環境科学会誌
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22 巻, 5 号
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一般論文
  • 吉田 喜久雄, 手口 直美
    原稿種別: 一般論文
    2009 年 22 巻 5 号 p. 317-328
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
    現在,わが国でも様々な化学物質のリスク評価が実施されている。しかし,評価された物質数は限られている。このため,数万に及ぶとされる化学物質のリスク評価を加速する必要があるが,モニタリングデータに基づく現行の評価方法は,利用可能な情報がない多数の化学物質,特に食品経由の経口暴露が主体の疎水性で低揮発性の物質には適用できない。そこで,数理モデルを用いて,農作物及び畜産物中の化学物質濃度を地域特異的に推定する手法を検討した。先ず,全国の5km×5kmメッシュ別大気中濃度の空間分布から,植物モデルと独自に導出した濃度補正係数を用いて,メッシュ内の個別農作物中の化学物質濃度を推定し,さらに,地理情報システムを用いて,メッシュ内の農用地利用率から市町村別に個別農作物中推定した。さらに,同様の手法により,メッシュ内の飼料作物中の化学物質濃度を推定するとともに,市町村別の飼料作物収穫量と肉用牛及び乳用牛の飼養頭数を基にメッシュ別の給与粗飼料量を推定し,これらから個別畜産物中濃度を推定した。推定された3種の農作物と3種の畜産物中濃度を生産地が明らかな農作物と畜産物中濃度測定値と比較した結果,ほぼ1/6から8倍の精度で推定が可能であることがわかった。これらの検証結果から,限られた情報から化学物質の農作物及び畜産物中濃度を地域特異的に数理モデルにより推定することは可能と考えられた。今後は,個別の農作物と畜産物の生産地から消費地への流通データと組み合わせることにより,消費地ごとの一般住民の農作物及び畜産物経由の摂取量推定が可能となると考えられる。
  • 康 峪梅, 大谷 真菜美, 櫻井 克年
    原稿種別: 一般論文
    2009 年 22 巻 5 号 p. 329-335
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
    クロム(Cr),銅(Cu)およびヒ素(As)を主成分とした木材防腐剤CCAは日本で40年ほど前から使用されてきた。現在その廃材の大量排出が問題となっている。しかし,CCA廃材の非適切な扱いによって土壌に混入したCCAの挙動や周辺環境への影響についてはほとんど報告されていない。本研究では,CCAが混入した土壌のCr,CuおよびAs含量と形態,さらにその土壌に生育していた植物を分析し,CCAの土壌環境中での挙動について検討した。
    高知県内にあるビニールハウス解体後のCCA処理廃材置き場で土壌と植物を,またこの地点から約20 m離れた自然林で対照試料の土壌と植物を採取した。土壌の全Cr,Cu,As含量,塩酸可溶性含量を測定し,さらに逐次抽出法を用いて三元素を分画し定量した。植物については全Cr,Cu,As含有率を測定した。
    廃材置き場内で採取したすべての土壌は対照試料より高いCr,CuおよびAs含量を示した。その内廃材焼却跡地で採取した土壌は全Cr,CuとAs含量がそれぞれ3450, 2310と830 mg kg-1と極めて高い値であった。この土壌について塩酸浸出並びに逐次抽出を行った結果,Asの約14%が可溶性画分に,また約50%が可動性画分に存在し,溶出しやすいことが示唆された。Cuは可溶性と可動性画分にそれぞれ4.1%と66%が測定され,土壌のpHや酸化還元電位の変化によって溶出しやすいことが考えられた。CrはAsとCuと比べると可動性が低く,全含量の95.5%が残渣画分に存在した。一方,廃材焼却跡地で採取した植物2個体は三元素ともBowenが提示した陸上植物のCr,CuおよびAs含有率の最大値を上回った。これらの結果から,CCA処理廃材の積み置きや焼却などの非適切な扱いは土壌,植物や水系など周辺環境に影響を及ぼす可能性が示された。
  • 石 世昆, 樋口 澄洋, 加賀 昭和, 近藤 明, 井上 義雄, 梅本 憲一
    原稿種別: 一般論文
    2009 年 22 巻 5 号 p. 336-347
