土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
75 巻, 7 号
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環境工学研究論文集 第56巻
  • 福島 聖人, 竹内 彩結実, 鈴木 祐麻, 今井 剛, 佐久間 啓, 人見 隆
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_1-III_10
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,導電性コンクリートを用いた下水管内の硫化水素を抑制する技術を開発することである.本研究の結果,導電性コンクリートを用いることにより水中の硫化水素を大幅に抑制できることが分かった.そしてその抑制効果は66日間の実験期間中持続した.また,導電性コンクリートでは実験後の汚泥堆積物に元素硫黄が含まれており,硫化水素から元素硫黄への酸化反応が確認できた.つまり,導電性コンクリート壁内に電子の伝達経路が形成され,嫌気的環境にありながらも水面近傍に存在する酸素を電子受容体として利用して硫化水素を酸化・抑制できることが分かった.なお,この硫化水素の酸化においては,近年微生物燃料電池への活用が着目されている「電子放出菌」の寄与は比較的小さく,化学的な酸化が主なメカニズムと考えられた.

  • 高浪 龍平, 坂本 ゆりか, 谷口 省吾, 尾崎 博明
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_11-III_17
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     難分解性の有機塩素化合物を含む廃水には促進酸化処理が用いられている.促進酸化処理はラジカルによる間接的な酸化かラジカルが影響しない直接的な酸化かを判断することが容易でなく,分解特性が十分に理解されないまま実用化されている現状がある.本研究は,低分子の有機塩素化合物である2, 4-Dを用いた異なる条件における促進酸化分解の挙動から2, 4-Dの分解特性および分解経路を明らかにした.・OHが発生する間接的分解では2, 4-Dは速やかに分解し,脱塩素と低分子化が同時に進行した.・OHが寄与しない直接的分解では分解が容易な2, 4-Dの官能基部分の分解が先行する挙動も一部にみられ,脱塩素は間接的分解に比べ時間を要した.また,間接および直接的分解に関わらず酸化反応を継続することで2, 4-Dの十分な分解が可能であった.

  • 吉田 力, 佐藤 剛, 押木 守, 荒木 信夫, 平片 悠河, 幡本 将史, 山口 隆司
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_19-III_24
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究では実都市下水を供給したUASBリアクター内の上昇線流速を段階的に変化させ, 槽内に出現する嫌気性原生動物の細胞数と原生動物叢への影響を解析した. 原生動物の細胞数は槽内の上昇線流速が2.4-14.4m/dayの範囲では0-3970cells/mLで変化し,上昇線流速の増加に伴って増加する傾向が見られた.22.4m/dayの上昇線流速では原生動物が汚泥床外へ流亡し,細胞数は100cells/mLまで急激に減少した.UASB内に存在した嫌気性原生動物はMetopus palaeformis,Metopus contortus,Chaenomorpha sp.,Plagiopyla sp.が優占種であり,平均して全18SrRNA遺伝子の約7割を占めた.線流速が大きい条件でUASB内の原生動物の優占種は短期間で変化し,その変化は同一条件の運転期間においても観察された.

  • 浦瀬 太郎, 筒井 裕文
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_25-III_33
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     下水処理水に含まれるカビ臭3物質の濃度を2012年から2018年の期間,25か所の処理場の123試料に対して測定した.下水処理水には,処理場ごとの平均値で,2, 4, 6-トリクロロアニソール(2, 4, 6-TCA)が最大18.0ng/L(測定限界以下の3処理場を除いた平均で8.4ng/L),ジェオスミンが最大20.5ng/L(測定限界以下の1処理場を除いた平均で8.4ng/L),2-MIBが最大17.0ng/L(測定限界以下の2処理場を除いた平均で5.6ng/L),それぞれ含まれていた.とくに,2, 4, 6-TCAおよびジェオスミンは多くの処理水で臭気しきい値以上の濃度で検出された.こうしたカビ臭物質の濃度は,大都市の活性汚泥法の処理場で高く,オキシデーションディッチ法や大学排水の処理施設処理水で,濃度が低かった.反応タンク上澄水と公共用水域へ放流される処理水とでカビ臭物質濃度に差はなかったことから,処理水の消毒操作とカビ臭物質の生成との関連は小さかった.

  • 田中 周平, 垣田 正樹, 雪岡 聖, 鈴木 裕識, 藤井 滋穂, 高田 秀重
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_35-III_40
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究では,下水処理場の処理工程におけるマイクロプラスチック(以下,MPs)の挙動と琵琶湖への負荷量を把握することを主目的として,2017年11月~2018年2月に4か所の流域下水処理場(分流式)の流入水,放流水,処理工程別において100μm以上のMPsを,流入水と放流水ではさらに10~100μmのMPsの分析を行った.その結果,下水,処理水,汚泥,スカムなどから合計30種類のMPsが検出され,流入水中のMPs濃度は158~5,000個/m3であった.放流水中のMPs濃度は0.3~2.2個/m3であり,放流先の琵琶湖水中のMPs濃度と同等であった.一方,10~100μmのMPsの除去率は76.3%であった.100μm未満のMPsの除去は急速砂ろ過を行っても不十分であると示唆された.4つの下水処理場からの合計負荷量は501,630個/日と推計され,晴天時の琵琶湖流入河川からの総負荷量とほぼ同じであることが示された.

  • 西村 文武, 鈴木 亮介, 高部 祐剛, 日高 平, 楠田 育成, 水野 忠雄
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_41-III_52
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     下水処理水の再利用の一つとしての間接的飲用水再利用を目的とした下水処理-SAT-浄水処理の一連の処理プロセスを想定し,実A2O処理水を流入水とするSATパイロットスケールカラム実験を行った.最初沈殿池流出水,A2O処理水およびSAT処理水中DOMの解析を行うことで,A2O処理およびSATにおける有機物群の質的変換について考察した.DOM樹脂分画および官能基解析の結果,A2O処理では特に親水性の高い画分の除去が進行した.疎水性画分においても,洗剤成分などの生物分解性の高い物質はA2O処理においても高く除去された.SATでは,親水性の高い官能基に加え,疎水性画分に含まれる高分子状の脂肪鎖などの除去も進んだ.SAT処理水中に最初沈殿池流出水から存在するDOMが主に疎水性画分に残存したほか,生物分解による副生成物と見られる親水性の芳香族化合物やアミノ酸もしくはタンパク質がSATで生じることを明らかにした.消毒副生成物生成能の観点からも各画分の挙動を示した。

