術前に発作性上室性頻拍を有し副伝導路焼灼術により有効焼灼が得られた患者に, 手術後発作性上室性頻拍 (Paroxysmal Supraventricular Tachycardia;以下PSVT) が出現した症例を経験したので報告する。
症例は74歳女性, 左上顎歯肉腫瘍の診断で全身麻酔下にて左上顎部分切除術と人工粘膜移植術が予定された。患者は30歳より動悸を自覚し, 46歳時にPSVTの診断を受け薬物療法を開始した。本予定手術前より患者は動悸を訴えていたため, 術前に本学医学部循環器内科を受診し, 精査後房室性結節性回帰性頻拍と判明した。そこで手術4日前に副伝導路焼灼術を行い, その結果有効焼灼が得られたため, 本手術を行った。
術中は特に問題なく経過した。覚醒時, 筋弛緩剤に対する拮抗の目的で硫酸アトロピン1mg, メチル硫酸ワゴスチグミン2.5mgを投与した。その直後より突然頻脈となった。その後, 気管内チューブの刺激の影響も考え, 早期に抜管した。しかし頻脈は持続し正常QRS波形, 異所性P波がT波に重畳している事よりPSVTと診断し, 塩酸ベラパミル10mgを静注した。5分後洞性頻脈へ移行後, 心電図98回/分へと回復した。
本症例におけるPSVT発作の主な原因は, 覚醒時における交感神経の緊張, 高血圧や頻拍など循環動態の変動, 硫酸アトロピンの影響などが考えられた。また, 術前に施行された副伝導路焼灼術は有効であったとの報告のもと, 今回出現したPSVTは麻酔覚醒時に循環動態が大きく変動したことにより新たに別の副伝道路が形成された可能性もある。
抄録全体を表示