知能と情報
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27 巻, 6 号
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目次
巻頭言
解説
用語解説
  • 皆川 順
    原稿種別: 用語解説
    2015 年 27 巻 6 号 p. 202
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー

    概念地図法(concept mapping)において,地図全体の作成を求めず地図の一部に空所を作り,そこに適切な概念を記入して概念地図を完成させる方法である.ここで概念地図法とはNovak,J.D.が考案した認知構造の外在化法並びに学習支援方略であり,概念群を上位概念から下位概念へと配列し,各ノードの位置にある概念間の関係を線(リンク)で結び,かつリンク上に意味の説明(リンクラベル)を記入することによって完成する.認知心理学における知識表象技法に似るが,基本的に理科教育における学習支援が目的とされる.その後,理科のみならず種々の領域において応用が試みられている.皆川(1997)は概念地図法においては概念間の関係は基本的に決定しているため,むしろ穴埋め課題とした方が概念間関係の把握はより優れる場合があること,さらに空所の割合は全体の50%位の場合が認知構造の再体制化に最適であることを見出し,これを概念地図完成法(concept map completion method)と名づけた.この方法はまた,我が国における通常の小中高校の授業時間を考慮する意味をも有する.即ち,授業時間は通常45~50分ほどであり,Novakの主張する概念地図法の実施自体が困難な状況にある.

    しかし穴埋めは基本的に認知構造の全体的変容を狙うものであり,時間短縮や単なる機械的記憶を奨励するものではない.事実,この未完成概念地図の完成方略に対して学習者が機械的記憶で臨んだ場合,挿入された概念は単に名辞のみが記憶され易く,概念の内包や外延の理解と記憶は成立しがたい.すると概念群の全体的な把握も困難になり,認知構造の全体的変容という当初の目的達成は困難となる.概念地図完成法においても,認知構造変容や学習支援への成否を決定する主要な独立変数は,学習者が新しい内容を学ぶのに必要な構造化された知識を有している度合いであることが確認されている.

  • 山根 宏彰
    原稿種別: 用語解説
    2015 年 27 巻 6 号 p. 202
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー

    病理学的な見地から脳の構造を解明しようという動きは古くから存在していたが,昨今では計算機科学の側面からのアプローチに注目が集まっている.このような背景から,米国では90年代のDecade of the Brainを皮切りにBRAIN Initiative,ヨーロッパではHuman Brain Project,我が国ではBrain/MINDS(革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト)が発足する等,脳機能の解明及び応用に多額の資金及び人的リソースが投入されている.

    「脳のエンコーディング」は,人間の知覚体験や精神活動を計測可能な脳活動に変換することであり,「脳のデコーディング」は,逆に計測された脳活動から,知覚体験や精神活動の再構築を行うことである.近年では,脳計測技術の進歩が著しい.様々な手法があるが,例えばfMRI(機能的核磁気共鳴画像法)は,脳内における数ミリスケールの直方体(ボクセル)で表現される部位の活性度合いを計測することが可能である.このような進歩に伴い,具体的な目覚ましい成果として,脳情報からの視覚像の再構成,思い浮かべている単語の予測,また夢の解読等が実現されている.

    ニューラルネットワークが再び脚光を浴びている現在において,視覚情報処理においては,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて画像認識を行う手法が普及している.音声認識でもCNNが高い性能を示している.言語処理ではword2vec等のニューラルネットワークを用いて単語ベクトル化を行う手法が提案され,広く用いられてきている.特に,これらの情報を統合した,複数の知覚の統合,マルチモーダル化が急速に進みつつあり,脳情報との統合が今後のトレンドになる可能性がある.

    ここで構築された柔軟な知識表現は,汎用的人工知能を構築する上で大きな課題であったシンボルグラウンディング問題の一つの解になるとも考えられる.つまり,「りんご」を字面のりんごだけではなく,画像的,触覚的,比喩的感覚を含めた情報までも同時に扱えるようになると期待できる.これにより,美しさ等の形容詞的,主観的で曖昧な感性的な問いに対しても,以前よりクリアな解が得られる可能性がある.

