食道胃接合部の機能は最近とくに重視されてきたが,手術による影響の定量的な研究は乏しく,また消化管ホルモンの関連も重視されるようになつた.そこで私はLower Esophageal Sphincter (LES)の機能の,疾患による変動,手術前後の比較,ガストリン,セクレチンによる影響を検討した.研究方法は,現在最も詳細な内圧測定可能なinfusion法を導入したopen tip法を応用, differential transformer typeのtransducerを介して記録した.
まず,食道裂孔ヘルニアでは術前LESの緊張低下があるが,ガストリンに対する反応はほぼ正常,食道アカラシアではLESの過緊張,ガストリンに対する過敏性を示した.手術により, LESの緊張は前者では高まり,後者では緩和されたが,いずれも嚥下性弛緩不全が残り,現在の術式には批判の余地のあることが知られた.
胃癌における胃全摘のごとく, LESに対する直接侵襲後の機能低下は著しく,良性疾患では可及的LESの温存に努めるべきことが明らかとなつた.
神経性因子として各種の迷切の影響をみると,その程度により軽度のLESの緊張の低下が認められた.ガストリンに対する反応性は良好であるが,軽度の嚥下性弛緩障害が認められたことも注目すべき点であつた.
幽門側胃切後にLESの緊張の軽度低下が認められたが,これは体液性因子の影響と考えられ,ガストリンに対する反応性は高くなつていた.
セクレチンの投与により,ガストリンの影響が抑制される傾向が認められたが,全般的にLESに対する作用はガストリンが主体と考えられる成績を得た.
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