咀嚼嚥下において舌は重要な役割を担っており, 咀嚼運動で嚥下に適した食塊を形成し, 形成された食塊を咽頭に正しく送り込むことが舌運動として必要不可欠である。本研究では, 舌運動の評価を行うために若年有歯顎者および高齢有歯顎者の一連の咀嚼過程における口蓋への舌接触圧の変化に着目し, 加齢による咀嚼運動の変化の中で舌運動がどのような影響を受けているかを解明することを目的とした。
被験者は, 20歳代の若年有歯顎者11名 (Y群) および65歳以上の高齢有歯顎者11名 (E群) とし, 口蓋床に設置した圧力センサにてグミゼリー咀嚼時における舌接触圧を測定した。分析項目は最大舌接触圧, 舌接触時間, 舌接触圧積分値および咀嚼全過程のトータル時間とトータル舌接触時間の比率 (TDT/MT : Ratio of total duration time to mastication time) とした。
最大舌接触圧は, 全咀嚼期におけるすべてのセンサでY群およびE群間に有意差を認めなかった。舌接触時間およびTDT/MTは, 全咀嚼期の口蓋後外側部以外の部位においてY群に比較してE群で有意に大きい値を認めた (
p<0.05)。舌接触圧積分値は, 全咀嚼期の口蓋後外側部でY群に比較してE群で有意に小さい値を認めた (
p<0.05)。
以上より, 若年有歯顎者と高齢有歯顎者の咀嚼時舌運動様相を比較すると高齢有歯顎者では加齢による種々の変化に対し, 口蓋後外側部を除く広範囲での舌接触時間を延長することで咀嚼時の食塊形成に必要な仕事量を補償していると推察された。
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