会告
特集:「ヒューマンインタラクティブシステム」
論文概要
論説
学会から
編集後記
総目次
特集論文: ヒューマンインタラクティブシステム
原著論文
  • 菅原 菫, 加納 政芳
    2015 年 27 巻 6 号 p. 827-834
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    近年,様々な人間共生型のロボットの開発が進んでいる.これまでの多くの研究は,ロボットが人の発話や感情を理解するというインタラクションデザインを採用する場合が多い.本研究では,ロボットが情報発信し,人が理解し返答するというインタラクションデザインに注目し,人の幼児のような発話,すなわち幼児的な発話を活用した心理的インタラクションについて考える.ここで,幼児のように話すことが想定できない外見をロボットが有していると,負の適応ギャップにより違和感を与える可能性がある.そこで本稿では,新生児的な外見を有するロボットを使用し,幼児的発話の許容される範囲を調査する.具体的には,4歳までの音声を用いて新生児的な外見を有するロボットの動画を作成し,無作為な順序で提示してアンケートを行った結果について報告する.
  • ジメネス フェリックス, 吉川 大弘, 古橋 武, 加納 政芳
    2015 年 27 巻 6 号 p. 835-844
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    ロボット関連の技術進展により,学習を支援する場面で活躍する教育支援ロボットが注目されている.このようなロボットの問題点として,学習者がロボットの行動を画一的と感じてしまい,ロボットとの相互作用に飽きてしまう点が挙げられる.一方で,この問題点を防ぐために,Human-Agent-Interaction の分野では,エージェントが感情を持つかのように表情を表出する感情表出モデルが用いられている.実際,ランダムに感情表出するエージェントに比べて,感情表出モデルを持つエージェントは人との相互作用が続くという報告がある.そこで本稿では,感情表出モデルを基に表情の表出を行うロボットが,学習者と共に学習することによって及ぼす心理効果について検討する.
  • 杉本 かい, 加納 政芳, 中村 剛士
    2015 年 27 巻 6 号 p. 845-853
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    本稿では,多出力二分決定グラフ(MTBDD)のための交叉操作を提案し,その基本的な性質を調べるために,交叉操作を導入しない場合と比較を行う.ヒューマノイドロボットの立ち上がり動作の行動則の獲得実験を行った結果,交叉操作を導入した場合の方が,導入しない場合に比べて高い適合度が得られること,より少ない節点数のMTBDDで立ち上がり動作を獲得できることを確認した.
  • 野村 慎之介, 高橋 泰岳, 井上 卓也
    2015 年 27 巻 6 号 p. 854-863
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    近年,力覚的な相互作用を通した人間とロボットの協調動作の研究が多く行われている.その中でも人間の移動や重量物搬送をサポートする倒立二輪型ロボットが提案されており,当研究室でもユーザの意図に応じて制御パラメータを変更するスーツケース型倒立二輪型ロボットの研究を進めてきた.ユーザが力覚的にこのロボットを操作することによって,ロボットがユーザの意図を認識し,認識した意図に応じて制御パラメータを変更し,搬送作業をサポートする.しかし,ロボットの操作方法はユーザによって異なるため,各ユーザの嗜好に合わせ,意図認識パラメータや制御パラメータを学習させる必要がある.また,先行研究では,ユーザがスーツケースを運ぶときの操作動作の数は設計者の直感で決定していたが,意図認識システム上で認識させるべき操作動作の数は一般的に明確でない.本報告では,ユーザがスーツケース型倒立二輪型ロボットを操作した際に取得したセンサの時系列データをクラスタリングし,提案する意図認識システム上で妥当な操作動作数を検証する.また,ロボットにユーザの意図認識パラメータとそれに対応した制御パラメータを学習させる手法を提案し,実ロボットによる実験を通してその有効性を評価する.
  • 轟 千明, 高橋 泰岳, 中村 恭之
    2015 年 27 巻 6 号 p. 864-876