  • 中西 智宏, 岸本 如水, 小坂 浩司, 伊藤 禎彦
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_53-III_63
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     水需要減少下におけるわが国の配水管内環境を管理するためには,浄水中懸濁物質の管内での蓄積を制御することが重要である.本研究は浄水処理技術の向上,縮径による管内水理条件の制御,計画的な洗管からなる管内環境管理のための段階的な方策に着目し,これらの制御性を定量的に比較することを目的とした.まず室内付着実験によって種々の管内流速のもとでの管内面に対する微粒子の付着過程を把握し,実態調査による蓄積量の実測,管網における微粒子の蓄積モデルの構築と校正を行った.得られたモデルを用いて対象管網における微粒子の蓄積量分布を推定・視覚化し,上述の3つの方策を想定したシナリオ分祈を行った.その結果,滴切な浄水処理や計画的な洗管によってコストと時間を要する縮径と同等の効果を期待でぎることなどを指摘した.

  • 杉浦 隆介, 水谷 聡, 中村 智, 貫上 佳則
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_65-III_72
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     震災などにより有害な化学物質を扱う事業所周辺で発生が予想される化学汚染廃棄物の発生量を予測することは,災害廃棄物処理計画を策定する上で重要である.そこで,PRTR制度で全国的に公表されている化学物質の排出・移動量と一部の地域のみで把握されている化学物質の取扱量の比である取扱係数を算出し,全国的な事業所内に化学物質がある量の把握することを検討した.算出した取扱係数が年度や自治体によって異なるかを確認するとともに,異なる場合はその要因を検討した.年度による違いは小さかったが,自治体間では違いが見られた.この地域による違いは,各地域に存在している業種と製造している製品を含めた業態の違いが要因の一つであることが示唆された.

  • 長谷川 高平, 荒井 康裕, 小泉 明
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_73-III_84
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     老朽化が進む水道管路を限られた財源で合理的に更新する手法として,ライフサイクルコスト(LCC)を指標とした管路更新モデルがこれまで提案されてきた.しかし,水道管理の重要な一要素である地震リスクについては,複雑な確率事象であるため金銭化は容易ではなく,LCCに含まれてこなかった.そこで本研究では,政府によって詳細に整備された震源リストより被害を及ぼし得る震源を抽出し,個別の発生確率を与えるマルチイベントモデルによって地震リスクを期待値としてLCCに導入する手法を提案した.ケーススタディとして,甚大な地震被害が予想される実存地区を選定し、その地区に立地する送水システムを仮想して提案モデルを適用した結果,地震リスクの導入により非耐震管路の更新時期が5年から15年程度早期化された.また,普通鋳鉄管(CIP)の耐震化はK形ダグタイル鋳鉄管の耐震化に比べてより高い地震リスクの低減が可能であることが確認され,CIPの早期更新がLCCの低減に大きく寄与することが定量的に示された.

  • 政池 美映, 小熊 久美子, 橋本 崇史, 滝沢 智
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_85-III_90
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     水中の微生物どうしの凝集が紫外線による不活化効果に与える影響を定量的に把握するため、アルギン酸とカルシウムイオンを用いて凝集させた大腸菌を含む試料に紫外線照射を行い、不活化効果を培養法で評価した。大腸菌の凝集状態は、初期大腸菌濃度(106, 107, 108CFU/mL)とカルシウムイオン濃度(0, 10, 20mM)で調整した。その結果、初期大腸菌濃度が108CFU/mLの場合のみ、高紫外線量域で凝集による不活化効果の低下を生じ、カルシウムイオン濃度20mMで不活化効果が最小となった。これは、初期大腸菌濃度108CFU/mLでは大腸菌を紫外線から遮断する大腸菌が十分に存在したためと考えられた。本研究により大腸菌濃度と凝集状態が大腸菌の不活化効果に影響することが示された。

  • 佐渡 友康, 小熊 久美子, 橋本 崇史, 風間 しのぶ, 滝沢 智
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_91-III_96
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     紫外線のパルス照射が微生物不活化効果に与える影響を明らかにするため,深紫外LEDを光源として紫外線のパルス照射と連続照射による大腸菌不活化効果を比較した.パルス照射では,LEDへの投入電流をON/OFF制御して矩形波としパルス照射する手法と,LEDを連続点灯させながら紫外線をシャッターで周期的に遮る手法の2つの方式を採用した.その結果,照射線量当たりの不活化率は,矩形波電流によるパルス照射と連続照射とで有意な違いがなかった.しかし,照射時間当たりの不活化率は,シャッターによるパルス照射や連続照射よりも,矩形波電流によるパルス照射のほうが高かった.その原因は,矩形波電流によるパルス照射によりLED素子の温度を低く保つことで発光効率が向上したためであることが示唆された.

  • 渡邉 俊介, PODIAPEN Tannen Naythen , 糸瀬 亮太, 井芹 寧, 郝 愛民, 久場 隆広
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_97-III_105
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     アオコの発生や増殖機構に関しては, 長年にわたって基礎研究及びその防除方法の開発が行われているものの, 未だに各地の湖沼や貯水池でアオコが頻繁に発生している. また, 近年では持続性や省エネルギーの観点から応用生態工学的な手法の開発が期待されている. 本研究では, アオコの群体に侵入し破壊するとされる珪藻Nitzschia paleaに注目し, Microcystis aeruginosa(NIES-102)及びため池にて採取したアオコ(Microcystis spp.)への増殖抑制効果について検討した. また, 増殖に適した照射光の波長は藻類によって異なることから, 微生物間におけるN.paleaの競合力をLED照射によって強化することで, 複合的にM.aeruginosaの増殖を抑制する波長も検討した. リン濃度に対して窒素濃度が高い条件では, N. paleaの添加によってM.aeruginosaの増殖が数日で抑制された. しかし, ため池にて採取したアオコへN. paleaと珪酸栄養塩を添加したが, アオコの増殖を抑制することはなかった. 単藻培養系にて青色LEDを照射するとN. paleaは増殖する一方で, M.aeruginosaは増殖しなかった. また, 25°Cにて黄色LEDを照射する条件でN.paleaを添加すると, M. aeruginosaの増殖は単藻培養と比較して約78%抑制された.

