日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
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44 巻, 7 号
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  • 1983 年 44 巻 7 号 p. 762-794
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
  • 1983 年 44 巻 7 号 p. 795-832
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
  • 川原 克信, 君野 孝二, 田川 泰, 石橋 経久, 高田 俊夫, 母里 正敏, 江口 正明, 中尾 丞, 綾部 公懿, 中村 譲, 富田 ...
    1983 年 44 巻 7 号 p. 833-838
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1955年より1981年までに教室で経験した乳癌根治術後の局所皮膚再発症例について臨床的に検討した.
    局所皮膚再発の頻度は,同期間内における根治術施行例390例中15例3.8%で,結節型6例,散布型6例,びまん浸潤型2例,再発形式不明1例であった.
    Tおよびn因子別では,結節型はT2, n0症例に,また散布型,びまん浸潤型はT3, T4, n2, n3症例に多くみられた.
    組織型別には,硬癌に最も多く8.6%, 次いで髄様腺管癌4.6%, 乳頭腺管癌2.2%であった.
    乳癌根治術より局所皮膚再発々現までの無病期間は結節型では平均27.6ヵ月,また散布型では平均16.8ヵ月で,結節型,散布型の1年未満再発例は11例中1例のみであるが,びまん浸潤型では無病期間は極めて短く, 2例ともに2ヵ月以内であった.
    治療は,結節型では生検をかねて腫瘤を切除後, 6例中4例に胸壁に放射線照射を行い,遠隔転移のみられない症例では15~24ヵ月再々発をみない.又散布型では6例に放射線照射を行い, 4例に腫瘤の消失ないし縮小を認め放射線療法の有効性をうかがい得たが,びまん浸潤型では照射野外への腫瘤の拡大と遠隔転移の出現により十分な照射を行うことができなかった.
    遠隔転移は10例にみられ,うち肺,胸膜,骨転移が多く,結節型にくらぺ,散布型,びまん浸潤型の予後は不良であった.
  • 中口 和則, 高塚 雄一, 今本 治彦, 山本 秀樹, 河原 勉
    1983 年 44 巻 7 号 p. 839-845
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当施設における過去20年間の乳癌治癒手術652例のうち,現在までに再発が確認されたものは107例(16.4%)であり,そのうち再発後5年以上生存し得たものは7例(10年以上は3例)であった.今回は,特にこれら長期生存例を臨床病理学的に分析し,乳癌再発後の長期生存に関与する因子について検討した.
    再発後5年以上の生存例の初回手術時の平均年齢は40.1歳であり,再発例全体の50.6歳に比べて10歳程若年に傾いていた.また,これら5年以上の生存例7例中6例(85.7%)の臨床病期はSt. II以下で,全例がT2以下の比較的早期例であった. n因子に関しても83.3%がn1α以下であった.初発再発部位と再発後生存期間の関係では,局所皮膚,リンパ節再発,骨・肺の遠隔臓器転移に5年以上の長期生存例がみられるが,胸膜・肝・脳,複数臓器転移の予後は不良であり,全例が3年未満で死亡していた.特に肝転移例では1年以上の生存例は1例も認められなかった. Free Intervalを早期(2年まで)中期(2~5年)晩期(5年以上)に分けると,再発後の予後良好な局所皮膚再発,骨・肺転移では中期,晩期再発もみられたが,予後が不良な胸膜・肝・脳転移においては初期再発の割合が高く,晩期再発は認められなかった.初回治療に対する有効率と再発後の予後に関して,複数臓器転移を除いては,初回治療が有効であったものは無効例に比して再発後長期生存の可能性が大であり,再発後3年以上生存例の92.3%は初回治療有効例であった.
    以上より,手術時の年齢が50歳未満のもの,臨床病期II, T2, n1α以下のもの,局所皮膚,リンパ節再発例,骨転移例,特に初回治療に反応した肺転移例, Free Intervalの長いものは長期生存の可能性があり,再発後も積極的に治療すべきであると考える.
  • 千見寺 徹, 横山 正之, 真島 吉也, 奥井 勝二
    1983 年 44 巻 7 号 p. 846-853
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    日常ルーチンに調べられている検査項目の中に正確な栄養状態評価の可能性を見い出すべく,これらと栄養状態の把握に用いられている肝分泌タンパク,身体計測値間の相関を検討し次の結果を得た.
