脳外科領域における意識障害患者の栄養管理は,患者に食餌摂取の意欲がなく,咀嚼・嚥下障害を伴ない,更に飢餓感や喝感などの摂食・摂水調節機構が障害されているため,人為的栄養補給に依存しなければならない。このため,チューブ栄養が広く一般に採用されている。私共も意識障害発生後早期から積極的にチューブ栄養を実施しているが,このような患者は, 1日約1,700 Cal.程度の低カロリーのチューブ栄養食だけで良好な栄養状態を保ち,驚くほど長く生命を維持している場合が多い。私はこの事実に着目し,主として蛋白代謝の面から検討した。先ずRISA吸収試験から意識障害患者の蛋白吸収能を調べ,吸収能の減弱があることが判った。次にチューブ栄養施行時の窒素出納を検討し,意識障害発生後極く早期においては負の平衡にあるが,約2週間後には正の平衡に転じ,長期意識障害患者では安定した正の平衡を保ち続けていることが判った。更にこのような特殊環境において,体蛋白,殊にAlbuminの動態を検索するために, RISAを用いてAlbumin tumoverを調べた。その結果,半減期の延長と交替率の低下が認められた。このことはAlbuminの代謝速度が低下し,体蛋白の分解と合成が緩慢に行なわれていることを示している。また, Albuminの代謝プールの大きさは,意識障害患者においても正常例と変りなく,意識障害を伴なわない低栄養(飢餓)時とは異った代謝関係にあることが判った。以上の如く,意識障害時においては,低栄養にも拘らず良好な栄養状態を保ち,長く生命を維持し得るような代謝調節機構が働き,平衡状態を保っているものとみられる。
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