  • 川村 有海, 福士 幸太, 石川 奈緒, 笹本 誠, 伊藤 歩
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_107-III_115
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     湿式の化学的方法による鉄(VI)酸カリウム(K2FeO4)の生成を試み,その最適条件のもとで純度が70%程度の粉末を得ることができた.また,K2FeO4とFeCl3の溶液を用いて水および土壌試料中における亜ヒ酸の酸化・不溶化実験を行った.水試料では,K2FeO4溶液の添加により亜ヒ酸がヒ酸に酸化されることを示し,さらにFeCl3溶液と比べてより低いFe添加量でAs濃度を水質環境基準値(0.01mg/L)未満に低減できた.一方,土壌試料では,土壌の汚染に係る環境基準値(溶出濃度0.01mg/L)を超過する亜ヒ酸が検出されたが,K2FeO4溶液ではFeCl3溶液より低いFe添加量で基準値を満たし,As(III)を不溶化できる可能性が示された.さらに,Fe添加の有無での土壌試料について改良BCR法による逐次抽出を行った結果,K2FeO4による不溶化によって再溶出の可能性がある還元性画分を低減できることが分かった.

  • 島田 洋子, 下川 諒, 米田 稔, 池上 麻衣子, 福谷 哲, 颯田 尚哉, 菅原 大輔
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_117-III_125
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究は,福島第一原発事故由来の放射性Csの森林土壌中移動メカニズムにおいて,イオン交換態として存在するCsが土壌コロイド粒子に吸着した状態で土壌・地下水中を輸送される可能性に着目し,コロイド態Cs溶液と溶存態Cs溶液を作成してそれぞれカラム実験を行なうことによって,森林土壌中のCs移動におけるコロイドの寄与を分析した.その結果,土壌に流入した溶存態Csは約79%が土壌に吸着すること,土壌に流入したコロイド態Csは約86%が土壌に吸着せず,陽イオン交換による遅れを受けずに流出することが明らかになり,コロイドによるCsの森林土壌中移動メカニズムを検討することができた.また,降雨強度300mm/hrと降雨強度30mm/hrではCsの流出のピークにほとんど差がないが,降雨強度が大きいと土壌に吸着せず,浸透移動するCsが多いことが示唆された.

  • 岡本 萌巴美, 田中 周平, 雪岡 聖, 藤井 滋穂, Sangeeta Singh , 高田 秀重
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_127-III_134
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     近年,環境中におけるマイクロプラスチック(MPs)の存在実態について世界中で研究が進められている.本研究では,2018年9~10月に発展途上国であるネパール国の首都カトマンズ市における100μm以上のMPsの存在実態の調査を行った.その結果,道路塵埃中では25.7~339個/m2,河川表層水中では600~45,600個/m3のMPsが検出された.また,道路塵埃中ではポリエチレンおよびゴム系樹脂,河川表層水中ではアクリル樹脂が主成分であった.さらに,同一手法によるベトナム国ダナン市と滋賀県草津市における調査結果との比較を行った結果,カトマンズ市では未処理の汚水の河川への直接流入が,河川表層水中のMPsの主な負荷となっている可能性が推察された.本結果よりカトマンズ市では,下水処理場を整備することにより,河川表層水中のMPs密度が大きく減少することが予想された.

  • 日高 平, 戸苅 丈仁, 中村 真人, 大下 和徹, 池本 良子, 西村 文武
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_135-III_143
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     生活排水処理汚泥の集約混合メタン発酵を想定して,合併処理浄化槽および農業集落排水施設で発生する汚泥の性状およびメタン発酵特性を比較した.浄化槽汚泥,農業集落排水汚泥およびオキシデーションディッチ法由来の下水処理場の余剰汚泥を含めて,有機物(VS)/固形物(TS)比(-)に対する,元素組成,高位発熱量およびメタン発酵におけるバイオガス発生率の関係は概ね同様であった.戸建て住宅の浄化槽での汚泥引抜きは,通常1年に1回行われるのに対して,高頻度化した場合の影響も調査した.1~3ヶ月間隔で引抜いた浄化槽汚泥は,VS/TS比が0.94程度まで増加した.高位発熱量は20kJ/g程度,バイオガス発生率は0.4~0.5NL/gVS-added程度であり,通常の浄化槽汚泥の値より高かった.

  • 井口 晃徳, 加納 佑也, 五十嵐 祐希, 貝沼 朱夏, 堀 沙織里, 野村 一樹, 山口 利男, 小瀬 知洋, 重松 亨
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_145-III_151
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     オクタデカンの嫌気的分解に直接的に関与する微生物群を明らかにするため, 新津川底泥を植種源とした2基の完全混合型リアクターによるメタン発酵微生物群の集積培養を行い, 原核生物の群集構造の比較解析を行った. オクタデカンを供給する完全混合型リアクターおよび供給しないリアクターが定常状態に達したday 92におけるリアクター内汚泥の16S rRNA遺伝子アンプリコン解析を行った結果, オクタデカンを供給するリアクターにおいてRikenellaceae(Blvii28)科細菌, Bacteroides属細菌, Kosmotoga属細菌がオクタデカンを供給しないリアクターと比較して高い頻度で検出された. これによりこれらの細菌種がリアクター内でオクタデカンの嫌気的分解に重要な役割を果たしている可能性が高いものと考えられた.

  • Erdenebat Amarbayasgalan , 山田 剛史, 佐藤 宗将, 伊藤 あゆ美, 熱田 洋一, 大門 裕之
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_153-III_160
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     再生可能エネルギーの利活用を目的に,メタン発酵によるバイオガス発電の普及が期待されている.メタン生成ポテンシャル(BMP)は,メタン発酵においてバイオマスの性質評価として使用されている.その簡易予測として,バイオマス中の化学成分含有量を用いた数学的回帰モデルが提案されている.本研究では,食品残渣中の酸性デタージェント繊維(ADF)と脂質に着目し,BMPとの関係性を明らかにした.その結果,食品残渣において,脂質とBMPとの間には相関(決定係数0.73)があったが,他の成分(タンパク質,炭水化物およびADF)とBMPの間には相関がなかった.ADFと脂質を同時に用いて重回帰分析を行ったところ,決定係数0.90のBMP予測式が得られた.これにより,特定の食品廃棄物に対してのみであるが、BMPを簡易に予測できる方法を見出した.

