老年歯科医学
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26 巻, 4 号
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総説
原著
  • 竜 正大, 安井 雅子, 和泉 佐知, 上田 貴之, 織田 聖子, 櫻井 薫
    2012 年 26 巻 4 号 p. 394-401
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は高齢無歯顎者の口腔清掃頻度と義歯清掃頻度にパーソナリティーが及ぼす影響を明らかにすることである。被験者は義歯を問題なく使用している上下顎無歯顎者とし,1 日あたりの器械的口腔清掃回数と義歯清掃回数とを質問紙法にて調査した。パーソナリティーの調査は,Eysenck の質問紙法にて内向性・外向性および情緒安定・不安定因子に関する要因について調査した。器械的口腔清掃回数および義歯清掃回数と,パーソナリティーの各要因との関連についてロジスティック回帰分析にて解析した。器械的口腔清掃回数の平均は 0.9±1.2 回/日,義歯清掃回数の平均は 1.9±1.2 回/日であった。器械的口腔清掃回数について,情緒安定・不安定に関する要因である依存性・自律性(オッズ比=1.910,p=0.003)が,また義歯清掃回数について内向性・外向性に関する要因である活動性・不活動性(オッズ比=3.064,p=0.021)と情緒安定・不安定に関する要因である依存性・自律性(オッズ比=0.382,p=0.040)とが変数選択された。以上より,パーソナリティーは器械的口腔清掃頻度と義歯清掃頻度に影響を及ぼし,活動性および自律性が高い者ほど清掃を行っていることが明らかとなった。
  • 山垣 和子, 北川 昇, 佐藤 裕二, 岡根 百江, 真下 純一
    2012 年 26 巻 4 号 p. 402-411
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/15
    ジャーナル フリー
    口腔乾燥症状を訴える義歯装着患者の問題点は,義歯の維持力が低下することである。そこで,口腔乾燥症の対症療法に用いられる口腔保湿剤の種類や物性の違いが,義歯の維持力に与える影響を明らかにすることを目的とした。被験試料は口腔保湿剤 21 種類(スプレー,リキッド,ジェルタイプ)と,対照として人工唾液 1 種類,唾液類似液 3 種類,義歯安定剤 2 種類(クリームタイプ)を用いた。曳糸性:NEVA METER ®を用いて各試料の曳糸性を求めた。粘度:ブルックフィールド型回転粘度計を用いて各試料の粘度測定を行った。維持力:上顎模型と実験用床との間に試料を介在させて義歯の中央に付与したリングを 0.5 N/sec でばねばかりで牽引し測定した。粘度はジェル(1.5×105 mPa・s)が他の試料に比べ,有意に大きな(p<0.05)値となった。維持力は,リキッド(14.4 N)はスプレー(3.6 N)よりやや大きく(p<0.05)なり,ジェル(30.1 N)ではさらに大きく(p<0.05),義歯安定剤(36.0 N)と同等であった。維持力と粘度(対数)は有意に正の相関を示した(r=0.98,p<0.01)。今回の結果より,維持力は粘度に関係があり,粘度の大きい口腔保湿剤は義歯安定剤と同等の維持力を発揮することが明らかになった。
  • 水木 雄亮, 塩澤 光一, 森戸 光彦
    2012 年 26 巻 4 号 p. 412-422
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/15
    ジャーナル フリー
