土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
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78 巻, 6 号
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環境システム研究論文集 第50巻
  • 堀 啓子, 竹中 颯太郎, 藤田 壮
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_1-II_10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     脱炭素の達成に向け,地域レベルで再生可能エネルギーや未利用エネルギーの活用を進めるためには,時間単位でのエネルギー需給や需要立地を考慮した地域のエネルギー利用計画が必要である.よって本研究では,埼玉県越谷市を対象に,自治体との対話を通して描いたごみ焼却施設周辺の将来像に基づき,立地誘導も含めたごみ焼却廃熱の熱供給シナリオを設定して,月間・時間レベルでの廃熱供給の需給解析を行うことで,脱炭素効果を評価した.4シナリオを評価した結果,夜間や夏期においても一定の熱需要がある病院やビニールハウス,将来的に計画されている道の駅をごみ焼却施設周辺に立地させることで,より多くの温水・冷水供給を行うことができ,化石燃料代替による脱炭素効果が大きくなると示された.

  • 中山 裕文, 石橋 文也, 桑村 勝士, 清野 聡子, 島岡 隆行
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_11-II_17
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究は,中型まき網漁,はえ縄漁,釣り漁の3つの漁船漁業における活動量当たりの漁船漁業用プラスチック製品の投入量原単位の推定を行った.各漁船漁業の漁業従事者から漁業用製品の購入データを入手して整理するとともに,その他必要な情報を漁業従事者へのヒアリング調査等によって入手し,ボトムアップ型の調査を行った.その結果,中型まき網漁のプラスチック製品投入量原単位は,漁獲高1t当たり6kg,はえ縄漁は186kg,釣り漁は36kgと推定された.プラスチック製品のうち,漁網,釣り糸,疑似餌等,海中で使用されるプラスチック製品では,中型まき網漁が漁獲高1t当たり2kg,はえ縄漁は94kg,釣り漁は7kgのプラスチック製品を投入していると推定された.

  • 長尾 征洋, 竹内 詢喜, 玉崎 美結, 森田 大登, 北 栄輔, 白川 博章, 谷川 寛樹
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_19-II_25
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     都市部における建設資材ストックを把握することは資源のリサイクルや適正処理のために重要である.正確なストック推定には建築物構造を推定する必要があるが,既往研究では近年増加しているカーテンウォールを備えた鉄骨造は分類されてこなかった.本研究では機械学習モデルを用い建物壁面画像からガラスと壁を判定し,各ピクセル数から壁面ガラス率を算出した.このガラス率67%を閾値として判別に用いるとカーテンウォールを備えた鉄骨造を適切に分類できることが分かった.名古屋駅周辺の262棟を対象に建物構造を分類しストック推計を行った結果,従来の分類方法と比較してコンクリートは18%減少,鋼材は325%増加することが示された.

  • 中山 裕文, 小森 祐輝, 島岡 隆行
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_27-II_35
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     海面処分場では構造的特徴等により廃棄物の安定化に長期を要するため,跡地利用へと移行できないことが問題となっている.海面処分場では,廃棄物の受入後に汚濁負荷を軽減する埋立方法等が検討されている.一方,海面処分場の上流側の廃棄物排出事業者が汚濁負荷軽減に関する責任の一端を有すると考えることもできるため,上流側で対策を講じることも必要である.そこで,本研究では,海面処分場の上・下流において溶出負荷制御を行った場合のLCCを算定して比較した.その結果,海面処分場の上流側の焼却処理施設における溶出負荷制御として処理薬剤の変更を行った場合の現状に対するLCC増加額が焼却残渣1tあたり1,369円/tであった.また,海面処分場における廃棄物を受入後の溶出負荷制御として分級処理を実施した場合のLCC増加額が989円/t,固化破砕処理を実施した場合がのLCC増加額が1,719円/tであった.一方,溶出負荷制御により海面処分場の維持管理期間を20年短縮できれば,すべてのケースにおいてLCCは削減されるという結果が得られた.