  • 李 善太, 諏訪 守, 重村 浩之
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_161-III_171
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     下水処理水中に存在するF特異RNAファージ(FRNAPH)遺伝子群の塩素と紫外線消毒による不活化効果を評価すると同時に,次世代シーケンシング(NGS)により消毒後に残存する消毒耐性が強い可能性があるFRNAPH株の特定を試みた.塩素消毒による不活化効果は,高濃度に培養・添加した結果では遺伝子群の間に差はなかったが,元々下水処理水中に存在した濃度での結果ではGIと比べてGII–GIVの方が低かった.紫外線消毒による不活化効果は,高濃度培養のFRNAPH添加有無による結果に顕著な差は無く,GIVが最も高く,GIII,GII,GIの順であり,GIが最も耐性が強かった.NGSにより原水では検出されなかったGIIに属する2種類のFRNAPH株が,塩素と紫外線消毒後の試料のみで検出されたことから,これらの株は他の株と比べて消毒耐性を有している可能性が示唆された.

  • 澁木 理央, 西山 正晃, Wilai CHIEMCHAISRI , Chart CHIEMCHAISRI , 渡部 徹
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_173-III_183
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     タイと日本の下水処理施設で採取した活性汚泥試料を,高濃度の抗菌薬を添加したLB培地で培養することで,ESBL産生に関わる耐性遺伝子(blaCTX-MblaTEM)の増減を調べた.併せて,耐性遺伝子の水平伝播に関わることが知られている挿入配列IS26,ISEcp1も定量した.抗菌薬にはβ-ラクタム系5種類に加えて,別系列のCPFXとTCも使用した.多くの汚泥試料では,AMPC,ABPC,CPFXを添加した場合に上記遺伝子全てが増加し,CPFXにも耐性を示すESBL産生菌の存在が示された.タイの病院排水処理施設の汚泥試料では,医療現場で重要視されているMRPM耐性菌の存在を示す結果も得られた.IS26とISEcp1はそれぞれ,汚泥試料培養時のblaTEMblaCTX-Mの増加と強い相関があった.

  • 山口 武志, 山下 尚之, 田村 太一, 田中 宏明
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_185-III_198
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     下水処理場が湖尻に放流する琵琶湖流出河川の水質に簡易処理放流が与える影響を調査した.EEM-PARAFAC解析から下水処理場の放流水と河川水の蛍光性の溶存態有機物(CDOM)が3成分に分けられることが明らかになった.総降雨量28mmと64mmの降雨では下水処理場での簡易処理放流発生後,CDOMのタンパク質様成分Comp.2とCDOM3成分の和Comp.fともに河川水で上昇した.しかし簡易処理放流が調査前から発生していた総降雨量177mmではComp.2は顕著な経時変化をせず,Comp.fのみが逓増した.また,河川の衛生微生物濃度を調査した2回の簡易処理放流の発生後に一時的な増加傾向がみられたが,簡易処理放流発生以外に調査地点下流の洗堰操作も水質変化に影響を与えることが考えられた.

  • Yahya MAHZOUN , 大下 和徹, 青木 亮太, 高岡 昌輝, 藤森 崇
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_199-III_207
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     下水中の浮遊物質は有機物を含むエネルギー源であり,最初沈殿池でのこれらの除去をエネルギー回収ととらえた場合, 粒径別発熱量分布が重要となる.本研究では下水処理場2か所にて, 最初沈殿池廻りの試料に対して粒子分画を行い,粒径分布,粒径別元素分布に加え,熱重量・示差熱分析を応用し,粒径別発熱量分布を明らかにするとともに,最初沈殿池におけるエネルギー回収率を算出した.

     結果,最初沈殿池にて250μm以上の粒子は9割以上回収されることが確認できた.粒径別発熱量分布は,小粒径画分ほど発熱量が高くなる傾向を示したが,強熱減量の傾向と逆であり,トイレットペーパーなど高酸素含有物の影響が窺えた.最初沈殿池でのエネルギー回収率は各々87%, 74%と算出されたが,この値には粒径別発熱量分布よりも粒径分布そのものの影響が支配的であった.

  • 鈴木 遥介, 寺崎 寛章, 福原 輝幸, 草間 政寛, 谷口 晴紀, 田中 雅人
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_209-III_216
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     本研究ではライニング地中熱交換器(LBHE)の貯留水が保有する熱量(保有熱量)に着目し,流量制御型LBHE冷暖房システムを提案した.まずLBHEを対象に熱応答試験を実施し,LBHEの熱抵抗および周辺地盤の有効熱伝導率を調べた.その後,暖房実験を行って流量制御の有効性を検討した.暖房実験の結果,流量制御を伴う本システムは地中熱ヒートポンプシステムとして問題なく稼動して,空調運転3日目以降の地中循環水の水温およびLBHEの周辺地温は概ね前日の温度にそれぞれ回復することが確認できた.また,LBHEの単位長さあたりの採熱量はダブルUチューブのそれ(実績値)の約1.3倍でありながらも出口水温の低下は抑えられ,LBHEの保有熱量が有効に利用されることが分かった.

  • 三宅 雅靖, 小宮 哲平, Amirhomayoun SAFFARZADEH , 島岡 隆行
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_217-III_224
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     一般廃棄物焼却灰が水と接触すると、焼却灰に含まれる金属アルミニウムの水和反応により、水素ガスが発生する。本研究では、焼却灰から発生する水素ガスを回収するシステムの実用化を目指し、短時間で大量の水素ガスを発生させることができる方法を検討した。循環利用されていない金属アルミニウムの添加及び水酸化ナトリウムの添加による水素ガス発生促進、水素ガス発生に有利な粒径区分の検討、実用化を想定して水素ガス発生装置をスケールアップしたパイロット試験を行った。その結果、金属アルミニウムの添加によって水素ガス発生量は増加するものの、反応効率が最大となる最適な金属アルミニウム添加率が存在すること、焼却灰に対して8%のアルミニウム屑を添加し1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いることで82.2m3/t/日の水素ガスを発生させることが可能であること、水素ガス発生に有利な粒径は乾灰の場合4.75mm以下であること、水素ガス発生装置をスケールアップした場合の課題を示した。

  • 藤井 学
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_225-III_235
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     本研究では,ヒドロキシラジカル(OH•)によるフェノールの酸化分解反応を対象として量子化学計算を行い実施し,ラジカル反応や求電子反応における酸化剤との反応点を調べた.異なる計算レベル(HF,B3LYP,M062X)で分子内電荷密度変化を表す福井指標を計算・比較した結果,フェノールへのOH•付加反応についてはB3LYP>M062X>HFの順で反応点の計算精度が高いことが明らかとなった.福井指標による反応点の推定は,フェノール中間体についても実験事実と一貫した結果が得られた.また,フェノール酸化分解反応に対して反応経路最適化計算による反応速度定数の算出も試みた.本研究では,フェノールがカテコール(もしくはハイドロキノン)までに変換される初期酸化過程を対象としたが,同手法を他の微量汚染物質等に適用することで理論的に反応点が推定でき,反応経路の解明に役立つ可能性がある.

