本研究では, 自立した活発な社会生活を送っている高齢者に対して, 義歯の使用や食品摂取状況が健康状態や全身疾患に及ぼす影響について検討を行った。
調査対象者は, 大阪府老人大学講座受講生2, 474名 (男性1, 222名, 女性1, 252名, 平均年齢66.6±4.3歳) のうち, 上下顎とも全部床義歯装着者 (187名), 部分床義歯装着者 (671名), 歯列に欠損のない天然歯列者 (671名) とし, 以下の結果が得られた。
1.各食品の摂取状況については, 咀嚼に困難を自覚する者は, 全部床義歯装着者が最も多く, 次いで部分床義歯装着者, 天然歯列者の順となり, 各群間に有意差がみられた。また, 各食品の摂取状況を総合評価した咀嚼能力は, 天然歯列者, 部分床義歯装着者, 全部床義歯装着者の順となり, 各群間に有意差がみられた。
2.健康状態の自己評価は, 全部床義歯装着者, 部分床義歯装着者, 天然歯列者の各群間に有意な差はみられなかった。しかし, いずれの群においても咀嚼能力の高い者の方が, 健康状態の自己評価は良好となった。
3.全身疾患の既往は, 全部床義歯装着者, 部分床義歯装着者, 天然歯列者の間に著しい差はみられなかった。しかし, いずれの群においても, 咀嚼能力の低い者では消化器系疾患の罹患率が有意に高くなった。
以上の結果より, 食品摂取状況によって評価した咀嚼能力は, 義歯の装着の有無にかかわらず, 健康状態の自己評価や全身疾患に影響を及ぼすことが示唆された。
抄録全体を表示