  • 田近 柊, 尾﨑 平
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_37-II_50
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     オオタカの生息に社会の違いが与える影響を明らかにすることを目的として,公開されている生息情報をダウンスケールして種分布モデルを作成する手法を提案し,同手法を用いて関西圏における種分布モデルを作成した.さらに,作成した種分布モデルを用いて現状維持と4つの将来シナリオにおける生息適地を推定し,シナリオ間で生息適地を比較した.本研究の提案手法はダウンスケーリングせずに作成した種分布モデルよりも,不確実性が増すことにより精度(k値)がわずかに低下するものの,空間解像度を4倍にしたオオタカの分布の推定ができた.また,セントロイドアプローチに比べて,よりオオタカの生態を反映したモデルの構築が行えた.将来の生息適地数は自然資本コンパクト型社会において最多となり,現状維持において最少となった.

  • 中村 亮太, 林 博徳, 竹門 康弘, 角 哲也, 島谷 幸宏
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_51-II_62
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,西之谷ダムおよび益田川ダムを対象として,流水型ダム上流地点と下流地点における河床環境および底生動物群集の比較を行った.益田川ダムおよび西之谷ダム下流への粗粒土砂供給減少によって生じる下流河床の変化は現時点において見られなかった.一方で,西之谷ダム下流では砂利割合の減少が確認された.2基の流水型ダム貯水池における底生動物の群集構造は,対照地点と明確に区別され,貯水池における土砂の移動性低下に起因する造網固着型の個体数増加や滑行型の個体数減少や砂利堆積による掘潜型の個体数増加が確認された.西之谷ダム下流では砂利が減少することによる巣匍匐型の個体数の減少が確認された.一方で砂利の下流供給の停滞がないと考えられる益田川ダム下流では携巣匍匐型の減少は確認されなかった.

  • 杉本 健介, 河口 洋一, 佐藤 雄大, 阿部 佑馬, 中島 壮太
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_63-II_68
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,鳴門市に造成されたビオトープが,コウノトリの餌場として機能するかを明らかにするため,周囲の飛来回数の異なるレンコン田とコウノトリの餌生物量を比較した.餌生物は,すくい採りとペットボトルトラップによって採集した.調査の結果,ビオトープで採集された餌生物の湿重量は,コウノトリの飛来回数が多いレンコン田より小さかった.レンコン田で採集された生物は,アメリカザリガニやウシガエルといった外来種が大半を占めた.これらの生物はコウノトリの主要な餌となり得るが,在来種を捕食するなど,在来生態系に負の影響を与えることが懸念される.今後のビオトープ管理においては,在来種の生息に適した環境づくりとともに,外来種の侵入・拡大防止を両立する取り組みが重要であると考えられた.

  • 上月 康則, 山中 亮一, 本原 将吾, 齋藤 稔, 中岡 禎雄, 鮎川 和泰, 松重 摩耶, 松尾 優輝
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_69-II_75
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,空隙を有した円筒形の魚礁に水底面を模した床材を設け,定住種のハゼ科チチブ(Tridentiger obscurus)の行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的に室内実験を行い,その傾向を現地実験で確かめた.魚礁は空隙となる塩化ビニル製パイプ(以下筒)の下に床面を取り付けたものを作成し,実験に供した.室内実験の結果,床を設置すると筒への選好性は高まり,水中を泳ぐ個体は減少した.また床の長さを長くするとその効果はさらに高まった.尼崎運河での現地実験では,室内実験と同様に筒と床を設けた魚礁で個体数が多く,幼魚から成魚まで様々なチチブが蝟集するという特徴が確認された.以上のことから,チチブに適した環境を創出する場合には,空隙とその下の開口部にチチブが定位できる6cmの床面を設けた魚礁を設置すると効果的であることがわかった.

