日本全土の野原, 畦畔などに生育する形態的変異の大きいイネ科の一年草であるコブナグサは, 東京都八丈島で絹織物「黄八丈」の染料用として栽培されている。栽培の影響による形質の変化を検討するために, 八丈島で栽培されているコブナグサ3系統と野生 (雑草) のコブナグサ11系統および近畿地方の野生のコブナグサ5系統を比較栽培し, 出穂の特徴と形態的変異を調査し, 主成分分析による総合的評価を行った。
栽培コブナグサでは, 出穂期間が短く, 分げつ枝が高い同時生長性を示し, 植物体の成熟の均一性が高く, 種子の脱粒性が低く, 葉, 茎, 穂などの器官が大型化する傾向にあった。八丈島の野生コブナグサは多様であったが, いくつかの形質において栽培コブナグサに似る傾向を示した。一方, 近畿地方の野生コブナグサは出穂期間の著しく長い系統があり, 分げつ枝の生長や植物体の成熟がばらつき, 脱粒性も高く, 器官のサイズが全体に小さくなる傾向にあった。
主成分分析による第1主成分と第2主成分のスコア散布図は栽培コブナグサと八丈島の野生コブナグサおよび近畿地方の野生コブナグサの変異の状態を良く示し, 栽培コブナグサと八丈島の野生コブナグサは部分的な重なりを示したが, 近畿地方の野生コブナグサは両者と重ならなかった。
八丈島の栽培コブナグサでは, 出穂期間や分げつ枝の同時生長性などに栽培行為による無意識的な選択が働いており, さらに, 積極的な栽培によって器官の大型化が進んだと推定された。
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