    1. 血清PreAlb値は, Alb (r=0.48, p<0.025), Hb, TLC (共にr=0.68, p<0.001), AMA (r=0.48, p<0,025)と有意の正の相関を示し, PreAlb 20mg/dl以下の症例では, Alb 3.2g/dl, Hb 12.1g/dl以下, TLCは1,000~1,200/mm3と推定された.
    2. 血清TF値は, TIBCと強力な正の相関(r=0.87, p<0.001)を示した他, Alb (r=0.41, p<0.025), Hb (r=0.39, p<0,05)と正の, TFの飽和度(r=-0.47, p<0.01)と負の相関を示し, TF 200mg/dl以下では, Alb, Hbはそれぞれ4.0, 12.8g/dl以下と考えられた.
    3. TLCは,皮内反応の結果を正確に反映し, TLC 1,200/mm3以下の症例では80%がアネルギーを示し, 2,000以上では89%が正常であった.
    4. 身体計測値ではAMAがPreAlb (r=0.40, p<0.025)およびHb (r=0.61, p<0.001)と有意の相関を示し, PreAlb, Hbの低下は体タンパク質の消耗を示唆するものと考えられた.
    以上より, REEの著しい上昇のない患者では, Hb, Alb, TIBC, TLCより栄養状態の正確な把握が可能であると考えられた.
  • 飯島 崇史, 三輪 恕昭, 折田 薫三
    1983 年 44 巻 7 号 p. 854-861
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌の非治癒手術の理由の中で最も多く,治癒手術後の再発形式として最も多い腹膜播種は,従来より外科医にとって悩みの種であり,特別有効な手療手段が開発されていない現在においてもその悩みは同じく続いている.しかし胃癌の治療成績向上の為には,我々はこの問題を克服しなければならず,避けて通ることは許されない.
    現在までに,胃癌の腹膜播種に関して数多くの研究がなされており,その一部を整理紹介することにより,今後の治療法開発の一助としたい.まず,腹膜播種の発生機転を, (1) 癌細胞の漿膜面への進展・露出, (2) 腹腔内への剥離, (3) 腹腔内での移動,生存, (4) 着床, (5) 増殖の5段階に分け,各段階における治療法の可能性も含めて紹介し,最後に治療の現況についても紹介する.治療法も,腹腔内撒布の予防,遊離癌細胞に対する直接薬剤投与,腹膜への着床防止等について順次述べてゆくが,最も確実な効果が得られそうなのは,撒布の予防であり,今後この方面での開発が待たれる.
  • 特に適応症,施行前後合併症,臨床検査成績などについて
    陳 鋼民, 末広 和長, 小野 一広, 河島 浩二, 林 宏, 坂口 勲
    1983 年 44 巻 7 号 p. 862-865
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    近年,高カロリー中心静脈栄養法は急速に臨床上各分野に広く応用されている.特に消化器外科,小児外科領域において術前後の栄養管理治療上欠くぺからざる手技と知識の一つである.一方中心静脈栄養施行前後の合併症も注目されている.施行前後の厳重な管理と合併症発生後の適当な対策は本法施行中重要な課題である.
    今回,我々は最近3年間において経験した中心静脈栄養124例について施行前後の適応症,臨床検査成績などまた若干文献考察を含めて検討した.
  • 当科における手術症例の検討
    巾 秀俊, 柳沢 正弘, 佐々木 忠, 太田 実, 田村 進, 長谷川 洋一, 千保 純一郎, 亀谷 寿彦
    1983 年 44 巻 7 号 p. 866-870
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    自然気胸は治り易いが再発し易く,治療法も統一されていない.我々は本学第一外科における最近6年間の手術治療を分析し,本症の手術適応などについて検討した.
    1976年1月から1982年12月までの6年間に手術治療の行なわれた自然気胸は48例で,手術回数は53回であった.気胸発生部位は右側23例(47.9%),左側21例(43.8%),両側4例(8.3%)であった.年齢別では20歳代が17例(35.4%)と最も多く次いで10歳代12例(25%), 30歳代9例(18.8%)などであった.男女別では男性が圧倒的に多く45例(93.8%)を占めていた.発生回数では,2回が20例(37.7%)と最も多く, 1回(初回),及び3回が夫々15例(28.3%)と続いていた.手術決定要因は, air leakage持続39.6%,再発及び本人の希望30.2%,嚢胞の存在15.1%などであった. air leakage持続については初発例は66.7%を占め, 2回及び3回以上の発症例では夫々40%, 16.7%となっており, 3回以上の症例では再三の発症及び本人の希望が過半数の66.7%を占めていた.一方嚢胞の破裂が本症の原因であるとほぼ認められているにも拘らず嚢胞の存在のみでの手術施行例は15.1%と低率であった.