  • 渡邊 学, 藤井 実, 中島 謙一, 肱岡 靖明
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_77-II_87
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     近年,気候変動による洪水リスクの増加が懸念され,気候変動を踏まえた治水計画の見直しが緊縛の課題となっている.本研究では既に生じているリスク変化を把握するために,30年以上継続して雨量データが整備される58の一級水系における,洪水被害に繋がる規模の降雨の変化傾向を定量的に解析した.具体的には,58水系の雨量観測データを用いて,1・24・48時間の各単位時間にて,全国的および水系ごとに,降雨の規模および頻度についてMann-Kendall検定によるトレンド解析を行った.結果,降雨の規模および頻度について全国的に増加傾向が確認され,約7割の水系で年最大雨量が増加傾向にあることが示された.また,計画降雨量が設定される45水系のうち既に20水系で計画降雨量を超過した降雨が観測され,45水系合計の超過頻度も有意に増加していることが示された.

  • 山根 成陽, 鹿島 千尋, 中谷 祐介
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_89-II_97
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     閉鎖性海域である瀬戸内海を対象に,分布型流出モデルを構築し,過去約30年間における降雨パターンと土地利用の変化が各湾灘への淡水流入量に及ぼした影響を定量的に評価した.その結果,年間降水量や年間淡水流入量に有意な線形トレンドは認められなかった一方で,強雨による短期的な流出量は2010年代に全ての湾灘で増加し,特に大阪湾,播磨灘,備讃瀬戸などの東部海域で顕著であった.また,土地利用の変化に伴い,出水時の流量や流出率は全湾灘で増加し,特に市街地の増加率が大きかった中部海域(安芸灘,燧灘,備後灘)では約10%もの流量増加が生じる結果となった.今回の解析結果より,将来の瀬戸内海の流動・水質を予測する際には,気候変動に伴う降雨パターンの変化だけではなく,土地利用の変化も考慮した予測が重要であることが示唆された.

  • 今井 葉子, 栗栖 聖
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_99-II_107
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     日本の各自治体における気候変動の影響認知および適応策の実施状況を把握することを目的に,47都道府県および1,741の地方公共団体の環境課に対してアンケート調査を実施し,1,098件の有効回答を得た.気候変動影響に対する深刻度認知としては,豪雨・ゲリラ豪雨,年間平均気温の上昇,熱波・猛暑に対する深刻度認知が全国的に高く,分野別では,農業分野,河川災害,山地災害,熱中症に対する深刻度認知が高くなっていた.これら分野別認知の違いにより回答自治体は6群に類型化された.具体的な適応策では,ソフト面での対策は多くなされている一方,ハード面での対策は進んでいない状況が見られた.適応策のための予算や経験,専門家との連携が不足していると回答した自治体は7割を超え,自治体における適応策推進のための課題と考えられた.

  • 尾﨑 平, 福泉 佑樹
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_109-II_116
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     地球温暖化に伴う気候変動の影響により,外水氾濫,内水氾濫が頻発しており,気候変動を考慮した都市浸水対策が求められる.筆者らは,以前に都市浸水対策のためのリスク評価システムを開発した.しかし,同システムは,特に,道路の脆弱性の評価に課題があったことから,その点を改良した.その上で,気候変動を考慮した評価をモデル都市を対象に行った結果,現状と2度上昇のシナリオでは,リスク評価に大きな差はなく,4度上昇のシナリオでは,リスクが大きくなる箇所が増えることを明らかにした.また,本システムが気候変動を考慮した都市浸水対策の立案にも適用できることを示した.

  • 玉井 丈太郎, 平山 修久
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_117-II_127
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     水道は市民生活や社会経済活動に不可欠のライフラインであり,迫る大災害に備え,耐震化だけでなく,被災後の迅速な復旧を可能にした強靭な水道の実現が求められている.本研究では,日々の復旧過程において断水人口や消火機能だけでなく,地域の経済機会損失も評価できる応急復旧戦略評価手法の構築を目的とする.離散的被害推定手法により実管網上で被害箇所の確率論的推定を行った.ある被害シナリオに対する,応急復旧モデルによる復旧日数の算出,管路被害を反映した管網解析,経済機会損失評価モデルを用いた数値解析により,地域の断水人口,消火機能及び経済活動の復旧過程を算出した.その結果,本研究で構築した手法を用いて,市民生活と経済活動を合わせた総合的な観点から応急復旧戦略の検討が可能であることを示した.