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    上空からの自律的な情報収集システムとしては,気球や航空機を使うシステムが提案されいるが,気球を使うシステムはヘリウムガスの常備を必要とし,展開に比較的長い時間がかかり,ヘリウムガスを扱うために専門家が必要であり,風が強い時に飛ばすことができない.また,航空機を使うシステムは短時間で展開が可能であるが,燃料の制限により長時間の活動が困難である.本研究では,バルーンや航空機を用いる他の上空からの情報収集システムを補完し,簡便に利用可能で長時間の活動が可能であり,自然エネルギーである風力を利用するカイトをモデルとしたシステムを提案し,テザー係留型飛行ロボットとして,実ロボットの製作とその飛行実験を行っている.また,実ロボットによる実環境における実験を繰り返し,制御器を設計することは自然の風状況を制御できずに困難である場合が多いため,シミュレータも開発している.
     論文[1]では,人の操作を規範とした制御方策を獲得するために3入力1出力のファジィ制御器を設計し,実ロボットによる飛行実験では,設計者が定義したファジィテーブルを用いたファジィ制御を行ったが,このファジィテーブルは実際の人の操作と異なる可能性がある.また,ファジィ制御におけるメンバーシップ関数のラベル数が増えるとルール数が増え,これら全てを人手で定義することも困難である.そこで,本稿では人の操作データを用いたファジィ制御パラメータの学習手法を検証する.人の制御方策を反映するために3入力1出力のファジィ制御器を用いたが,環境を表す情報が少なく,人が操作するようにテザーラインの長さを延長する制御が学習できなかったため,風が変化する環境ではロボットを安定して制御できなかった.
     本稿では,人の操作を規範とした制御方策の獲得を目指し,ファジィ制御パラメータの学習の他に,重み付きk近傍法,人工ニューラルネットワークを用いる.ファジィ制御パラメータの学習は,人の操作を規範とした制御方策を獲得するために,4入力1出力のファジィ制御器に拡張し,それぞれの手法により設計した制御器の性能をシミュレーションを通して検証する.また,検証の結果,最も人の制御方策を反映した重み付きk近傍法は全ての学習データを探索するため,学習データが多い場合に処理が重くなる短所を持つ.そこで,探索に用いる学習データ自体を削減する手法を提案し,シミュレーションを通して有効性を示す.
  • 竹山 大貴, 加納 政芳, 松井 藤五郎, 中村 剛士
    2015 年 27 巻 6 号 p. 877-884
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    近年,被災地や宇宙などの危険な環境でロボットが活躍している.しかし,この様な環境下では突然ロボットが危険な状態に陥り,人からの危険回避命令が間に合わない場合がある.したがって,ロボットには自律的に危険回避行動を獲得することが求められる.これを実現する手法として強化学習を用いることが考えられる.本稿では,危険を回避するための新しい強化学習の枠組みとして,成功確率に基づく強化学習(Probability based Reinforcement Learning)を提案し,ロボットの行動獲得に適用する.
  • 星川 英, 迫田 辰太郎, 山野井 佑介, 加藤 龍, 森下 壮一郎, 中村 達弘, 關 達也, 姜 銀来, 横井 浩史
    2015 年 27 巻 6 号 p. 885-897
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    筋電義手は上肢機能を再建するものとして,必要な生活動作を実現できることと,軽量で装着者への負担が少ないことと,耐故障性が高いことが要求される.そのため,義手の把持機能を維持しつつ,システム全体を簡素化する必要がある.我々は,示指と中指のMP関節と,母指CM関節との2自由度で,日常生活動作(ADL)で使用頻度の高い把持姿勢(握力把握,精密把握,側面把握)を可能とする義手を開発している.手指の形状が,把持可能な物体の形状や把持力などの把持機能に影響を及ぼすため,モデル化と実験による最適化を行うことで,日常生活に必要な把持姿勢に適した手指形状の探索が必要である.本研究は,2自由度義手のモデル化を行い,7種類の手指形状を持つ義手のPick-and-Place実験を行い,対応分析により把持機能の高い手指形状を決定した.さらに,上肢切断者による実験で,手指形状の妥当性と軽量化の効果を検証した.
  • 山本 紗織, 竹内 勇剛
    2015 年 27 巻 6 号 p. 898-908