    本研究より我々の本症に対する手術適応はair leakage持続例,再発例で嚢胞が存在する症例, 3回以上の再発例などであった.しかし初発例では保存的療法が奏効する余地が充分にあり,嚢胞の存在の有無に拘らずair leakage持続例以外は保存的療法を行なう方針である.
  • 山田 紀彦, 小切 匡央, 吉田 泰夫, 北村 脩
    1983 年 44 巻 7 号 p. 871-876
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    術後食道吻合部狭窄は経口食事摂取が不可能になり,その治療には難渋することが多い.今回我々はMIS硬性ブヂー及び食道バルーン拡張カテーテル(米国Medi-Tech社製)を使用して経口的ブヂナーゼを食道吻合部狭窄2症例に行い良好な結果を得たので手技上の工夫を含めて報告する.
    症例1. 60歳男性:食道静脈瘤にて経腹的食道離断術(EEA使用)を行ったが,術後3ヵ月頃より長軸変位を伴う食道吻合部狭窄をきたした. 38号guide wireにメトラチューブを用いて方向づけを与えて狭窄部を通し,このguide wireにMIS硬性ブヂーをかぶせて挿入することによって狭窄部を通してブヂナーゼを行うことが出来,その後10余回の治療を行ったが食道粘膜よりの出血もなく軽快退院せしめ得た.
    症例2. 69歳男性:中部食道癌にて食道亜全摘,胸骨後食道胃管吻合を行ったがleakageをおこし,術後3カ月目に吻合部狭窄を来し,最小径硬性ブヂー挿入も全く不可能であった.そこで食道バルーン拡張カテーテル(米国Medi-Tech社製)を挿入し, Inflated OD 6mmより開始Inflate圧→30~60 (atm)にて拡張を行い,その後径を大きくしてゆき軽快退院せしめ得た.以上の結果から食道狭窄にはまつ食道バルーン拡張カテーテルを行い,ある程度ブヂナーゼ効果が出来たら硬性ブヂーで更に拡張を行うのがよいと思われる.
  • 埜口 武夫, 斉藤 光
    1983 年 44 巻 7 号 p. 877-882
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当科の胃癌手術症例359例のうち胃癌取扱い規約に基く特殊型胃癌は,腺扁平上皮癌1例, 0.28%であった.
    症例は42歳,主婦,下血にて発症した.近医で諸検査を受けたが出血源は不明とされ, 6ヵ月後背部痛を伴うようになって再度検査を受けた結果,胃粘膜下腫瘍を疑われて当科へ紹介された.
    当科入院時貧血が著明であり, X-P, 内視鏡で胃体上部大変に潰瘍を伴った隆起性病変を認め,生検により胃の腺扁平上皮癌と診断された.
    開腹時,腹水少量を認め,細胞診Class Vであった.手術時所見MC, Maj, Borrmann 1, P0H0S2N4, 肉眼的進行度Stage IVの進行癌に対しReductionの目的で胃全摘を行い,延命効果を期待した.切除標本の病理組織学的検討により腺扁平上皮癌が確認された.術後OK-432及びLinac 3,800 Rの照射を行ったが,徐々に腹水貯溜を認め,全身状態不良となり,術後2ヵ月にて死亡した.穿刺腹水細胞診にてClass Vであり,癌性腹膜炎と考えられた.
    以上の胃腺扁平上皮癌の一手術例について若干の検討を加えて報告した.
  • 前田 正司, 長谷川 洋, 池沢 輝男, 中神 一人, 仲田 幸文, 早川 直和, 二村 雄次, 弥政 洋太郎
    1983 年 44 巻 7 号 p. 883-889
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝転移を伴う胃カルチノイドの2例を経験したので,本邦の胃カルチノイド126例の検討を加えて報告する.
