老年歯科医学
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28 巻, 1 号
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原著
  • 知念 正剛, 黒木 まどか, 貴島 聡子, 前田 豊美, 日高 三郎
    2013 年28 巻1 号 p. 3-9
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/07/27
    ジャーナル フリー
    抄録:1 種類の人工唾液と 3 種類のリキッドタイプ口腔保湿剤と 2 種類のジェルタイプ口腔保湿剤を用いて,これらの粘度と水分保持能力との関係を研究した。粘度は Vi Smart 粘度計を用いて測定した。水分保持能力はろ紙試験法を用いて,温風乾燥時のろ紙表面の残存水分量率と残存重量率から求めた。グリセリンは濃度依存的に粘度と残存重量率とろ紙表面の残存水分量率を増加させた。人工唾液サリベート,リキッドタイプ口腔保湿剤の絹水,ウェットケア,ストッパーズフォー,ジェルタイプ口腔保湿剤のリフレケアH,オーラルバランスでは,粘度増加と残存重量率の大きさが比例していた。このことから,人工唾液と口腔保湿剤の粘度がろ紙表面の残存水分量率でなく残存重量率の増加に比例することが示唆された。
  • 藤田 尚
    2013 年28 巻1 号 p. 10-19
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/07/27
    ジャーナル フリー
    ケンブリッジ大学に 1911 年収蔵された,近代ナイジェリア人の歯科疾患および頭蓋に現れたストレスマーカーについて考察した。近代ナイジェリア人にはう蝕が 1 本もなく,喪失歯も低く抑制されていた。これは,70〜80 年後に窪田らが 20 世紀末のナイジェリア人を調査した結果と,ほぼ同様である。また,エナメル質減形成やクリブラオルビタリア,porotichyperostosis などのストレスマーカーは認められるものの,その程度は軽症であり,このことは重症化するようなストレスにさらされた個体は,生存がままならなかったと考えるべきで,古病理学的逆説と捉えられる。歯の咬耗度は著しく,日本の弥生時代人に相当するほどである。その結果,咬合面に生じた軽度なう蝕は,激しい咬耗によって消し去られてしまったことがうかがえる。喪失歯数,咬耗度および歯槽骨の吸収度に関しては,壮年個体よりも熟年個体が統計的に有意に高い傾向を示した。その他の歯科疾患では,右上顎洞炎を示す個体や重度の上顎歯槽骨炎を示す個体が確認された。自然人類学者は古い人骨を扱うが,そこから得られる情報は貴重であり,現代の高齢者歯科医療にも多大な貢献をなしうる。今後は高齢者歯科医療と自然人類学の積極的な協働によって斬新な研究が可能になると期待される。
  • 森崎 直子, 三浦 宏子, 原 修一, 山崎 きよ子
    2013 年28 巻1 号 p. 20-26
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,虚弱高齢者の摂食・嚥下機能の現状を明らかにし,健康関連 QOL との関連性を分析することを目的とした。 虚弱高齢者 64 名を対象に質問紙調査およびフィールド調査を行い,年齢,性別,要介護度,ADL,認知機能,健康関連 QOL,摂食・嚥下機能のデータを得た。健康関連QOL は SF-8 を評価尺度とし,摂食・嚥下機能については高齢者誤嚥リスク評価指標 (DRACE)と水飲みテストの 2 段階でスクリーニングを行い「機能低下なし」,「機能低下リスクあり」,「機能低下所見あり」の 3 区分で評価した。摂食・嚥下機能と健康関連 QOL との関連性は一元配置分散分析および共分散分析を用いて解析した。 DRACE および水飲みテストの両評価において,摂食・嚥下機能低下リスクありの者は 31 名(48.4%),所見ありの者は 17 名(26.6%)であった。一元配置分散分析の結果,摂食・嚥下機能低下所見による 3 群間において,年齢と SF-8 の下位尺度である身体機能(PF),体の痛み(BP),全体的健康感(GH),活力(VT),社会生活機能 (SF),心の健康(MH)の 6 領域にて有意差が認められた。交絡要因となりうる年齢を調整するために共分散分析を行った結果でも,これらの SF-8 下位領域のスコアは,3 つの摂食・嚥下機能レベルにおいて有意差が認められた。 これらの結果から,虚弱高齢者における摂食・嚥下機能低下は,健康関連 QOL の低下に大きく関与することが示唆された。
調査報告
  • 髙野 知子, 小松 知子, 宮城 敦, 石井 裕美, 池田 正一
    2013 年28 巻1 号 p. 27-33
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/07/27
    ジャーナル フリー
