データの適用事例を報告したが,その考察は堤防高さを変化させたシミュレーション効果を主とした検証に留まっていた.本研究では,浸水履歴や高潮影響域等浸水評価図および既往の研究で示された浸水面積や影響人口のデータを比較対象として,本研究で提案した全球堤防データを用いた浸水域の推定結果の妥当性を検証するとともに,ベトナムおよび中国沿岸域の浸水域を対象として,影響を受ける人口や土地利用の特徴を検討し,浸水域の持つ特徴を整理した.

  • 天口 英雄, 河村 明
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_319-I_325
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     都市の低影響開発では,水路および池を組み合わせた雨水流出抑制排水システムにグリーンインフラ機能を加えるなど,雨水流出負荷を低減させる試みが行われている.このような雨水流出抑制排水システムの効果を確認するため,複雑な都市構造を忠実に表現することが出来る高度な地物データGISを用いて詳細な雨水流出過程をモデル化する手法を提案した.

     提案モデルを適用するスウェーデン・マルメ市の再開発地域では,地区外への雨水流出を抑制するため,グリーンルーフ,水路,池等の雨水流出抑制排水システムが設置されている.本研究では,Augustenborg地区の雨水流出抑制排水システムを考慮した地物データGISを構築するとともに,グリーンルーフおよび流出抑制型の水路の効果をシミュレーションにより示した.

  • 町田 元, 大澤 和敏, 松井 宏之
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_327-I_334
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     沖縄地方ではサトウキビ栽培圃場の過度の土壌侵食が問題であり,沿岸域へ流入した濁水はサンゴなどの水域生態系に多大な負の影響を与えている.本研究では,沖縄県のサトウキビ栽培圃場の土砂流出量の予測や侵食抑制対策の検討に資するため,Water Erosion Prediction Project (WEPP)を用いた土砂流出量の解析を行った.はじめに,土壌の受食性に関する係数の設定方法別にWEPPの計算精度を検証した.この結果から,室内試験で同定した係数による計算の高い精度が示された.続いて,栽培方法と地形条件別に複数の土壌でWEPPの解析を行った.栽培方法別の解析では,夏植え,春植え,株出し栽培の順に土砂流出量が多く,侵食が生じやすい時期やその要因が示された.地形条件別の解析では,斜面や傾斜が大きい地形ほど土砂流出量が大きく,この応答の大きさは土壌ごとに異なることが示された.

  • Haichao LI, Hiroshi ISHIDAIRA, Kazuyoshi SOUMA, Jun MAGOME
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_335-I_342
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     To prevent flooding in urban areas, the Chinese government launched the “sponge city” program, which is similar to the low impact development (LIDs) approach. However, the flood control capacity and cost efficiency of sponge cities in China have not been well studied, especially for city-scale urban area. Cost efficiency is an important consideration for local governments implementing sponge cities.

     The objective of this study is to quantify the utility of sponge city construction for urban flood control, based on a rainfall-runoff simulation using the Storm Water Management Model (SWMM). The cost efficiency of LIDs used in sponge city construction is also evaluated. Mianyang City, located in the southwestern part of China, was the study area. The results showed that the four types of LIDs (green roofs [GRs], permeable pavement [PP], rain gardens [RGs] and rain barrels [RBs]) effectively reduced the peak flow (23.0-30.4%) and total flood volume (24.9-29.2%) for nine flood events in 2015 and 2016. Different intensities (return periods) of precipitation have been analyzed to assess the flood reduction achieved through the installation of LIDs. For return periods of 2, 5, 10, 20, 50, and 100 years, the peak flow and flood volume reduction rates were 11.7-28.5% and 14.8-29.9%, respectively; these rates were lower in cases of more severe precipitation. The cost efficiency analysis showed that RGs are more cost efficient than other LIDs.

  • 竹田 稔真, 朝岡 良浩, 佐藤 智明, 林 誠二
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_343-I_351
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     福島県須賀川市の準用河川である笹平川の流域では,水害対策の一環として田んぼダムを進めており浸水効果について実証実験に取り組んでいる.本研究は2019年台風19号時に発生した浸水被害を対象として,上流域の水田貯留が下流域の浸水被害軽減に及ぼす影響を解析した.

     台風時の水田への浸水状況を30cm貯水したと想定した場合,田んぼダムなしと比較して浸水面積は50%,浸水体積は75%減少した.これを基に本来の貯留能力を踏まえて,仮に20cm貯水した場合,浸水面積は25%,浸水体積は50%減少すると推定された.10cm貯水した場合,浸水面積は10%,浸水体積は25%減少すると推定された.以上より,笹平川の小河川において,計画降雨を大きく上回る洪水時,上流域の田んぼダムにより浸水被害を補助的に軽減する効果があることを示した.