    嚥下可能な食塊形成には十分な唾液量が必要であるが,咀嚼時の唾液分泌量の減少が嚥下食塊形成に及ぼす影響については不明な点が多い。そこで本研究は,唾液分泌量の減少が咀嚼過程および嚥下食塊形成に与える影響を成人被験者で検証した。成人被験者 20 名に,硫酸アトロピン(Atropine sulfate, 1.0 mg)を経口投与し,投与前(control)と投与後(Atropine)とで各被験者に魚肉ソーセージと食パンをそれぞれ嚥下まで咀嚼させ,嚥下直前の食塊を回収した。その食塊の食塊物性の測定は texture profile analysis にしたがって行い,その食塊物性値を比較した。なお,Atropine 投薬時の実験は Control 時の唾液量の半分以下に抑えられている投与後 40〜80 分間で行った。Atropine 投薬時では,Control 時に比べて嚥下までの咀嚼回数と咀嚼時間は有意に増大した。Atropine 投薬時の嚥下までの食パン食塊の物性変化,また魚肉ソーセージ食塊の物性変化は Control 時とほぼ 同様の変化を示した。嚥下直前の魚肉ソーセージおよび食パン食塊の物性は,食パン食塊の凝集性に差が認められたものの,食塊の硬さと付着性には有意差は認められなかった。本研究の結果により唾液分泌量の減少時は,嚥下までの咀嚼時間を延長することで嚥下に適する物性の食塊が形成されることが示された。
  • 恒石 美登里, 山本 龍生, 細野 純, 平田 創一郎, 眞木 吉信, 平田 幸夫, 石井 拓男
    2012 年 26 巻 4 号 p. 423-433
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/15
    ジャーナル フリー
    在宅または社会福祉施設等における療養を歯科医療面から支援するため,平成20 年に在宅療養支援歯科診療所が新設された。本研究では,全国における在宅療養支援歯科診療所の実態を把握することを目的とし,届け出を行っている日本歯科医師会会員へアンケート調査を実施した。その結果,3 カ月の調査期間中に,約 2 割が在宅歯科医療を実施していなかった。実施がない理由のほとんどは依頼がないことであった。実施診療所のうち,調査期間中の在宅歯科医療患者総数の中央値を超えるか否かに関連する因子は,非常勤歯科衛生士数,依頼元としての介護施設などであった。患者数が 100 名以上であるか否かでみると,さらに歯科医師数との関連が強かった。持参機器としてはポータブルレントゲン,連携機関としては病院数,介護施設数等が患者総数と関連していた。これらの結果から,在宅歯科医療を推進するために,まず在宅歯科医療を行う意思がある診療所と患者側との情報交換の必要性が示唆された。さらに在宅療養支援歯科診療所と,介護施設のみでなくケアマネジャー,病院,訪問看護ステーションとの情報共有が重要と考えられる。また,歯科診療所での歯科医師数の雇用の増加によって,在宅歯科医療が推進する可能性も示唆され,これらを踏まえた今後の歯科医療提供体制の構築が望まれる。
臨床報告
  • 大和 泰子, 宮本 順美, 青野 陽, 仲嶺 均, 旭 吉直, 大道 士郎
    2012 年 26 巻 4 号 p. 434-437
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/15
    ジャーナル フリー
    われわれは下顎歯肉癌を発症したが治療を拒否し,在宅療養を強く希望した超高齢独居老人のターミナルケアを経験した。患者の家族は,高齢で遠方に在住しており,家族の介護を期待することはほぼ不可能であった。2009 年3月から翌年2月までの約1年間を在宅にて訪問医師,訪問看護師,介護施設(3施設)との協力のもと,われわれは週に1回下顎歯肉癌の経過を診ながら口腔ケアを行った。2009 年4月に下顎左側臼歯部に 40×35 mm 大の潰瘍を伴った隆起性腫脹を認め,舌側は口底まで硬結が認められた。歯肉癌は頰粘膜方向に浸潤増大し,疼痛も増悪してきたが,塩酸オキシコドン徐放剤,フェンタニルを使用すると副作用が強く,患者からの希望もあり中止となった。それ以降,疼痛コントロールはロキソプロフェンナトリウム水和物,ジクロフェナクナトリウム,トリアゾラムで行った。翌年1月,下顎左側腫脹が著明となり疼痛が増悪,2週間後に左側顔面皮膚浸潤により穿孔・排膿を認めた。在宅にて同部の創傷管理を行ったが,衰弱が進み,2月訪問看護師により死亡が確認された。今後の課題として,チーム医療内での綿密なコミュニケーションを行い,患者との信頼関係の構築をさらに深く行っていくことが必要であると考えられた。