    ダウン症候群(Downʼs syndrome:DS)は一般に,早期より老化現象が現われることが知られ,それにともない生活適応水準が急激に低下する退行現象が問題となっており,歯科診療時にも少なからず影響を及ぼしていると考えられる。今回われわれは,20 歳以上の DS 患者 24 名(20 歳代 4 名,30 歳代 14 名,40 歳代 6 名)を対象に,その保護者に対して「ダウン症候群の老化度・退行度チェックリスト」および日常生活,ならびに歯科受診状況に関するアンケートを行った。また,その担当歯科医師らに対し,歯科受診時の態度やブラッシング時の動作,口腔衛生状態の変化についてのアンケートを行い,患者の老化・退行と歯科受診における変化を比較検討したところ次のような結果が得られた。 1.「ダウン症候群の老化度・退行度チェックリスト」の結果,加齢にともない老化度・退行度も増していた。 2.老化・退行にともない,歯科への通院が以前と比較して困難となったり,ユニットへの長時間の着座が困難となった DS 患者が認められた。 3.老化・退行と口腔衛生状態の悪化に関係は認められなかった。 4.歯科医療従事者は,DS 患者の歯科受診時の態度や,こだわり行動に着目し,老化・退行を見きわめ,歯科への通院を途切れさせることなく継続させ,口腔衛生管理の維持,口腔衛生状態の向上ができるように努めなければならない。
  • 浅野 倉栄, 中島 丘, 三宅 一徳, 山本 真樹, 礒部 博行, 加藤 喜夫, 岡田 春夫, 飯田 良平, 菅 武雄, 森戸 光彦
    2013 年28 巻1 号 p. 34-42
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/07/27
    ジャーナル フリー
    平成 23 年度と平成 24 年度に,横浜市緑区歯科医師会と日本老年歯科医学会神奈川県支部の共同主催で「高齢者歯科医療を実践するための研修会」を開催した。各年とも 3 日間の研修日程で開催し,すべての研修日で質問紙調査を行い,属性と研修項目に対する関心度を質問した。さらにそれぞれの最終日には追加項目として総合満足度,受講理由,受講費用等についても回答を得た。得られた結果から問題点,改善点を検討し今後の事業展開の基礎資料とした。 質問紙調査の項目は属性(年齢・性別・職種・学会会員資格の有無),研修項目への関心度,その他自由記載とした。なお,各年で第3日目の最終回では,総合満足度,研修会申込理由(複数回答可),今後希望する開催日数,受講費用についての回答も求めた。関心度,満足度については「高い」「やや高い」「やや低い」「低い」の 4 段階評価とした。 質問紙の回収率はすべての研修日で 8 割以上であった。両年ともに研修項目への関心度はおおむね高い結果であり,また,総合満足度は両年ともに「高い」が最多だった。 研修会申込理由は「自己研鑚」が最多で,「日常診療での必要性」「研修内容」が多い回答であった。今後の希望する開催日数は 3 日間,受講費用は 1〜1.5 万円が両年ともに最多であった。
活動報告
  • 中島 丘, 浅野 倉栄, 三宅 一德, 山本 真樹, 岩﨑 妙子, 礒部 博行, 加藤 喜夫, 岡田 春夫, 飯田 良平, 菅 武雄, 森戸 ...
    2013 年28 巻1 号 p. 43-48
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/07/27
    ジャーナル フリー
    日本老年歯科医学会神奈川県支部,横浜市緑区歯科医師会が共同で「高齢者歯科医療を実践するための研修会」を企画,開催した。 同様の研修会を開催する際の基礎資料の一助となることを目的に研修会開催までの経過,マネージメント全般を報告した。開催に先立ち概要(開催日程,カリキュラム,講師選定など),損益分岐点(採算点)の予測,予算書作成と決算予測,役割分担などを学会地域支部と地域歯科医師会が十分に協議・検討した。その結果,平成 23 年度・24 年度ともに,定員超の参加者数と新規学会入会者の獲得ができた。 共同による研修会の開催が,高齢者歯科診療を地域で実践している歯科医師や歯科衛生士と日本老年歯科医学会との橋渡しとなると考えられた。今後は,より緊密な地域連携構築の一助となるような創意工夫を取り入れた研修会の開催が肝要である。
  • ―口腔ケアネットワーク(三島)―
    栗原 由紀夫, 大熊 貴子, 平田 優子, 杉山 清子, 高橋 弥生, 野中 美保子, 宮本 光也, 山本 規貴, 杉山 総子, 米山 武義
    2013 年28 巻1 号 p. 49-54
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/07/27
    ジャーナル フリー
    地域の要介護高齢者を支えるために,多職種間の連携・協働は不可欠である。しかしながら,必ずしも歯科医療従事者とその他の職種との連携は十分といえない。そこで「地域における顔の見える連携の構築」を目指して,「口腔ケアネットワーク(三島)」を立ち上げた。現在まで 2 回のシンポジウムを含む研修会を定期的に開催している。平成 24 年 10 月 20 日に開催した地域連携シンポジウムを通じて,患者や家族の思いをとらえ,情報と目的意識を共有して見守っていくことが関わる専門職の責務であり,地域の力になることを提言した。
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