ヒト癌細胞数十系を一括して扱い(一括された癌細胞株を癌細胞パネルとよぶ), 多数の抗がん剤に対する感受性を調ベデータベース化することによって, 抗がん剤の分子薬理に関するさまざまな有用な情報が得られることが, 近年, 米国国立研究所および筆者らの研究でわかってきた. 癌細胞パネル法は, ウェットな系(生物学的実験)とドライな系(情報学)が効率的に結合したユニークなシステムで, その特徴は, テスト化合物の作用メカニズムを予測できる点にある. 筆者らは, このシステムを種々の分子標的スクリーニング系とカップルさせて抗がん剤探索に利用してきた. 本法により, 新規マイナーグルーブバインダーMS-247が見いだされた. MS-247物は, トポイソメラーゼIおよびIIを阻害し, ヌードマウスに移植したヒト癌ゼノグラフトに対して強力な抗癌活性を示した. また, テロメラーゼ阻害物質を探索する目的で, データベースをCOMPARE解析でマイニングし候補化合物を抽出し, 実験的にそれらの活性を検証した結果, 新規テロメラーゼ阻害物質FJ5002を見いだされた. 一方, 抗がん剤感受性を決定する遺伝子ならびに新たな創薬ターゲットを探索するため, 癌細胞パネルの各癌細胞での遺伝子発現をcDNAマイクロアレー法により調べた. 癌細胞パネルについて抗がん剤感受性データと遺伝子発現データの両者を統合した筆者らのデータベースは, 抗がん剤探索と癌の個別化治療への一つの基盤を提供するものと期待される.
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