筆者らは, 高齢者の口腔ケアを自立度 (自立, 一部介助, 全介助) と口腔状態 (歯数と義歯の有無) から9つのカテゴリーに分類した「高齢者口腔ケア分類表」の作成を試み, それぞれに対応した効果的なオーダーメードの口腔ケア法を考案するために, 細菌学的手法を中心に検討を進めている。
これまで, 予備実験として, 要介護者の口腔ケアを安全かつ効果的に行うための給水と吸引を同時に可能にした電動ブラシシステム (給吸ブラシ) を歯科衛生士および看護師が多数歯を有する要介護高齢者に使用を試み, その効果を細菌学的に明らかにした。今回は, 有料老人ホームの入所者の自立高齢者と要介護高齢者に対して, 現在行っている口腔清掃法による口腔状態を細菌学的に評価し, その後, 個別の口腔ケア法の試案を自立高齢者およびヘルパーに提案し, 1ヵ月間実施した後の効果を比較した。特に, 今回は, 前報で調査した口腔細菌の大部分を占める嫌気性菌に加え, 簡易的な指標であるカンジダ菌, mutans streptococci (MS), lactobacilli (LB), および, 簡便な細菌量の比較法として混濁度についても調査した。
その結果, 本施設においては, 口腔ケア開始前では, 自立高齢者は要介護高齢者に比較して, カンジダ菌 (舌・義歯), MS, LBが有意に多く, また, 嫌気性菌および混濁度も平均値で若干高い傾向にあった。それぞれに応じたオーダーメードの口腔ケアを提案して1ヵ月間実施した後では, 自立者および要介護者ともに, 平均値 (義歯から検出されたカンジダ菌を除く) においては減少傾向を示したが, 統計的有意差は示さなかった。その原因は, 症例を集めることの困難さによる数の少なさ, また, 日々の要介護者の肉体的・精神的変化に伴うケアの難しさによるものと考えられ, 今後一層多くの症例の検討によるカテゴリーの分類や対処法についての検討が必要であることが明らかとなった。
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