  • 原田 英典, 渡部 龍一, 藤井 滋穂, 安井 英斉
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_237-III_244
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     下水道整備が期待される東南アジアでの課題の一つに下水の低水量・低濃度が指摘されており,これによる処理場と流入下水とのミスマッチがしばしば問題となっている。この要因には,未発達な下排水系内での下水量・質の変化が挙げられる。本研究では,効果的な下水道整備の実現のため,下排水系の発達に応じた下水性状の変化を推計する方法論を提示する。トイレ排水と雑排水の汚濁負荷原単位を起点とし,下排水系末端での下水量・濃度・負荷量を推計するモデルを構築,フエ市の街区に適用し,現状ベースの推計値と実測値を比較して妥当性を検証した。同区を例に下排水系の4つの発達段階に応じて将来の下水性状を推計することで,下排水系の発達段階の諸条件が水量増加,濃度上昇および負荷量増加に与える影響を定量的に明らかにすることができた。

  • 渡部 龍一, 原田 英典, 藤井 滋穂, 安井 英斉
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_245-III_253
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     東南アジアでの下水インフラ開発が活発化する中,時々刻々と変動する下水濃度の代表値を如何に一定の精度で推定するかは重要な課題である.本研究ではフエ市で8ヶ月間観測した下水流量・質データに対し再抽出法を用いたシミュレーションを実施し採取頻度と下水質推定精度との関係を検討した.連続観測したECデータに対し試料採取日数および一日あたり試料数の2変数を変動し解析した.さらに36日分の1日コンポジット試料データを用いて6水質項目間における下水質の推定精度の差を検討した.その結果,試料採取日数は一日あたり試料数と比べ下水質の推定精度向上により寄与すると分かった.またBOD,CODおよびTNの推定には,SS,TPおよびECよりも多い試料が必要と推察された.本研究で得られた知見は適切な下水質調査手法の開発に貢献すると期待される.

  • 野中 健太郎, 藤林 恵, 松野 匠, 西村 修, 坂巻 隆史
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_255-III_263
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     内湾生態系保全において,人為的な環境改変が内湾生態系に与える影響評価は重要な課題である.本研究では,志津川湾を対象として河口からの距離が異なる2地点の局所群集間で食物網構造の差異を脂肪酸組成分析に基づき評価できるかを検討した.その結果,2地点間の消費者生物のマーカー脂肪酸組成に有意な違いが認められた.河口近くの食物網は珪藻起源有機物へ,沖寄りでは緑藻起源有機物へ大きく依存した.これらより,特に消費者生物の脂肪酸組成分析から局所的な群集・食物網の構造の特性を評価できることが支持された.さらに,捕食性魚類がEPAやDHA等の特定のマーカー脂肪酸を体内に濃縮する傾向が認められた.捕食性魚類の脂肪酸組成に基づく食物網構造の推定を可能にするには,今後脂肪酸濃縮のパターンを定量的に理解することが必要である.

  • 吉田 亨, 藤林 恵, 田中 仁志, 岡野 邦宏, 高田 芳博, 宮田 直幸
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_265-III_272
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     イシガイ目二枚貝は淡水生態系において物質循環や懸濁物の除去など重要な役割を担っているが,近年,世界的に個体数の減尐が報告されている.とくに,稚貝や若い個体が尐ないという報告があることから,再生産が行われていないことが考えられる.そこで,本研究では若年個体がほとんど見られない八郎湖のイシガイ個体群に注目し,イシガイ母貝の幼生放出の有無と時期,そして宿主魚類を検討することで再生産が行われているか検討した.その結果,イシガイ幼生の放出は6月から8月の間に行われていること,主にヌマチチブなどのハゼ類に幼生が寄生していることが分かった.しかし,現地では稚貝がほとんど確認されておらず,八郎湖の底生環境の悪化が稚貝の定着を阻害している可能性が考えられた.

  • 長濱 祐美, 大内 孝雄, 湯澤 美由紀, 福島 武彦
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_273-III_280
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     湖沼水質に対する植物プランクトンの影響を検討するためには,植物プランクトンを体積で評価することが必要であるが,植物プランクトン体積の算出には多くの労力と高い専門性が必要であり,多地点・高頻度での測定は難しい.そこで本研究では,簡便に植物プランクトン体積を算出することを目的とし,霞ヶ浦における各植物プランクトンの細胞体積を整理し,その利用可能性について検討した.整理した各細胞体積を,2005年度から測定された毎月の細胞数データに乗じて,植物プランクトン体積の変動を算出し,既往研究の実測値と比較した.計算された総体積は,実測値と有意な正の相関を示し,総体積に占める各分類群合計体積の割合も,主だった綱で正の相関を示した.このことから,細胞数に一定値を乗ずる方法は有効であることが示唆された.細胞数のみならず体積で植物プランクトン群集を理解することによって,水質や生態系に対する影響をより具体的に検討できることが期待できる.

  • 内田 典子, 久保田 健吾, 会田 俊介, 風間 聡
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_281-III_288
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     河川水から抽出したDNA(環境DNA)をテンプレートとして無脊椎動物のcytochrome oxidase subunit 1領域の濃度を定量PCRにより定量した.さらに同一の遺伝子領域をメタバーコーディング解析し,得られた全塩基配列数のうち水生昆虫6目(カゲロウ,カワゲラ,トビケラ,ハエ,トンボ,コウチュウ)に属する塩基配列の相対存在比を,定量DNA濃度と掛け合わせ,水生昆虫由来の環境DNA濃度(copies/L)を求めた.捕獲調査により得られた水生昆虫の現存量と相関分析した結果,水生昆虫由来の環境DNA定量値は全採集個体数密度(相関係数0.74,p < 0.01),カゲロウ目,カワゲラ目,ハエ目の個体数密度と正の相関を示した.これらの分類群については回帰式を推定することができ,本手法が環境DNAを用いた水生昆虫量の定量に有効である可能性を示した.

