畑地の多年生雑草であるワルナスビ種子の発芽特性について基礎的なデータを得るため, 発芽可能温度範囲及び発芽に必要な thermal time (θ) を Garcia-Huidobro らの方法に基づいて計算し, さらに, 変温が発芽率に及ぼす影響を明らかにする目的で実験を行った。なお, θは次式で表され, 小数点を含む時間にも対応できる点でΣ (T-T
b) で定義される有効積算温度と異なる。また, この方法では, 発芽下限温度及び最適温度, 上限温度が計算により求められるという利点がある。
θ=(T-T
b)×t
θ=thermal time (℃・日), T=種子の培養温度 (℃), T
b=発芽下限温度 (℃), t=培養期間 (日)
ワルナスビ種子にジベレリン100ppmを5ml給与し, 15及び20, 25, 30, 35, 40℃の恒温条件で40日間培養した。培養期間中は適宜脱イオン水を給与した。20%以上の発芽率が得られた20℃以上の処理区の結果を用いて (Fig. 1), Garcia-Huidobro らの方法に基づき, 発芽下限温度 (T
b) 及び thermal time (θ) を計算した (Fig. 2, Table 1)。T
bは14~16℃の範囲内にあるものと推定された (Table 1)。発芽上限温度については, 今回の温度設定では十分なデータが得られず計算できなかったが, グラフから約45~50℃の範囲にあるものと推察された (Fig. 2)。また, θと発芽率 (その温度での最終発芽率を100%とした場合の発芽率) との関係はゴンペルツ曲線で良く表された (Fig. 3)。しかし, パラメータ推定に使わなかった発芽試験の結果 (Table 2) を当てはめると, 最終発芽率が高い場合には推定値と実測値はほぼ一致したが, 最終発芽率が低い場合や途中で培養条件を変えた場合では両者のずれが大きく (Fig. 4), 正確な予測には, 今後の改良が必要とされた。
30/20あるいは25/20, 25/15, 25/10, 20/15, 20/10, 15/10 (高温/低温, 10/14時間) の変温条件を1あるいは5, 10, 20回繰り返した後, 30℃恒温条件で培養したワルナスビ種子と, 30℃恒温条件のみで培養した種子の発芽率 (対照区) とを比較すると, 変温条件が10あるいは20回繰り返された種子の発芽率は対照区よりも有意に高くなった (P<0.05, Table 3)。しかし, 変温回数が1及び5の場合は差がなかった。また, 培養温度が低いと, 発芽率を高めるには多くの変温回数を必要としたが, 各温度区の最高発芽率には, 温度による差はなかった。さらに, 発芽下限温度以下の15/10℃の変温でも20回の繰り返しでワルナスビ種子の発芽率は対照区よりも高くなることから, ワルナスビ種子はこの変温を感知していると考えられた。
以上の結果から, 変温により休眠から覚醒する状態にあるワルナスビ種子は, 他の条件が適当であれば, 発芽時期以前の低温下での変温条件で休眠覚醒し, 約14~16℃以上の温度の積算により発芽するものと推察された。
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