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
    幹線道路沿道において,自動車排ガス由来のベンゼンが高濃度となる可能性が高い地点を抽出する手法を提案した。まず,車載型排ガスサンプリング装置を用いて,走行中の車の排気口から直接排ガスをサンプリングすることにより,ベンゼン排出量を直接測定し,排出係数を年式の関数として推定することで,現在走行中のガソリン車からのベンゼン排出係数の平均値を算定した。つぎに,道路・建物形状をいくつかのパラメータで表す沿道空間モデルを仮定し,それに対して数値流体シミュレーションを行うことで,沿道ベンゼン濃度を各パラメータのべき乗積であらわす近似式を導出した。さらに,大阪市内150の幹線道路沿道(総延長173km)でのベンゼン濃度を近似式により推定することで,高濃度となる可能性のある地点をスクリーニングした。平日昼間のベンゼン濃度平均値が10μg/m3を超える可能性のある地点は全地点のおよそ2%であった。本報で用いた沿道空間モデルは形状を大胆に簡略化しており,必ずしも各地点ごとの実情を反映していないが,スクリーニングされた地点は高濃度となる可能性の高い地点であり,これらの地点の沿道空間形状を航空写真などにより精査することで,高濃度となる可能性のより高い地点を絞り込むことができると考えられた。
研究資料
  • 黄 錚, 外岡 豊, 王 青躍, 坂本 和彦
    原稿種別: 研究資料
    2009 年 22 巻 5 号 p. 348-361
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
    都市大気汚染問題は古くて新しい課題である。多くの先進国の都市が経済発展の過程で二酸化硫黄等による厳しい大気汚染を経験してそれらの汚染物質排出量が顕著に削減されていったが,近年自動車による都市交通量の増加で窒素酸化物等による新しい都市大気汚染が問題になっている。一方,発展途上国は急速な都市化で短期間の間に先進国が今まで経験した様々な大気環境問題に対処しなければならなくなっている。発展途上国が経済発展をさせながら都市大気環境を同時に改善しうる可能性を見出すために,先進国の都市大気環境の汚染対策史からどのような汚染対策を学ぶべきかという立場から,本稿では環境クズネッツ曲線を用いて大気汚染物質である二酸化硫黄と二酸化窒素を中心に,2008年のオリンピック開催地の中国北京の大気汚染対策と戦略に注目し,オリンピック開催経験のある先進国の都市との比較を試みた。その結果,各都市では二酸化硫黄対策では環境クズネッツ曲線の変化が見られたが,二酸化窒素の場合,先進国では対策の取り遅れのため低減傾向が見られなかった。一方,後発的な都市である北京では,先進国で実施中の対策を早い段階で取り入れたことによると推定される削減効果が見られた。これらの結果は,環境クズネッツ曲線が当てはまるという確証は得られなかったが,それを前提とする解析では,発展途上国は先進国の経験から学び,先進国で現在実施中のより効果的な環境対策を積極的に実施することによって早い段階で環境改善の方向に向かうことができるという可能性を示唆していた。
  • 倉増 啓, 鶴見 哲也, 馬奈木 俊介
    原稿種別: 研究資料
    2009 年 22 巻 5 号 p. 362-369
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
    経済学の世界において,これまでは幸福を表す指標として効用が用いられてきたが,近年では包括的自己評価点として基数的計測が可能である主観的幸福度指標に利点を見出す研究が増えてきている。本研究では主観的幸福度指標を軸として,GDP,失業など経済の条件が幸福に与える影響を取り除いた上で,環境の条件が幸福とどのような関係性にあるのかについて検証を行う。先行研究でも扱われている環境汚染指標の浮遊粒子状物質(PM10)濃度と二酸化硫黄(SO2)排出量を分析の対象とし,さらに,先行研究では扱われていないエネルギー消費量,二酸化炭素(CO2)排出量といった地球全体に関わる指標についても検証を行った結果,PM10濃度および一人当たりSO2排出量の低減が主観的幸福度向上の可能性を有していることが示唆された。
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