  • 畠山 勇二, 川畑 達矢, 西村 修, 坂巻 隆史
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_289-III_298
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     内湾底層の有機汚濁につながることが懸念されるカキ養殖から沈降する有機物の化学組成,起源,および酸素消費能を評価した.調査対象とした南三陸町志津川湾のカキ養殖場内では場外と比較し有機炭素沈降フラックスが平均8倍程度増加していた.養殖場内の沈降有機物は,酸素消費活性および藻類由来マーカー脂肪酸の割合がともに沈降有機物の潜在的起源であると考えられるカキ排泄物や付着物と比較し小さかった.よって,排泄物・付着物に含まれる易分解性の藻類起源有機物が沈降過程で分解され,分解性の低下した有機物が底層に沈降・堆積していると考えられた.一方,湾全体の沈降有機物の酸素消費量に対する養殖場内沈降有機物の酸素消費量の割合は平均10%程度と推定され,酸素消費量から見るとカキ養殖が同湾の底層環境を一定程度悪化させる可能性が示された.

  • 杉原 幸樹, 増木 新吾, 管原 庄吾, 村山 雅昭
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_299-III_307
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
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     塩淡二層汽水湖の網走湖において,塩水層の貧酸素水塊の解消を目的として,現地に酸素溶解装置(WEP)を建設して酸素供給による水質変化について実水域で観測を行った.結氷下から融雪後まで装置を連続運転させた結果,結氷下では湖内の流動が抑制され、装置近傍に溶存酸素量(DO)の上昇と硫化水素の酸化による濁度上昇が確認された.結氷下での2ヶ月の装置運用でおよそ90000m2にDO供給影響が確認され,硫化水素濃度はDO供給標高を中心に大幅な低下が確認されたが,検出限界以下にはならなかった.一方で,融雪後は湖内流動が再開することで,水塊移動に伴いDO供給効果が流下して,DOと濁度は低下する挙動が確認された.また水質分析の結果から,WEPによるDO供給によって,機器周辺の硫化水素は40%削減され,全リン及び全窒素も20%削減されることが確認された.これより,DO供給によって汽水性貧酸素水塊の水質改善が可能であり,流動が少ないほど効果が明瞭となることが分かった.

  • 米田 一路, 西山 正晃, 渡部 徹
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_309-III_320
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     トンレサップ湖には多くの水上生活者が暮らしている.彼らは未処理の汚水で湖水を汚染する一方で,汚染された湖水を日々の生活に利用することで健康リスクに晒されている.水上生活者が暮らす集落は湖水位の変動とともに移動するため,彼らが排出する汚濁負荷や彼らの汚濁物質への曝露を把握することは難しい.本研究では,衛星画像の解析により,水上集落の存在位置とその移動範囲を水深と浸水林内の河川からの距離によって特徴づけた.その結果,水上集落には移動型と定住型があり,移動型の集落は雨季には浸水林内河川で定住型よりもやや浅い場所に位置し,乾季になると湖に向かって移動することが分かった.ときには河口から1,000mも離れた場所まで移動していた.この知見をもとに,湖内で水上集落が形成されやすい位置を推定する手法を開発した.

  • 平山 奈央子, 武島 のぞみ
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_321-III_327
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究は,住民の水環境評価に影響を与える要因を明らかにすることを目的とし,住民559人のアンケート回答結果を用いて共分散構造分析および他母集団同時分析を行った.その結果,幼少期の自然への関心が高いほど,また,流域内の居住期間が長いほどその水域への関心が高く,それらの人は水草や外来魚の評価が悪い傾向にあることが分かった.また,水域への関心が高いほど,保全計画の認知度が高くアオコと外来魚の評価が良い傾向にあること,および,流域に関する知識点数が高く水質の評価が良い傾向にあることが分かった.さらに,居住期間が長いほどヨシの評価が悪い傾向にあることが示唆された.

  • 名本 昂生, 橋本 崇史, 風間 しのぶ, 小熊 久美子, 滝沢 智
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_329-III_339
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     浄水用ろ過膜の損傷を運転中に非破壊で検知する手法を開発することを目的として,光ファイバ型の多点表面圧力センサを外圧式MF膜ハウジング内部10箇所に中空糸膜の長さ方向に沿って配置し,膜ハウジング内の供給側圧力を測定した.膜ハウジング内の中空糸膜を,切断無しから順次切断本数を増加させて圧力を測定したところ,膜切断による膜ハウジング全体の膜差圧変化の検出感度は,光ファイバセンサを供給側のみ設置するよりも,通常の圧力計を供給側と流出側の両方に設置する方法のほうが高かった.そこで,隣り合う光ファイバセンサ間の圧力勾配を指標として,膜の切断前後の圧力変化を求めたところ,膜モジュール全体の差圧変化よりも高い感度で膜破断を検知するとともに,膜破断位置を推定できる可能性が示された.

  • 米澤 有貴, 橋本 崇史, 風間 しのぶ, 小熊 久美子, 藤村 一良, 滝沢 智
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_341-III_350
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     膜ろ過浄水施設で使用されたPVDF製中空糸膜の劣化評価手法を検討し劣化機構を明らかにする事を目的として,複数の劣化評価法の結果を比較検討した.バブルポイント試験,拡散空気量試験の結果から,使用済み膜では新膜よりも空気が透過しやすくなっており,膜表面のSEM画像の解析からも表面開孔率の増大が確認された.ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるPVDFの分子量分布や,X線回折(XRD),全反射フーリエ変換赤外分光法(ATR-FTIR)分析による結晶化度には大きな変化が見られなかった.一方,ATR-FTIR解析では,使用済み膜の未使用膜に対するピークの減衰率が,結晶部と非結晶部で同程度であり,SEM画像解析では,膜表面の密度が低下し,粗い構造となっていることが示された.これらのことから,膜の劣化はPVDFの結晶構造が崩れて低分子化するよりも,結晶と非結晶を含む部分的な構造が脱落することによって起きていることが示唆された.