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    人はエージェントの行為によって利益を得たとき,無意識的に相手に対し返報義務を感じることが示唆されている.しかし返報義務感の影響を考慮したHAI研究は充分に発展していると言い難い.本研究ではエージェントが援助の意図をもつと思わせにくい援助方法を提案することで被援助者に心理的負担を与えず支援することのできる援助方法の設計を目指した.またこの援助方法を実現するため,エージェントは被援助者が目的を達成しようとする行為と異なる方法で目的達成を援助するアプローチをとった.実験の結果,被援助者はエージェントの振る舞いが自分の目的達成と無関係であると感じたときに返報を行いにくくなることが示唆された.本研究の成果はエージェントが社会に浸透した際,人の生活や作業をより円滑に援助することに寄与すると期待される.
  • 本吉 達郎, 掛橋 駿, 増田 寛之, 小柳 健一, 大島 徹, 川上 浩司
    2015 年 27 巻 6 号 p. 909-920
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    本稿では,プログラミング教育支援用ツールであるP-CUBEの視覚障害者向けのシステム改良,および初学者に対するプログラミング学習用ツールとしての有用性を検証し報告する.
     P-CUBEは,視覚障害者を含むPC操作に慣れないユーザがプログラムの基本的な構造を学習するためのツールである.プログラム要素に対応した木製のブロックをプログラムの構造に応じて並べることで,ブログラミング対象を制御するプログラムを作成できる.これまで,視覚障害者を対象としたプログラミング体験授業などを通じてP-CUBEの問題点を洗い出し,ブロックのデザインやプログラミング操作手順の改善に取り組んできた.プログラミングブロックは視覚障害者が手触りで判別しやすく,また,はめ込み方向を知覚しやすいように改良した.改良したプログラミングブロックを用いたプログラミング体験授業を実施し,視覚障害者,晴眼者の双方から評価を得た.さらに,改良したP-CUBEと従来のプログラミングツールを比較するプログラム学習トレーニング実験を実施し,トレーニング期間やトレーニング後の被験者のプログラミング課題達成の様子,ツールの操作状況を分析,評価した.
ショートノート
  • 越野 亮, 山本 晃平
    2015 年 27 巻 6 号 p. 921-925
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    コミュニケーションにおいて,言葉以外の感情などの表現は重要な役割を果たしており,計算機による感情認識の研究が行われている.本研究では,短時間の強い感情であり行動や生理の変化などに表出される情動について認識を試みた.一般的な服と変わらず扱うことができる感圧導電性衣服を着用することで,非言語的行動である身体の動きを計測した.感情を快適性と覚醒性の2つの軸で表すラッセルの円環モデルにより感情を記録した.計測した身体の動きと記録した感情から,機械学習による感情の認識を行った.
一般論文
原著論文
  • 蒋 錦賽, 馬野 元秀
    2015 年 27 巻 6 号 p. 926-935
    発行日: 2015/12/15
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    データマイニングはデータベースに蓄えられた大量のデータから有用な知識を取り出して有効に利用しようというものである.しかし,個人情報が含まれるデータベースを対象とする場合には,プライバシーを保護しながらマイニングを行う必要があり,プライバシー保護データマイニングの技術が近年注目されている.本論文では,プライバシーを保護しながら同じ属性を持つ分散データからデータ全体としてのファジィルールを抽出する方法を提案する.提案する方法は分散データを1ヶ所に集めなくてもよく,計算過程に必要な値だけを1つの場所に転送して,すべての分散データが存在している場所でデータ全体としてのファジィルールを抽出する手法である.そして,各分散データから抽出したルールとデータ全体のルールを比べることにより,各分散データにおける特徴を表現できる.UCIの機械学習リポジトリのワインデータを用いてシミュレーションを行った結果を述べる.
ショートノート
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