今回, 高齢者歯科治療の中で痴呆性老人の特性を把握することを目的とし, 名古屋市内某介護老人福祉施設の入所者を対象にし, 痴呆群と非痴呆群の口腔内所見の比較検討を行った。調査対象は, 介護福祉老人施設の入所者99名で, 3年間の追跡調査を施行した。調査項目は基礎疾患, ADL, HDS-R, 食事中のむせ, 口腔内調査を行い以下の結果を得た。
平均年齢は83.3±8.4歳, 73.7%が女性であった。基礎疾患は, 両群ともに脳血管障害が多かった。ADLは, 痴呆群では平均2.4±3.4, 非痴呆群では平均7.4±3.8であり両群問に有意差 (P<0.01), および痴呆とADLに相関を認めた。HDS-Rは, 痴呆群で平均6.85±5.8であった。
無歯顎者の割合は, 両群間で有意差はなく2年間で若干増加した (増加率に有意差なし) 一人平均残存歯数は, 痴呆群4.2±5.9本, 非痴呆群4.1±6.9であり両群間および2年間の増加率に有意差はなく, 部位別では両群とも下顎前歯部で多く残存し, 特に下顎左側犬歯が多く残存していた。咬合支持の状態は咬合支持なしの者が, 非痴呆群に比べ痴呆群で有意に多かった (P<0.01) 。義歯装着者数は, 痴呆群で有意に多く (P<0.01), また両群とも2年間で若干減少した。食事中のむせと歯の関係は, むせるものが有歯顎者に多く (P<0.05), 関連が示唆された。
残存歯数, 喪失歯数, 無歯顎者数, 義歯装着者数の増加率に関しては, 両群間に有意差は認めなかった。口腔の状態が3年間で緩やかに悪化していく傾向にあった。
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