  • 大津 秋人, 紀 佳淵, 北條 俊昌, 李 玉友
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_351-III_357
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     メタン発酵によって有機物を除去する嫌気性MBRは創エネルギーかつ省エネルギーな処理として注目されている.しかし,実下水を対象とした知見の不足より,実用化していない.本研究では,嫌気性MBRを用いた実下水の長期連続処理実験を行い,処理性能を評価した.実験では,水理学的滞留時間(HRT)を24hから4hまで段階的に短縮させた. その結果,高いCOD除去率(84〜90%)を維持し,特に標準活性汚泥法と同等のHRT6〜8hで長期間安定して処理水質BOD<20mg/L,COD<60mg/L以下を達成できた.また,HRT8hの汚泥生成量は標準活性汚泥法の1/2〜1/5の0.12gVSS/gCODremであり,メタン転換率は69.3±3.2%が得られた.嫌気性MBRと活性汚泥法+嫌気性消化を比較したところ,嫌気性MBRによりエネルギー回収率が1.6倍向上し,また汚泥生成量は半分以下に削減できるポテンシャルがあることが示唆された.

  • 野村 洋平, 三好 太郎, 西内 友也, 木村 克輝, 藤原 拓
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_359-III_365
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     ポリアミド活性層の正浸透膜を用いた正浸透法による下水の直接処理を検討するとともに,膜ファウリングに寄与する溶存有機物特性の評価を試みた.ろ過下水を供給液(FS)に,3Mの塩化ナトリウム溶液を駆動液に使用し,処理中の膜透過水fluxおよび溶存有機物の挙動を調査した.14時間の処理により膜透過水fluxは18.7L/m2/hから9.9L/m2/hまで低下したものの,溶存有機炭素の阻止率は98%と極めて高かった.FSに含まれる溶存有機物の一部はファウリング層内に蓄積していたことから,液体クロマトグラフィー–有機炭素検出器を用いて,ファウリング層内の各溶存有機物画分を分析した.その結果,FS中に存在したバイオポリマー画分の15%以上は膜表面に蓄積していたのに対して,他の有機物画分の膜表面蓄積率は1–2%であったことから,主たる溶存性有機系ファウラントがバイオポリマー画分であると推定された.

  • 青森 壮汰, 藤林 恵, 岡野 邦宏, 高田 芳博, 宮田 直幸
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_367-III_374
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     アオコの原因となる藍藻は,消費者から餌利用されにくいと考えられているが,実際の富栄養湖における消費者のアオコ餌利用の実態は不明な点が多い.そこで,毎年アオコが発生する富栄養湖である秋田県八郎湖において,ゾウミジンコ(Bosmina longirostris),オナガミジンコ(Diaphanosoma brachyurum)およびカイアシ類成体を対象に,脂肪酸分析を用いて藍藻が餌として同化されているか検証した.夏季のアオコ発生時期において藍藻に多く含まれる脂肪酸である18:2ω6および18:3ω3の含有率の増加がゾウミジンコとカイアシ類成体で確認され,アオコを餌として同化していることが明らかになった.八郎湖で優占するゾウミジンコは分析した甲殻類の中で最も高い藍藻由来脂肪酸の含有率を示し,湖沼食物網における上位消費者への藍藻由来有機物の移行に重要な役割を担っていると考えられた.

  • 大原 光司, 湯上 洋平, 藤林 恵, 西村 修, 坂巻 隆史
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_375-III_384
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     実環境で起こりうる水の混合を模倣したAGP試験に脂肪酸組成分析を組み合わせることで,湾外起源水の流入による内湾生産者分類群の生産や群集構造への影響を評価することを試みた.志津川湾内湾水と各流入水を混合しAGP試験を行った結果,流入水起源の違いによって生産者分類群応答が異なり分類群間での競合関係が捉えられた.細菌・藍藻は硝酸態・亜硝酸態窒素濃度の高い条件下でより生産されたのに対し,珪藻や渦鞭毛藻などの藻類はリン酸態リン濃度の高い条件下で生産が高まった.これらより,N/P比によって生産者の群集構造が大きく変化することが示された.内湾で混合する,流域からの淡水の質変化によって内湾で生産される脂肪酸組成が大きく変化する可能性が示唆され,湾および周辺流域を包括的にとらえた内湾一次生産管理の必要性が示された.

  • 中谷 鴻太, 那須川 康平, 松前 大樹, Wang WEI , 菊地 哲郎, 藤井 学
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_385-III_393
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究は閉鎖性水域における野外調査ならびに室内培養試験を実施し、溶存態金属により生じる酸化ストレスが藍藻毒(microcystin:MC)の生産に及ぼす影響を調べた。16s rRNA遺伝子による細菌叢解析から、藍藻発生時に採取した水試料中にはMicrocystis属が優占していた。細胞当たりのMC濃度、溶存金属濃度、クロロフィルa等の水質分析に対して主成分分析ならびに相関分析を行った結果、細胞当たりのMC濃度といくつかの溶存金属濃度との間に関係性が見られた。Microcystis aeruginosa(PCC7806株)を用いた室内培養試験では、酸化ストレスを誘導すると指摘されている重金属(Cu、Zn)濃度が高い環境条件、もしくは主要金属であるMg濃度が低い環境条件において細胞内酸化ストレスが生じ、細胞当たりのMC生産が上昇する結果が得られた。以上の結果は、閉鎖性水域における有毒藍藻類の発生原因を明らかにするには、酸化ストレスに影響を及ぼす複数の金属濃度に着目していく必要があることを示唆する。

  • 中村 寛治, 増子 宙, 三平 武史, 奥田 春香
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_395-III_402
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     3種類の細菌捕食性原生動物,Spumella sp. TGKK2,Ochromonas sp. TGPH2,Bodo sp. TGKH8を利用して捕食実験を実施し,被食細菌の残存性に関する評価を行った.被食細菌としては,Cupriavidus necator KT1由来およびEscherichia coli K-12由来の組換え体,加えてPseudomonas aeruginosa PAO1を利用した.これらの細菌は,およそ1~5×108cells/mLの濃度を初期値として,捕食実験に用いた.捕食の速度や残存レベルは組合せによって様々であったが,多くのケースで,初期に著しい減少を示した後,104~106cells/mLの範囲で一定の値に到達し,安定した.また,C. necator KT1の組換え体を利用して,河川水中の土着原生動物群による捕食実験を行った結果,同様の捕食挙動が観察された.