  • 荒井 康裕, 井上 怜音, 酒井 宏治, 國實 誉治, 小泉 明, 藤川 和久, 堺 総一郎, 佐々木 慶太
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_129-II_140
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,水使用に関するアンケート調査結果と当該世帯の原単位水量データを用い,コロナ禍における生活用水の利用状況に関する変化とその要因を統計的に分析することである.具体的には,2019年度(コロナ禍前)に対する2020年度(コロナ禍)の原単位水量の比(前年比)に着目し,基準より大きい世帯を「高値群」,小さい世帯を「低値群」とした2値変数をアウトカムに設定し,差の検定及びロジスティック回帰分析を実施した.分析の結果,水量前年比の高値群に「洗濯回数変化」及び「夕食調理回数変化」が寄与する要因となることが明らかとなった.また,家族構成員に高齢者(65歳以上)を含む世帯に比べ,それを含まない世帯での水量前年比の増加変化が多く確認された点も特徴的である.

  • 島田 孟親, 荒井 康裕, 國實 誉治, 小泉 明
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_141-II_152
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,既往の研究で提案された漏水判定モデルに関する汎化性能の評価に主眼を置いた実験を試みる.対象となる漏水判定モデルは,リカレンスプロットと畳み込みニューラルネットワークを応用したモデルである.本実験では異なる10地点で観測された実漏水音を使用し,漏水判定モデルを構築するための学習データの組合せを複数検討した.その上で,構築したモデルが未学習の実漏水音(判定データ)に対して十分な汎化性能を有するか否かを検証した.実験の結果,学習に2地点の観測データを用いた「2地点モデル」では,90%程度の高い精度を示す良好な結果が得られた一方,精度が50%を下回る不成功事例も確認され,良否の乖離が大きいケースが生じた.しかし,「8地点モデル」では,10地点中7地点に対して80%以上の精度を達成しながら,「2地点モデル」の適用において判定精度が悪かった地点の精度向上を確認することができた.

  • 杉野 学, 浅見 真理, 松繁 卓哉
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_153-II_165
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     水道事業に関する情報提供が利用者の意識に与える影響を明らかにすることを目的に,20~30代の若年層対照・実験群計700人を対象にWebアンケート調査を実施した.その結果,情報提供により水道に対する当事者意識,持続可能性に関する意識が高まり,実験群の51.4%で関心が高まった.また,関心度と認知度に関連性が認められ,関心度を高めることの重要性を示した.特に無関心層の関心を高めることが重要であることが示唆された.一方,料金値上げに対する受容意識に対しては,情報提供が賛意だけでなく非賛意も高める傾向があり,料金収入の減少が必ずしもリスクとして捉えられないことが分かった.さらに,値上げ受容意識の自由記述の分析から,今後,重点を置くべき広報内容を示した.

  • 鬼束 幸樹, 井出 尚之, 飯隈 公大
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_167-II_173
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     遡上率の高い魚道を設計するには,最適な魚道の幾何学形状の把握が必要となる.これまで階段式魚道のプール長やプール水深などの最適値の探索が行われてきたが,プール底面は水平が前提であった.本研究では片側切欠き付階段式魚道において,プール底面の横断勾配および流量を変化させ,オイカワの遡上特性に及ぼす影響の解明を試みた.その結果,水平および切欠き側が低水深となる底面勾配より,切欠き側が高水深となる底面勾配におけるオイカワの遡上率が高く,流速の増加に伴いその傾向が顕著となることが解明された.これは,オイカワが遡上前に高水深領域を選好して待機すること,および遡上の助走に高水深で低流速な領域が必要だが切欠き側が高水深となる底面勾配の場合,この条件を満たす領域が切欠きに近いために遡上率が向上したと推定される.

  • 手塚 透吾, 溝口 裕太, 中村 圭吾
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_175-II_182
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     河道内植生の把握は,効率的かつ効果的な河川管理の実現に必要な基礎情報を捉えるという点で重要である.本研究では,高密度に繁茂するハチク(Phyllostachys nigra var. henonis)の竹林を対象に,UAVの空撮から得られる高解像度のDSM(Digital Surface Model)にLMF(局所最大値フィルタリング)を適用することで樹頂点の抽出を試みた.LMFの性能を左右するパラメータであるWS(探索範囲)を様々に変化させ,樹頂点の抽出精度を評価した結果,直径0.5mのWSで最大のF値を確認した.既往研究では高密度な竹林における抽出精度の低さが課題とされたが,本研究では高解像度のDSMと,適切なWSの設定により,高い精度での樹頂点の抽出が可能であることを示すことができた.