  • 藤田 昌史, Bui Thanh Hai , 李 正, 鄧 家豪, 王 峰宇, 桑原 祐史
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_353-I_359
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     太平洋の低平な環礁国では,グローバルな要因に加えて,生活排水等のローカルな要因により,国土の形成・維持機構が破壊されつつある.本研究では下水管に排水処理と創エネの機能を付加し,現地のサンゴ礁生態系の保全・再生に寄与する手法を開発することを目的とした.下水管の流下方向にアノードを設置し,塩酸からカソードにプロトンを供給する構造とした.実験室規模の下水管型MFCを運転したところ,有機物除去速度は8.0 mg-C L−1d−1,発電性能は94 mWm−2を示した.ただし,装置全体の内部抵抗が1.7kΩと高く,排水とアノードの内部抵抗の改善が出力向上の鍵となることがわかった.マーシャル諸島マジュロ環礁における既存の総延長14 kmの下水管に本手法を適用した場合,本装置と同様の性能を発揮すると仮定すると,流下する生活排水中の有機物の25%を除去でき,4.7 kWh d−1の発電量が見込まれる試算となった.

  • 川越 清樹, 林 誠二, 風間 聡
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_361-I_370
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     本研究では,福島県三島町を対象に森林産業と斜面災害軽減の双方を両立できるEco-DRR(Ecosystem based disaster risk reduction)マップを開発した.マップ情報として,三島町の基幹産業となる森林産業の中心の樹種であるキリを対象にした良質な木材の生産と斜面災害の滑動抑制効果を期待できる適地を示した.適地は,気候,および地形条件,斜面崩壊に対するキリの特性と抵抗力より求められた.

     結果として,三島町の斜面上部に位置する8ヶ所の適地の存在を明らかにした.また,これら適地と現況の植生状況を反映した土地利用との比較よりキリ植栽の留意事項をまとめた.この研究の取り組みより,気候変動に適応できる社会システムの構築に向けて活用できる事例データが整備された.

  • 谷口 隼也, 渡辺 一也, 齋藤 憲寿
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_371-I_376
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     大雨によって発生した流木が土砂や雨水と同時に流出し,橋梁等に堆積することで洪水の原因となるなど,流木が甚大な被害を与える原因となる事例が全国的に頻発している.そのため,流木による被害を軽減するためのあらゆる研究が行われているが,樹皮剥離の過程に関する研究は未だ行われていない.本研究では,平面的に循環する水路を用いて流木の樹皮がどのような過程を経て剥離するのか,水理模型実験を行うことで検討した.実験ではまず,土砂を敷いた水路内で水を流した場合,実現象における流速を再現することが可能であるということを確認した.その後,清水のみの状態と土砂を敷いた状態で流木モデルを流した.すると,清水のみの状態では樹皮は剥離せず,土砂を敷いた場合では流木と土砂が衝突・接触することで樹皮が剥離することを確認した.

  • 齋藤 憲寿, 渡辺 一也, 高橋 圭太, 秋永 加奈
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_377-I_382
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     あらゆるモノがインターネットに接続されるIoT社会の実現には電源の確保が重要な課題の一つとして挙げられており,代替電源技術であるエネルギーハーベスティングが注目されている.著者らは倒立振り子を用いたマイクロ水力発電装置を開発しており,本研究では流速の変化が振り子運動と発電に及ぼす影響について水理実験を行った.その結果,発電装置は水流に対して軸直交方向に振り子運動を行っており,流速0.32m/s以上で発電することが明らかとなった.

  • 藤塚 慎太郎, 河村 明, 天口 英雄, 高崎 忠勝
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_383-I_391
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     地球温暖化に伴う気候変動により短時間強雨が堵加しており,様々な分野へ応用が進められている深層学習モデルの洪水予測分野への適用に対する期待も大きい.そこで本論文では,観測データに観測雑音が存在する場合に,深層学習モデルで流出モデルをどの程度精度良くエミュレーションできるか確認するため,仮想降雨と性質が明らかな観測雑音を付加した仮想流出高を学習データとし,学習洪水数や中関層ノード数などを変化させた場合の深層学習モデルによる流出モデルのエミュレーション性能を評価した.1洪水を対象に検討した結果,雑音成分にまで合わせるように学習し,また観測雑音を付加しない真値であるハイドログラフの特徴を掴むためには,学習洪水数を増やすことが効果的であることがわかった.

  • 玉城 重則, 宮本 善和
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_393-I_399
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     八重山地方のサンゴ礁生態系と共存する持続可能な産業への転換を促すローカル環境認証を検討するため,農地からの赤土流出を抑制する営農対策について,その持続性の程度と土壌保全の程度から評価した.その結果,サトウキビでは株出栽培が推奨すべき営農形態であり,土壌保全の程度が高く,持続性も高いことが確認された.また,サトウキビの春植では1つ以上の対策を,夏植では深耕を行うことや2つ以上の対策を複合することが望ましいこと,パインアップルや野菜,切り花の栽培についても2つ以上の対策を複合することが望ましいことなどが明らかとなった.