調査報告
  • 温風乾燥時の残存水分量率と残存重量率
    黒木 まどか, 堀部 晴美, 塚本 末廣, 日高 三郎, 栢 豪洋
    2012 年 26 巻 4 号 p. 438-443
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/15
    ジャーナル フリー
    口腔保湿剤の水分保持能力を調べるため,試料を吸着させたろ紙の温風乾燥に対する水分量と重量の変化を測定する方法(ろ紙試験法)を開発した。保湿剤単独の条件と蒸留水に保湿剤を上乗せした条件で,リキッドタイプ(M-1, M-2)とジェルタイプ(M-3)保湿剤の残存水分量率と残存重量率を算出したところ,リキッドタイプの M-1 と M-2 の間で,またリキッドタイプとジェルタイプの間でそれら残存率値に差がみられた。このことより,ろ紙試験法が水分保持能力に関して,市販保湿剤間の差異を判定するのに有用であることが示唆された。
  • 角 保徳, 小澤 総喜, 守屋 信吾, 三浦 宏子, 鳥羽 研二
    2012 年 26 巻 4 号 p. 444-452
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/15
    ジャーナル フリー
    歯科医師・歯科衛生士による専門的口腔ケアを必要としている入院患者の疾患,全身状態および注意事項の実態をリスク管理の視点から把握することは専門的口腔ケアを普及させる上できわめて重要である。専門的口腔ケアの必要性についての報告はあるが,専門的口腔ケアを必要とした入院患者の全身状態や,口腔ケアを施行する際に必要な全身管理については十分に明らかにされていない。本研究の目的は,医師より専門的口腔ケアの依頼を受けた入院患者の全身状態と問題点を明らかにすることである。対象は国立長寿医療研究センター病院に入院し,主治医より歯科口腔外科に専門的口腔ケアの依頼をされた患者 107 名(男性 55 名,女性 52 名,平均年齢 78.1±9.7 歳)である。評価項目は,依頼科,入院に至った疾患名,既往歴,認知症の有無,ADL,栄養状態,栄養経路,感染症の有無,意思疎通の可否と口腔ケアを施行する際の問題点である。評価の結果,専門的口腔ケアの対象者の疾患は多岐にわたり,専門的口腔ケアは高度な全身管理の知識と技術およびリスク管理を要する難しい処置と考えられた。専門的口腔ケアに携わる歯科医師・歯科衛生士は,他職種との連携を図り,全身状態を把握し,より安全に専門的口腔ケアを行うため,より一層の知識と技術の向上が必要であると考えられる。
  • 道脇 幸博, 愛甲 勝哉, 井上 美喜子, 西田 佳史, 角 保徳
    2012 年 26 巻 4 号 p. 453-459
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/15
    ジャーナル フリー
    窒息事故は交通事故による死亡者数に匹敵する数に増加しているが,事故予防に関する社会的な関心は高くない。そこで,現状把握と今後の症例集積のために,窒息事故の半数を占める食品による窒息例 107 例について,発症要因を分析し,医療費用を算出した。その結果,年齢では高齢者に多く,性差はなかった。既往歴では認知症や脳梗塞,統合失調症など中枢神経系の疾患をもっている方が多かった。発生時間は食事中が多く,場所は家庭や施設などであった。事故前の ADL や食事の自立度,食事形態では,自立者で普通食を食べていた方が半数を占めた。窒息の原因となった食品の種類はさまざまで,固形物であれば窒息の原因となりうると思われた。転帰では,62 例(58%)が死亡していた。入院費用は約 60 万円であった。本研究から,窒息事故に対する社会的な予防策の必要性が改めて示され,そのためには症例のデータベース化が有用であると考えられた。
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