  • 藤山 淳史, 小松 奈々, 松本 亨
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_183-II_194
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究の対象は,乾式オフィス製紙機を用いた地域共創型の紙循環プロジェクトである.この乾式オフィス製紙機は,環境負荷の大幅な削減に寄与し,また障碍者雇用や,近隣学校でのSDGs教育への貢献が期待される.このプロジェクトに対して,本研究では,SDGs評価手法として社会的投資収益率(SROI)の枠組みを援用した方法で実施する.まずSROI値を算出することで,社会的インパクトを評価するとともに,SDGs達成への貢献度評価を行う.SROI値は3.05と算出され,投資額1に対し3倍程度の社会的価値を創出することが推計された.また,アンケート調査によって取得したSDGsへの貢献度を活用し,SROI値をSDGsの目標別に分割することによるSDGsの定量評価手法を提案し,適用した.

  • 張 鉄家, 松本 亨
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_195-II_206
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究は産業共生,特にEco-Industrial Park(EIP)に関連する文献を整理し,EIPの発展に影響する要素を抽出し,国際比較可能な分析フレームを開発し,提案した.そして,日本の北九州エコタウン,中国天津の2つのEIP(経済技術開発区,子牙循環経済産業区)の計3つのEIPを対象に,分析フレームの適用性を示した.また,管理部局の戦略,取り組み及び実態の分類軸に基づいて,3つのEIPを位置づけた.さらに,ステークホルダーマップにより,利害関係者の共生関係を可視化し,3つのEIPの共生実態を明らかにした.その結果,国,自治体(地方政府),EIPレベルの管理部局(管理委員会)の戦略的関与,支援が有効に機能していること,エリア内の自主的組織形成の取り組みも並行して機能していること,それらが産業共生に有効であることを明確にした.

  • 井原 智彦, 杉浦 史弥
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_207-II_214
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     エコドライブの促進は政府のCO2削減策に位置づけられるが,具体的な制度はほとんど存在しない.その中で,東京都の貨物自動車エコドライブ推進制度であるグリーン・エコプロジェクトと貨物輸送評価制度は数少ない具体的な制度であるが,有効性が検証されていない.本研究は交通流シミュレーションと貨物輸送評価制度の評価値の解析により,有効性を検証するとともに,CO2削減効果の拡大策を検討した.その結果,最高速度の抑制を重視し,かつ道路状況に応じてエコドライブを変化させる必要があることがわかった.また,貨物輸送評価制度は,離脱しがちな低評価の事業者を支援する仕組みを導入する必要があること,また食品・廃棄物・総合を取扱物とする事業者は低評価になりがちであるため,車両区分に取扱物の違いも反映させることが望ましいことが示唆された.

  • 金森 有子
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_215-II_224
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     2020年から2021年にかけわが国の温室効果ガス排出削減目標が見直され, 2030年には2013年比で46%減, 2050年には脱炭素社会を目指すことになった. なかでも家庭部門は, 2030年に66%の削減が求められ, 比較的短期間で大幅な温室効果ガスの削減が求められている. 本研究では, この目標の達成に向け, 重要であると言われる要素, すなわち, 省エネ及び電化の推進を想定し, 2050年までの温室効果ガス排出量を推計した. その結果, 計画されている通り大幅に電気の排出係数が低減し, かつ家庭の様々な用途において電化が推進したとしても2030年の削減目標の達成は容易でなく, 現在よりも10%近い需要の低減が必要になることが分かった.