    症例1. 64歳,男.主訴:腹部膨満.嘔吐.胃前庭部の胃癌と診断し,胃切除を行なった.肝両葉に拇指頭大以下の転移巣を認めた(S3N2P0H2). 腫瘍は90×45mmのBorrmann 2型で,組織学的にはGrimelius染色陽性, Masson-Fontana染色陰性のカルチノイドと診断された.術後1年5ヵ月後,増大した肝転移巣にADMとMMCのone shot動注を行なったところ,全身状態の改善と肝腫大および肝転移巣の縮小を認めた.術後1年8ヵ月現在生存中である.
    症例2. 49歳,女.主訴:吐血.胃体部の胃癌と診断し,手術を行なった.腫瘍は3cm大で,肝両葉に鶏卵大以下の多数の転移を認め,胃楔状切除を行なった.組織学的にはGrimelius染色陽性, Masson-Fontana染色陰性のカルチノイドであった.術後にADMとMMCのone shot動注を行なった.α-フェトプロテインは術前の800ng/mlから50ng/mlと低下し,肺転移と思われる臨陰影と20×16mmから10×10mmに縮小した.術後2年2ヵ月後,残胃に局所再発を認め,再開腹したところ,肝転移巣も縮小していた.
    本邦の胃カルチノイド126例を集計し検討した.全体で48%に転移を認めた.壁深達度smで20%, 大きさ1.1cm以上2cm以下で30%と,比較的早期で小さな腫瘍でも高頻度に転移を認めた.肝転移は27%で胃癌の肝転移より高頻度であった.肝転移例の予後は不良で死亡例の半数は3ヵ月以内で死亡し,平均生存月数は6.7ヵ月であった.最長生存例は3年であった.しかし,たとえ肝転移があっても,可能なかぎり原発巣は切除した方がよいと思われる.
  • 急性化膿性胆管炎15例の検討
    曹 桂植, 中作 修, 藤堂 泰造, 森本 修, 加藤 保之, 金 義哲, 西野 裕二, 青木 豊明, 曽和 融生, 梅山 馨, 中塚 春樹
    1983 年 44 巻 7 号 p. 890-896
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    著者らは急性化膿性腸管炎症例15例に対して,積極的な胆道外瘻術ならびに抗生剤の投与を原則として行った.胆道外瘻術としては感染胆汁の排出,胆道内圧の減圧を目的として,できるだけ侵襲の少ない経皮経肝胆管ドレナージ術(以下PTCDと略す)を行った.しかし,胆管炎由来の肝膿瘍が形成された症例では胆道外瘻術ならびに積極的な抗生剤の全身投与を行っても胆道感染症状は軽快せず,重篤な合併症を併発して死亡する例も少なくなかった.
    最近,著者らが経験した症例は54歳,男性,悪感を伴う発熱,黄疸,上腹部痛を主訴とした胆管癌術後症例(肝左葉切除,肝内胆管・空腸吻合術)で,多発性肝膿瘍を伴う急性化膿性胆管炎の発生をみたので,ただちに胆道外痕術と抗生剤の全身投与を行った.しかし弛張熱,白血球数増多,多発性肝膿瘍が消失しないため,抗生剤の肝動脈内注入を試みたところ,著明な全身状態の改善,多発性肝膿瘍の消失がみられた.急性化膿性胆管炎症例15例を検討するとともに他発生肝膿瘍例の治療に抗生物質の肝動脈内注入療法が極めて有効であることを強調して、若干の文献的考察を加えた.
  • 青柳 和彦, 木村 信良, 嘉和知 靖之, 三島 好雄, 岡村 経一, 小松 文夫
    1983 年 44 巻 7 号 p. 897-903
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹膜偽粘液腫の長期経過中に自己免疫性溶血性貧血Autoimmune hemolytic anemia (AIHA)を合併した稀な症例を経験したので報告するとともに,腹膜偽粘液腫とAIHAの相互関係や輸血の問題点について考察した.
    症例は80歳の主婦. 10年前に右卵巣嚢腫を原発とする腹膜偽粘液腫の手術を受けたが,再発して巨大な腹壁瘢痕ヘルニアを形成したので根治手術の目的で, 1981年6月当科へ入院した.患者は高度の溶血性貧血があり, Coombs試験陽性,非特異性赤血球抗体が存在するAIHAで,輸血は危険と考えられた.しかし,入院間もなく腹壁ヘルニアが破裂し腸管が脱出したので緊急手術を施行した.その際,血圧降下のため緊急止むを得ず,ステロイドの併用下に輸血したところ,予期された副作用はみられず,救命退院せしめることができた.