  • 門屋 俊祐, 牛島 健, 伊藤 竜生, 長谷川 祥樹, 三浦 尚之, 秋葉 道宏, 西村 修, 佐野 大輔
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_403-III_412
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     各戸導入型小型水供給設備は過疎地域において有効な選択肢となりうるが、設備利用における健康リスク管理の徹底が必要である。本研究では水安全計画に基づき、設備利用者の健康を保障する管理基準の同定を試みた。Legionella pneumophilaが処理水貯水槽に侵入する場合を想定した定量的微生物リスク評価により、遊離塩素濃度を0.5mg/Lとした際の疾病負荷は、世界保健機関による許容値10-6損失DALYpppy以下まで低減されると推定された。貯水槽にAcanthamoebaが侵入する場合、遊離塩素濃度を2.5mg/Lと設定すると約80日間許容感染リスク以下に保たれた。以上より、重要管理点の管理基準として初期遊離塩素濃度2.5mg/Lの確保及び2ヶ月おきの膜交換により設備使用時の健康リスク管理が可能となる。

  • 酒井 宏治, 佐竹 明, 滝沢 智
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_413-III_423
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     水道管路の老朽化と維持管理に関する指標として,無効率・超過管率のほか,管種などの物的資源,職員数などの人的資源,給水収益などの金銭的資源に関する指標に加え,維持管理に関する指標として管路更新率・超過管更新率・漏水修繕率を取り上げ,指標相互間の関係性について検討した.その結果,無効率はダクタイル管率,塩ビ管率,技術系職員数,給水収益などと関連があること,超過管率は職員数・給水収益・管路更新率などの指標と関連があることが分かった.また,給水人口規模が大きくなると無効率が小さく,超過管率が大きくなり,それにつれて管種,職員数,給水収益なども変化することが分かった.さらに,広域化,官民連携を実施した事業体では,人的資源の確保の傾向が見られること,広域化事業体では管路更新率,漏水修繕率が改善傾向にあることが示唆された.

  • 國實 誉治, 小泉 明, 荒井 康裕, 稲員 とよの, 石田 紀彦, 藤川 和久, 関田 匡延, 村田 諒介
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_425-III_434
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究では,配水管網ネットワーク内での基幹管路である配水本管に着目して,水需要の経年変化を考慮した更新計画について分析を行った.管路更新後の配水ネットワークの冗長性を確保する目的で,供給点からの管路延長を基準とした3つの区分(上流,中流,下流)に分けて,給水に必要な配水小管上での有効水頭を確保できる縮径の組み合わせを検討した.更新の対象管路は非耐震継手管として,【更新優先度順】【布設年度順】【流量順】の3つの更新シナリオを設定し,配水小管上での最小有効水頭や更新工事費用,更新工事時の逆流の発生,ポンプ増減圧による電力費を指標として比較分析を行い,新たな配水管路の更新計画についてシナリオ分析を行った.この結果,配水本管の縮径更新に関する経済性や安定供給性を考慮した新たな知見を得ることができた.

  • 髙島 正信, 矢口 淳一, 中尾 総一
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_435-III_442
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     下水汚泥9~10%を高濃度・高温嫌気性消化し,窒素・リンも回収するシステムについて検討した.消化汚泥のアンモニアストリッピングとその返送により消化槽全アンモニアを平均して1,760mgN/Lに抑えたところ,VS分解率57.8%,メタン発生率0.321NL/gVSが得られ,高分子凝集剤のみ用いる一液法の脱水が可能であった.アンモニアストリッピングは脱炭酸後,薬品添加なしで温度70℃,初期pH約9,2時間で実施し,流入汚泥からの窒素回収率20.7%が得られた.消化汚泥に対して水酸化鉄吸着剤を室温,pH4~5,24時間で適用すると,固形性リンの一部も溶解され,流入汚泥からのリン回収率54.6%が得られた.以上より,下水汚泥の高濃度・高温嫌気性消化およびアンモニア・リン酸回収の可能性が示された.

  • 山内 正仁, 島田 温史, 山田 真義, 徳田 裕二郎, 八木 史郎, 黒田 恭平, 香西 直子, 山本 雅史
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_443-III_450
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究では下水汚泥(脱水汚泥)を用いた食用きのこ栽培を目指す上で必要な量産化技術を開発するために,乾き蒸気攪拌装置を用いたヒラタケの量産化試験を実施した. その結果,本装置で培地を7分間攪拌することで脱水汚泥と他の培地材料は均一に混合され,培地の量産化は可能となった. また,乾き蒸気を注入した試験区の子実体収量,形態学特性は対照区と遜色ないことがわかった. さらに,きのこ栽培過程で発生するCO2の農業利用技術を開発することを目的にパッションフルーツを用いたCO2施肥試験を実施した. CO2施肥は成熟日数を増加させ果実重量,糖酸比を有意に高くし,果実品質を向上させることが明らかになった.

  • 清水 浩之, 松浦 哲久, SOM Kanhchany , 戸苅 丈仁, 三崎 岳郎, 本多 了, 池本 良子
    2019 年 75 巻 7 号 p. III_451-III_459
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/23
    ジャーナル フリー

     小規模下水処理場におけるバイオマス混合メタン発酵の導入を想定し,オキシデーションディッチプロセスから発生する余剰汚泥の高濃度高温消化における稲わらの添加影響について,室内連続実験により検討した.その結果,汚泥単独では投入汚泥濃度6%で有機酸の蓄積が認められ,メタン発酵が不安定であったのに対し,3%の稲わらを添加することにより,安定したメタン発酵が可能であった.菌叢解析を行った結果,バクテリア,アーキアともに,汚泥単独系と稲わらを添加した系で菌叢に大きな違いが認められた.稲わら添加系において,セルロ―ス分解に関与すると推定されるClostridiaceae目の細菌が多く検出され,酢酸資化性のメタン生成古細菌Methanosarcinaが古細菌の59.6%を占めていた.高いアンモニア耐性をもつMethanosarcinaの優占化により,安定したメタン発酵を継続できたと推定された.

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