消化性潰瘍の発生には,粘膜を中心に攻撃因子と防禦因子の均衡の失調という概念が重視されている.胃粘膜の防禦因子については, Davenportのいう胃粘膜関門gastric muco-sal barrier (GMB),胃内腔から胃粘膜へのH
+イオンの逆透過H
+ back diffusion (HBD)の変動が注目されている.著者はIvey, Skillmanらの方法(第1法)と,胃液採取法に十二指腸内容の逆流を防止するため独自に考案したballoonつきのtubeを用いた変法(第2法)とによって,胃潰瘍,十二指腸潰瘍とその選近迷切(SPV)術後などの症例を対象としてHBDの測定を行った.
その結果,第1法では胃潰瘍, SPV術後などでHBDの増加,また十二指腸潰瘍では経幽門喪失量,酸分泌量の増加などが認められた.
しかし,この方法では測定上問題を多く含むので第2法を考案した.十二指腸内容の逆流を可及的に防止した第2法では,明らかに採取液に十二指腸内容の混入を認める例が殆んどなくなり,経幽門喪失量も全般的に著明に減少した.胃潰瘍例では,非壁細胞性分泌の増加,十二指腸潰瘍例における壁細胞性分泌の増加は認められた.しかしHBDはいずれも対照例とほぼ同様な値を示し,第1法で得られた胃潰瘍とSPV術後例におけるHBDの増加は認められず, HBDの面からは積極的にGMBの障害を示す成績は得られなかった.
Ivey, Skillmanの測定法では,十二指腸内容の混入があると,算出上HBDの値が大きくなる危険を含んでいる.この方法によって,胃潰瘍におけるHBD増加の結果を示した先人の成績は著者の第1法と同様に,少量の十二指腸内容逆流によることを否定できない.この点より臨床例におけるHBDを介してのGMBの研究には,誤差の多いIvey, Skillmanらの方法には限界があり,新しい観点からの方法の開発が必要であると思われる.
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