    本例は卵巣嚢腫由来の腹膜偽粘液腫の長期経過中に,そのムチン物質が抗原として続発性自己免疫性溶血性貧血を発生した可能性があり,免疫学的に興味深い,
    また, AIHAに輸血は禁忌とする論も多いが,文献的考察と今回の経験から緊急止むを得ない場合には,ステロイドや免疫抑制剤とともに最少必要量を輸血することは,必ずしも禁忌ではないと考えられる.
  • 吉田 博, 猪苗代 盛貞, 菊池 信太郎, 多田 隆士, 森 昌造, 冨地 信和, 高山 和夫
    1983 年 44 巻 7 号 p. 904-911
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    直腸に発生する平滑筋肉腫はまれで,文献的に我々が集め得た限り67例の報告があるにすぎない.我々は経験した本症の1例を報告するとともに,自験例を含め68例の統計的観察を行い文献的考察を加えて報告する.
    症例は45歳,女性.肛門部の腫瘤を主訴に来院した.家族歴では父が大腸疾患で手術を受けている.既往歴には特記事項はない.肛門部には3×4cmの楕円形を呈した腫瘤が肛門管より突出する様にあり,直腸指診で肛門縁より5cm口側にその上極を触知した.腫瘤よりの生検で平滑筋肉腫の診断を得た.手術は腹会陰式直腸切断術を施行,摘出標本では腫瘤は4.6×6.5×3cmで,肛門管,下部直腸に位置し,頂部に浅い潰瘍を伴なっていた.術後5カ月目にそけい部,局所再発を来し,リンパ節郭清,放射線療法を施行したが,肝,肺転移を来し,化学療法の効果なく初回手術後1年6カ月で死亡した.
    自験例を含め68例の報告例を検討すると,本症は50歳, 60歳に多く,平均年齢は55.7歳であった.主な臨床症状は出血,血便が多く次いで排便困難,腫瘤触知であった.腫瘤の占居部位は肛門縁から6cm以内のものが41例であった.腫瘤に潰瘍を伴う症例が52例中31例であったが,腫瘤の大きさと潰瘍の有無をみたが関連性はみられなかった.手術は69%に直腸切断術が施行され,腫瘤摘除のみの症例は16%であった.予後をみると肝7例,肺3例,リンパ節3例,局所3例に再発をみている.
    本症の発生頻度,年齢,性,臨床症状,占居部位など欧米の報告とほぼ同様であった.そして予後も欧米と同様で,本症の治療にあたり,その生物学的特徴をよく把握し,十分な手術と,術後の注意深い経過観察が必要であるが,さらに有効な化学療法の開発が望まれる.
  • 森本 泰介, 粟津 篤司, 田代 久夫, 樽見 隆雄, 大和 俊夫, 中川 正久, 井田 健, 中瀬 明, 曽田 一也
    1983 年 44 巻 7 号 p. 912-918
    発行日: 1983/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    後腹膜より発生した嚢状リンパ管腫の1例を経験した.症例は63歳の女性で偶然腹部腫瘤を指摘されて来院した.腫瘍は腹腔動脈幹付近の後腹膜より発生し, Winslow孔後面を通って右側に発生した単房性リンパ管腫と,胃小弯側に沿って噴門から幽門にかけて発育した多房性のもの,及び横行結腸間膜に発生したものが合併した症例であった.他臓器との剥離は容易であり,この3つの腫瘤を個別に摘出した. 1981年までに本邦で報告された60例と自験例の計61例につき,文献的考察を行った.後腹膜より発生したリンパ管腫は報告も少く,そのほとんどが嚢状であり,他の部位に発生するリンパ管腫とは若干異なっている.その年齢分布を見ると,生後5日目から66歳に至る全年齢層にわたっているが,最近では小児報告例が増加している.男女差はなく,無痛性腫瘤に気付いて診療機関を訪れる症例が約半数で,次いで嚢腫内に感染,出血等を来して疼痛を訴えるものが約1/3であった.術前診断を後腹膜腫瘍としている症例が約半数であるが,最近の画像診断技術の発達とともに診断が正確になって来ている.大半は全摘出に成功しているが,発生部位,他臓器との関係により部分切除あるいは姑息的手術にとどまった症例もあった.腹部腫瘤を認めた症例で, CTスキャン,超音波診断等で,均一なwater densityの嚢腫状病変を認めた場合,本症を念頭に置く必要があると考える.
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