除草剤ジメピペレート (S-1-methyl-1-phenylethyl piperidine-1-carbothioate) の作用機構を明らかにする端緒として, 種々の植物に対する除草効果と, 植物の主要代謝系に及ぼす影響を調べた。
ジメピペレートは供試した単子葉植物の中で選択性を示した。イネ (
Oryza sativa cv. Nipponbare), およびトウモロコシ (
Zea mays cv. honeybantam) はより抵抗性, タイヌビエ (
Echinochloa oryzicola), メヒシバ (
Digitaria adscendens) はより感受性であった (Fig. 1A)。双子葉植物はキュウリ (
Cucumis sativus cv. Shimosirazujibai), トマト (
Lycoperisicon esculentum cv. Toyofuku), アズキ (
Phaseolus radiatus cv. Waseazuki), ダイコン (
Raphanus sativus cv. Tokinashi) を供試したが, 全体的にジメピペレートに対して抵抗性であり, 種間差は単子葉植物より小さかった (Fig. 1B)。
感受性植物であるタイヌビエの展開中の第4葉から切り出した葉片を用いて, 植物の主要代謝系に対するジメピペレートの影響を調べた。これは, 放射能標識した各代謝系に特有の前駆体を用いて, それらの葉片への吸収と代謝系への取り込みをジメピペレート (10
-5M, 10
-6M) の存在下で測定することにより行った。
ロイシンの葉片への吸収とタンパク画分への取り込みは, 120分までは影響を受けなかったが, 10
-5M, 240分の処理でわずかに減少した (Fig. 2)。ウリジンとチミジンの葉片への吸収と, それぞれRNA, DNA画分への取り込みは, 用いた条件下では全く阻害されなかった (Fig. 3, Fig. 4)。グルコースの吸収と取り込みで調べた細胞壁の合成系はタンパク合成と同様に10
-5M, 240分でのみわずかに阻害された (Fig. 5)。アセテートの葉片への吸収と脂質画分への取り込みは, 処理後30分という短時間内から10
-6Mでも阻害がみられ, 調べた代謝系の中ではこの脂質の合成系がジメピペレートに最も敏感な系として見い出された (Fig. 6, Table 1)。またこの阻害は真核細胞の脂質生合成阻害剤として知られているセルレニンと同程度であった。また光合成と呼吸はジメピペレートで全く阻害を受けなかった (Fig. 7)。
これらの結果から脂質の合成系にジメピペレートの作用点が含まれる可能性が示され, 脂質の合成系の諸反応への影響の検討の必要性が指摘された。
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