  • 宇野 宏司, 黒田 るな
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_401-I_407
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     国立公園の持続可能な利用,居住者・利用者の安心・安全を確保するためには,環境保全を念頭においた防災・減災対策の展開が不可欠であると考えられる.本研究では,「国立公園」の空間分布と「自然災害」の関係に着目し,GIS空間情報解析と全国の国立公園を対象にしたアンケート調査により,①国立公園の自然災害被災リスク,②国立公園における生態系サービス機能を明らかにした.GIS空間情報解析では,国土数値情報のオープンデータをもとに,国立公園の地勢・土地分類を把握し,各種自然災害(津波・洪水・土砂災害)の被災リスクの空間分布について明らかにした.また,アンケート調査では,国立公園の利用状況,過去の被災事例,想定される各種自然災害リスク,生態系サービス機能等を把握することを目的として実施し,GIS解析で得られた結果とあわせて整理し,今後,国立公園の保全管理に必要な事項を整理した.

  • Linghao MENG, Daisuke KOMORI
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_409-I_414
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     Human activities have become one of the most crucial factors of the natural water cycle. This research is to assess the impact of human activities, especially land use and vegetation changes on the natural hydrological factors in the Loess Plateau, a region suffered the most severe soil erosion over the world. Since 1999, the government starts the water conservation project, forest and grass land increased significantly to replace most of the field land to more than 35%. Three stations at Loss Plateau are used to analyze water cycle parameter changes simulated by the land surface model H08 under the same climate and different land use scenarios. Four parameters of the model were optimized and validated by the observation discharge data from 1980 to 2014 at the three stations. The results showed good accuracy and validity of H08 applied in the region and simulations were conducted under optimized parameters. Results show that the returning farmland to forest and grass project can greatly both decrease and delay the flood peak, because by replacing farmland with forest the ability to contain water and sediment of soil dramatically increased.

  • Thi Le Ha VO, Yoko SHIMADA, Minoru YONEDA
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_415-I_431
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     The World Health Organization (WHO) has estimated that approximately 4 million premature deaths in 2016 were attributable to household air pollution in low to middle income countries. Vietnam is experiencing serious particulate matter (PM) pollution in ambient air and indoor environments, resulting in significant adverse health impacts. This article reviews and studies sources of PM in the indoor environment, personal exposure to PM during commuting (outdoor activities) and cooking (indoor activities), and the impacts of PM exposure on public health regarding disease and deaths. This article also studies current indoor pollution status and its mitigation in Vietnam. The results show that indoor PM concentrations exceed acceptable WHO recommended values in some cases. The indoor PM comes from indoor human activities, and outdoor particles transported through filtration airflow. Traffic activities have a great influence on indoor PM concentration and personal concentration. The types of transportation modes, fuels, and cooking methods make significant impacts on personal exposure, resulting in increased respiratory diseases and death in Vietnam. Despite the deterioration of indoor air quality, the concern from society still is ignored. Although there are mitigation efforts focusing on controlling indoor and outdoor particle pollutants, they remain insufficient in Vietnam. There is a lack of technical regulations and standards on indoor air quality, and there are minimal environmental protections, particularly for indoor air quality.

  • 太畑 祐輔, 長谷川 知子, 越智 雄輝, 高橋 潔
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_433-I_439
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     これまで気候変動対策による食料消費や飢餓リスクへの影響が明らかにされているが、そこからさらに低栄養に由来してどのような健康被害がもたらされるかについては明らかにされていない。本研究では気候変動対策による低栄養に起因する健康被害を明らかにした。結果として、第一に、パリ協定で合意された2℃目標に相当するシナリオでは、気候変動なし・気候変動対策なしのシナリオと比べて、2050年で低栄養を通じてDALYは170万年(16~275万年、複数のモデルによる不確実性幅)、失われる生命の経済価値は44-2000億ドル(GDP比0.032-1.5%相当)高くなること、さらに、その影響は南アジアやサブサハラアフリカなどの途上国で大きくなること、が示された。これは、気候変動対策と共に貧困層を中心とした人々への食料支援や健康にかかわる対策も実施する必要性を示唆する。

  • Farah Elida SELAMAT, Arisa INAMURA, Junta TAGUSARI, Toshihito MATSUI
    2020 年 76 巻 5 号 p. I_441-I_449
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/18
    ジャーナル フリー

     Road traffic noise is linked to a myriad of adverse health effects including environmental sleep disorder, hypertension, ischaemic heart disease, stroke, and diabetes. The health impacts are a growing concern globally. To reduce the health effects associated with road traffic noise, a shift from internal combustion engine vehicles (ICEVs) to electric vehicles (EVs) may be a transformative approach. In this paper, we focused on the health effects due to road traffic noise, and aimed to explore the potential of health risks reduction by transitioning to EVs in urban areas. Firstly, we calculated sound level in two areas with two different traffic flow situations: current traffic flows with ICEVs and the prospective ones with EVs. Next, we estimated the population affected with ischaemic heart disease and high sleep disturbance according to the exposure-response relationships established by the World Health Organization Regional Office for Europe and the national health statistics and surveys in Japan to elucidate the contribution of the transition to EVs. While the estimated reduction in sound level was less than 4 dB (even if all vehicles were changed to the EV), the affected population were reduced by approximately several tens of percent, hence, the total health risks due to road traffic noise would significantly reduce by the shift to EVs. A rapid transition to EVs is desirable to mitigate health risks due to road traffic noise as well as global warming.

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