  • 川口 ましろ, 蓬臺 都馬, 中尾 彰文, 吉田 登
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_225-II_236
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,施設園芸における太陽光を主軸とした再生可能エネルギー電力活用モデルの導入可能性を明らかにするため,電力完全自立型と電力自立志向型と二つの志向の異なる事業モデルを想定し,その事業性を評価した.事業性評価では,スケールメリットや将来的なコスト低減に伴う太陽光発電の調達価格変化,地域活用電源制度やJ-クレジット制度活用などを含む政策誘導,太陽光発電設備の容量,ヒートポンプの導入費用,重油価格の各パラメータに対し,複数のケースを設けて試算した.その結果,電力完全自立型では,内部利益率が負値を示し事業性を有するモデルとはならないこと,電力自立志向ではいくつかの条件が整えば内部利益率が13.5%以上となり有効な事業モデルとなることが確認できた.また,想定したすべての事業モデルで,重油価格が事業性に及ぼす影響が大きいこと,定置型蓄電池の調達価格が総コストに占める割合が高いことが明らかとなった.

  • 宮本 真希, 佐々木 嶺, 中尾 彰文, 吉田 登
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_237-II_250
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,トリジェネレーションを含む木質バイオマスの利活用システムとワーケーション拠点施設の連携による事業性および地域経済への波及効果を推計した.本推計では,燃料の種類・ガス化方式・エネルギー回収形態が異なる3つのシステム(500kW規模未満)に組み合わせて,熱供給先としてワーケーション拠点施設の併設を想定した比較ケースを設定した.分析の結果,事業性の評価では,熱電併給システム(Case1-a,Case1-b)が内部収益率:10%以上で,投資回収年数:10年以下であり,トリジェネレーションシステム(Case2-a)よりも有効であることが明らかとなった.地域経済への波及効果では,Case1-bがもっとも大きいことが示された.さらに,条件によってはCase2-aがもっとも大きくなることを確認した.一方,地域経済への波及効果を含めた内部収益率ではCase1-aが19.9%ともっとも高いことが示された.また,比較ケースごとの地域キャッシュフローを把握し,事業の構造を把握した.さらに,本検討が抱えるデータの制約上の課題や改善点を示すとともに対応の方向性を示した.

  • 西山 茉那, 中尾 彰文, 吉田 登
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_251-II_263
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     急速な人口減少などによる厳しい財政状況を抱える地方域では,ごみ焼却施設の更新を見据え,持続可能な廃棄物処理システムへのトランジションを描き,地域実情に応じた廃棄物処理体制のありかたを事前に検討することが求められている.本研究では,複数のごみ焼却施設更新を契機として,紀の川流域を対象に,単なる従来の広域化ブロックの集約化を超えて,既存処理施設の改修による中継施設への機能転換とバイオガス化施設の導入を組み合わせつつ,ブロック内市町が互いに連携し協働する,広域・協働化シナリオを提案し,そのGHG削減効果と事業性を評価した.分析の結果,それぞれの主体がごみ処理の拠点にバイオガス化施設と中継施設を導入したうえで,広域化ブロック内外の発電効率が高いごみ焼却施設でごみを集中処理する協働体制を構築させることが重要であり,そうした構築が実現した場合にはGHG削減効果と事業性を向上させることを定量的に明らかとした.

  • 岩見 聡, 上野 裕介
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_265-II_272
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/06
    ジャーナル フリー

     環境アセスメント等において実施される猛禽類の調査は,主に目視観察や現地踏査により行われている.しかし調査に多くの労力を要しており,かつ発見漏れ等の課題もある.本研究では,効率的・効果的な猛禽類調査のツールとして,複数の地点で長時間録音された音声データから,オオタカAccipiter gentilisの鳴き声を自動で判別・抽出し,その位置を推定するシステム(音声レーダー)を開発した.オオタカの鳴き声の判別と抽出では,3パターン(警戒,餌乞,幼鳥)に分類することとし,スペクトログラム(声紋)の特徴を基に,決定木分析により判別した.さらに鳴き声による個体位置の推定は,音の距離減衰式を用いて,4地点の平面座標と音圧レベルから3元連立方程式を立式し,これを解くことにより行った.鳴き声の判別の適合率(正答率)は学習データで0.8~0.9,検証データで0.5~0.8であった.また,音声レーダーによる推定位置と現地確認の結果は,概ね一致していた.

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